7.(最終話)焚火の聖女
恵とヴィンスのその後を書いてみました。
ちょっと長くなってしまったのですが、一旦これで完結とします。
私がその御一行様の訪問を受けたのは、筆頭聖女の就任パレードがやっと終わりに差し掛かった時のことだった。
筆頭聖女の就任パレードというのは、筆頭聖女がお役目を果たし、女神に選ばれた確かな聖女であることをお披露目するために行うものらしいのだけど、私はそもそも逃げたい気持ちでいっぱいだった。
大神官様が問題ないとお墨付きをくれたとはいえ、所詮はピンチヒッター。
何かの間違いでうっかり選ばれただけの存在なのに。
けれど、いくら抵抗しようとその時はやってくる。
結局、私は渋々馬車に乗せられ、市中を引き回されることになったのだ。
人々の思い込みとは恐ろしいもので、筆頭聖女の衣装を身につけ、仲間の聖女たちと共に御台へ上がれば、こんな私でもそれなりに見えるらしく、沿道へつめかけた人々の歓声は止むことがなかった。
もう、これ完全に詐欺ですよね?
これで神殿が民衆からの支持と寄付を得ているのかと思うと、本当に罪悪感しかない。
引きつる笑顔を貼り付けて、ひたすら沿道の観衆へ手を振り続ける。
みんな、私が何を召喚したか知らないから笑顔なんですよね。。。
大神官様が言うには、聖女が召喚したものの意味は、後々になってから意味がわかるものが多いので、すぐには発表しない慣わしなのだという。
その慣わし、本当に最高!
私が召喚したものが知れ渡っていたら、絶対白い目で見られたはず。
そもそも、誰もいない沿道をパレードさせられることになったかもしれない。
そんなことを考えながら、神殿へ戻る最後の角を曲がった時、神殿の前に見慣れない黒い服を着た人々が立っているのが見えた。
その周囲だけ、人々が避けるように囲んでいる。
同乗している神官たちが、さっと青ざめたのが分かった。
馬車の上に動揺が走る。
怯えたように、聖女たちが私の顔を見た。
私にも何だか分からなかったけれど、とりあえず若い彼女たちを動揺させないように微笑んで、後ろ手に庇うように立つ。
やがて、馬車が近づくにつれ、その黒い集団の正体が明らかになった。
そこにいたのは、全員女性だった。
揃いの黒いローブに身を包み、こちらを見つめているその瞳は、全て紅い。
馬車が止まると、先頭に立つ一番年長と思われる老婆が一歩前へ歩み出て、ゆっくりと頭を垂れた。
と同時に、その全員がそれに倣う。
人々がどよめくのが分かった。
「この度は、我が一族の『宝』をお救いいただき、誠にありがとうございました。私ども『紅眼の魔女』は貴女様に深く感謝申し上げると共に、永年の忠誠を誓うことをお約束いたします。」
先頭に立った魔女は、そう恭しく告げた。
『紅眼の魔女』それは、この大陸で最も強大な力を持つとされる魔女の一族。
その力は国や法律でさえ縛ることができず、誰にも従わないことで有名らしかった。
そんな魔女たちが揃って頭を下げている景色に、思わず息を飲む。
『貴女様』って、もしかして私のこと?!
***
その後、神殿内の広間に場所を移した私は、再び紅眼の魔女御一行様から宣誓を受けた。
魔女は本来何にも縛られることなく、誰にも従うことはないが、一族の唯一の男子であるヴィンスの命を救ってもらったことには並々ならぬ恩義を感じているとのことだった。
魔女が人に頭を下げるなんてことは、これまでにないことらしく、列席している大神官様や国王を始めとする来賓の方々もとても驚いていた。
神にも国にも王にも従わない、この世界で一番最強らしい魔女たちが私には従うって一体どういうこと??
