2.妖たち(1)
「お祭りは楽しいですね、暁月様」
おかっぱ頭の童女が笑う。暁月と呼ばれた美々しい若者はにこやかに頷いた。
「ああ、そうだね。祭はいい」
「そろそろ舞が始まるみたいですよ」
そう言って明かりの方へ向かおうとする童女を暁月は笑いを含んだ声で呼び止めた。
「尻尾が見えておるぞ」
「わわ、もう! うまくできたと思ったのに!」
そう言いながらくるりと宙で一回転すると童女は子狸の姿になった。
「よし、もう一回!」
くるりともう一回転。今度はうまく尻尾も隠せた。童女に化けた子狸は満面の笑みを浮かべ一目散に駆けていく。暁月はその後ろ姿を微笑ましく見守りながら立ち上がり、さっと着物の裾を払った。すると何やらはらりと落ちるものがある。だが彼は気に留めることもなくお囃子の聞こえる方へと歩いて行った。草むらに残されたのは小さな小さな……血塗れの爪。
暁月は艶やかな声で手鞠歌を口ずさむ。
星降る夜に耳澄ます
聞こえてくるよ、お囃子が
あれは祭りだ、妖祭り
妖どものお祭りだ
祭りの明かりが見えてくる
ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな……
星降る夜の妖祭り
人は決して招かれぬ
ああ、でもあるよひとつだけ
妖祭りにゆく術が
はいってゆくのさ腹の中
妖どもの腹の中……