元殺し屋の依頼
朝日の光が眩しい、少し空いたカーテンから窓際のベットに日差しが入ってくる。あまり朝は好きではない方だ。若い頃は寝起きが良い方で親よりも早く起き朝食の準備もしていたぐらいだ。だが、その必要は無くなった。中学卒業と同時に母親が交通事故で亡くなり、高校入学直後に父親が職を失い夜逃げをした。それでも、同級生にからかわれ、パワハラ気味のバイト先で働く日々を誰にも言わず我慢して何とか大学に入るまでの努力はした。しかし、高校時代に父親の夜逃げの影響で少しぐれていた俺は暴走族に所属していたダチとつるんでいた。そこの親組織である所から目をつけられてしまった。そこは表向きでは大企業の皮をかぶった犯罪組織であった。俺はそこで“殺し屋”の役割を任された。殺し屋を任された理由としてはこの辺では珍しかった射撃部で俺はエースだった。それが巡り巡って組織の人間の耳に入ってしまったのだ。正直裏側とはあまり関わりたくなかったが大学の奨学金を免除するという契約で俺は犯罪の道へ一歩進んだ。
それから人生は180度変わった。上から依頼された事を何も感じずなんとなくこなしていた。人を殺している感覚など無いに等しくただただ、無感情だったと振り返る。俺は一度も仕事を失敗したことがなく射撃も外したことが無かったため随分気に入られ、遂には幹部までに上り詰めた。代わりに“仕事”は毎回深夜だったため、朝が苦手になってしまった。おかげで目の下には隈ができ、朝一番の講義は休み休みになった。周りの人達には心配されたが別に自分は気にしていなかった。何が気に入ったのか、会社の社長いや組織の№1である、ブルー直々の依頼も来るようになった。ブルーは外国人のハーフらしく目が奇麗な金色の目をしている。本人はその目を気に入っていないようであまり人前で顔を見せないらしい。とある日大学へ行く途中ブルーにぶつかってしまいそれからよくでかいビルの社長室に呼ばれたり時には俺の家にも来たりする仲になった。
大学を2年留年してやっとのことで卒業して就職が決まったことを理由にこの組織をやめた、いつかはやめようと思っていたことだ、早めに辞められて良かったとあの頃は思っていた。
そんな事を遠い昔のように思い出しながらベットから出る。そして、パソコン前の椅子に座る。今はWEBプログラマーを生業にしている。オフィスに行ってわざわざ仕事するのも酷だから、家でやっている。
「おい、朝食食べないのか?」と扉を開けてきて入ってきたのはカズ、シェアハウスの同居人だ。捜査一課の刑事である。人相は悪いが意外にマメだ。
「さんきゅ、いただくね。」そう言って椅子から立ち上がり自分の部屋の扉の先へ行く、いい匂いだ恐らくバターだろう。今日はトースターだなと思いながら駆け足で共同ダイニングへ向かう。シェアハウスに住むことを決めたのはいたって単純、安かったからだ。都内でこんなにいい家賃はなかなか見当たらない優良物件だった。だが、一つ問題があるとするならば同居人のカズが刑事という所だ。
俺は元々殺し屋をやっていたから刑事と殺し屋が同じ屋根の下で暮らしている恐ろしい状態だということだ。
「今日非番なんだな。」そうトースターをかじりながら言う。
「ああ、だからゆっくりできそうだ。」ゆっくりできそうと言っているが実際はそうでもない、もしどこかで事件が起きたらどんな状況でも出勤しなければならないからだ。ブラック企業とはまさにこのことを指す。と思いながらもう一口トースターをかじった。
「それで話は変わるのだが、」何やら真剣な眼差しで見つめてくる。あ、これは、と思いながら「なんだ?」と聞く。
「これの捜査をしてほしい。」と言って面白みのない無地のファイルから書類を取り出し机の上に置く。
「ふーん、なるほどな、分かった。」俺は書類を少し眺め答える。本当は一般人が捜査の協力をしてはいけないがそれを指摘しても大丈夫と返されもう諦めた。いや警察としてどうなのかと若干思う。俺は副業としてこいつの捜査の協力をしている。報酬は公務員の年収からなのでかなり貰える。
「ん、じゃ早速調べてくるな。」と言って食べ終わった皿とコップを残し自分の部屋へと向かった。
情報収集は自分の得意分野だった。元々裏社会位に居たもんだから、情報が嫌でも入ってくる。内容は強盗事件に暴力団がかかわっていたみたいだがそこの足取りがつかめないと、いう事らしい。
まずはツイッいやXで情報収集だ。だいたいこういうのは不特定多数の人間が動画を上げる。だから関連しそうな動画を片っ端から見続けた。調べている間にとある削除された動画が目に付いた。推測するに強盗事件直後の投稿だ。もしかしたら一部始終が写っているかもしれない、そして、何故消されているのか、それが気になってしまいいても立っては居られなかった。
自分が特定されないために裏で使っているアドレスに切り替え、特殊な方法で半ば無理矢理に動画を復元した。目に映った映像は正しく犯行の一部始終だった。あとは簡単だ。動画に出てくる顔を特定するだけだ。一旦目を画面から離し背伸びをした。
「よしっ」と言ってまた顔を画面に向けた。
「あいよ、これ」そう言って夕食で情報収集の成果を見せた。カズは書類の顔写真を穴が開くぐらい睨んでいる。こういう時の顔は怖いのだ。
「恐らくこいつらが実行犯だと思っている。」