またもや発生した理解不能の出来事に、頭が回らなくなる。
一応平静を装ってみるけれど、私の頭の中は『?』だらけだった。
そんな私の前に、誰かが飛び出してくるのが見えた。
「大おばあ様!」
それはヴィンスだった。
どこかから走ってきたのだろう。息が上がっている。
「おお、ヴィンス!!私の宝!」
ヴィンスを目の前にした老婆は、そう言って彼を強く抱きしめた。
その表情はそれまでの凛としたものとは違い、完全にひ孫を愛でる曾祖母のものだった。
ヴィンスのことを『宝』って言った言葉の意味を、妙に納得する。
「大おばあ様、急にどうされたのです?前もって教えてくだされば、迎えに行きましたものを。」
「お前が大変な目に遭っているとも知らずにいた私を許しておくれ、ヴィンスよ。お前にもしものことがあったら、私は一体どうなっていたことか!」
ヴィンスの曽祖母らしい老婆は、ヴィンスを抱きしめ、おいおいと泣いている。
想像していたのとは違う魔女の姿に、急に親しみを覚える。
後でヴィンスに聞いた話によると、魔女の一族は女子の場合、母娘もしくは祖母と孫というより師弟関係という意味合いの方が強くなってしまうのだという。
だから、魔女は娘を甘やかさないし、娘を猫っ可愛がりするようなこともない。
しかし、男子は魔女になれないので、魔女は娘を可愛がれない鬱憤を晴らすかのように手放しで甘やかすのだという。
魔女の一族にとっての男子とは『魔女の賜物』とも呼ばれ、それを授かることは誉れであり、喜びそのものなのだという。
「大おばあ様。手紙にも書きましたが、改めて紹介させてください。こちらが聖女メグミ殿。私の命を救い、そして私がこの命を捧げることを誓った方です。」
やめてー!!と心の中で叫ぶ。
ヴィンスの爆弾発言に、神殿内にいる少なくない人々から声が上がった。
思わず、ヴィンスをひと睨みした。
聞き間違いってことで誤魔化そうとしたこともあったけど、最近、ヴィンスはじわじわと私を追い詰めにきていた。
聖女仲間はもう完全に買収されていて、ヴィンスのことを応援している。
女を落とすには『まずは胃袋から』とか言って、ヴィンスに私の好きな酒のつまみレシピを教えるのはやめて欲しい。
ヴィンスもヴィンスで、どんどん料理の腕を上げていってるし。
せっかく爵位までもらったのに、一体何に時間を使ってるんだか。
でも、いくら本気だと言われても、真に受けるほどの若さは私にはなかった。
今は命を助けてもらったってことで恩を感じているだけで、そのうち目が覚めるに違いないのだからと、そう思っているのだけれど。。。
とりあえず、一旦場所を変えようと思いつく。
こんな衆人環視の中で、これ以上やりとりするのは心臓が持たない。
ため息を一つ吐いて、側に控える神官長に向かって合図を出す。
「この方達を、いつもの場所に案内してちょうだい。」
実際はかなり動揺していたけれど、仮とは言え筆頭聖女としての立場を損なってはいけない。
数々のクレーム対応をこなしてきた元コールセンターマネージャーの演技力を発揮して、それに合うような声を出した。
***
いつもの場所へ、ヴィンスと魔女の御一行の方々をお招きする。
いつもの場所とは、もちろん神殿の裏庭だ。
私が筆頭聖女に選ばれたこともあり、その後、人をもてなせるよういろいろと整備されたものの、裏庭には違いない。
またここかよ!と思うかもしれないが、それは言わないでいただきたい。
ここでないと発揮できない力があるのだ。
神官の手によって恭しく運ばれてきた例の木箱を焚火の前に置き、本当はこんなことしなくてもいいのだけど、一応祈りを捧げるフリをする。
そして、木箱の蓋を開ける。
と、そこには新しい『純米大吟醸研ぎ二割三分』様が鎮座していた。
結論を言うと、『純米大吟醸研ぎ二割三分』は泉からは湧き出さなかったし、私の手から出てくることもなかった。
大神官様が仰ったように、女神の力は我々の考えを超越しているようで、何故か焚火の前で複数人と飲もうとした時だけ、木箱の中から現れるのだ。
しかも、新酒が!
