あなたに用はありません!~どこかに老紳士落ちていませんか~
久しぶりに婚約者に会ったら、うっかり性癖の扉を開いた話。よくあるザマァです。ギャグです。ギャグしかない。全部ギャグ。ギャグだよ。ギャグだって言ってるよ。どっかにかっこいい素敵なおじさま落ちてないかな~~~~!!!!![日間]総合 - 短編133 位 [日間]異世界〔恋愛〕 - 短編82 位ありがとうございます~
彼の姿を見た時、思わず胸を抑えた。
しばらく会わないうちに髪の毛には白髪が混じり始め、口元にはシワができている。
若い頃の覇気は薄れ、老成した雰囲気をまとっていた。
彼の隣に立つ婚約者をそっちのけて、思わず視線が釘付けになる。
「良い…」
それが彼――数年ぶりに会う婚約者の父を見た感想だった。
「皆、速くお年を召さないかしらね~」
「お姉さま、目を覚ましてください。私たち女性が結婚できるのは若いうちですよ。お姉さまの趣味に合わせるために皆さんが年を取ったら、婚期を逃してしまいます」
そう返してくるのは可愛い妹のキャサリン。
残念ながら私の老紳士・老婦人好きには理解を示してくれないようだ。
こんなにも魅力を語っているというのにどうしてだろうか。
「お願いですから、ブラム様のお父様とそういった関係にならないでくださいませね」
「大丈夫よ、エドモンド様は眺めるのが至高なんだもの。直接触れ合うのは、こう、何かが違うのよ」
婚約者のブラム様はアレンビー伯爵家の第一子、そのお父様がエドモンド・アレンビー伯爵だ。
白髪が数本混じるブラウンの短い髪をまとめ、目じりにシワを浮かべながら微笑む姿は絵画にしたいくらいだった。
ほどよくハリを失ったお肌が美しいわ。
触れたら絶対にザラつきを感じられる至高のお肌よ。
やはりいつか絵にさせていただこう。
ブラム様と結婚したら会う機会はいくらでもあるから。
「そういえば、そのブラム様ですが…最近よくない噂を聞きました…」
「あら?」
「今年から学園に編入したアリス・ハーシェルをご存じですか?」
我が国には青年向けの育成・研究機関がある。
それがクラーク王立学園である。
主に12歳から18歳の貴族が通う学びの場だ。
しかし10年前から成績優秀な平民の子や裕福な商人の子も受け入れ始め、彼ら向けの平民クラスが存在する。
正式には特待生クラスだが、貴族の間では平民クラスで通っている。
もちろん私は特待生クラスと呼んでいるわよ。
「ああ、何かと話題に上がる子ね。もちろん知っているけど、どうしたのかしら?」
何かと話題というのは彼女の態度についてだ。
優秀だが平民であるアリスはマナーを知らないことを盾に、婚約者のいる男性にすり寄っているという。
それに対しマナー、というか一般常識を教えると「だって私貴族じゃないもん!知らなかったんだもん!」と成人らしからぬ言動を返すのだそうだ。
彼女のピンクブロンドのふわふわしたまとまりのない髪とあいまって、非常によく悪目立ちするらしい。
ちなみに我が国では14歳で成人となる。
確か彼女は私の一つ下で16歳だから…勘弁してください。
「そのアリス・ハーシェルが、ブラム様と並んで歩いている場面が目撃されたようですよ。なんでも、恋人のように腕を絡ませていたなど聞いております」
「あら、ブラム様も男の子なのね」
「…それだけですか?お姉さまの婚約者ですよ?」
どうでもよさそうに返すと、キャサリンが目を見開き食いついてきた。
本気で心の底からどうでもいいと思っているのに。
「だってねぇ、ブラム様とはお互い愛情もないもの。どうと言われても何も返せないわよ。エドモンド様さえ被害が無ければそれで良いわ」
「…はぁ~……ブラム様の行動次第でエドモンド様、ひいてはお姉さまが嫁ぐアレンビー伯爵家の評判が下がりますが…」
「その点は問題ないと思うわ。エドモンド様は素晴らしい御仁だもの。ブラム様が貴族としての一線を超える前に、きちんと釘を刺すのではないかしら」
まあ噂になっている時点でどうなのと思うが、男性だから火遊びくらいは問題ないと思うのよね。
実は酔った父から若い頃いろいろやらかしていた話とか、父の初恋の人の話とかを聞いているのだ。
両親の結婚式に来てくれた初恋の人が、こっそりと父に思いを打ち明ける素振りを見せたというから、一人で抱えるにはなかなかに重い話だった。
母と妹には絶対に内緒である。
「もしブラム様との婚約が解消された場合、エドモンド様の後妻にお姉さまが収まることはあるのでしょうか?」
「………」
「…お姉さま?」
ふと呟いたキャサリンの言葉に、何とも言えない感情を抱いてしまった。
例えるなら嫌悪感かしら?
