第1話 魔女のお悩み相談部
柊千冬は今、家の近くにある大病院に入院している。
「な、なんでこんなことに…………」
元宋高校入学式当日、俺は通学路を一人で歩いていた。
ちょくちょくと見かける同じ制服の生徒。少し緊張していながらも、新しい環境、生活に心臓が飛び跳ねそうなほど、楽しみにしていた。
でもそんな時、信号が赤に変わり、足を止めると、同じ制服の女子生徒が本を片手に赤色に変わった信号を渡った。
「え…………」
その瞬間、トラックが猛スピードで横断歩道を渡ろうとする。トラックの運転手は女子生徒に気づき、ブレーキを思いっきり踏むも、止まず突き進み。
「あ、危ないっ!!」
咄嗟に横断歩道を飛び出し、女子生徒を後ろに突き飛ばす。
そして、ほぼ同時に大きな音が鳴り響いた。
地べたに這いつくばる千冬。かすかに聞こえる周りのざわめき。集まってくる民衆、視界に写る真っ赤な血。
あ、俺、ひかれたんだ。
遠のいていく意識、ゆっくりと瞼が落ちていく中、助けた女子生徒が近くまで駆け寄り。
「な、なんで」
っとはっきりと聞こえた。最後に視界に写ったのは、女子生徒の銀色に輝く髪だった。
そして、現在に至る。
トラックにひかれ、骨折の捻挫による2ヶ月間の入院。まさしく、高校生活、最高の滑り出しを果たした。
「って、何が最高の滑り出しじゃいっ!!」
運がいいことに両足骨折で済んだ千冬だが、内心は高校生活の悩みでいっぱいだった。
「最悪だ、最悪だ、2か月って、次に高校に通えるのは夏休み明けだぞ。終わった…………俺の高校生活終わった…………」
高校で友達を作るには第一印象が大事だと中学からの友達から聞いた。だから俺は、高校入学前から念入りに自己紹介文を考え、明るくふるまえるよう笑顔も練習した。
なのに、交通事項による入院で空白の2か月間。
「俺の高校生活は一人ぼっちで幕を閉じるのであった。いや、あきらめるな。大丈夫だ、俺ならきっとすぐに友達ができるはず…………だよな」
もう中学生の時みたいな失敗はしたくない。
それから、2か月後、まだ入院が必要だと医師に言われ、結局3か月の入院となり、絶望の顔を上げる千冬。
そして、3か月後、ほぼ完治した俺は、松葉杖でマンションに帰った。
「ただいま…………って誰もいないか」
元宋高校の入学と同時に俺は、一人暮らしを始めた。高校から約2キロ先にあるマンションで、一人暮らしいをする分にはちょうどいい広さで家賃も5万以下。
最高の物件ではあるが。
「本当にきれいだな…………まぁ、住んで1週間も経ってないから当たり前か」
引っ越して、住み始めたのは、入学式当日の4日前。そして、入学式当日にトラックによる交通事故。
「実に、不幸だ…………」
こうして、夏休みを迎えた千冬だが、3か月という空白の期間、しっかりと課題が設けられていた。3か月分の授業に夏休みの課題。ちょくちょく元宋高校に登校して、先生に教わりながらも、あっという間に夏休みが終わった。
「夏休みって、こんなに早く終わるイベントだっけ」
2学期が始まる始業式、俺は、校長先生の顔を眺めながら、頭の中で苦悩する。
柊千冬の夏休みの記憶は課題一色。特に思い出となる思い出も作れず、夏休みが終わり、そんな現実に心が苦しくなる。
で、でも無事に2学期を向けることができたし、これからだよなっ!と心の中で自分を納得させ、始業式を終えた。
それから自分のクラス、1年B組の教室に入り、席に座った。
ここからだ、ここからが大事だぞ、と祈るようにぼそぼそ呟いた。
「あ……これが現実か」
1週間、1週間がたった。始業式が終わり、授業が始まって、1週間。俺は、ボッチになっていた。
授業は何とかついていけている。体育はまぁ、なんとかって感じで、高校生活は不自由なく生活できている。
ただ…………《《友達ができないっ!!》》。
1週間だぞ、1週間で一体どれだけのことができることか、それこそ友達の二人や三人できてもおかしくない。
4限目のチャイムが鳴ると俺はすぐに男子トイレへと向かった。
その途中、ふと集団で集まっている女子グループの会話から気になる言葉が聞こえてくる。
