表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/19

第4話② 学芸会の役決め(女の子)


「――じゃあ平等に‼ 男女混合クジ引きで決めるわよ‼」


 黒板の前に立つ先生が叫び声を上げる。

 その手には席替えの時に使うクジ引きの箱。

 先生が箱を振ると、ゴトッ。ゴトッ。と音が聞こえた。

 たぶん、生徒全員分の役が書かれた紙だ。

 でもその音を聞いて、私の右隣に座るハルくんが。


「……男女混合?」


 青ざめた顔で首を傾げてた。


   ***

 皆がクジ引きを終わらせた後。

 ついに配役が決まる。

 私が引いた紙には――


「王子様…………私が⁉」


 確かにそう書かれてた。

 それで主役のお姫様はというと。


「なんで俺が。なんで俺がお姫様なんだよ……」


 隣の席でハルくんが泣きそうな顔をしてた。

 他にもたくさんの人が役者さんに決まり。

 こうして、学芸会の準備が始まった。


   ***

 学校からの帰り道。

 ハルくんが何故か落ち込み気味だった。

 そしてその理由を解明したのは柊くん。


「あの脚本、ハルが書いたやつでしょ」

「…………」

「…………」


 前を歩いてた私と姫ちゃんは揃って足を止める。

 それから一緒にお互いの顔を確認した。

 私が見た限り、姫ちゃんは驚いた顔で。

 きっと、私も同じ顔をしていたと思う。


「それで見返りは?」

「……宿題一ヶ月分チャラ」

「随分、割に合わない取り引きになったね」

「うるせぇ。まさか男女混合で配役を決めるとは」

「だからお姫様の方を主役にしたんだね」

「……俺はお前の洞察力が時々怖ぇよ」


 相変わらずのハルくんと柊くん。

 二人だけのわかりあったような会話。

 それを見て姫ちゃんが――


「ちょっと夏陽。私やフユちゃんにも話なさいよ‼」

「断る! 俺は今、今後のプランを頭で練ってるんだ‼」


 難しい顔で考え込みながら歩くハルくん。

 自然と私と姫ちゃんの視線は柊くんへ。


「単純な話だよ。ハルは自分が王子様になった時を想定して、脚本を書いてたんだ」

「だからそれがよくわからないんだけど?」

「脚本を書いたのがハルなら、監督はハルにしかできない」


 それを聞いて、私と姫ちゃんはハッとした。

 もしハルくんが王子を引いてたら、あまり監督のお仕事には影響が出ないけど。

 一番大変なお姫様の役になったら――


「……誰が監督をやるのかしら?」

「……少なくても僕はやらないよ」

「……私もその……自信ないかな」


 私たちがシュンとする中、今も後ろではハルくんが考えてた。

 そしてしばらくして、何かを思いついたように。


「ダメだ。どんなに考えてもこれしかないな」

「何か思いついたの? でも並大抵のことじゃ――」

「姫役をもう一人用意する」

「それはまた何とも珍妙な」


 ハルくんの提案に眉一つ動かさない柊くん。

 ハルくんの考えに首を傾げる姫ちゃん。

 ハルくんの言葉に少し寂しくなる私。


「でも宛てはあるの?」

「お前が――」

「無理。僕、美術班にヘッドハンティングされたから」

「……確かにお前はそっち向きだよな」

「なら……」


 ハルくんが姫ちゃんの方を見る。

 姫ちゃんは柊くんと同じで配役無し。

 裏方が専門になる予定。

 だから演技を練習する時間もあって。


「私に夏陽の影武者をやれっていうの?」

「途中までは俺が演じる。だから後半はお前が演じろ」

「相変わらず無茶苦茶ね。そんなに宿題免除が――」

「監督である以上、俺には劇を成功させる義務がある」


 それはたぶん、いつものハルくんとは違った回答。

 だけどその言葉を聞いても、姫ちゃんと柊くんは驚かない。


「残念。私は私で衣装係のお仕事があるから」

「……そういえばお前、家事だけは得意だもんな」

「家事だけは余計よ。それに切羽詰まってるなら、頼るべき相手がもう一人いない?」

「……先生を脅迫して役を――」

「違うわよ」


 ハルくんの考えを静かに否定した姫ちゃん。

 すると姫ちゃんは静かに私の方を指差した。


「監督もやって役者もやるのよ。たくさん練習すれば、夏陽ならできるわよね?」

「そ、そりゃあ不可能じゃないけど。流石にそれはフユに迷惑が――」

「そういうことは、ちゃんと本人に聞いてから言いなさい」


 フユちゃんに言われ、ハルくんの視線が私に向く。

 私はその強い視線に耐え切れず、顔を俯かせた。

 だけどハルくんは正直な気持ちを話してくれる。


「お前に負担を掛ける方法は最初に思いついてたんだ」

「…………」

「だけどそれは、俺と同じだけの負担を強いることになるから」

「…………」

「できるだけやりたくなかったんだ」

「ふ~ん。私や緋色なら構わないんだ」

「少し劇に出てもらうだけだからな」


 ハルくんの言葉に不満気な姫ちゃん。

 でもハルくんの気持ちはすごく優しいもので。

 自分以外の人が大変にならないようにする。

 つまりそれがハルくんのやろうとしたこと。

 でも私としては――


「嫌じゃないよ」


 さっきまですごくモヤモヤしてた。

 ハルくんがお姫様役を嫌そうで。

 私とやるのが嫌なわけじゃない。

 それがわかっているはずなのに、ずっと。

 だけどハルくんと、最後まで劇ができるなら私は――


「私は王子様だから。私がハルくんを助けるよ‼」

「劇の内容的には、お前が助けられるんだけどな」

「……あ、そうだよね。私が助けて貰うんだよね」


 何言ってるんだろ、私。

 それに私なんかがハルくんを助けられるわけ――


「でもそうだな。代わりに現実では俺が助けてもらうか」

「それって――」

「俺の練習、一杯付き合ってくれよな」


 さっきまですごく難しい顔をしていたハルくん。

 そのハルくんが笑った。いつもみたいな笑顔で。

 見てると私の胸が『キューン』ってなる笑顔で。


「うん‼ 二人で一杯練習しよう‼ それで最高の劇にしようね‼」

「当然だろ。誰が監督で主演俳優? だと思ってる?」


ブックマークと評価お願いします。作者の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