このモヤモヤを形にすべく、努力して言葉にしてみる。
「なにかしら、それは…違うのよ。政略結婚なら仕方がないけど、それは良くないのよ…」
「お姉さま、挙動がおかしいですよ?」
「うまく言葉にできないのだけど…うーん……そうね、年齢差…かしら」
「年齢差、ですか。今更ではありませんか?」
「良くない、良くないわ…たとえ10歳以上離れていても、お互いに愛情があるなら問題ないのよ」
「はぁ、そうですね。年齢差がある御夫婦は多くいらっしゃいますものね」
「そうよ…でも、でもね、一時の感情に身を任せて手を出す老紳士・老婦人は違うのよ…それは良くないの…」
「…身体的な欲望ではなく精神的な愛情であれ、と?」
「も、もう!直接的な言葉にしないでちょうだい…!でもほら、年齢によってステージがあるでしょう?たとえば!私が7歳の子に手を出したら問題になるわ」
「あ、ああー……まあ、それは問題ですね」
「そうよ!5歳も離れたら子どもにしか見えないし、精神的な隔たりを感じるものなのに、そこを感情に任せて超えたら問題でしょう?」
顔が熱を持っているのを感じるわね。
恥ずかしさを抑えつつ口にすると、キャサリンは納得したように頷いてくれた。
そして爆弾発言を放ったわ。
「つまり、お姉さまがエドモンド様に好意を寄せるのは問題なく、エドモンド様から好意を寄せられるのは嫌だということですね」
「…!~~~~!!よくない、よくないわ…」
「ええ、よく分かりませんが理解しました。面倒な乙女心ですわね」
「ちがう、違うの…本当に年齢差があるのが受け入れがたいの…」
思わず顔を覆い悶えてしまったわ、この妹め。
ちなみにエドモンド様と私は20歳差である。
憧れはあるものの、やはりそういった関係になりたいとは思わないわね。
「でも本当に、エドモンド様の隣に立ちたいとは思わないのよね…眺めているだけで満足だわ」
「それが一番平和ですね」
涼しい顔で紅茶を飲むキャサリンにつられて、私も紅茶を一口飲んだわ。
この時はそれで終わると思っていたのに。
翌日、昼休みにリフレッシュしようと中庭へ赴くと、仲良さげにベンチに座るブラム様とアリスを見つけたわ。
あらあら初々しいわね、私に構わずゆっくりどうぞ。
そう心の中で声をかけてから別のベンチへ向かおうとした時、運悪く二人に見つかった。
「せ、セリーヌ!?」
「ほえ?」
話しかけるつもりは無かったのだけど、呼びかけられたら応えないわけにはいかないわよね。
折角のお昼下がりが台無しになる予感がするわ。
「お久しぶりです、ブラム様。ご機嫌麗しゅう」
「いや、これはだな...!そう!勉強を教えていただけで!!」
「ブラム様ぁ、どうしたんですか?」
私は何もお伺いしていませんよ、落ち着いてくださいな。
ブラム様が大きめの声を出したためか、周囲から好奇の視線が集まるのを感じるわ。
早く立ち去りたいわね。
「それではブラム様。講義の準備がありますので、私はこれにて失礼しますね」
「誤解だセリーヌ!浮気なんてしてない!!」
「えっセリーヌさん!?ブラム様の婚約者のぉ!」
ブラム様の声に反応したピンクブロンドのふわふわが立ち上がる。
すると私の元へ素早く駆け寄ってきて、勝手に手を掴んできたわ。
常識を知らないとは本当のようね。
