第4話② 学芸会の役決め(女の子)
「――じゃあ平等に‼ 男女混合クジ引きで決めるわよ‼」
黒板の前に立つ先生が叫び声を上げる。
その手には席替えの時に使うクジ引きの箱。
先生が箱を振ると、ゴトッ。ゴトッ。と音が聞こえた。
たぶん、生徒全員分の役が書かれた紙だ。
でもその音を聞いて、私の右隣に座るハルくんが。
「……男女混合?」
青ざめた顔で首を傾げてた。
***
皆がクジ引きを終わらせた後。
ついに配役が決まる。
私が引いた紙には――
「王子様…………私が⁉」
確かにそう書かれてた。
それで主役のお姫様はというと。
「なんで俺が。なんで俺がお姫様なんだよ……」
隣の席でハルくんが泣きそうな顔をしてた。
他にもたくさんの人が役者さんに決まり。
こうして、学芸会の準備が始まった。
***
学校からの帰り道。
ハルくんが何故か落ち込み気味だった。
そしてその理由を解明したのは柊くん。
「あの脚本、ハルが書いたやつでしょ」
「…………」
「…………」
前を歩いてた私と姫ちゃんは揃って足を止める。
それから一緒にお互いの顔を確認した。
私が見た限り、姫ちゃんは驚いた顔で。
きっと、私も同じ顔をしていたと思う。
「それで見返りは?」
「……宿題一ヶ月分チャラ」
「随分、割に合わない取り引きになったね」
「うるせぇ。まさか男女混合で配役を決めるとは」
「だからお姫様の方を主役にしたんだね」
「……俺はお前の洞察力が時々怖ぇよ」
相変わらずのハルくんと柊くん。
二人だけのわかりあったような会話。
それを見て姫ちゃんが――
「ちょっと夏陽。私やフユちゃんにも話なさいよ‼」
「断る! 俺は今、今後のプランを頭で練ってるんだ‼」
難しい顔で考え込みながら歩くハルくん。
自然と私と姫ちゃんの視線は柊くんへ。
「単純な話だよ。ハルは自分が王子様になった時を想定して、脚本を書いてたんだ」
「だからそれがよくわからないんだけど?」
「脚本を書いたのがハルなら、監督はハルにしかできない」
それを聞いて、私と姫ちゃんはハッとした。
もしハルくんが王子を引いてたら、あまり監督のお仕事には影響が出ないけど。
一番大変なお姫様の役になったら――
「……誰が監督をやるのかしら?」
「……少なくても僕はやらないよ」
「……私もその……自信ないかな」
私たちがシュンとする中、今も後ろではハルくんが考えてた。
そしてしばらくして、何かを思いついたように。
「ダメだ。どんなに考えてもこれしかないな」
「何か思いついたの? でも並大抵のことじゃ――」
「姫役をもう一人用意する」
「それはまた何とも珍妙な」
ハルくんの提案に眉一つ動かさない柊くん。
ハルくんの考えに首を傾げる姫ちゃん。
ハルくんの言葉に少し寂しくなる私。
「でも宛てはあるの?」
「お前が――」
「無理。僕、美術班にヘッドハンティングされたから」
「……確かにお前はそっち向きだよな」
「なら……」
ハルくんが姫ちゃんの方を見る。
姫ちゃんは柊くんと同じで配役無し。
裏方が専門になる予定。
だから演技を練習する時間もあって。
「私に夏陽の影武者をやれっていうの?」
「途中までは俺が演じる。だから後半はお前が演じろ」
「相変わらず無茶苦茶ね。そんなに宿題免除が――」
「監督である以上、俺には劇を成功させる義務がある」
それはたぶん、いつものハルくんとは違った回答。
だけどその言葉を聞いても、姫ちゃんと柊くんは驚かない。
「残念。私は私で衣装係のお仕事があるから」
「……そういえばお前、家事だけは得意だもんな」
「家事だけは余計よ。それに切羽詰まってるなら、頼るべき相手がもう一人いない?」
「……先生を脅迫して役を――」
「違うわよ」
ハルくんの考えを静かに否定した姫ちゃん。
すると姫ちゃんは静かに私の方を指差した。
「監督もやって役者もやるのよ。たくさん練習すれば、夏陽ならできるわよね?」
「そ、そりゃあ不可能じゃないけど。流石にそれはフユに迷惑が――」
「そういうことは、ちゃんと本人に聞いてから言いなさい」
フユちゃんに言われ、ハルくんの視線が私に向く。
私はその強い視線に耐え切れず、顔を俯かせた。
だけどハルくんは正直な気持ちを話してくれる。
「お前に負担を掛ける方法は最初に思いついてたんだ」
「…………」
「だけどそれは、俺と同じだけの負担を強いることになるから」
「…………」
「できるだけやりたくなかったんだ」
「ふ~ん。私や緋色なら構わないんだ」
「少し劇に出てもらうだけだからな」
ハルくんの言葉に不満気な姫ちゃん。
でもハルくんの気持ちはすごく優しいもので。
自分以外の人が大変にならないようにする。
つまりそれがハルくんのやろうとしたこと。
でも私としては――
「嫌じゃないよ」
さっきまですごくモヤモヤしてた。
ハルくんがお姫様役を嫌そうで。
私とやるのが嫌なわけじゃない。
それがわかっているはずなのに、ずっと。
だけどハルくんと、最後まで劇ができるなら私は――
「私は王子様だから。私がハルくんを助けるよ‼」
「劇の内容的には、お前が助けられるんだけどな」
「……あ、そうだよね。私が助けて貰うんだよね」
何言ってるんだろ、私。
それに私なんかがハルくんを助けられるわけ――
「でもそうだな。代わりに現実では俺が助けてもらうか」
「それって――」
「俺の練習、一杯付き合ってくれよな」
さっきまですごく難しい顔をしていたハルくん。
そのハルくんが笑った。いつもみたいな笑顔で。
見てると私の胸が『キューン』ってなる笑顔で。
「うん‼ 二人で一杯練習しよう‼ それで最高の劇にしようね‼」
「当然だろ。誰が監督で主演俳優? だと思ってる?」
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