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4. 壁ドンの騎士と、四人目の共犯者

放課後の旧校舎。埃の舞う資料室の奥で、私は逃げ場を失っていた。


「……結衣さん」


ドン! と、耳元で激しい音が響く。

目の前には、いつも冷静沈着なはずのヴィンセント様。

彼は私の両脇に腕をつき、いわゆる「壁ドン」の体勢で私を逃がさないように閉じ込めていた。

眼鏡の奥の瞳が、これまでに見たことがないほど鋭く、そしてどこか焦燥に揺れている。


「まさか、本気で……あのクズ王子とやり直すつもりじゃないでしょうね?」

「えっ、あ、いや……」


声が低い。

田中君の時のオドオドした声じゃない、今世のヴィンセント様の「騎士」としての威圧感。

私は思わず身を縮めた。


「想定外すぎるわよ、あのバカ。まさかあんな公衆の面前でプロポーズするなんて」


呆れた声を出しながら入ってきたのは、マリア――陽子だ。

彼女は腕を組みながら、ヴィンセント様を冷ややかな目で見る。


「ヴィンセント、あんたもいつまでその体勢でいるつもり? 結衣が怖がってるでしょ」


ヴィンセント様はハッとしたように腕を退け、真っ赤になって数歩下がった。

「あ、いや……すみません。つい、取り乱して……」

「二人とも待って、勘違いしないで」


私は二人に向き直り、決意を込めて告げた。

「王子とヨリを戻すつもりなんて一ミリもないわ。これは『恋人のふり』。あいつが一番幸せを感じている絶頂で、盛大に振って、これまでの屈辱を倍返しにしてやるのよ!」


「そんな面倒なことをしなくても、僕が裏から証拠を固めてあいつを追い落とします」

「ダメよ、田中君。それじゃ私の気が済まない。自分の受けた屈辱は、自分の手で晴らしたいの」


私の強い視線に、ヴィンセント様は「うっ」と言葉を詰まらせる。

マリアはため息をつきながらも、ニヤリと笑った。

「……いいわ。それなら私も協力する。委員長として、ルールを守れない不届き者は徹底的に指導しないとね」


「……分かりました。渋々ですが、認めます。その代わり、あいつを完全に沈める決定的な証拠が欲しい」

ヴィンセント様の目が、再び有能な従者のものに戻る。


マリアは机の上に、これまで王子から贈られた豪奢な宝石の数々を並べた。

「これを見て。聖女ヒロインへの貢ぎ物にしては多すぎると思わない? どこからこの予算が出ているのかしら」

「王子のポケットマネーだと思っていたが……この短期間にこれだけか。国庫、あるいは公金の流用の可能性がある。調べてみる価値はありそうですね」


その時だった。


「――ほう、面白いことを企んでいるな」


物陰から、一人の男がゆらりと現れた。

騎士団長の息子であり、次期団長候補のカイル。

彼は皮肉げな笑みを浮かべ、ヴィンセントを挑発するように睨みつけた。


「女嫌いの潔癖症かと思っていたが、裏では王子と同じように女を侍らせていたとはな、ヴィンセント。それとも、王子の獲物を横取りするつもりか?」


「カイル、貴様、いつからそこに……! 違う、俺はレティシア一――」

「そうよ! 私たちは王子を倒すために一致団結してる『戦友』なんだから!」


私の言葉に、ヴィンセント様が「……戦友」と呟いて絶望したような顔で固まった。

マリアはそれを横で見ながら、あからさまにニヤニヤしている。


カイルは状況を察したように鼻で笑った。

「そういうことか。それで、王子をハメる話をしていたようだが?」


資料室に緊張が走る。

だが、カイルは意外な言葉を口にした。


「やるなら、俺も仲間に入れろ」

「……なぜ? あなた、王子の側近だったはずでしょ」


マリアの問いに、カイルは苦々しく顔を歪めた。

「女遊びが過ぎると忠言したら、不敬だと言われて側近から外された。あんなバカに仕えるのはもう御免だ」


「あら、ただの私怨なのね」

「私怨で悪いか」

「悪くないわ、むしろ最高に信用できる動機ね。……仲間として歓迎するわ」


カイルはヴィンセントの肩を叩き、ニヤリと笑った。

「お前には前から期待していたんだ。頑張れよ、『戦友』くん」


こうして、かつての敵や意外な人物までを巻き込み、「王子ギャフン計画」が本格的に始動した。

仲間が増えて喜ぶ私とマリアの横で、ヴィンセント様だけが、これから始まるレティシアと王子の「偽装デート」を想像しているのか、今にも吐きそうなほど沈んだ顔をしていた。


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