第7話① 掃除(男の子)
「――それはおばさんが正しいでしょ」
三人の中で誰よりも早く来た緋色。
緋色は俺の部屋で漫画を読んでいた。
ちなみに俺は台本の手直し中。
「いや、俺と緋色だぞ。問題が起きるわけ――」
「僕、姫と一緒に寝たら絶対に触りたくなるよ」
「……お前はまた、サラッとすごいことを――」
「ハルはどうなのさ? 秋月さんに触りたい?」
「愚問だな」
最初は格好良く決めた俺。
だけどすぐに両膝を床に突く。
「……たぶん、緊張して一睡もできません」
「まあハルはそうだろうね」
「今、心の中で笑ったな‼」
「笑うでしょ。そりゃあ普通」
こいつ、人の家でもお構いなしか。
俺、なんでこいつと親友やってるんだろう?
「それよりもハル。この漫画の続きは?」
「本棚にあるだろ?」
「だからどの本棚?」
「見ればわか――」
俺は机に向かい台本を直していた。
だけど緋色に言われ、部屋の中を確認する。
俺の部屋には本棚が全部で三つ。
どれも踏み台を使わないと、上まで届かない高さ。
それぞれ入っているのは、漫画、小説、インタビュー雑誌。
だからわかりやすいと思った。
「ハルでもわからないよね?」
「……お、おう」
よく見たら、本棚の中身はグチャグチャ。
床にもお菓子や脱ぎっぱなしの靴下。
「これでよく人を招こうと思ったものだよね?」
「そうだった‼ 今日は緋色だけじゃなかった‼」
俺は鉛筆を投げ出して頭を抱える。
緋色だけなら、多少散らかってても問題ない。
だけど今日はフユが来る。それも初めて我が家に。
桐咲? 桐咲はたぶん、滅茶苦茶キレる。
あいつ、家事が万能だけに掃除の鬼だし。
俺を箒で叩いた後、掃除を開始するはずだ。
「僕としては姫のマイエプロン姿が見れるからいいけど。ハルは――」
「掃除だ‼ 今すぐ掃除をするぞ‼ すぐに桐咲一等兵を招集せよ‼」
「いや、無理でしょ。今日は秋月さん、迎えに行ってるし」
「なら緋色だ。お前が手伝ってくれれば――」
「おばさん‼ 緋色がこの前、おばさんの化粧品でイタズラ――」
「よし、話し合おうじゃないか‼」
***
とりあえず緋色は時間稼ぎで一階に配置した。
問題は時間までに片付くかどうか。
「……片付くのか?」
床に散らかったゴミ、衣服、ホコリ。
掃除機を最後に掛けたのいつだっけ?
ヤバい、覚えてる限り一ヶ月は掃除してないぞ。
しかもここ最近、脚本のことで頭が一杯で色々とアレだったし。
変なところに変なものとかあっても、おかしくないよな。
例えば、ベッドの下にパンツが落ちてても。
「…………」
ひょっこりと確認してみる。
だけど下着は無さそうだ。
というかむしろ、ベッドの下の方が綺麗まである。
なんでだ? なんで見えるところの方が明らかに汚い。
こんな部屋恥ずかしい&怖くて、フユと桐咲には見せられないぞ。
「とりあえずゴミをゴミ袋に詰めて、掃除機を掛ければ問題ない‼」
俺は落ちているゴミを全てゴミ袋へ入れた。
衣服に関してはまとめて洗濯機へ。
……間違いなく、後で母ちゃんに怒られるが。
続いて掃除機を掛けて。ここまでで一時間。
緋色曰く、二人はお昼と夕飯の買い出しをしてから来るらしい。
あとは本棚だけなんだが……
「よくもまあ……こんなに詰め込んだものだな」
いや、悪いのは俺じゃない。
だって親父のとかもあるし。
俺が持ってる古い漫画は親父のものだ。
それに部屋が狭すぎるのだって問題だ。
ベッドと本棚と机とテーブル。
それを置いたら完全にギチギチ。
普通に過ごしていても汚部屋に見える。
さて、一体どうしたもの――
「ハル‼ 姫たち、今スーパーを出たところだってさ‼」
一階から聞こえた緋色の声。
電話でも掛かってきたらしい。
そういえば、姫も緋色もスマホ持ちだったな。
いつも学校には持ってきてないけど。
さてどうする? ウチの近所のスーパーからなら一五分程度。
その間に本棚の整理……なんてできるのか?
「いや、絶対に無理だろ」
声に出して事実を確認した。
それでふと、あることに思い当たる。
「あ~。だから俺、昔もこの前も失敗したんだな」
零れた言葉。その時、頭の中にあったのは、二つの光景。
低学年時代の学級委員だった頃の記憶。
そして昨日までの世話しない時の記憶。
その二つだ。そして今までの俺なら間違いなく、今日も失敗してた。
***
十数分後。
「ちょっと夏陽‼ アンタ、本当に掃除したの‼」
不満そうな桐咲の声。
「しょうがないよ、ハルだから」
さっきまで手伝わなかった緋色の声。
「ハルくん‼ こっちの本はどうする?」
掃除なんて誰もが嫌がる作業。
それを何故か、楽しそうに行うフユの声。
その三つが俺の部屋から聞こえていた。
「別にお前、桐咲と違って掃除好きではないよな」
「うん、お掃除は大変でちょっと苦手だけど。でも……」
「でも?」
「ハルくんが初めて頼ってくれたこと。それ自体がすごく嬉しいの」
そう言ってフユは笑っていた。
その笑顔に思わず俺は目を逸らす。
心の中で、『反則』だと思いつつ。
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