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第7話② 掃除(女の子)

「――皆、ちょっと休憩にしなよ」


 私たちがハルくんのお部屋をお掃除してると、若い女の人が部屋に入ってきた。

 その人はオレンジジュースの入ったコップをテーブルに置いて。


「悪いね、ウチのバカが掃除できなくて」


 私たちと一緒にテーブルを囲み始めた。


「お久しぶりです、叔母様」

「おっ。相変わらず、姫ちゃんは礼儀正しいね」

「いえいえ。夏陽君にはいつも本当に‼ 色々とお世話になってますから」

「お前今、完全に俺のこと睨んだよな‼」

「睨んでないわよ。それよりも手が止まってる」

「ひぃっ‼」


 姫ちゃんに監視されながら、勉強机の引き出しをお掃除するハルくん。

 ハルくんだけが何故かお掃除を続けてて。

 テーブルにいるのは、私と姫ちゃんと柊くんの三人。

 それと――


「あ、あのう‼ ハルくんのお母さんですよね。私――」

「うん。緋色君から聞いてるよ。四月に転校してきた、秋月フユちゃんでしょ?」


 私が挨拶しようとしたら、お母さんが笑って答えてくれた。

 すごい、やっぱりハルくんのお母さんなんだ。

 笑った顔がハルくんにすごくそっくり。


「二回もウチのバカと隣の席になるなんて大変だね」

「そ、そんなことは。その……ハルくんはいつも私に優しく――」

「まあそれだけが、あのバカの取柄だからね。これからも仲良くしてやってね」

「は、はい‼」


 不思議なお母さん。

 髪色はハルくんと違って茶色。

 長さもハルくんと違って長くて、一本結びのポニーテール。

 それなのにやっぱりどこか似てて。

 すごく優しいお母さんだってわかる。

 ……ウチのママとも少し似てるけど。


「さてと、アタシはお昼の用意でもするかな」

「手伝います、叔母様」

「なら私も~」

「フユちゃんは――」


 私が弱々しく手を上げると、それを遮る姫ちゃんの声。

 もしかして私、お料理とか苦手だから来ないで欲しいとか――


「そこのバカを監視してて。緋色だと監視にならないと思うから」

「酷い言われようなんだけど」

「ププッ‼ 珍しく緋色が桐咲に罵倒されて――」

「アンタに緋色君を笑う資格はない‼」

「痛てぇな‼ 友達の前で叩くことないだろ‼」

「悪いことをしたらすぐ説教。それがウチのモットーだよ。忘れたのかい?」

「…………」

「そもそもアンタの所為で、劇の練習とやらが遅れてるんじゃないのかい?」

「それは……」


 ハルくんとお母さんが睨み合う。

 それを見て、姫ちゃんと柊くんは静かにオレンジジュースを傾ける。

 え~⁉ この状況に内心オロオロしてるのって私だけ⁉

 だってすごく険悪なムードなんだよ‼

 ハルくんだって、いつもより子供っぽいし。


「母ちゃんは黙ってろよな、このクソババア‼」

「ぬぁんですって‼」


   ***


「相変わらずすごいわね、叔母様」

「ハル、ちゃんと生きてるかい?」

「ダメね、既に虫の息だわ」


 怒って部屋を出て行った、ハルくんのお母さん。

 ほっぺを思いっきり叩かれて、気絶しているハルくん。

 初めてのことが多すぎて、頭の整理が追い付かないよ~。


「……二人は慣れてるんだね?」

「ハルとは長い付き合いだから」

「三人で集まる時は夏陽の家よね」

「僕らの家だと手狭だからね」


 コップをお盆に乗せる姫ちゃん。

 ハルくんの漫画を読む柊くん。

 二人とも、ハルくんの心配はしてないみたいで。


「心配することないよ。すぐに目を覚ますと思うから」

「そうなの? でもハルくん、目が白目で――」


 私はそっとハルくんの顔を覗き込む。

 息はしてるけど、相変わらず無反応。

 両手を広げて大の字で倒れたまま。

 やっぱり起きる気配は無さ――


「あのクソババア‼」


 ハルくんが急に起き上がる。

 あと、少し離れるのが遅かったら……。

 私は思わず、自分の唇を右手で触る。

 きっと、ハルくんは気づいてないけど。

 私の心臓はドキドキだよ~。

 だって、もう少し避けるのが遅かったら。

 その……き、キス……してたかもだし。


「久しぶりに見たね、ハルのマジギレ」

「どうせまた、叔母様に突っ込んで返り打ちでしょ」


 平然とやり取りをする二人。

 ハルくんは二人を気にすることなく、自分の部屋を飛び出していく。

 しばらくして、廊下から聞こえる階段を下りる足音。

 そのすぐ後に『バシンッ‼』っていう音が響き渡る。


「やられたね」

「やられたわね」


 柊くんが漫画を閉じて。

 姫ちゃんも立ち上がる。


「午前中の掃除はここまでかな?」

「そうね。たぶん、本人が復帰不可能だし」

「え? え? え~⁉」

「ほら。フユちゃんも行きましょう。残りはバカにやらせればいいし」


 二人に言われるがまま、部屋を出た私。

 私が二人の後に続いて階段を下り切ると――


「ハルくん⁉」


 またハルくんが気絶してた。

 それも今度はうつ伏せで。


「二回でギブアップとはね」

「最近の作業で疲れてたのね」


 ハルくんの姿にオロオロして駆け寄ろうとする私。

 それとは対照的に二人は何かを観察して。


「秋月さん、ハルはそのまま放置しておこう」

「でも‼」

「いいから。昔から言って寝るようなやつじゃないし」

「無理に寝かせるなら、叔母様の鉄拳制裁が効果的よね」


 そういえばハルくん、ここ最近あんまり寝てなかったような。

 劇の台本や演技の練習とかで。

 昨日だって私たちを急に家に呼ぶし。

 部屋のあの散らかり方、まともに休んでなかったのかも。

 ハルくん、人の見えないところで頑張る人だから。


「ハルくんのお母さんはすごいな~」


 私はそっとハルくんに駆け寄り、その前髪を優しく撫でる。

 私なんてあんなことまでして、ようやくハルくんを止められたのに。

 お母さんは拳だけで、ハルくんを休ませてあげられるんだから。

 ……少しだけ強引だけど。


「……ぅ~」


 床に寝転がるハルくんが寝返りを打つ。

 寝返りを打ったハルくんは私の方へ体を向けた。

 そして何故か、私がよく知っている人の名前を呟く。


「……フ……ユ……」


 え~⁉

 今、確かにハルくん、私のお名前を呼んだよね?

 寝言だったけど、確かに私のお名前を⁉

 そ、それって……


「フユちゃんがいきなり気絶したわ‼」

「秋月さん、大丈夫?」

「起きな、ハル‼ フユちゃんをアンタの部屋まで運ぶんだよ‼」


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