「なるほどな、じゃあお前は計画犯がいると……」とさっきより低い声で話し始めた。
「まあ、そんなところだな。実際こいつら暴力団だし、こういうのはもっとやべぇ奴らが裏で糸を引いている。」社会の裏を見てきた俺だから言える言葉であろう。
「……そうか……」なんだか歯切れの悪い返事だった。しばらく気まずい時間が流れる俺はそんな時間が大っ嫌いだ。
「ハーア、せっかくの休日が丸っきり潰れたんだから、新発売のハンバーガー奢れよな。」沈黙した空気を打ち破るように俺は提案した。もちろん報酬金も。
「はぁ!それはないだろ」と怒鳴る。
そして二人で睨みっこして笑ったなんだか馬鹿らしく思ったからだ。
「とりあえず、ありがとな。」と笑った。
「ああ、またいつでも頼めよ。」と言って部屋へ戻った。
「ふう……」と隣の部屋まで聞こえるような溜息を洩らしベットへ倒れ込む。
半日ぶりのベットはなんとも気持ちがよかった。体重に押されマットレスが沈む。
疲れと共に瞼を閉じた。
次の日――目覚めると朝8時結構な時間だった。ダイニングへ向かうとラップがかかっている朝食があった、作ってやらなくてもいいのにと思いながら食べないのも勿体ないのでレンジで温めまた冷めて不味くならないうちにかぶせていたラップを取り食べる。作ってくれたのは卵焼きとウインナーあと焼き魚だった。一般家庭でよく作られる献立だなと思いつつさっさと食べ終える。洗い物を簡的に済ませ自分の部屋へ向かう。昨日情報収集のため出来なかった本業の仕事があるためだ。納期が近いので早めにやっておきたい。
しばらく画面に集中していると右下の時計が12時を過ぎていた。昼ご飯何にしようかなと思いながらダイニングへ向かう。めんどくさい時は簡単に麵類で済ませるが、今日はなんとなくいいものが食べたくなった。
奥にあった賞味期限ぎりぎりの小麦後を取り出しささっとピザ生地を作る。買いに行くのがめんどくさいので冷蔵庫のあまりものをトッピングとして使っていく、あとはレンジ兼オーブンの中に入れ焼きあがるまで少し待つ。
「よし!」我ながら上手にできた。6等分に切って1つ取るとチーズが良く伸びている。
「んー美味しい!」味をかみしめながら1つ1つ食べる。全部は食べきれないので、カズに朝食のお礼としてあげるかと思った。そうしてあまりはラップに包みメモの書留を横に置いといた。
午後の仕事に入ろうとしたらある一件のメールが来ていた。それも届いているところは仕事用のメルアドでなくプライベート用のメルアドでもなく裏で使う用のメルアドへ来ていた。
恐る恐る開いてみると目を疑った。依頼メールだったのだ。
送信者 https://14182518@****.com
件名 仕事の依頼について
内容 はじめまして、突然のメール失礼いたします。
今回とある依頼をお願いしたいと思いメールをいたしました。
要件はじかに会って話したいため、明日3時以下の場所でお会いできたらと思っています。
場所 ○○区総合病院 旧療養所前の駐車場
東京都○○区○丁目○○-○
内容は少なく必要最低限の事しか書かれていなかった。誰からかも分からずメルアドを調べてみたが、ただの捨てアドだった。
「明日かー」早く今ある仕事を終わらせなければならないなと思った。そういえば最近外に出ていないことに気が付いた。今度買い物ついでにツーリングに行くかと思った。
だが、そんなのんきなこと考えている場合ではない、仕事の依頼――すなわち俺が“殺し屋”だったことを知っているということだ。俺は少し焦りを感じていた。もしメールを送った者が警察だったら、そう考えると行くべきかどうか迷ってしまった。まあいいや、明日もカズは出勤だ。どうってことはないだろうと考えを放棄した。
8時を回った頃だろうか今日の仕事のノルマが終わった。そのままベットに直行する。もう夕食を食べる気にもならなかった。今日あったことをわざわざ思い出す気力すら残っていなかった。ばたりとうつ伏せ状態で倒れそのまま夢の中へ眠ってしまった。
ベットから起き時計を見ると朝の5時頃だった。久しぶりにこんな早く起きたなと思いつつ二度寝する睡魔はないようなのでそのままダイニングへ行き朝食の準備をする。だいぶ買い溜めていた食材が少なくなっていた。昨日、そのまま眠りについてしまったため、米を炊き忘れていた、なので今日はトースターにする。意外と長持ちする蜂蜜とバターでハチミツトーストを作った。これだけでは寂しいので野菜を切ってドレッシングをかけるだけの簡易的なサラダもあわせといた。
「おはよう、早いな。」カズが起きてきたみたいだ。欠伸をしながら入ってくる。
「よ、おはよ。昨日早く寝ちゃってな。朝食出来てるから食べようぜ。」そう言って向かい合わせの椅子にそれぞれ座る。
「「いただきます。」」と一緒に手を合わせて言った。
「にしても、お前よく早く起きないで親に怒られていただろう。」俺の寝起きが悪いことについて言ってくる。
「いや、真逆。昔は親より早く起きていたから褒められていたぜ。」と自慢げに言った。
「想像できねぇ」とかなり驚いた様子で言った。
「失礼だな。朝食だって毎日作ってたぞ。」
「じゃあ、そんな有様になったのは何か原因があるのか?」と疑問げに言ってきた。痛い所付くなと思いながら答えた。
「まあ……親が居なくなったからかな……」その声は少し小さかったと自分で思った。