「初めましてぇ!あたし、アリスって言いますぅ~!ブラム様と仲良しなんですぅ!」
「……」
「…あ、あのぉ~?」
私はあえてポカンとした表情で黙ったわ。
視界の隅でお友達が来てくれるのが見えるわね。
「どうしたんですかぁ?」
「!ああ、いきなり手を取られることは初めてだから、驚いてしまったの」
「そうなんですねぇ!またあたしが何かやっちゃったかと思いましたぁ」
そう言ってアリスはギュッと手に力を込めたわ。
柔らかく「手を放せ」と伝えたつもりだけど、届いていないみたいね。
言葉の裏が読めない子もいるのね、勉強になるわ。
「あ、でもぉ、平民だと普通のスキンシップなのでぇ、セリーヌさんも慣れておいた方がいいですよぉ?」
「そうなのね、ご忠告どうもありがとう」
「どういたしましてぇ!あたしたち仲良くなれそうですねぇ」
何故、侯爵令嬢の私が平民のしぐさに慣れる必要があるのかしら。
誰か本当に教えてほしいわね。
「ア、アリス!ほら!手をいつまでも掴んでるんじゃない」
「あっごめんなさぁい!あたしまたやっちゃったぁ!」
今度は私の手を投げ出すようにパッと放して、くすんくすんと泣きまねを始める。
よくそんなにコロコロと表情が変わるものね。
「あたしぃ、平民だからぁ!貴族のマナー知らなくてぇ!ごめんなさぁいセリーヌさん!」
「よしよし、大丈夫だぞアリス。セリーヌも許してくれるから、泣き止んでくれ」
許すなんて一言も言ってませんけどねぇ。
面白いわ、この人たち。
でもそろそろ飽きてきたわね。
「セリーヌ様、こちらにいらっしゃったのですね。あら、お取込み中でしたか?」
処理しようかしらと思った所で、騒ぎを聞きつけたお友達のスザンナ様が来てくれたわ。
良いタイミングよ。
「あら、スザンナ様。探させちゃってごめんなさいね。何かご用かしら?」
「とんでもございません。次の講義へお誘いしようと思いまして」
「丁度良いわね、私も講堂へ向かおうと思っていたの。一緒に行きましょう」
「まあ、光栄です。セリーヌ様」
「ではブラム様、私はこれにて失礼しますね」
スザンナ様が会話に乗ってくれたので、そのままの流れで主導権を握ったわ。
でも講義の時間が近づいていたのは本当だもの。
「ああ、セリーヌ。次はもっとアリスに優しくしてやってくれ。編入して間もないから、まだマナーを覚えていないんだ。それに君は顔つきがキツイんだから、もっと笑うといいよ!」
「はぁい!さようならぁ!ブラム様のお相手はあたしがするのでぇ、心配しないでくださぁい!」
今年が始まって半年が過ぎているのだけれど、犬よりも物覚えが悪いのね。
あら、犬はお利口な動物だったわ。
じゃあ鶏以下かしら、まさに珍獣ね。
ブラム様に軽く微笑んで場を退くと、スザンナ様が綺麗なレースのハンカチーフを差し出してくれたわ。
「セリーヌ様、こちらをお使いください。珍妙奇天烈な生き物に触れられましたでしょうから」
「ありがとう、スザンナ様。でも繊細なレースを汚したくないから、お気持ちを受け取っておくわね」
「もったいないお言葉ですわ」
スザンナ様は何かと目端が利くから助かっているの。
身のこなしもスムーズで、いつもキリっとしていてかっこいいものね。
ご実家はブラム様と同じ伯爵位だけど、二人の差はどこでついたのかしら?
