第3話 沙月は魔女だった
新校舎の職員室の扉の前で、千冬は窓越しの夕日を眺めていた。
夜18時、部活の終了時間、部活を終えた生徒たちが楽しそうに帰る和気あいあいとした声が聞こえてくる。
ガラッと職員室の扉が開いた音が耳に入ってくると、視線をその音のほうへと変えた。
「…………わざわざ待っていてくれたの?千冬くん」
「聞きそびれたことがあったからな」
「聞きそびれたことね…………そう、じゃあ、途中まで一緒に帰ろうか」
「…………うん」
初めての同級生との帰り道、聞きそびれたことを聞きに待っていたことは事実だが、それ以上に一緒に帰るというこの状況に涙が出そうになる千冬。
ああ……これが一緒に帰るという場面。連絡先も交換したし、友達といってもいいだろう。
母さん、俺、今普通の高校生活を送っているよ。
と心の中でガッツポーズをした。
「それで、聞きそびれたことって何かな?」
「あ、ああ……それはもちろん、魔女のことだよ」
心が読める能力を持つ沙月。まだ確証はないし、本当なのかもわからない。ただそれが本当だったとして、それに魔女が絡んでくる理由がわからない。
なぜ、沙月は自分のことを魔女と呼ぶのか、どうして心が読める能力を持ったのか、知りたい。
これは単純に千冬がもつ好奇心からくる疑問だ。
「魔女…………ね。そうだね、もし千冬くんが入部するって言ってくれた答えてあげるよ?」
千冬より少し前に走り出し、くるっと腰からまわって、微笑みながらそう言った。
「ずるくないか」
「ずるくないよ」
「…………じゃあ、もう話すことないわ」
「冷たいな、もっと違うことを話そうよ。せっかく一緒に帰っているんだし、ね」
っと唐突に腕を組んでくる。
女の子の精一杯の力でギュッと体を吸い付かせるように。
「なぁ!?ちょっ!」
膨らみかけの大きくも小さくもな胸の感触が布を通して伝わってくるが、沙月はそんなことお構いなしに密着してくる。
「さぁ、一緒におしゃべりをしようっ!」
「近いっ!?近いって!!」
「いいじゃん、私たち、もう友達でしょ?」
「え……と、友達?俺と沙月が?」
「そうだよ、私たちは友達だよ。もしかして、違った?」
「……………………」
言葉が出ない千冬。
お母さん、どうやら、俺の思い込みではなかったらしい。俺、高校で初めて友達ができたよ。
そんな不意打ちに涙がポタっと流れる。
「よしよし」
すると沙月は目線を合わせながら、千冬の頭を優しく撫でた。
「あ、頭を撫でないでくれ」
「いやだ」
「…………魔女め」
下手に甘やかしてくる沙月。心が読めるからか、俺がしてほしいことを平然とやってくる。甘い声に甘い香り、沙月と話しているだけで自然と笑みがこぼれそうになる。
俺は桜木沙月のことを魔女だと思った。
帰り道の途中の分かれ道で、沙月と分かれた俺は、そのままマンションに帰った。
そして、早速、魔女について調べる。
魔女といえばやはり、異端審問官というワードが浮かんでくるがおそらく関係ない。そもそも国が違うし、文化も違う。
ならどこから魔女というワードが出てきたのだろうか。
「てか、ネットで調べてもわかるわけないか」
元宋高校のホームページで部活動の活動記録が保存されていたが、『魔女のお悩み相談部』については一切の記載はなかった。
ただ、一つ分かったことがあるとすれば。
「10年前にたった3年間だけ、『魔女のお悩み相談部』があった記録があるな」
それが確認できたのは、元宋高校のホームページではなく、その裏サイト。元宋高校の噂やかつてあった部活動の記録など、たくさんの情報が記載されているサイト。
そのサイトの部活動記録に10年前、3年間だけ『魔女のお悩み相談部』の活動記録が保存されていた。
「ますます怪しくなってきたな」
まだすべての記録を確認できてはいないが、一つだけ言えることは、『魔女のお悩み相談部』という部活が怪しいということ。