「は……どうして……」そういや言ってなかったなと思いながら説明する。
「母親は交通事故で、父親は夜逃げしたんだ。」それを何の躊躇も無く言う。
「そうだったのか……なんか悪いな……」
「いやいいよ言っていなかった俺も悪いから。」と飯が不味くなるから無理やりでも笑顔を作った。
「そういや、前調べてくれたやつ、ビンゴだった。ありがとな。」強盗事件の話だ。詳しく聞くと、俺の特定した人物の顔と現場の周りの防犯カメラの人物が一致したらしい。
「それは良かった。」
「それで、言い忘れていたが今日午後に出かけてくる。」
「了解」そう言ってスマホをいじり始めた。着信が来たらしい。
「悪い、収集が入った行ってくるな。」そう言って立ち上がり出る準備をし始めた。
「あいよ。」そう言って二人が食べ終えた食器の片付けに移る。
「じゃ。」そういって部屋から出て言った。
「いってらっしゃい。」そう言った直後部屋は静かになった。
午前中仕事を終え、カップラーメンを昼食にして指定された場所へ向かった。
住んでいるシェアハウスの裏の空き地に止めてあるバイクを動かす。このバイクは高校から使っていた物だ。少しうるさい排気音を出しながら街路樹を抜けていく。途中で今やいくらでも存在するコンビニに行き肉まんを買いつつ、場所をスマホで調べた。場所は同じ23区内だが病院は流石に行きはしない。時間に遅れないようにと事前に道を確認しておく。
指定された場所へ着いた。現在病院として使われているの建物とは違い、建物はコンクリートにひびが入っており、ツタがあちらこちらに蝕んでいる。一目見ただけで管理されていない様子が見られる。誰からも忘れ去られた廃墟のようだ。
その駐車場であっただろう場所にとある一人の男が立っていた。スラッとした体形、白衣を着ておりここで働いている医者だと思われる。
「お前か、俺を呼んだのは。」
「……ああ、そうだ。俺の名は、ヒデ。」どう見ても警察では無いようだ。俺は少し安堵する。
「なぜ俺に?」俺は依頼された身であるため名前を伏せておく。
「とある動画が何者かによって復元されていた。調べたら復元したのがお前だった。」なるほど、その動画は誰かを引っ掛ける為の罠だったということだ。それに俺はまんまと引っかかってしまったというわけか。
「それで、要件は。」
「単刀直入に言おう。お前を呼んだのは……とある男を殺してほしい。」
「!!――なぜ?」俺はもう殺し屋をやめた身だ。予想はしていたが、やはりその依頼をされると疑問に思ってしまう。
「俺はその男に恨みを持っている。」
「その男っていうのは?」
「今やこの国を代表する大企業のトップ ブルーだ。」
「!」
「お前なら分かるだろう。ブルーの正体を」まるで見透かしているような言い方だった。
「期日は今度行われるブルー主催のパーティーでだ。」
「……ああ、分かった……だが、1つだけお願いしたことがある。」
「なんだ。」
「俺はブルーに良くも悪くも人生を変えてもらった。それだけは知っておいてほしい。」
「なるほどな、恩人でもあり仇敵でもあると……俺も同じだ。」
「俺も元々は組織の人間だった。だが裏切った。」組織の裏切り者、組織に居た頃一度だけその噂は聞いたことがあった。とても頭がよく、組織の参謀とも言われていたらしい。恐らくその関係で俺の立場を知っているのだろう。
「そうか、分かった。依頼は受ける。成功したら金はここに振り込んどいてくれ。」
「ああ、分かった。」
そういって何もなかったかのように二人は戻った。
帰りに家の近くのスーパーへ立ち寄った。買い溜めをよくするため、エコバッグ代わりのビニール袋はずっしりと重量があり、取っ手がちぎれそうになっている。ビニール袋をバイクの後ろの荷物入れに入れ買ったものが悪くならないうちに急いでバイクを走らせる。
「ただいまー」そう言ってもまだカズは帰ってきていないので誰も返事はしない。
買ってきた物を急いで冷蔵庫へ入れるべくダイニングへ向かう。本当はここのシェアハウスは最大4人入居できるらしく、今入居しているのは2人、立地はいいので入った時は人気がないのに驚いた。今考えてみるとよく分かる。同居人が刑事だったらそりゃあある意味怖い、と言う事に気づいたからだ。まあ、俺も犯罪者なんでどっちもどっちだけど、そんなことを思っている間に買ってきた物をしまい終えた。まだカズが帰ってくるのに時間が掛かるので部屋に戻り、仕事の仕上げを行おうと思った。
「ただいま、」カズが帰ってきた。
「おう、今日は早いな」俺は丁度夕飯を作っていたのでダイニングに居た。
「今日は何だ?」
「ムニエルにしようかなって。丁度魚が安売りだったんだ。」
「そうか、うまそう。」
「もうすぐできるから、待ってろ。」
そう言って、できた料理を机に並べる。
「「いただきます。」」そう言って少し食べ進め、カズが口を開いた。
「頼みたいことがあるんだが……」
「ん?なんだ?」
「ブルーについて調べてくれ。」
「!!は?」いきなりのことでビックリした。
「?知らないのかあの大企業の社長だぞ」
「いやいや、知ってるけれど。なんで調べなきゃいけないんだ?」
「……ああ、それはな……」
「――事件に疑い?」
「そうだ、最近の麻薬事件でブルーが関与したという話が出たみたいだ。」あいつは犯罪については細心の注意を払っているはずだ。だが、なぜ怪しまれる?