二度目に木箱の中から現れた酒瓶にラベリングされた製造年月日に気づいた時は、心底驚いた。
最初に召喚したのは、確かに私が予約注文したものだったのだけれど、その後、木箱の中から現れるのは常に最新の製造年月日になっていた。
女神様は、一体どこから持ってきてるんだろうと不安になる。
本当は焚火しない時にも飲みたいのだけれど、どうやら女神様はこのお酒と焚火をセットにしているらしく、焚火の前でないと出て来なくなってしまったのだ。
「どうぞ、こちらが私の国に伝わる酒『純米大吟醸研ぎ二割三分』です。ぜひ、ご賞味ください。」
そう言って、ヴィンスの曾祖母だという紅眼の魔女一族の長たる老婆に勧める。
こういう困った状態になった時は、とりあえず一緒に飲むに限る。
日本人の最終奥義『飲みニケーション』ってやつだ。
「大おばあ様、ぜひこちらもお召し上がりください。メグミ殿の世界の料理です。」
いつの間にか、ヴィンスが私の好きなつまみを並べていた。
最近の私のお気に入り『たこわさ』まである。
ヴィンスは勝手知ったるといった雰囲気で、御一行様を接待していく。
すっきりとした飲み口の酒を好むという魔女たちに、『純米大吟醸研ぎ二割三分』と日本の料理はものすごい好評で、すぐ一瓶が空いた。
でも、木箱を開ければ、またすぐに新しい酒が追加されているから有難い。
お酒の力で打ち解けてきた頃、ヴィンスの大おばあ様は、水晶の中に保存している幼い頃のヴィンスの姿を見せてくれた。元の世界の動画みたいなものだ。
ヴィンスによれば、それは大魔女様にしかできない、とんでもなくすごい魔法らしい。
だけど、ひ孫がいかに可愛かったかを力説する姿は、恐ろしい魔女の長というよりは、田舎のおばあちゃんにしか見えないのだけれど。
ヴィンスの祖母だという魔女やその姉妹たちも加わり、皆からヴィンスの自慢話を聞かされた。
魔女にとっての息子とは、本当に特別な存在らしい。
料理の準備を終えた聖女仲間たちも遅れて加わり、すっかり場が和んで来た頃、ヴィンスのお母さんとお姉さんを名乗る魔女が改めて私のところへやって来た。
「この度は、本当にありがとうございました。この馬鹿娘の尻拭いをしていただき、本当になんとお礼を言っていいか。」
ヴィンスのお母さんミラベルさんは、そう言って、伴った魔女の頭を押さえつけて頭を下げた。
ミラベルさんはヴィンスによく似た美女!リアル美魔女だった。
私と同い年の娘がいるって、嘘ですよね?と問いかけたくなる若々しさ、色気。
本物の美魔女ってすごい!
「本当にありがとうございました。まさか、弟が未だにポケットに大事なものを入れてるなんて想定外だったもので・・・。ヴィンスにもしものことがあったら、私、大魔女様にカエルかネズミにされているところでした。」
続いて、もう一度頭を下げたお姉さんエルヴィラさんも、また美女!
美形がインフレ起こして、もう美の基準が揺らぎそうなくらい。
でも、そんなお姉さんの言葉に、気になるワードが出て来たので、そのことについて聞いてみると、やはりヴィンスがポケットに大事なものを入れるのは子供の頃からの癖なのだそう。
思わず、私の弟、亮輔の子供の頃を思い出してしまう。
「うちの弟もそうでした!昔、ポケットに入れてたドングリから虫が這い出てきて、絶叫したことが!」
「あああああ!うちもありました!!なんで、男の子って、ああ言うものをポケットに隠したがるんでしょうね。」
エルヴィラさんとは、同い年ということもあり、そんな姉あるあるですぐ打ち解けてしまった。
お酒の力って、やっぱりスゴイ!
