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2.妖たち(3)

 妖たちは最初茜の存在に驚いたし「喰っちまおうぜ」などと牙をむく(やから)もいたが、暁月に一睨みされすぐに大人しくなった。ここでは暁月の存在は絶対らしい。最初はおっかなびっくりだった茜も妖たちとの暮らしにはすぐに慣れた。慣れれば街で暮らしていた時よりもずっと心穏やかに過ごせる。妖たちはやはり人を喰らうこともあるらしいが、茜の前で人を喰らうなんてことはもちろんしなかったし彼女を怖がらせないようにとそういった(たぐい)の話もしないようにしていた。実際最近では人を喰らう機会もずいぶん減ったのだそうだ。人を喰らうと精が付くんだけどな、なんてぼやく妖もいたが茜には「お前さんは別だよ、もう我らの家族だからな」と言って安心させるのだった。そう、彼らはもう家族なのだ。


「ねぇねぇ、暁月様って……いったい何者なの?」

 ある日、茜はずっと聞いてみたかったことを夕月に尋ねてみた。暁月はこの街にいつも姿を現すわけではない。ふらりと現れ数日間過ごしたかと思うと霧のように消えてしまう。茜と夕月は暁月の屋敷で過ごしており身の回りの世話は(おぼろ)という女がしてくれていた。

「そうねぇ、実を言えばあたしもよくわかんない。でも前に朧が言ってたよ。暁月様はこの山そのものだって」

「山、そのもの……」

 土地神のようなものなのだろうか。同じ問いを朧にもしてみたが、やはりその答えは要領を得なかった。

「おやおや、暁月様が何者かだって?」

 腰まである長い黒髪を梳かしながら彼女はころころと笑う。朧は非常に美しい女性だがやはり普通の人間ではない。その姿は常にゆらゆらと陽炎のように揺れ時折向こうが透けて見える。彼女は夕月や茜に様々な手習いを教えてくれた。どこから手に入れてくるのかたくさんの書物を二人に渡し、時に厳しく時に優しく様々な知識を授けてくれる。また茜や夕月に色とりどりの布で着物を仕立てくれた。茜たちにとっては姉であり母のような存在だ。

「妙なことを聞くねぇ。この山に生きこの山に命を吹き込む、それが暁月様だえ」

「うーん、よくわかんないなぁ。この山の神様ってこと?」

 ふふ、と朧は笑う。

「そうだねぇ。暁月様なくしてこの山はなく、この山なくして暁月様はないってことさね」

 その瞬間、茜は胸騒ぎを覚えた。以前村の人たちが話していたことを思い出したからだ。

――山の開発。

 この山の木を倒し、平らな土地を作りそこに〝りぞーと〟なるものを作ろうという計画があるらしい。「ここにゃ温泉も出るかもしれねぇぞ。そうなりゃこの村もがっぽり儲かるに違いねぇ」そんな話を村長がしていたように思う。

(この山がなくなってしまう。そうなったら暁月様は……)

 そんなこと起こるはずがない、と茜は自分に言い聞かせた。人間が山ひとつをまるまる壊してしまうなんてこと、あるはずがない。茜は自分の不安を胸の奥に押し込め軽く首を横に振った。

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