「なるほど、でもそんな情報ニュースで出ていないけど。」
「そこなんだ。」
「?」
「その情報は、匿名で警察に送られてきた。だがその情報は本当かどうかも分からない。だから、調べてほしいんだ。」匿名――その人物に心当たりがある。ヒデだ。あいつはブルーに相当な恨みを持っているように感じる。復讐をしたいんだろう。
「わかった。でも、相手は大企業の社長だ。どこに権力があるかわからねぇ……」と苦言を洩らす。
「それは、分かっている。一般人のできる範囲でいい。」
「了解。期日は?」
「来週行われるブルー主催のパーティーまでだ。」
「!!」これは恐らくヒデが言っていたものと同じだ。まさか日程が来週だったとは。
「何でその日なんだ?」俺は純粋に疑問を感じた。
カズは少し黙ってしまった。そして、とある物を机の上に置いた。見たところ封筒のようだ。だがとても派手な赤色が使われている。
「俺宛のパーティーの招待状だ。」そう言った。
「まさか、呼ばれたのか。お前が!」
「ああ、なぜかは分からねぇがな。」刑事であるカズがまさか招待されるとは、一体ブルーは何を考えているのか――
「お前って有名だったんだな。」ずっと驚いた眼でカズを見る。
「さあな、」面倒くさそうに言う。
「その日、ブルーに会う確率が高い、だからブルーに追及する。それまで調べてほしいんだ。」
「わかった。出来る限りやってみせるよ。」
「ありがとう。」
いつの間にか二人とも食べ終わっていた。片付ける準備を始める。
「……一般人か……」そう俺は呟いた。
今日は夢を見た。少し前の思い出だ。
「辞めるのか。」と椅子に座ったブルーが言う。恐らく俺が組織を辞めると言ったのだろう。
「ああ、そろそろ悪い事から足を洗わねぇと、それに就活だからな。」
「なら、俺のところに入るか。」
「いいよ、俺の行きたいところは俺が決める。」
「いいのか、大企業の社長直々に誘われることなんて今後一切ないと思うが。」
「俺はひっそりとしていてぇんだ。」そう言ったら大きく笑われた。腹痛ぇとまで言われた。
「そう怒んな、お前らしくていいと思っただけだ。」
「――そういえばブルーは何で会社とかやろうと?」
「学生時代、憎んでいた奴が居たんだ。俺は今まで何でもできて欠点なんてない完璧な人間だと思ってたんだ。だがな、とある男が現れた。奴は俺より頭が良くて才能があった。みんな奴に釘付けだったよ。俺はそれが悔しくて悔しくて頑張って追いつこうとした。いや、越そうとしたな。だがそいつの親が海外へ行くことになって転校したんだ。衝撃だったよ、俺の目標、越そうとしていた奴がまんまと抜け駆けしたからな。それから大学の頃進路に悩んでいたとき、あいつがアメリカで会社を立ち上げ社長をしているのを偶然テレビで見かけた。だから、そんな奴の会社を越そうと思って立ち上げたんだ。……結局、俺は何も変わってないってことさ。」
「そうだったんだ。じゃあ組織の方は?」
「あれも学生の頃だな。あの時は少人数で不良グループ作っていたからな。組織はその延長線上ってやつだ。」それについては少しはぐらかしているように聞こえた。
だが、そんな事は気にせず。当時の俺はこういう事を聞けたのが嬉しかった。
「へーなんかいいこと聞いたな。ありがと。」そう言って椅子から立ち上がる。
「もう帰るのか、気を付けろ。」今思えばこれが最後の勧誘だったのだろう。
此処を去るのは少し名残惜しかったが扉を開けた。
「それじゃ、またな。」
「ああ、また。」
瞼を開ける。長いような夢が終わった。
今日は気分転換にツーリングをした。昨日はいろいろなことがあってうまく頭の中が整理できていなかった。風に当たりながらいろいろなことを考える。カズに依頼されたことは結局どうするかまだ悩んでいた。もし全て調べつくしてしまうと俺の正体だってわかってしまう。どこまで情報を流せばいいのかそこの境界線がいまいち分からない。それにブルーを殺せという依頼も来てしまっている。これは承諾してしまったんだから引き返す訳にもいかない。だが足を洗った身だ。もう犯罪には手を染めたくないという気持ちがある。もうあんな思いはしたくない――初めて人を撃ち殺したとき何の感情も抱かなかった。ただそこにゴミがあるかのように雑居ビルの屋上から倒れた遺体を見ていたのを鮮明に憶えている。あの時は今考えたら怖ろしい、そんな虚無の感情はもうしたくなかった。
海沿いの公園に着きここで一息休憩を取る。今日は土曜日なので人が多かった。だがそんな人の多さ関係なしに目立つ人物を見つけた。すれ違う人たちもみんなあいつを見ている。あまり会いたくはなかったが――話しかけずにはいられない。
「久しぶりだな。」俺が背後から言った時振り向いた。
振り向いた人物はブルーだった。
「――まさか、こんな所で合うとはな。」
「俺も驚いた。」
「せっかく会ったんだから、少し話そう。」と言って近くのベンチに移動した。
「元気していたか。」
「ああ、」
「そういや最近警察がお前のことについて調べているらしい。」
「それ、どこからだ。」
「俺の友人。」
「お前なんだかんだ言って顔広いよな。」
「お前には言われたくはねぇ。」そりゃあそうだ、大企業の社長だぞ、俺より顔が広いのは当たり前だろうと思った。