伯爵位と言えばブラム様の態度は不思議ね、あそこまでアリスと懇意にしているとは思わなかったわ。
エドモンド様に限って止めないはずがないし…。
「スザンナ様のマロリー家は、ブラム様のアレンビー伯爵家と交流がありましたよね」
「はい。領地が隣のため、仕事でも私生活でも交流がありますわ」
「もし何か聞いていれば教えてほしいのだけど…最近、アレンビー伯爵に何かあったのかしら?」
「そうですね…少し遠回りしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ」
話が長くなるというより、あまり聞かれたくない雰囲気を感じるわ。
ここは人通りの少ない道を行きましょう。
北の廊下は薄暗いから人気が無いのよねぇ。
「内密にお願いしますね。アレンビー伯爵ですが、爵位を親戚の方へ譲るそうです」
「まぁ、まだお若いのに」
「腰の痛みが重く、長い間座っていることが難しくなってきたのだと聞きました。もともと腰を痛めていらっしゃいましたが、歳を重ねるごとに痛みが強くなってきたそうですよ」
「まぁまぁ、それは仕方ないわね。療養していただきたいわ」
「立ち続けるのもおつらいようなので、今後は夜会にもいらっしゃらないかと存じます」
ああ、麗しの老紳士が消えていく…。
こんなことなら、もっと早く絵画を描かせていただけば良かったわ。
「でも急な話ね。我が家には何も知らせが届いてないわ」
「私は三日前に領地に居る父からの手紙で知りましたわ。おそらく近々ご連絡があるのではないでしょうか」
「ならもう少し待ちましょうか。アレンビー伯爵なら、ブラム様をきっちり見ていらっしゃると思ったのだけど、そのご容体なら仕方ないわね」
「引退後は隣国の静かな土地に移るようなので、手続きに追われていたのでしょう」
隣国というとファヴァロ帝国ね。
あそこは我が国より暖かいからお身体にも良いでしょう。
それにしてもブラム様は我が侯爵家への婿入りだけど、あの状態ではお断りしようかしら。
ブラム様もアリスと結婚したいでしょうし…でもそうすると、アリスはエドモンド様と義理の親子になるのよね。
天地がひっくり返っても、エドモンド様ならアリスなんて歯牙にもかけないでしょうけど…。
アリスがあの麗しいエドモンド様に言い寄る可能性はあるわね。
んー…あ、そうだわ!
「うふふ、良いこと思いついちゃったわ」
「ふふ、セリーヌ様、また悪いことを企んでいらっしゃいますね」
「聞いてくださる?スザンナ様、実は次の長期休みでマロリー家へ遊びに行きたいの」
折角思いついたのだもの、スザンナ様には打ち明けることにするわ。
悪いことよ、ええ、悪いこと。
「セリーヌ、すまない。君との婚約を破棄させてくれ」
三ヶ月後。
学園のカフェテラスでスザンナ様とお話していると、ブラム様がアリスを伴って近づいてきたわ。
そして予定通り婚約を破棄されたの。
「セリーヌさん!ブラム様のことはあきらめてねぇ!あたしたちは真実の愛で結ばれてるのぉ!!」
そう言ってアリスは婚約指輪を見せてきたわ。
歪んだ笑いが隠しきれていなくてよ、駆け出し役者の方がまだ上手に表情を作るわ。
「愛されてないセリーヌさんと違ってぇ!あたしはブラム様に愛されてるんだからぁ、大人しく引っ込んでいてよねぇ!」
「ああ、愛してるよアリス!セリーヌに君の半分でも可愛さがあればと、何度思ったことか」
「あたしもぉ、セリーヌさんよりブラム様を愛してるぅ!」
あら、茶番が始まったわ。
いちいち人を引き合いに出さないと愛を実感できない人たちなのかしら。
でも人間は比較の生き物というから、仕方ないわね。
「まぁまぁ、急にどうしましたの?ごめんなさいね、スザンナ様」
「いいえ、大丈夫ですよセリーヌ様。ただブラム様側は二名なので、私もこのまま居させてくださいますか?」
「ええ、ありがとう。巻き込んでしまって申し訳ないわ」
