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第6話② 夕暮れ(女の子)

「――フユ‼」


 校舎の中から声が聞こえる。

 大好きな男の子の声が。

 大声で私を呼んでいる声が。

 それを聞くだけでわかる。

 私の大好きな――


「ハルくんが戻ってきた」


   ***

 しばらくして、校舎から聞こえてた声が消えた。

 でも確かに聞こえてるよ、ハルくんが階段を昇る音。

 今はそれだけがすごく嬉しい。

 いっぱい、探してくれたんだよね。

 いっぱい、心配してくれたんだよね。

 ごめんね、こんなことして。

 でもハルくんがいつものハルくんに戻るなら。


「……私、なんでもするって決めたから」


 私はずっと屋上にいた。

 姫ちゃんと柊くんに提案した後からずっと。


   ***


「つまり狂言逃亡?」


 時間は少し遡った空き教室。

 ハルくんが戻る少し前かな。

 私は姫ちゃんと柊くんに相談してた。


「いつものハルくんなら、心配してくれるはずだよね」

「でも今の夏陽が動くかしら?」

「僕も今のハルには期待しない方が――」

「私も期待してないよ。ただ信じてるだけ」

「……信じる?」


 私の言葉に柊くんが。

 それに吊られて姫ちゃんが首を捻る。


「言っておくけど、信頼を裏切ることでハルの右に出る人はいないよ」

「そうね。あいつ、昔からそうやって緋色を困らせてるもの」

「私もね。劇のことで頼られなかったのは少しショックなの」


 本当はもっといっぱい頼って欲しかった。

 劇の練習だけじゃなくて、他のこともたくさん。

 ハルくんの大変なこといっぱい私にも。

 それでハルくんもいつか、私の大変を背負ってくれたら。

 それはきっと、すごく素敵なことだと思うから。

 でも――


「ハルくんは人を頼るのが下手だから」


   ***

 私がそのことを思い出してると、ようやくその思い扉が開いた。

 するとそこから息を切らした男の子が――


「や、やっと見つけたぞ。目立つくせに探させやがって」


 両膝に手をついて、息を整えるハルくん。

 お顔中汗だら……血だらけ⁉


「何があったの‼ ハルくん‼」

「それはこっちのセリフだ‼」


 私が慌ててハルくんに掛け寄ろうとした時、ハルくんが私よりも大きな声で叫んだ。

 たぶん、今まで一緒に過ごしてきた中で一番大きな声で。


「王子役が嫌なら言え……いや、俺が聞かなかっただけか」


 小さく首を振るハルくん。

 そのお顔はもの凄く疲れた表情で。

 おでこから血が流れて、鼻からも血が出てて。

 唇も切ったみたいで、色々なところから血が出てた。


「……悪かったよ。正直、色々なことが見えてなかった」


 太陽が沈みかけた学校の屋上。

 そのフェンスの前に立つ私。

 ハルくんは静かに私の隣に立つ。


「俺さ。バカのクセに責任感は人一番で。背負うとそれしか見えなくなるんだ」

「……うん、見てたからわかるよ」

「低学年の頃もさ。流れで学級委員長に選ばれて勝手に自滅。本当、格好悪いよな」


 ハルくんは久しぶりに笑っていた。

 監督とか責任とかそういうのとは無縁。

 ただのいつものキラキラとしたお顔で。


「今回もその二の舞になるところだった」


 ハルくんはきっと、私の嘘に気づいてない。

 たぶん嘘に気づいてたら、こんなこと言ってくれない。


「お前のおかげで命拾いした。それと……話、聞かなくてごめん!」


 頭を下げるハルくんのお顔から汗と血が流れ落ちる。

 それはポタリと、屋上を汚した。

 だけどそれは私には勲章に見えて。


「わかってるよ。ハルくんはすごく優しい人だから」

「……俺は優しくなんかねぇよ。それを言うなら――」


 私はハンカチをハルくんの額に当てる。

 白いハンカチが赤く染まってく。

 今日の夕陽みたいに真っ赤な色に。


「バッ……そんなことしたらハンカチが――」

「気にしないよ。ハルくんでもこうするでしょ?」

「…………」


 ハ¥ルくんが気まずそうに視線を逸らした。

 それから一言。


「俺はそんないいやつじゃねぇよ、バカ」


 その時のお顔は、真っ赤に照れたように見えた。

 でもそれはきっと、夕陽と顔についた血の所為。

 私はそう思うことにした。



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