「そうか、伝えてくれてありがとう。気を付けておく。」
「話は変わるんだが、お前に言いたいことがある。」ブルーはそう言って、俺はブルーの方へ向く。
「もう一度言う。俺のところに来ないか。」
「……じゃあ。」
「!!」
「次の仕事次第かな。次の仕事は重大な仕事なんだ。だからその仕事が失敗して会社を辞めたらな。」
「かなり難易度たけぇな。入る気無いだろう。」と突っ込まれる。顔は完全に呆れている。
「はは、ばれたか。」俺は笑うしかなかった。
「まあいい、お前にこれを。」何かを差し出された。そのものに俺は見覚えがあった。
「俺のパーティーの招待状だ。ぜひ来てくれ。」
「でも俺表向きは一般人だぞ。」
「大丈夫だ。名簿には書かないでおく。」
「そうか、ありがとな。」
「ああ、じゃあ俺は帰る。」そう言ってブルーはベンチから立って歩いて行った。手を振っている。
「おう。」呟くように答えた。
手には真っ赤な封筒があった。
「帰るか。」俺もベンチから立って来た道を戻っていった。いつの間にかお昼時になっていたのでコンビニに寄ろうと思った。
コンビニに寄った時、封筒の中身を確認してゴミ箱へ入れる。
バイクに寄りかかって昼ご飯を食べる。少し北風が強くなった気がした。
まだ、仕事ができそうな時間帯なので期限に余裕のある仕事を進めていたら7時頃に一通のメールが届いた。確認したら仕事用のメールからだった。少し安堵した。
「どうして俺が……」
そのメールは仕事の依頼でもなんでもなく、予想をしていない内容だった。
夕食はカズの帰りが遅くなったので深夜0時過ぎに食べた。夕食というよりか夜食だろう。
「なあカズ、」と俺が先に重たい口を開く。
「ん、なんだ。」食べながら言っているのであまり聞き取れなかった。
「俺しばらくしたら引っ越すことになった。」
「!本当か。」
「別の会社に行くことになったからな。しかも大企業。」
「お前、そんな有能だったのか。」驚いたようにこちらを見る。少し失礼だなと思った。
「さあな、人生、何かあるのか分かんねえな。」
「そうか……寂しくなるな……」そう言ってカズは悲しい顔をした。
「でも引っ越すのは一ヶ月後になると思うからまだ時間はある。」
「そうか、じゃあ今度二人でどっか行くか。」
「いいな!どこ行く?」
「気が早ぇよ。」
「いいじゃねぇか。せっかくだしファミレス行かね?」
「そんなんでいいのかよ。もっとましな所でもいいだろ。」と呆れながら聞いてくる。
「そこがいいんだよ。」俺はそう言って笑った。
「そうか。」とカズは呟き微笑んだ。
まだ街の明かりは明るかった。
今日は一日中仕事をしていた。残っている仕事を終わらせるためだ。
カズは今日一日徹夜らしく帰ってこない、ちゃんと休んでいるのか心配だ。と、言うことは今日は俺一人だ。
誰もいないことをいいことに真っ暗な夜の街へ出かける。まだ居酒屋は明かりが灯っており笑い声が聞こえる。もう終電過ぎているのにどうやって帰るのか気になった。外へ出たのは理由がある、現場の下見だ。どこへ撃った方が確実に当たるのか、どこだったら誰にも気付かれないのか、パーティーが行われるホテル付近の地図を確認しながら下見に来た。
見上げた場所は管理者不明の雑居ビルだ。ここは、ホテルのビルよりも若干高さがあり、丁度目立った障害物もなく正面にある。これ以上ない立地である。ただ一つ問題がある。こことホテルの距離は1000ヤード、1km以上離れている。屋上へ上り望遠鏡で覗いてみたが狙う場所は望遠鏡でさえ豆粒のように見えた。一つ大きなため息をついた。そんな音も街の中に飲み込まれ誰も聞く者はいない。静まり返っているようで耳をすませば聞こえてくる声、そんな音を聞きながらただ、ぼんやりと佇んでいた。
夜はまだ終わらない。
俺の引っ越し祝いと言う事で何かあったら入れないと思って、なるべく早めに行うことにした。参加者は俺含め2人という少ない人数、場所はファミレスという所だったが楽しく行われた。
「うんじゃ、料理も来たことだし始めるか。」テーブルの上には男2人で到底食べきれる量ではないピザやパフェ、ステーキにグラタン、その他諸々が並べられていた。
「おう!」俺が元気に言う。
「先ずは、引っ越しおめでとう。」とカズが言って乾杯した。カランとガラスが当たり中の氷が揺れる。
なぜ今日にしたかというとカズが非番で俺も仕事に空きができていたからだ。この機会はもう片手で数えるほどしかないと思い立ったが吉日ということでこの日にした。
俺は真っ先にピザをかぶりついた。チーズがよく伸びる。
「うんめぇー」思わず大きな声が出てしまった。
「たまにはいいなこういうのも。」カズが呟く。
俺もカズもいつもより食欲があったのかあんなにあった食べ物も完食をしてしまった。少しは残るかと思っていたが意外と食べられてしまって驚いた。お会計はファミレスで見たことのない値段だった。――
「おいしかったな。」腹ごなしに近所の周りを歩く。
「ああ、そうだな。」
「あのさ、」
「なんだ?」
「俺がもし犯罪者だったらどうする?」
「お前犯罪者だったのか。」と睨んでくる。
「もしだよ。もし」まあ本当に犯罪者だが。
