表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

番外編2:書き換えられた真実と、同居人はヤンデレ義妹

 あの断罪パーティーから数日。私はヴィンセント様、そしてマリアと一緒に、懐かしくも忌々しいアストレア公爵邸の門をくぐっていた。


 目的は、アイリスの闇魔法に侵された両親と使用人たちの救出。けれど、目の前に広がる光景に、私は思わず足を止めた。


「……何、これ」


 潜入した時のあの澱んだ空気はどこへやら。庭園には色鮮やかな花が咲き誇り、窓からは明るい陽光が差し込んでいる。

 玄関へ向かうと、かつて私を廃人のような目で見つめていた父と母が、驚くほど穏やかな笑顔で駆け寄ってきた。


「おかえり、レティシア! 無事でよかった、本当に……!」

「ああ、マリアさんも。アイリスから話は聞いているよ。君たちがエドワード王子の暴挙を止めた英雄なんだってね」


 父の温かい手に触れ、私は困惑してヴィンセント様と顔を見合わせた。

 ヴィンセント様が警戒を解かずに問いかける。


「……公爵、アイリスは今どこに?」

「ああ、彼女なら二階の自室だよ。強盗(王子の一味)からこの家を守るために戦って、大怪我を負ってしまったんだ。本当に……命がけでレティシアを守ろうとしてくれた、自慢の娘だよ」


 背筋にツララを差し込まれたような寒気がした。

 魔法が解けたんじゃない。

 あの島田美紀アイリスは、家族の「記憶」そのものを、自分に都合の良いファンタジーへ書き換えてしまったのだ。




 私たちは足早にアイリスの部屋へ向かい、扉を勢いよく開けた。

 そこには、全身を痛々しいほど包帯で巻き、儚げに横たわるアイリスの姿があった。


「……どういうつもり、島田さん」


 私の低い声に、アイリスは「あら」とわざとらしく首を傾げた。

「ひどいなぁ結衣さん。妹を、それも怪我人を苗字で呼ぶなんて。私、王子の汚職証拠を騎士団に提出して、お家を救った功労者なのよ? 国王陛下からも『悲劇の協力者』としてお墨付きをいただいたんだから」


「ふざけないで! あんた、レティシアを殺そうとしたじゃない!」

 マリアがいつもの委員長モードで怒鳴る。けれど、アイリスは余裕の笑みを崩さない。


「証拠はあるの? お父様もお母様も、私はお姉様を心から愛する健気な妹だと思ってる。今更『記憶が偽物だ』なんて言って、ようやく正気(?)に戻った彼らをまた絶望させるつもり?」


 アイリスは卑怯だ。

 マリアが真っ当な「正義」を重んじる委員長であることを、そして私が彼女の友人として「情」に弱いことを、前世の付き合いから知り尽くしている。


「大体さぁ……!」

 急にアイリスが、ベッドの上でわっと泣き出した。

「田中君だってオタクなんだから、同じオタクの私と仲良くアニメの話でもしてればいいじゃない! なんで、その……委員長の横にいただけの、平凡な結衣さんがいいのよぉ! 納得いかないわよぉ!」


 あまりに子供じみた、けれど前世から変わらない「島田美紀」の本音に、ヴィンセント様が「うっ……」と毒気を抜かれたようにたじろいだ。

「……いや、趣味の話なら今でも聞くけど、それとこれとは……」


「田中君、甘いわよ! 騙されないで!」

 マリアが叫ぶが、アイリスは布団の中からチラリとマリアを睨みつけた。

「……チッ、本当に、声のデカい聖女ね。元・委員長様は」


「今、舌打ちしたわね!? あんた、反省なんて一ミリもしてないじゃない!!」



 結局、私たちはアイリスを捕まえることができなかった。

 両親は彼女を「恩人」として溺愛しており、無理に引き離せばアストレア家は崩壊する。アイリスは法と記憶を盾に、完璧な安全圏を築き上げていた。


「……わかったわ、アイリス。あんたの勝ちよ」


 私は溜息をつき、アイリスのベッドの脇に立った。

「私がこの屋敷に戻る。あんたの言う『仲良し姉妹』を、一生演じてあげる。その代わり、私の目の届かないところで一歩も動かないこと。いいわね?」


「レティシア、本気か!?」

「結衣、蛇を飼い慣らすつもり!?」


 ヴィンセント様とマリアが悲鳴のような声を上げるけれど、私は首を振った。

 彼女を野放しにするより、私の隣で腐らせておく方がまだマシだ。


 アイリスは、まるで計算通りだと言わんばかりに、包帯の手で私の指をぎゅっと握りしめた。瞳の奥には、前世のあの放課後と同じ、ねっとりとした執着が宿っている。


「ふふ……嬉しい。よろしくね、お姉様。これから死ぬまで、ずーっと一緒だよ?」


「……ええ。死が二人を分かつまで、監視してあげるわ」


 復讐は終わったけれど、私の「本当の地獄(?)の共同生活」はここから始まるらしい。

 窓の外では、何も知らない父と母が、幸せそうに庭を眺めていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