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第六話:布哇諸島沖海戦①

投稿します

 伊400は現在、ハルゼー艦隊の後を追尾していた。


 ハルゼーとキンメル本隊とは三十海里の距離が開いていたのである。


「この空母二隻を葬っておかなければこれからの戦いは難しくなるからね? 航空機隊が苦戦しているようなら酸素魚雷の援護をしないといけないが」


「しかし艦長、この二隻を撃沈しても米国にはまだ数隻の空母を保有しているのですね? 確か“ホーネット”“ワスプ”“サラトガ”“ヨークタウン”“ラングレー”が」


「うん、もしかしたらこの伊400単艦で行動しないといけないかもね? 出来ればパナマ運河を破壊しておきたい」


 日下の言葉に皆が頷く。

 西島航海長が苦り顔でパナマ運河を潰すのはこれで何回目ですかね? と言うと皆が苦笑する。


「まあ、それだけ重要な場所だという事だな! そろそろハルゼー艦隊のレーダーが探知する頃だろう。現在の日本航空隊の位置は?」


「後、二十分という所でしょうか? あっ! 敵空母部隊が騒がしくなりましたね?」


 日下は、ドローンからの映像を確認すると酸素魚雷の発射を命じる。


「一番外側を航行している重巡“シカゴ”に四本だ! 一番~四番発射管に注水」


 伊400の船首左舷側の魚雷発射口一番~四番が開くと同時に海水が雪崩れ込む。


 日下は頭の中で現在の海中海流の速度と目標の距離等を瞬時に計算して魚雷発射の命令を下す。


「一番・二番発射! 三秒後に十時の方角に向けて三番・四番発射!」

 伊400艦首から日本海軍自慢の酸素魚雷が放たれる。


♦♦


 一方、“赤城”“加賀”から出撃した攻撃隊は哨戒行動の任務を得て先行しているゼロ戦二十一型から敵機動部隊発見の報告を得る。


「よっしゃ!! 野郎共、一航戦の誇りをアメ公にぶつけてやろうではないか! 全機、突撃体制に移行だ」


 “赤城”隊を率いている『淵田美津雄』中佐が威勢のいい掛け声を無線で話すと各機からもいい返答が返ってくる。


「よし! これならいけるな、アメ公! 覚悟しろ」


 それから五分後、海上に航跡を引いて航行中の“エンタープライズ”と“サラトガ”を発見する。


 重巡一隻と多数の駆逐艦が輪形陣を敷いていて先に重巡の方を始末できればその区画から空母に向けて輪形陣の中に突入できる事を淵田は見抜く。


「先に重巡を叩くか……よし!」


 淵田は愛機であるゼロ戦二一型に搭乗していてその風防を開けると信号弾を発射する。


「全機、突入せよ! 先ずはあの重巡を仕留めるぞ! ト・ト・ト・ト・ト・」


 その時、重巡“シカゴ”の左舷に水柱二本が立ち昇り数秒後にも二本の水柱が立ってそれが治まると“シカゴ”は黒煙を吐きながら横転転覆して轟沈したのである。


 それを見た淵田は味方の潜水艦か? と思ったが今は敵空母を仕留めることを考えようとする。


 護衛の駆逐艦が高射砲と対空機銃を撃ってきたが重巡“シカゴ”の轟沈に気を取られて散発であった。


 九十七式艦攻隊は“シカゴ”がいた地点から侵入して“エンタープライズ”と“サラトガ”に向かって行った。


「撃て! 撃て! 一機残さずジャップの飛行機を叩き落せ!!」


 “エンタープライズ”艦橋でハルゼーは仁王立ちになり叫んでいるがそれだけでは戦闘は成り立たない。


 空母二隻は水平に対空機銃や高角砲を撃つようになったが突然の実戦で統制もとれていなかったので命中率は低かったが当たれば即死という恐怖に耐えながら“赤城”隊の艦攻隊は突っ込んでいく。


