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キャベツとヤル気はフレッシュなのが良き

「適当な時に来るから、肩の力抜いて、適当に書け! じゃあな!」

 そう言い残し、煙と共に消えた謎のオッサンは、一体何者なのだろうか。

「あれから十日経つけど……また来るって言ってたの、あれ、嘘だったんかな……」

 一応、話の続き、書いたんだけど……

 男は、キッチンでキャベツを刻みながら、ぼんやりと考えていた。

 今日は日曜で、会社は休みだ。

 昼食にお好み焼きでも作ろうと、男はキッチンに立っていた。

「えっと、粉……お好み焼き用の粉……どこだっけな……あ、あったあった……」

 男が棚の引き出しから、目当てのお好み焼き粉を取ろうとしたその瞬間、背後でモシャッモシャッモシャッという音がするのに気がついた。

「な、なんの音……」

 恐る恐る振り返ると、刻んだキャベツの入ったボウルを抱え、そのキャベツを貪り食うオッサンが立っていた。

 角刈りの頭にねじり鉢巻を巻き、白い半袖シャツ、ペラペラの白い生地の短かいパンツに、茶色い腹巻き。

 肩に掛けた白地のタスキには、赤い文字でこう書かれている。

 面白い作家は成敗する。

 オレの、お好み焼きが……

 男の体から、力がどっと抜けていく。

「オイ、このキャベツ、パッサパサだぞぉ……あ、言い忘れた……生み出すものよ……」

「……順番が、おかしいです」

「仕方ねぇだろ。これ言わねぇと、ピリッとしねぇんだからよ」

 言いながらも、オッサンはキャベツをモシャッモシャッと食べている。

「あの、そのキャベツ……お好み焼きにしようと思って、オレが刻んだやつなんですけど……」

「あん? パッサパサだぞ、これ」

「……それ、見切り品だから……」

 どうしてくれるんだ、オレのお好み焼き……せっかく粉を見つけたのに、意味ないじゃないか……

 男は、オッサンにぶつけたい言葉を、我慢して飲み込んだ。

「あのなぁ、キャベツとヤル気は、フレッシュなのが一番だぜ」

「はい?」

「だからよ、ヤル気がある時を逃すなってことだよ」

 はい、とオッサンは空になったボウルを男に渡した。

 ……もう、お好み焼きは諦めよう。

 男は肩を落とし、ため息を吐いた。

「それよりさあ、書けたかよぅ、ハナシの続き」

「書きましたよ、まったく……もう、こないかと思ってましたよ」

「どれどれ……」

 オッサンは呟きながら、テーブルに置いてあったスマートフォンを、勝手に操作している。

 ……いつのまに移動したんだよ……

 男は、このオッサンには、常識を当てはめることができないと感じていた。

「匂う、匂うぞぉお……あ、あった……」

 オッサンの顔が、ぱあっと明るくなる。

 それを見ると、なんだか男は嬉しいような恥ずかしいような気持ちになった。

 ぐぅうと鳴る腹を鎮めるため、男は仕方なくレトルトカレーを電子レンジに放り込む。

「……ど、どうですか……」

 スマートフォンの画面を、目を見開いて見つめ続けるオッサンに、男は訊ねる。

「おい、これ……」

 画面から顔を上げたオッサンは、泣きそうな表情をしていた。

「これ! こんなんじゃ、この娘があんまりにも可哀想じゃねぇか! ふざけんなよ!」

「あ、いや、そんなに? でも、まだこの続きがあるんで……」

「なんだと! それを早く言え! で、どこにあるんだ?」

 この展開、この間と同じだ……

「……すみません、オレの頭の中です……」

「なんだと! 馬鹿野郎、早く続きを書け!」

「……あの、来週の日曜の十五時にきてもらえませんか?」

「なにぃ?」

 オッサンは、渋い表情でねじり鉢巻からペンとメモ用紙を取り出した。

「あぁ、まあ、十五時十分なら空いてる」

「……もしかして、お忙しいですか?」

「オメェみてぇな馬鹿野郎がよ、いるんだわ、いっぱい」

 ……あ、やっぱりか……

「……あの、無理して来なくても……」

「なんだと! 続きが読みてぇんだから、来るに決まってんだろうが! じゃあ、来週の日曜、十五時十分な!」

 ボワン、と白い煙がオッサンを包んだ。

「げほっ、ごほっ、あっ、カレー……」

 レトルトカレーは、すっかり温まっていた。

 男は、それをホカホカの白米にかけながら、頭の中に続きのストーリーを思い浮かべていたのだった。

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