「そりゃあ捕まえて牢屋にぶち込むさ。」何の迷いもなく言う。
「はは、だよな。」と俺は乾いた笑いをする。
「でも――」何か言っていたが最後の方が聞こえなかった。
「ん?なんだ?」と聞き返す。
「何でもねぇ。」と素っ気なく返された。
路地裏からのとある視線に俺は目配せをした。
「ちょっとコンビニ行っていいか?先帰ってていいから。」
「おう。」
そう言ってもと来た道を戻る。そうして人気のない路地裏に入る。路地裏は閉店し廃墟と化した居酒屋が誰からも目を付けられずに佇んでいた。
「まさか、警察と面識あるとはな。」とヒデが言った。
「まあ、成り行きで。」
「それならいいが……」
「とういうか、捕まるのは俺の方だろ。」
「確かに、それで計画は。」
「とりあえずブルーを会場の西側右から3番目の窓へ連れてくればあとは大丈夫だ。」
「それだけでいいのか?」
「問題ねぇそれじゃあ行くな。」
「ああ」そう言って二人は人込みへ消えた。
電柱の街灯が光り始め、街が暗くなっていたことに気付いた。
「悪ぃぎりぎりになって。」
「いいよ。仕事もあっただろう。」
「これ、頼まれていたブルーについての資料だ。」と言ってヒデに渡す。
「ありがとな。」と言って、ヒデは渡した資料を穴が開くほど眺める。
「ブルーは21で会社を起業している。」
「いやそうじゃなくて」まあ、聞きたいことはそうじゃないだろう。少し声が怒っている。
「冗談だよ。」と笑って宥める。
「ちゃんと調べたぜ、後ろの方見てみろ。」
「‼これは。」目を丸くする。
「ああ、ブルーは違法取引やヤクザ、暴力団関係者の関係を持つ犯罪者組織のトップだ。」
「やはりクロか……」とヒデは呟く。
「これが一般人の調べられる内容だ。本当はもう少し調べたかったけど……」
「問題ねぇこれで十分だ。あとで出典教えてくれ。」と言いながらスマホを操作する。恐らくブルーの事について同僚に報告しているのだろう。
「おうよ。」と俺は答えた。
時間は夕暮れ6時を過ぎた頃だろう。カラスが紅い空に飛んでいる。
「それじゃあ。行ってくる。」と玄関の前でカズが言う。
「おう、いってらっしゃい!」と俺は答える。
今日はブルーのパーティーだ。カズはスーツを着こなし様になっている。
カズが外へ出ていくのを見送った後、俺はダイニングに行き夕飯を作る。自分の好物のカレーだ少なめに作ったつもりが意外と多くなってしまった。一人で食べきるのは流石に無理だったので、タッパーに移し替えて明日の朝食で食べることにした。
その後はテレビをぼんやりと見ていた。ブルーの会社の問題も出ていたが今日はパーティだ。そんなことブルーは微塵も気にしてなんかいないだろう。しばらく時間がたった。時計は8時を回っていた。
「――それじゃあ、俺も行くか。」
そう言って玄関の扉を開けた。向かうはパーティ会場だ。
このパーティは大々的に行われた。企業の社長、重役、有名人、その他社会では一度は名前を聞いたことのある人達が集まっていた。華やかな事があまり好きではないカズは少しげんなりしていた。
(にしても、すげえ規模で行われているな……)と思いつつ周りを見渡した。かなりブルーの会社は稼いでいるように思える。流石、世界有数企業だ、と納得した。だが、カズはなぜ自分が呼ばれたのか分かっていなかった。自分は刑事であるが、この中で見ると一般人の類で見られる。それに今、ブルーは警察から調査を受けられている身、警察を軽々と呼ぶか?という疑問もあった。
「これはこれは初めまして、私、このパーティの主催を務めておりますブルーと申します。」
「どうも、この度ご招待いただきありがとうございます。」と形だけの敬語で話す。
「それで、話は変わりますが、どうして私を招待したのか気になりまして。」
「ええ、それは私警察の方とお知り合いで誰か優秀な方をご招待したいという話になりましてね。それで優秀だと言われている貴方にしたんです。」
「いえいえ、私はそんなに優秀ではありません。」
「そうですか?最近では強盗事件を解決したという噂をお聞きしましたが。」
「ああそれは、」実際それはほぼあいつが解決したんだけどなと思いながら応える。
「あの、」とブルーの後ろからボディーガードと思われる人が肩を叩き声を掛けた。
「すみません。呼ばれましたので失礼いたします。」そう言ってブルーはボディーガードに案内され人混みの中に入っていった。
「高校以来か、ルイ」ブルーが声を掛けたのはこちらも世界的大企業の社長ルイだ。ブルーはこいつと握手したくないと思いながらこれはビジネスだと割り切る。
「お前は、相変わらずか、ブルー」
「なんだ。その言いようは、まるで何も変わっていねぇと言いてぇようだな。」
それを聞いたルイはわざとらしく鼻で笑った。
「よく分かっているじゃねぇか。」まるで煽るような発言にブルーは苛立ちを覚えた。
「何が言いてぇ」二人の間にはピリピリとした空気が数秒間流れた。
「お前のようなガキのお遊びにはいつか終わりが来る。」そして、ブルーの横を通り過ぎると同時に――
「覚悟してろ。」とルイはこの場では似合わない低い声で放った。
ルイはそのまま別の人物と話し始めた。
そして、ブルーはとある人物を見つけその人物の元へ向かった。