 そして距離五百メートルまで近づいた時に全機が魚雷発射レバーを引く。


 重たい魚雷が無くなったので機体は一瞬で軽くなり彼らは操縦桿を思いきり引いて急上昇する。


「さあ、俺達はここまでだ! とっととこの戦域を抜けるぞ!」


 “赤城”隊の艦攻隊は一機も撃墜されずに戦闘空域を逃れる事に成功する。


 その同時刻、“加賀”隊の艦攻も次々と魚雷を発射してそのまま戦闘空域を脱する事に成功する。


 “エンタープライズ”の機関室ではボブ二等兵がボイラーの圧力を上げていた。

「どうなっているのだ? 戦況は……」


 その瞬間、巨大な振動がしたかと思うと彼の目の前に炎が迫って来た時に彼の意識は途絶えたのである。


 “エンタープライズ”に命中した魚雷は八本で巨大な水柱が次々と立ち上がりその凄まじい衝撃でハルゼー以下の将兵達は艦橋内の障害物にしこたまぶつけてしまう。


 その衝撃で飛行甲板がひん曲がると共にエレベーターが途中で停止する。

 魚雷が命中した穴からは海水が濁流のように流れ込んでくる。


「ダメコンチームを総動員して艦の傾斜を復帰させるのだ! 左舷に海水を注水しろ!」


 頭から血を流しながらハルゼーは怒鳴りながら命令する。


 米海軍のダメコンチームは世界の中でもトップクラスの熟練度を誇っていたがあまりにもの被害に茫然とするしかなかったが黙々と任務に励む。


 三発の魚雷を受けた“エンタープライズ”の後部機関室内部は殆どが吹き飛ばされて艦は停止していた。


 二発の魚雷は艦首付近に命中して吹き飛ばす。

 残りの魚雷は右舷中央に命中したのである。


 日本軍艦攻隊が離脱したと同時に急降下爆撃隊が急降下して来て次々と八百キロ爆弾を落とす。


 命中率実に百パーセントを誇り全弾が“エンタープライズ”甲板に吸い込まれるように命中して格納庫内で爆発する。


 魚雷や爆弾が次々と誘爆していき必死に作業をしているダメコンチームの身体を引き千切るように薙ぎ倒していく。


「ハルゼー長官! 最早、この艦は持ちません! 退艦をお勧めします」


 艦長の絶望な意見にハルゼーはタオルで頭の傷を押さえながら悔しそうに頷いて総員退艦命令を出す。


 ハルゼー達が艦橋から出た時、目の前の景色は地獄のような情景が眼に入って来たのである。


 その時、上空からキ~~ンとした音が聞こえて来たので上空を見上げると一機の九十九式艦爆が急降下してきて胴体から何かを落とす。


「爆弾だ! 早くここから離れましょう!」


 ハルゼー達が急いで艦橋から離れようとしたときにハルゼーは躓いて倒れる。

 艦長達が彼の肩を貸そうとした時、八百キロ爆弾はハルゼーの頭上に命中する。

 勿論、ハルゼー達は一瞬で引き千切られて肉の塊になる。


 “エンタープライズ”は既に停止して傾斜も酷くなっていて乗員達が次々と海面に飛び込んでいくのが淵田中佐の目に映る。


 間も無く“エンタープライズ”は突如、閃光と共に船体中央部から巨大な火柱を上げて真二つになって轟沈していく。


 “エンタープライズ”は実に右舷に魚雷八発、左舷に五発、二十四発の爆弾が命中して黒煙を吐きながら海面から消えて行った。


 もう一隻の“サラトガ”も悲惨で九発の魚雷が右舷に命中して十五発の爆弾が命中したのである。


 自慢の煙突にも二発が命中して原型が分からない程、鉄屑になる。


 “サラトガ”は大きく傾いて何かに掴まらないといけない程、歩くことも困難になる。


 爆弾によって至る所に大穴を開かれた甲板からは濛々と黒煙が噴き出していて既に艦は機関室を大破されて停止していた。


 それから間もなく“サラトガ”も横転転覆して轟沈するが艦内の魚雷や爆弾が誘爆して海中で大爆発を起こして船体をバラバラにして海底に沈んでいった。


 淵田中佐は満足そうに頷くと全機に母艦に引き返すように命令する。

 損失機は信じられない事に全くなしで全機が無事であった。


「よし、このまま帰投して再び爆弾や魚雷を積んで二航戦や五航戦の援護に向かう」


 ハルゼー機動部隊の損害は空母二隻・重巡洋艦一隻・駆逐艦七隻で文字通りに壊滅したのであった。


 そして艦以上にハルゼーと言う優秀な指揮官を失ったことは大きな痛手であった。



海戦時の日本海軍航空隊の練度は世界一を誇っていました。

次話はキンメル艦隊との戦いです

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