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14. 仮婚約の終着点 〜真実の愛を、君に捧ぐ〜

 嵐のような断罪パーティーが終わり、王宮は静まり返っていた。

 月明かりが青白く照らすバルコニーで、私は冷たい夜風に火照った頬を預けていた。隣には、静かに佇むヴィンセント様。


「……それで、ヴィンセント様。話したいことって、何?」


 私が痺れを切らして問うと、彼は困ったように眼鏡の縁を押し上げた。

「いや……さっきのパーティーで、君にあんなに熱烈に愛の告白をされちゃったら、今更俺から何を言っても格好つかないなと思って」


「……っ!」

 途端に、顔が火が出るほど熱くなる。勢いで言った「愛してしまったのです」という言葉を思い出し、私は必死に誤魔化した。


「あ、あれは作戦のための演技よ! 隙を作らせるために、マリアと口裏を合わせただけなんだから!」


「えっ……演技、だったんですか……」

 ヴィンセント様が、目に見えてガーンとショックを受けて崩れ落ちる。その不憫な姿を見て、私はすぐに後悔した。


「い、いえ! じゃなくて……あぁ、もう!」


「……演技でもいい。でも、僕は君のことが好きなんだ。前世の、あの教室で隣の席だった頃から、ずっと」


 彼の真っ直ぐな瞳に、心臓の鼓動が早くなる。

「前世から……? でも、陽子マリアの方が美人だったじゃない」


「委員長は確かに美人だけど、僕の視線の先にいたのはいつも結衣ゆいさんだったんだ」


「……ちょっと待って。田中君が好きなのは『結衣』なの? でも今の私は『レティシア』なのよ。……もしかして、私じゃなくて前世の私を見てるんじゃないの?」


 まさかの「自分自身」への嫉妬。今の私は、自分で言うのも何だが前世とは比較にならないほど美しい。だからこそ、中身が同じでも「今の私」を見てほしいと思ってしまうのだ。


「えっ、いや、中身は同じ結衣さんだし……」と困惑するヴィンセント様に、私は意地になって告げた。


「……少し、考えさせて!」


「ええええっ!? ここで保留!?」

 絶望の叫びを上げる彼に、私は慌てて付け加える。


「べ、別にダメじゃないのよ! ただ、心の整理が済まないだけ! だから……そう、今のところは『仮の婚約者』ってことでどうかしら?」


「偽装恋人の次は、婚約者(仮)ですか……。今はそれで我慢しますけど……」

 肩を落とす彼に、私は申し訳なさを感じつつも、差し出された手を握り返した。


 ◇


 それから、五年後。


 あの夜、闇に飲まれたエドワード殿下の代わりに、従兄弟であり王位継承権二位だったヴィンセント様が王太子に繰り上がった。

 そして今日。私たちは、アイリスの妨害や貴族たちの横槍、そして何よりお互いの「鈍感さ」による数多のすれ違いを乗り越え、ようやく結婚式の日を迎えていた。


「おめでとう、レティシア。本当に、ここまで長かったわね」


 花嫁の控え室。マリア――陽子が、懐かしそうに目を細めてお祝いを言いに来てくれた。


「ありがとう、マリア。……今日は、お子さんは?」

「今はカイルがみてるわ。相変わらずあの子にデレデレなんだから」


「ふふ、カイル様もいいパパね。相変わらずラブラブなのね?」

「喧嘩も絶えないけどね。……でも、幸せよ」


 マリアは優しく微笑み、私の背中をそっと押した。

「あなたも幸せになりなさい。ほら、王太子がヴァージンロードの先で、首を長くして待っているわよ」


 扉が開く。

 眩い光が差し込む大聖堂の先。そこには、五年前よりずっと凛々しく、けれど緊張で少しだけ眼鏡をいじる癖の抜けない、愛おしい「彼」が待っていた。


 一歩、また一歩と歩みを進める。

 もう、「仮」の時間は終わり。


(あの日、コンビニのプリンを買い損ねた私が、こんなに甘い未来に辿り着くなんてね)


 差し出されたヴィンセント様の手を、私は今度は迷わずに取った。

 重なり合う手から伝わる温もりは、前世から今世へ、そして未来へと続いていく、何よりも確かな真実の愛の証だった。


 ――完――





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