あえてとぼけてスザンナ様と会話を重ねたわ。
ブラム様に場の主導権を渡してなんかあげないわよ。
「それでブラム様、このような場で突然どうしましたか?」
「あ、ああ。私はこのアリスを愛しているんだ。君とは結婚できない、ゆえに婚約を破棄する!」
「ブラム様!うれしいわぁ!やっと堂々と一緒にいられるのねぇ!」
「あらあら、なんということでしょう…」
私がわざとらしく悲しい顔をすると、アリスが勝ち誇った顔でブラム様へ抱き着いたわ。
あなたたちは隠すこともなくずっと一緒だったでしょうに。
公衆の面前で恥ずかしい人たちね。
それにしても、ここまで上手くいくとは思わなかったわ。
「ご存じないのですね、ブラム様。私たちの婚約は一カ月前に解消されておりますわ」
「え?」
「ほぇ?」
あら、驚いた顔まで同じなのね。
本当に仲良しだわ。
スザンナ様、肩が小刻みに震えていてよ。
「ええ、ブラム様のお父様…前アレンビー伯爵にお話をしましたの。ブラム様とお似合いの方がいらっしゃる、お二人はとても仲が良いと」
「そうなのぉ!アリスとブラム様はとぉっても仲良しだものねぇ」
「え…前って…」
「ブラム様ぁ、どうしたのぉ?」
青ざめ始めるブラム様のお顔、面白いわね。
お二人は仲が良いと思っていたけれど、ブラム様が一足先にお花畑から抜け出したようだわ。
「まぁ!ご家族のことなのに、存じなかったのかしら。前アレンビー伯爵は御腰を痛めていらっしゃったの。それでも私にきちんと向き合ってお話してくださったわ。ねぇスザンナ様」
「ええ、起き上がるのもつらそうでしたわ」
「二カ月前の長期休みでお見舞いにお伺いしたのだけれど、ブラム様はお帰りにならなかったの?」
この間の長期休みで、エドモンド様にお会いしに行ったのよ。
御腰の痛みで弱ってしまったエドモンド様は何とも言えない色気があったわ。
思い出すとうっかりよだれが出そうになるから困ったわね。
思わず病気属性の老紳士という新しい扉を開きかけたの。
でも不謹慎だからあわてて扉を閉めたのよ。
その代わりお姿をしっかりと目に焼き付けたわ。
「長期休みは、アリスと…」
「ああ、旅行なさっておいででしたのね。構いませんわ」
「ブラム様ぁ…?」
「そうそう、お見舞いがてらお二人のお話をさせていただきましたわ。ブラム様には心に決めた平民がいるようだから婚約を解消させてほしいと、誠意を込めてお願いしましたの」
「そんな勝手なことを!!何をしてくれたんだ!」
「えぇ?婚約が無くなったならよかったじゃないですかぁ、問題あるのぉ?」
「大いに問題がありますわ、ブラム様。この縁談は、我が侯爵家にエドモンド様が頼み込んで成り立ったものですものね。エドモンド様は怒ってブラム様を勘当してしまいましたわ」
「馬鹿な!!父が勘当なんてするはずがない!」
あらあら、カフェテリア中に聞こえるような大声を出してしまって。
学生の皆さんがこちらに注目しているわ。
本当に可哀そうな人たちね。
「本当の話ですわ。ブラム様は、代替わりした現アレンビー伯爵とも折り合いが悪いですものね?我が子とはいえ、家のことを考えると当然の判断でしてよ」
ブラム様は流されやすい傾向があるから、厳格なアレンビー伯爵家の中では少し浮いていたのよね。
それに加えて侯爵家への無礼だもの。
居るだけで邪魔と思われても仕方ないでしょう?
「そ、そんな…」
「ちょ、ちょっとブラム様ぁ…貴族じゃなくなったってウソですよねぇ…?」
ブラム様が膝をついてうなだれてしまったわ。
ちょっと哀愁を誘うわね。
可哀そうだから良い話も教えてあげましょう。
「でもブラム様が勘当されて学園を退学したら、就職先が限られてしまうでしょう?それは平民となって生活するブラム様が可哀そう、学園は卒業させてあげてほしいとお話しさせていただいたの」
「ふ、ふふ…」
スザンナ様、小さな笑い声が届いていましてよ?