「ねぇねぇ、知ってる?この高校の七不思議」
「あ~あの噂の?」
「内容は知らないけど、言葉だけなら」
七不思議?と一瞬足を止める千冬。
「うん?なに?」
すると、こちらに気付いたのか、金髪の女子生徒がこっちを向いて、話しかけてきた。
「あ、なんでもありませんっ!!」
深くお辞儀してそのまま男子トイレに駆け足で向かった。
「あははは、初めて声かけられたな」
男子トイレの一室。俺はここで1週間、お弁当を食べている。
「七不思議…………この高校にもそんな都市伝説があるんだな」
女子生徒のグループが話していた七不思議のことを思い出す。七不思議といえば都市伝説、そんな迷信、創作物がこの元宋高校で話されていることがとても不思議だ。
「気になる、すごく気になる…………」
もし本当に七不思議が存在するのなら、その内容を確かめたい。こう見えても俺は都市伝説に目がないのだ。
お昼ご飯を食べ終わると、教室の戻り、そのまま授業が再開する。
終わりのチャイムが鳴り、6限目が終わる。帰りの会を担任の先生が軽く済ませ、みんな、下校を始める。
「お~い、千冬!」
「え、なんですか、丸山先生」
俺の名前を呼んだのは1年B組の担任、丸山亜紀先生だった。
「明日、生物の授業でプリントを使うんだけど、私この後も仕事あるから、プリントを旧校舎の2階にある理科室まで持っていてくれないか?」
「な、なんで俺なんですか…………」
「それは、暇そうだから?」
「し、失礼な」
「ごめんな、ほら、明日お礼にお菓子あげるからさぁ?ねぇ?お願い!この通りっ!!」
丸山先生は悪い先生かいい先生かでいうといい先生だ。体育会系の先生で男女にやさしく、周りを気遣えるし信頼されている先生。
でも、俺に対しての扱いは雑だ。
「わかりました、で運ぶプリントは?」
「これだよっ!!」
そう言って身の丈の半分を占めるほどのプリントが机の上に置かれた。
「多くないですか?」
「い、一応、学年分あるからね。それじゃあ、よろしくね、千冬!」
丸山先生は逃げるように逃げ去っていった。
「あの担任、俺のことを何だと思ってるんだ」
プリントの量から見ても、2回往復する必要がありそうだと、ため息が漏れる。しかし、頼まれ引き受けた以上、やるしかないとプリントを二つに分けて、運び始める。
「旧校舎か、初めて入るけど…………ぼろいな」
旧校舎は昔、使われていた校舎で、今は新校舎が主に使われている。
ゆっくりと階段を上り、2階の理科室の扉を開けて、適当な机にプリントを置いた。
「ふぅ…………やけに疲れるな」
俺は、再び1年B組に戻り、分けたプリントを持って再び旧校舎2階の理科室へ向かい、プリントを置く。
2往復しただけなのに、少しだけ、汗を流し、息が上がる。
「さすがに運動をしたほうがいいかもな」
病院で3か月入院し、夏休みの間は課題で運動していなかった。その影響は今になって実感する。
「まぁ、部活に入るつもりもないし、朝のランニングぐらいの習慣はつけておいたほうがいいかもな」
そう呟きながら理科室を出ると、旧校舎2階の理科室から間反対の教室の明かりがついていた。
旧校舎は基本使われず、生物や化学の実験程度でしか使われない。
誰かいるのだろうか?でも、旧校舎に出入りしている生徒なんているはずないし、まさか、先生?でも、もう帰りの時間、先生たちが旧校舎に立ち寄るなんて考えずらいけど。
千冬は興味本位で明かりがついている教室の前に立った。窓はミラーになっていて、教室内の確認ができず、人がいるのかすらわからない。
「開けるか…………」
俺はためらいなく教室の扉を開けた。
ガラッという扉を開けた音と共に教室内に足を踏み入れ、前に視界を向けると、踏み出した足が止まった。
「待っていたよ、柊千冬くん。ようこそ、魔女のお悩み相談部へ」
目の前に置かれた椅子に座る銀髪美少女。その向けられた微笑みに俺の顔は赤く染め上がった。
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