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第2話② 幼馴染(女の子)


「――もう信じらんない、緋色のやつ‼」


 小学校からの帰り道。

 隣を歩くお友達が怒ってた。

 私と一番、仲の良いお友達が。


「何が『ハルと寄り道してから帰るから』よ‼」


 今日は私の親友――桐咲姫ちゃんのお誕生日。

 姫ちゃんはいつも元気で素直で。

 思ってることがすぐに口に出ちゃう。

 長い黒髪が綺麗な女の子。

 確かに時々厳しいことも言っちゃうけど。

 でも私はそんな姫ちゃんがとっても大好き。


「緋色のやつ。帰って来たら許さないんだから‼」


 ……うん、時々怖いけど大好きだよ。


「ごめんね、フユちゃん。変なところ見せて」

「でも変だよね。柊くんが姫ちゃんのお誕生日を忘れるなんて」

「ううん。あいつ、毎年忘れてるんだから」


 本当にそうなのかな~。

 二人とも仲良しさんなのに。


「プレゼントなんて翌日の朝よ、朝‼ 信じられる‼」

「落ち着いて、姫ちゃん。目が燃えてるよ‼」


 私が駆け寄ると、姫ちゃんが急に私の肩に腕を回して来た。

 そして――


「いいね、幸せ絶頂気は。良かったじゃん、夏陽の隣の席になれて」

「ふぇ~⁉」


 突然のことに頭が大パニックだよ‼

 どうして姫ちゃんが夏陽くんのこと――


「あれ? もしかして違った? 夏陽のこと嫌い?」

「……嫌い、じゃないよ」

「キャー‼ 何、この可愛い生き物‼」


 姫ちゃんが私をギュッと抱きしめる。

 姫ちゃん、すごっく暖かくてお日様みたい。


「痛いよ~、姫ちゃん」

「良いではないか‼ 良いではないか‼」


 しばらくして、ようやく私から離れた姫ちゃん。

 そして姫ちゃんはまだ青い空を見て言う。


「一緒にケーキ食べよっか」


   ***


「でも本当にいいの? 姫ちゃん、家にお友達を呼ぶの嫌いでしょ?」

「フユちゃんは別。だって、絶対に緋色の家の場所聞かないでしょ?」

「……でも夏陽くんがいるなら」

「ハハハ。残念ながら夏陽は滅多に来ないかな」


 マンションの中に入ると、姫ちゃんがエレベーターのボタンを押した。

 エレベーターが来るまで姫ちゃんが――


「やっぱり好きになったのは、プール事件からですかい?」

「う、うん。でもその前から気になってて……」

「おっと。それは初耳だね。詳しく聞こうじゃないか」


 姫ちゃんが家の鍵をマイクみたいにして、私に聞いてくる。

 本当は少し恥ずかしいけど、でも私にとっては大切な思い出。


「四月。私が転校してきたばかりの頃、学級委員長決めがあったよね?」

「クラスの皆が、転校生の姫ちゃんに押し付けようとしたやつ?」

「そう。でもその時ね、夏陽くんが――」


『俺が学級委員長になる』


「って言ってくれたの。それがきっかけ」

「そういえばそん時、クラスの皆驚いてたもんね」

「夏陽くんが学級委員長って意外なのかな?」

「意外って言うよりも。その後、緋色が言ったセリフが全てでしょ」



『ハルには絶対無理』


「それで緋色、自分が学級委員長になっちゃうんだから」


『ハルがやるぐらいなら、僕がやった方がいいよ』

『なんだと、緋色‼』


「って、すぐ喧嘩になるし」

「でも二人って本当に仲が良いよね」

「幼稚園の頃から一緒だからね。友達ではなかったけど」

「そうなの?」

「うん。毎日勝負してたかな。夏陽が一方的に挑んで負けてたけど」


 そうなんだ。でも今からじゃ全然想像できないな~。

 いつも一緒で。いつも仲良しで。

 私もいつか夏陽くんとあんな風に――


「どうしたの、姫ちゃん。顔が真っ赤だよ」

「な、なんでもないよ‼」


 私は降りて来たエレベーターに駆け込む。

 う~。夏陽くんのことを考えると、すぐ顔に出ちゃうよ~。


「それにしても夏陽は幸せ者ね」


 エレベーターのボタンを押した姫ちゃんが言う。

 それに対して私は自然と。


「うん、柊くんみたいなお友達が――」

「そうじゃなくて」


 姫ちゃんが私の両頬を引っ張って笑った。

 それもニッコリと、本当に嬉しそうに。


「姫ちゃんに好きになってもらえて‼」

「え、どういうこと?」

「なんでもない。緋色の証言だしね」


 エレベーターが目的の回に着いて、ドアが開く。

 姫ちゃんはポカーンとした私を置いて、先に降りていく。


   ***


 姫ちゃんの隣のおうち。

 そこは柊柊くんのおうち。

 それなのに五時を過ぎても、柊くんは現れなくて。


「大丈夫? 姫ちゃん」

「べ、別に。緋色なんて待ってないんだから」


 さっきから何度も玄関の方を見てる姫ちゃん。

 その度に何もなくてシュンッとして。

 お願い、早く来てあげて柊くん‼

 私がたくさん。たくさんお願いしたのに、柊くんは来なかった。


「ご、ごめんね、フユちゃん。帰りがこんな時間になって」

「大丈夫だよ! 私、暗くても平気だから!」


 玄関の前。私を心配しながら、何度も隣の家の様子を確認する姫ちゃん。

 でもやっぱり柊くんは現れなくて――


「――やっぱり、秋月さんに迷惑掛けてた」


 私と向かい合う姫ちゃんが、今にも泣きそうな顔をしていた。

 振り向かなくてもわかる。

 来たんだ、姫ちゃんの仲良しさんが。


「ふ、ふ~ん。今頃、おかえり。遅かったわね」

「うん。街中、ハルを連れて走り回ってたから」

「また二人で勝負? 相変わらず子供――」

「そうじゃなくて」


 私の後ろから伸ばされた長い手。

 そこには小さな紙袋があった。

 そして――


「今年は誕生日中に渡せた」


 それを言われた時の姫ちゃんのお顔。

 それは今日、一番嬉しそうな笑顔で。

 今日の夕陽みたいに真っ赤なお顔だった。


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