ここで、あえて間を溜めるように、ぐるりとカフェテリアを見まわしてから告げましょう。
「ですのでブラム様は平民ですが、卒業するまでアレンビー伯爵家が面倒をみてくださることになりましたわ。良かったですね、元伯爵令息様。残り一年の学園生活を、今の貴族クラスのままでお楽しみくださいまし」
「ブラム様が大きな声を出したせいで、皆に知れ渡りましたわ。挨拶して周る手間が省けましたね」
さすがスザンナ様ね、すかさず追撃を入れているわ。
今後の学園生活が平穏に送れるかは、今までのブラム様の態度次第でしてよ。
でも身分を振りかざして子爵家や男爵家の令息を下僕のように使っていたから、穏やかな日々からは遠いでしょうね。
そんなことを考えていたら、ブラム様が小刻みに震えだしたわ。
「せ……セリーヌゥゥウウウ!!」
「きゃあ!」
あら、拳を握りしめたかと思えば、逆上して暴力に訴えるだなんて。
突き飛ばされたアリスが可哀そうね。
私はもちろん動かないわ。
だってスザンナ様が素早く動いて、一瞬でブラムを組み伏せてくれたもの。
「ごぁ…!?」
「学園内で暴力をふるうなんて、元貴族とは思えませんわね。セリーヌ様、お怪我はありませんか?」
「ええ、ありがとうスザンナ様。その人はもともとそのような性格なのですよ」
「可哀そうな人ですね。警備の騎士に引き渡しますわ」
慌てて駆け寄ってくる騎士の元へ、ブラムを引きずっていくスザンナ様。
やはり女性騎士とは良いものだわ。
おっと、新しい扉が…きちんと閉めておかないとね。
「えっ…えっ…?」
そう言えば居たわね。
面倒だから早めに処理しちゃいましょうか。
突き飛ばされて座り込んでいるアリスへ、そろそろ現実を教えてあげましょう。
「ねぇ、あなた」
「は、ひゃい!」
「良い夢を見れたかしら。人から奪った身分ある婚約者が、あなたと同じ平民に落ちるのはどんな気持ち?」
「へぁ、で、でもぉ!あたしの方が愛されてるんだもん!セリーヌは愛されてないくせにぃ、出張ってくるなんてサイテーよ!」
「ふふ、私ね、ブラム様のことは最初から要らなかったのよ」
「え…?」
そう、私はブラムに対してなんとも思っていなかったわ。
エドモンド様とお会いできたことだけは感謝しているけれどね。
嬉しいわ、やっと手放せたのね。
思わず笑顔になってしまいそう。
でもこのような、口の両端が裂けそうなほど吊り上がった顔を、周囲の方に見せるわけにはいかないわね。
だからアリスに近づいて、小さな声で話すわ。
「ブラムを引き取ってくれてありがとう。ずっと捨てたかったの」
「ひっ…!」
「名前も知らないあなた。これからも、私の要らないものを引き受けてね」
「ひぃぃいいいい!!」
あら、這いずって逃げてしまったわ。
もちろん私の顔はいつも通り、穏やかな微笑みを浮かべているのよ。
そうそう、この場も収めなくちゃね。
パンパンと軽く手を叩き、カフェテリア中の学生に向けて、淑女と呼ばれるにふさわしい堂々とした笑みを向ける。
「皆さん、お騒がせしてごめんなさいね。本日の料金は、我がエヴァーツ侯爵家がお支払いするわ!引き続き、ゆっくりと食事を楽しんで頂戴ね」
ええ、歓声というのは何度聞いても心地良いわね。
「皆、速くお年を召さないかしらね~」
「お姉さま、早く目を覚ましてください。婚約解消したのですから、次の相手を見つけないと本当に婚期を逃しますよ」
相変わらず厳しいキャサリンが可愛い。
そうは言われても相手が見つからないのだから仕方ないわ。
「お父様に次のお相手をお願いしているのだけれど、しばらくはゆっくりしていなさいって言われるのよ」
「それはそうでしょうね。学園とはいえ派手に騒ぎを起こしたのですから、皆さん怖がって近づきたくありませんよ」
「あら、我が国の貴族はいつから臆病者しかいなくなったのかしら」
どこかに良い老紳士が落ちていないかしら。
そんなことを考えていると、キャサリンが綺麗に装飾された封筒を手渡してきた。
「本日届きましたわ。近々、帝国から皇帝陛下の弟さまがいらっしゃるそうですよ。御年38歳、独り身」
「え、行くわ」
「重症ですね」
キャサリンと笑いあいながら、まだ見ぬ老紳士へ思いをはせた。
年齢を重ねた肌のざらつき感、めっちゃ好き
新作始めました!
『婚約破棄されたので、実家の北の領地で「あぶない植物図鑑」を作ります~あと5年で氷河期が来るらしいけど、元婚約者の国が滅びても知りません~』
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氷河期を智恵と知識で乗り越える主人公と、落ちぶれていく元婚約者の話~
ぜひ読んでいただけると嬉しいです!
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