「元宋高校が設立されたのは120年前、もしかしたら、もっとさかのぼれば、あるかもしれないな」
まるで都市伝説のような部活。不気味で異質で謎だらけ。そんな部活動に入りたがる生徒なんてまずいない。
「いいね、俺、こういうの好きなんだよね」
都市伝説や世界の不思議など科学では証明できない現象が好きな千冬。元宋高校に突然、現れる『魔女のお悩み相談部』。そのシチュエーションにわくわくが止まらない。
「…………これ以上調べても何も出てこないな」
あれこれ3時間調べるも、これ以上、『魔女のお悩み相談部』の情報は出てこなかった。
「こればかりはしょうがないな」
あとは自分の目で確かめるしかないっとそう思っていると、気付けば、夜10時を過ぎていた。
「寝るか」
っとベットに入るとスマホから通知音が鳴る。千冬は手を伸ばして、ベットで通知を確認すると。
【沙月】おやすみ、千冬君♡
「…………やっぱり、魔女だな」
そのまま俺は、電源を切って眠りについた。
いつも通りの高校生活を送る千冬。お昼を知らせるチャイムが鳴り、生徒たちが一斉にざわめいた。
俺はその中、こっそりと教室を出ようと椅子から立ち上がったところで。
「おいっ!千冬!!」
っと聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。その声に女子生徒たちが猿のようにざわめき、その男子生徒に群がった。
「おっおっ、なんだ、なんだ」
俺はそのすきに教室を出た。
「今のうちに、トイレに…………」
「どこいくんだよ」
肩をつかまれる千冬。後ろを振り返るとそこには、見知ったイケメンがいた。
「な、なんのようだよ、晃」
「なんのようって、生きてるかどうか確認しに来てやったんだよ。感謝しろよ」
1年A組、加藤晃。俺と同じ中学校出身で、中学生の頃、よく絡んでいた。
「感謝って、なんで感謝しなきゃいけないんだよ」
「そりゃだって、友達いないじゃん」
「ぐはぁ!?」
心を狂いなく弱点に突き刺してくる攻撃に体がすくむ。
「そんな正直に言わなくてもいいだろ」
「でもよーー本当の事だろ」
「ぐぅ…………ふふ、でもな晃。人って成長する生き物なんだぜ」
「どういうこと?…………いや、待て!?まさか!?」
「そうだ、晃。実はな、俺…………友達ができたんだっ!!」
「な、なに~~~っ!?」
まるで信じられないといわんばかりの表情で驚く晃。
中学生時代の頃の俺を知っているからこその反応だ。
「千冬…………熱でもあるのか?」
「なぁ!信じてないなっ!!」
「信じるわけないだろ。…………ってそんなことを話に来たんじゃなかったわ」
「うん?なんか、いうことでもあるのか?」
晃の顔が少し、赤い。恥ずかしそうに視線をそらし、決意したかのように真剣な表情で。
「千冬、俺…………彼女ができたんだ」
「そうか…………うん?かのじょ?」
「ああ、彼女」
「…………それはあれか、俺に対しての自慢か?」
「自慢でもあるが、最初に伝えたかったってところもあるな。なんやかんや、今の俺があるのは千冬のおかげだし、それをいち早く伝えたかったんだ」
「そうか、おめでとう」
「お、千冬が嫌味を言わない!?まさか、熱でも…………」
「ねぇよっ!いくら俺でもかける言葉の常識ぐらいある」
「…………さすが千冬。中学の頃なら確実に罵倒の嵐だったよな」
「中学の頃を蒸し返すなっ!それより、もう話は終わりか?なら俺はいくぞ」
「おう、呼び止めて悪かったな。いつになるかわからないが、千冬に俺の可愛い彼女紹介するから、予定空けとけよっ!!」
「二人でよろしくやってろ!!」
笑顔で振って反対側に走っていく晃。どうも俺は、晃としゃべると中学の時みたいに言葉が荒くなる。
「直さないとな…………」
そのまま俺はいつも通りトイレでお昼ご飯を食べた。
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