そんな風に楽しい時間が過ぎ、千鳥足の大魔女様たちが帰っていった後、私はやっと一息ついて、再び焚火の前に腰を下ろした。
最近整備された焚火エリアより、そこから少し離れたこの端っこでやるのがやっぱり一番落ち着く。
すっかり小さくなってしまった熾火に新しい薪をくべれば、火の粉がキラキラと舞い上がる。
さすがにお酒はもう飲めないので、どうしようかと思っていると、タイミングを図ったかのようにヴィンスがやって来た。
その手には、二人分の酔い覚ましのコーヒーとマシュマロが刺さった串を持っている。
「いるだろ?」
そう言って、ヴィンスは私に一セットを手渡した。
礼を言って、コーヒーとマシュマロを受け取れば、ヴィンスはいつものように私の隣に腰をおろす。
春まだ浅い夜更け、どこからか心地よい風が吹いてきて、焚き火の火の粉を舞い上がる。
いつの間にか彼の指定席になってしまっているその席。
聖女仲間と一緒に焚火をすることも増えてきたけれど、やはりヴィンスがそこにいるのが一番しっくりくる。
二人並んで、無言でマシュマロを炙る。
マシュマロは最近、『レシピ検索の聖女』奈々ちゃんが作ってくれるようになったものだ。
『焚火と言ったら、マシュマロですよ!』と言うのが、彼女の意見だ。
マシュマロはお酒を飲まない聖女仲間たちにも人気で、彼女たちはもうずいぶん前から少し離れた場所にある別の焚火を囲み、マシュマロを焼いているようだった。
彼女たちと同年代と思われる魔女たちも一緒に座って、話に花を咲かせている。
いい夜だなと、ふと空を見上げた。
そこには元の世界と同じような星空があって、一瞬ここがどこだか忘れてしまいそうになる。
「今日は急な訪問にも関わらず、ありがとう。皆、楽しかったって言ってたよ。大おばあ様も、大変お喜びだったし。」
不意にヴィンスが話し始めた。
その横顔は家族を思いやる慈愛に満ちている。
急に、何故ヴィンスがたった一人で全てを解決しようとしたか、分かった気がした。
人々に恐れられている紅眼の魔女一族だけれど、ヴィンスにとっては本当に大切な家族なんだろう。
だから、騒ぎを広げたくなかったんだなと思った。
もし呪いが実現していたら、魔女に対する恐怖は増し、ヴィンスはもっと辛い立場に立たされることになっていだろう。
何も知らなかったからできたこととはいえ、種を全部見つけられて良かったなと改めて思った。
「いいのよ。私も楽しかったし。すごく素敵な皆さんね。特に、エルヴィラさんとは初めて会ったとは思えないくらい意気投合しちゃったしね。」
「ああ。姉さんは次、今年の林檎酒を持ってくるって言ってたよ。あと、大おばあ様は自慢のつまみを送るって。」
エルヴィラさんの林檎酒も楽しみだが、大魔女様が言っていたつまみの方が気になる。
さっき聞いたことによると、野菜を酢と色々なハーブ類で漬け込んだピクルスっぽいものや、鶏肉などをオイル漬けにしたものなどがあるらしい。
「『純米大吟醸研ぎ二割三分』も大好評だったしね。もう何本開いたか途中から数えるのやめたくらいの勢いだったわよね。召喚した甲斐があったわよ。」
ちょうど良い具合に焼けたマシュマロを口に入れる。
ふわふわとした食感がたまらない。
「ああ、エルザおば様は持って帰りたいって最後まで抱えてたよな。」
そう。残念なことに『純米大吟醸研ぎ二割三分』は何故かここから持ち出せない。
以前、ヴィンスの一番上のお兄さんを招いた時に手土産にしようとしたら、神殿の門をくぐった途端に消えてしまったのだ。
女神様は、どうしても焚き火の前で飲ませたいらしい。
コーヒーを飲みながら、ぼんやりと薪が熾火になっていく様を見届ける。
薪が燃えて、ただ炭になっていくだけなのに、どうしてこんなに美しいんだろう。
そんなことを思いながら焚火を見つめていたら、今日もまた炎の中に何かが見えてきた。
