ep.3
「初めまして。実験体079。」
懐かしい。この声は、研究室室長の声だろうか。小さいときは彼女の事を母だとばかり思っていた。芯の有る、包容力がありそうで、ない、冷たい声。これは、何年たっても聞き間違えることの無い声だ。
「……!!!!!」「…………⁉」「!!!!」「!!!」
あぁ、怒号が聞こえる。やめてくれ、もう、やめてくれ。俺を、俺の事で争わないでくれ。
やめて、もう、やめて。お願いだから、……、
あぁ、そう、だ。そうだよ。生まれてきた、俺が悪かったんだよ。こんな、ゲノム編集ベビーになんて、産まれてきたくなかった。だから、もう、殺してくれ、…………お願いだ、こんなのは、嫌だ……。
・・・
ある時、俺は隣の研究室の先生二人に保護された。彼らは何年も前から俺の事を実験体として見るのではなく、一人の人間として見てくれていた数少ない人たちであった。
「ナギ。…いや、渚。今日から君は、私たちの元で過ごそう。」
「今まで辛かったね。渚くん。」
二人は俺に目を合わせ、女の人の方は俺の頭を撫で、男の人の方はその女の人と俺を一緒に抱きしめた。俺には何も分からず、二人に問いかけた。
「……なぎさって、誰ですか?」
俺がそう言うと男の人はいたわしい眼で俺を見た。
「君の事だ。今日から君は、渚だ。」
彼らはそう言いながらまた、十歳で親なども知らない俺を抱きしめてくれた。初めて感じた人の温かさ。窓越しにしか見たことの無い家族と言うものは、きっとこんな感じなんだろう、と思った。何故俺の身体が泣いているのかは分からなかったが、俺の涙は今まで存在すらも感じられなかった心を掻き分けて露わにしてくれている様だった。
「そういえば、まだ私たちの名前を言っていなかったな。」
そう言って俺に二人は自己紹介をしてくれた。
「私は躑躅森祐真だ。」「私は石塚奈月よ。」
そこから、俺はその二人にお世話になった。




