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第8話① スキ(男の子)


 ――好きな子が隣で寝ていた。


 それも俺が普段使っているベッドで。

 俺の隣で。無防備にも寝息を立てて。


「……マジでどういう状況?」


 思わず声に出して呟いた。

 それぐらいにはパニックだ。

 ベッドの奥側。

 そこに長い金色の髪をした女の子が寝ている。

 それも普段、学校では絶対に見せることのない寝顔。

 それを恥ずかしげもなく、俺に晒している。

 ……やばい、軽く変な気持ちになってくる。


「…………」


 俺は無言のまま手を伸ばした。

 でも別に変なことをするつもりはない。

 こんなことで嫌われたくないし。

 だから俺が手を伸ばした理由は――


「……柔らかい」


 人差し指で突いてみた。

 思った以上の柔らかさ。

 ならこっち側はどうだろう。


「……やっぱり手触りいいな」


 左手全体で感触を確かめてみた。

 やはり想像以上の気持ちよさだ。

 なら次は――


「……何してるの?」

「ふぇ⁉」


 同じ布団で眠るフユと目が合った。

 それもすごく恥ずかしそうな顔の。

 まあそれもそのはずだろう。

 さっきから俺は――


「わ、悪い。その本当に興味本位だったんだ‼」


 フユの頬を突いたり、フユの綺麗な髪を触ったりしていた。

 それを本人に見られて、今は若干慌てている感じだ。


「頼むからその……誤解だけはしないでくれ‼」


 これが桐咲なら、即刻目潰しで地獄行き。

 というか、同じ布団で寝ている時点で緋色に殺されかねない。

 でも相手はフユだ。そんな恐ろしいことには――


「許して欲しかったらその……私も触ってもいい?」

「はい?」


 フユの予想外の申し出。

 それに俺の頭は空っぽになった。


「べ、別に構わないけど。そんなに面白い――」


 俺の了承を得た直後。

 フユが俺の手を握ってくる。

 それも布団の中にある両手を。

 それぞれ自分の手でガシッと。

 俺は予想だにしない形で、好きな女の子と手を繋いだ。


「このままお喋りしない?」

「お、俺は別に構わないけど」


 布団が熱すぎるのか。

 先ほどから汗が止まらない。

 手汗とか大丈夫だろうか?

 いや、それ以前に俺の鼓動。

 ダイレクトに伝わってないか?

 思った以上に布団の中での距離が近い。


「ハルくんはその……」

「…………」


 顔を赤く染めたフユ。

 手を繋いでいることが恥ずかしいのか。

 それと単にフユも熱いだけなのか。

 俺はフユの言葉の続きを待つ。

 そしてようやく彼女は言った。

 俺の心をザワつかせる言葉を。



「――好きな子っている?」



 その質問に俺は心の中で叫ぶ。

『お前が好き』だと。

 まあ口で言えないのだから仕方がない。

 だから俺の解答は一つしかなかった。


「……い、いない」


 布団の中に顔を潜らせ、大嘘を吐いた。

 たぶん、俺の顔は真っ赤だったはずだ。

 本当、俺はいつだってチキン野郎ですよ。

 折角聞かれたんだから、ちゃんと言えばいいのに。

 俺が自分の解答に後ろめたさを抱いていると――



「私はいるよ。好きで好きでたまらない男の子」



 それを聞いた時、胸に強い衝撃を感じた。

 まるで心臓をハンマーで叩き殴られたみたいな。

 それぐらい強い衝撃を。


「そ、そりゃあそうだよな。秋月だってもう小四だし。俺の方が遅れてるのかな」


 俺は必至で何かを取り繕うとする。

 だけど俺は知っていた。

 自分がそんなに器用じゃないことを。

 俺のフユの手を握る力が少しだけ強くなる。

 それに応じるようにフユの手も力強く、俺の手を握り返してきた。


「……悪い、嘘吐いた。俺にもいるよ、好きなやつ」


 俺は本音を語る。

 明確な部分を避けて。


「初めて会った時から好きで、今も好き。一緒にいるとドキドキするし、誰よりも隣にいたい。緋色と桐咲を見て来たからわかるけど、俺にとってはそいつが唯一無二なんだ」


 俺は真っ直ぐにフユの目を見て告げた。

 誰かは言えないのは俺らしく。

 そこから告白に進めないのも俺らしい。

 だけど確かに伝えたい相手には言えた。


「フユはそいつのどんなところが好きなんだ?」

「格好いいところ。可愛いところ。楽しそうなところ。優しいところ。頑張り屋さんなところ。明確な夢を持ってるところ。それで私をいつも助けてくれるところ――」


 俺がフユの思い描く相手に嫉妬を覚えていると、不意にフユの顔が俺に近づいて来た。

 昨日の朝の空き教室なんて目じゃない。

 それ以上に近い場所。

 気づいた時、唇にそっと柔らかい感触がした。

 それも熱くて。熱くて。唇から何かが充填されていく感覚。


 俺――夏陽ハルと秋月フユはキスをした。


 それも俺のベッドの中で隠れるように。

 それが俺にとって初めてのキスだった。


「私はハルくんのことが好きだよ」


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