表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

10. 絶望の作戦会議と、偽装の盾

 月明かりすら届かない、学園旧校舎の一室。埃の舞う静寂の中で、ヴィンセント様は頭を抱えて低く呻いた。


「……最悪だ。すべては僕の、痛恨の失策です」


 その声は震えていた。最強の騎士としての誇りではなく、大切な人を守り損ねた「田中君」としての絶望が、彼の背中を小さく見せている。


「ヴィンセント、自分を責めるのは後にして。今は現状を整理しましょう」


 マリアが冷徹な声で促す。カイル様も腕を組み、険しい表情で頷いた。


「俺が、あの帳簿をアイリスに奪われたせいだ。……あれが手元にあれば王子を断罪できたが、アイリスが持っている今は、話が別だ。彼女ならあの数字を逆手に取って、贅沢を共にした『共犯者』としてレティシアとマリアを道連れにするだろう」


 ヴィンセント様の言葉に、私は背筋が凍るのを感じた。アイリスならやりかねない。いや、彼女なら喜んでそうするだろう。


「婚約発表のパーティーに出席しなければ、操られた王子のことだ、勝手に話を進めて既成事実化するだけ。事前に断ろうとしても、今の王子には話が通じないわね」


 マリアの分析に、カイル様が拳を机に叩きつけた。

「なら、パーティーに乗り込んで、公衆の面前で断るしかないってことか」


「ええ。でも、ただ断るだけじゃ『不敬罪』で私たちが処刑される。だから、理由が必要なのよ」


 マリアが私とヴィンセント様を交互に見た。

「……**『偽装恋人』作戦よ。** あいつの得意な『真実の愛』とやらを、私たちも掲げるの。私とカイル、そしてレティシアとヴィンセント様。この二組でパートナーを組んで、王子の鼻っ面で愛を誓ってやるのよ」


「真実の愛、か……」

 ヴィンセント様が自嘲気味に呟く。

「皮肉な話だ。だが、それでもアイリスが黙ってはいない。彼女がパーティーの最中にあの帳簿を陛下に差し出せば、僕たちの『愛』ごと、処刑台に送られる」


 部屋に重苦しい沈黙が流れる。

 この詰みきった盤面をひっくり返す方法は、たった一つ。


「……取り戻すしかありません。パーティーが始まる前に」


 ヴィンセント様が顔を上げ、眼鏡の奥の瞳に鋭い光を宿した。

「アストレア公爵邸に忍び込みます。アイリスの部屋か、あるいは公爵の金庫か。闇魔法の気配を辿れば、必ず見つけ出せるはずだ」


「一人で行くつもり? 相手はあのアイリスよ。前世のストーカー気質を魔法で強化したような化け物なのよ」

 マリアの懸念に、私は椅子を蹴るようにして立ち上がった。


「私も行くわ。ヴィンセント様」


「レティシア!? いけません、あそこは今の君にとっては地獄のような場所だ」


「……あそこは私の家よ。隠し通路も、警備の穴も、誰よりも私が知っている。それに、田中君だけに背負わせたくないの。私たちは……戦友でしょ?」


 私はヴィンセント様の震える手を、正面からしっかりと握った。

 彼は一瞬だけ、かつての「田中君」のように情けない顔で私を見つめ、それから深く、深く息を吐いた。


「……分かりました。二人で行きましょう。僕たちの未来を取り戻しに」

「ちょっと待って二人とも、アイリスと直接対峙するなら聖魔法使える私も行くわ」

「いえ、今回は手帳の奪取が目的です。アイリスがいない時を狙います。二人には学園でアイリスの監視をお願いします」

「分かったわ。でも、アイリスが何か仕掛けているかもしれないわよ」

「それは承知の上です」

 繋いだ手に少し痛いほど力が込められた。


 カイル様とマリアは、学園でアイリスの監視を引き受けてくれた。


 決戦は数日後。かつて私を冷遇し、国外へと追い放った呪われた公爵邸。

 そこへ、今度は自分の人生を奪い返すために潜入する。


 復讐への決意と共に、私の胸には別の熱い鼓動が刻まれていた。

(パーティーが終わったら……今度は『偽装』じゃない言葉を、あなたに伝えたい)


 地獄の淵で、私たちは反撃の牙を研ぎ始めた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