「久しぶりだな。ヒデ。いや、ホワイトと言うべきか。」ヒデは窓際に立っていた。
「ブルー……」ヒデの顔が険しくなる。
「そんな、嫌な顔をするな。」
「そんな事じゃねぇ、今日お前に言いたいことがある。」
「どうした。」
「レッド」
「⁉」ブルーの反応を見てヒデはにやりと笑った。
「お前は組織では色をコードネームとして扱っていたが、お前が唯一コードネームにしなかった色がある。いやしたくなかったのだろう?」
「ほう、それは?」明らかにブルーは冷や汗を搔いていた。
「レッド、お前の名前とは正反対の色だ。お前とは真逆、そして、血の色だ。――だから付けたくなかったのだろう?」
「フフ、想像力のいいことだ。」
「来るんだろう。ここに」
「そうだが、どうした。会いたくなったか?」
「いや、」
「それとも戻りたいのか、なら今なら戻してやってもいいが。」と手を差し伸べてくる。だが、
ヒデはその手を払いのけた。
「お前とは、縁を切る。じゃあな。」と冷酷な冷たい声で言った。そうして振り返り人込みの中へ消えた。
「これで、終わりだ。」とヒデは呟いた。その声は人の声にかき消され誰も聞いていなかった。
その時だ。ブルーのすぐそばの窓ガラスが割れたのは。
その音に反応して誰もがブルーを見た。一瞬だった。ブルーの胸元から血飛沫が出た。遅れて銃声のような音が聞こえこだまする。誰もがその瞬間を目に焼き付けた。いや、焼き付けられた。まるで見せつけられるかのように、ブルーに天から天罰が下されたように、その時間はどんな瞬間よりも長く永遠と流れていた。皆が呆然としていた最中、ブルーが大きな音を立て床に倒れた。その途端会場内から悲鳴が響いた。皆平常を保てず混乱している。
その中でも一早く行動したのは、カズだった。カズはブルーに近寄った。
「おい、救急車を呼べ、あとこの会場に医者は居るか?早くしろ!」先程まで敬語で会話をしていたカズだったが、敬語を忘れ鬼の形相で訴えかける。
「俺は、医者だ。内科だがな。一応の処置はできる。」叫ぶカズの後ろからそう声を掛けたのはヒデだった。
「それでもいい。頼んだ。」そう言ってカズはブルーのそばから離れ、自身の職場に応援の連絡を掛ける。ヒデは直ぐに処置を行う。
「どうした?」電話越しから同僚の声がする。
「ブルーが銃弾に倒れた。早く来い!」音割れをしているだろうが構わず叫んで応える。
「本当か?」と電話の向こうでは騒いでいるのが聞こえた。
ヒデが処置をしている最中突然ブルーが目を覚ました。
(まずい、これじゃあ計画がやはりあいつに頼んだのは失敗だったか……)ヒデは焦っていた。
「……くそ……あいつか……コウか……」そう言って目を閉じた。息をしている感じではなかった。ヒデはすぐさま脈を図った。
「やったのか、」と呟き密かに笑った。
救急車、警察の到着は10分経てば来ていた。サイレンの音が途切れることなく鳴っている。パーティ会場は先程とは打って変わってどよめきの声が広がっていた。
もう少し経つとメディアが情報を聞きつけカメラをホテルの玄関前に並べていた。今頃生中継でテレビに伝えているのだろう。
騒がしい音を遠くから聞いていたのはコウだった。雑居ビルの屋上から騒然としているホテルを眺めていた。冷えた風が頬に当たり髪が強く揺れる。屋上の縁にはライフルが置かれている。
「終わったか……」息を吐いた。冷たい息が肌に冷える。手をポケットの中に突っ込み突っ立った。
ただ、何も感じなかった。それが日常のように何もなかったかのように、目の前で人を殺したのに。
「来てやったぞ。弾丸として――」その声は誰も聞いてはいなかった。カラスの鳴き声が耳に着いた。
時刻は0時を回っていた。
次の日はテレビや新聞などが騒々しくブルーが暗殺されたことについて報道していた。
パーティーの最中に行われた犯行としてパーティーの参加者は全員取り調べを受けている。インタビューではパーティーに参加していた著名人が事件の一部始終を話している映像がどのニュース番組でも流れていた。事件のショックでとある芸能人が活動中止を発表し、テレビ界は騒がしかった。更には一週間経てば文春がブルーの犯罪組織について取り上げ、ブルーの会社は株価が大暴落し経営破綻、築き上げてきた信頼が一瞬にして崩れ去った。亡くなった時はネットでは殺した犯人を批判していたが、一転して世間はブルーを批判するようになった。死人に口なしとはこういうことだろう。
「ありがとな。色々と。」
「問題ねぇさ、こっちも世話になったし。」
「あ、そうだ。これ」と言ってカバンから書類を渡した。
「?なんだこれ。」
「ブルーの犯罪組織の関係者。いるかなと思って。」
「いつの間に」頼んでもいないことを
「いらねぇか?なら処分するけど。」と言ってカバンに戻そうとする。
「いやいやいるに決まっているだろ。」と焦りながら戻そうとする手を止める。
「冗談だって、あいよ。」
「一体、どこからその情報を?」
「企業秘密ってことで。」
「結局最後も教えられねぇのかよ。」
「まあ、内部告発ってことで。」
「?いやおかしいだろ。」
「まあまあ、」そんな他愛のない話をしていると。
「やべ、もう飛行機が出る時間だ。」時計を見て驚いた。
「もうそんな時間かよ。――気を付けてこいよ。」
「ありがと。」そう言って扉の前に立って振り返る。
「じゃあな。また会おうぜ。」
「おうよ。またな。」
顔を正面に戻し扉を開けた。
ブルーの暗殺から1か月が経った。
参加者の取り調べが行われることになった。前回の取り調べよりも人数を絞った。理由ブルーの犯罪組織関係者のリストが出たことだ。
出所は……まあいいや、捜一では恐らくこの中の人物が事件に関係があるのではないかという話になった。
リストに書かれている人物は驚いたことに参加者だけでなく給仕の中にも関係者がいた。
今取調室に居るのは、給仕係をやっていた女だ。
「私は何も関係ありません。」と素っ気なく言う。
「本当か?」と問い詰める。
「私は事件も組織とも関係がありません!」意地でも言わない気かと思った。俺はため息をつき女の正面を向く、そして口を開く。
「チェリー」その発言を聞いた女は目を見開く。かかったなと思い更に問い詰める。
「お前は組織でそう呼ばれていたようだな。」
「何を……」明らかに動揺している。
「調べればもっと出てくる。これでも言い逃れする気か?」
「何なの……」と俺を睨んでくる。声は震えているようだった。
「殺したのは、レッド!あいつよ、早く捕まえなさい!」と死に物狂いな声で叫ぶ。
「レッド?」リストにはそいつの名前は載ってい居なかった。もちろんどんな奴かも。
「それは調べてないの?レッドは組織を抜けた殺し屋、組織の中で優秀なスナイパーでもあったのよ。」と面倒くさそうに言う。
「あいつはパーティーに来ていたか?」
「いいえ、名簿にも無かったし、わざわざそんな人呼ぶかしら。」
一応この女は組織の関係者と言う事もあり逮捕された。
他の人からも事情聴取をしているが候補として挙がるのはレッドという者だった。人物像は全く浮かばず全て噂で聞いた話だと言った。
今日の取り調べ相手はブルーの応急措置をしてくれたヒデという医者だった。
「すいません。俺がそばで処置をしてブルーを死なせることになってしまい。」と頭を下げた。
「いえ、あなたのせいではありません。ブルーを殺した者なので。」と俺は言う。
「ありがとうございます。それで今回呼ばれた理由は?何かありました?」
「調べたところあなたはブルーの犯罪組織と関わりがあるようで?」
「ええそうですが、それが?」他の人達とは違い堂々と答えたことに驚いた。
「反論とかはないんだな。」
「ああ、だが」ヒデは顔を向きなおした。
「一体誰がそれを流した?」その目は冷酷で睨んでいるようにも見える。
「それは機密情報ですので。」そう言った瞬間ガタンと立ち上がった。
「勿体ぶらずに言え。」これは――彼の目は人殺しをしているような目だった。
「内部告発とだけ言っておこう。」
ヒデは勢いよく椅子に座りなおす。
「そうか――」と目を伏せた。そして笑った、しかも声を上げて部屋にいる彼以外は皆驚いた。
「あいつか、はは、面白れぇ、」そう言いながら笑い終えると
「俺が犯人だ。」と告げた。
取調室は沈黙に陥った。
後日ブルーが暗殺された事件の犯人としてヒデが逮捕されたと大々的に報道された。動機はやはり組織関係の事だったらしい。
だが俺は腑に落ちなかった。ヒデは取り調べで聞いていたレッドではなかった、しかもヒデはリストの話を聞いて笑っていた。それにヒデは会場に居たが撃ったのは外からだ。恐らく協力者と言う事で間違いないが、殺した犯人ではないことは確かだ。じゃあ、殺した犯人はだれか?その疑問が残る。ヒデに問い詰めてみても口を開く様子はなかった。
俺は一つの仮説を立てた。ヒデは恐らくリストを作った人物を知っている。リストの中身はとても信憑性が高い、そして作った奴は内部告発と言った。あいつがいつも調べられる情報源にも納得がいく、バラバラだったパズルのピースが少しずづ埋まっていく、この仮説が正しければ……そう思うと寒気がした。俺はもしかすると殺し屋と住んでいたのか……と。
コウはレッドだと考えれば考えるほど当てはまる証拠が出てくる。今どこにいるだろうかスマホから電話をかけてみたがつながる様子ではなかった。まさか高飛びしたかと考えたが本当に別の会社に行ったのかもしれない、分からない。本人に聞かなければ、と思ったがもう遅い、今頃どこにいるだろうかと何も知らない真っ青な空を見上げた。この空をあいつが見ていることを信じて――
この事件はその後迷宮入りとなった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
最後にその後のお話をします。
コウはアメリカでルイの会社に入りました。
実はルイの会社も裏社会とつながりがあり、ルイはコウの殺し屋の腕を買って引き入れたのです。
その後はコウは裏の社会へ戻ったのかそれとも社員として働いていたのかは分かりません。
裏話として名前はすべてカタカナにしていましたが、漢字にもできます。今回は分かりやすくカタカナにしました。
コウ→紅
カズ→和
ヒデ→秀
になります。
ブルーとルイは外国の方の名前のためそのままカタカナです。
これで、本当に終わりとなります。最後までお読みいただきありがとうございました。