「ヴィンス・・・やめてよ。」
見えてきたものに耐えきれず、思わず焚火から視線を外してそう言うと、ヴィンスは何か思うところがあったのか少し照れたように微笑んだ。
「わざとじゃないんだ。仕方ないだろ。」
最近、焚き火の中に何かを見ることは減っているのだが、ヴィンスと飲む時だけは違う。
何故かは分からないけれど、ヴィンスの願望だけはいつもはっきりと炎の中に見えてくる。
本当に恥ずかしいからやめてほしいけれど、本人に悪気はないようだから仕方のないことなんだろう。
また、焚き火の熱が顔に集まってくるのが分かった。
「何度も言っているが、本気なんだ。俺の気が変わることはない。今日、改めて確信した。俺はずっとメグミのそばにいたいし、メグミ以外の人間は考えられない。」
ド直球の口説き文句に、思わず顔を背けた。
恋愛から離れていた年月が長すぎて、こういう時どうしていいか分からない。
けれど、ヴィンスとこうやって過ごす時間を心地よいと感じている自分を無視できなくなってもいた。
「でも、私、もう三十七歳だよ。ヴィンスより十歳も年上だし。」
馬鹿だと思うけれど、わざわざそんなことを言ってしまった。
なんていう言葉が返ってくるか分かっているくせに。
「歳なんて関係ない。さっき母上も言ってただろ。『魔女は四十から』って。メグミは魔女じゃないが、同じことだ。」
そう言いながら、ヴィンスが私のすぐ側へと椅子ごと寄せてくる音がした。
肩にヴィンスに手がかかる。
促されて、ヴィンスの方へ向き直れば、そこには優しく微笑むヴィンスの赤い瞳があった。
その真剣な眼差しに見つめられ、動けなくなる。
もう誤魔化すことはできない。
「メグミ、何度でも言うよ。俺の一生をメグミに捧げることを約束する。知っての通り、魔女の一族は約束を守ることにうるさいんだ。子供の頃から、約束は絶対に守るように言われてきた。だから、絶対に裏切ることはない。メグミがいいんだ。」
ヴィンスの手が、そっと私の頬を捉えた。
さっき焚き火の中に見えた光景が脳裏に浮かび、ヴィンスがしようとしていることを察する。
けれど、もう逃げようとは思わなかった。
私は覚悟を決めた。
「分かったわ。ヴィンスを信じることにする。こんな私で良ければ、一緒にいてくれる?」
私はヴィンスを見つめ、そう答えた。
その答えに、ヴィンスの赤い瞳は一瞬だけ大きく見開かれ、その後、笑顔に変わった。
嬉しそうに微笑んだヴィンスの唇が、私のそれに重なったのは、そのすぐ後のことだ。
目を閉じた私の耳には、薪が弾ける音と人々が楽しそうに笑い合う声が響いていた。
次に目を開けた時、私は焚火の中に見慣れぬ美しい女性の姿を見た。
ヴィンスにも見えているのか、同じ方向を見て固まっている。
そうか。私はヴィンスのために、この世界に招かれたんだ。
私が出した答えに、女神様は微笑んでゆっくりと頷き、炎の中に消えた。
***
歴史上最も偉大な聖女として、今も人々の信仰を集める『焚火の聖女』は、それまで誰にも恭順することがなかった『紅眼の魔女』を従え、この世に平穏をもたらしたことで知られる。
魔女は一族の宝である『魔女の息子』を聖女に捧げて忠誠を誓い、聖女の在位中、熱心にその神殿を訪れては、共に焚火を囲んだという。
聖女が振る舞う酒は不思議な力で人々の心を癒し、その宴には魔女だけでなく各国の王も共に集い、世界を安寧に導いたとされている。
聖女が世を去った後もその酒は受け継がれ、彼女を祀る神殿では今も焚火の火が絶えることはないという。
以上で、この物語は完結です。
最後までお付き合いくださった皆様に、深く感謝いたします。
焚火をしながら楽しく飲みたいという欲求を満たすために書き始めたのですが、意外と奥深い話になったような気がします。
現実世界は今、とんでもないことになってしまっていますが、この世界にも1日も早く平和な日々が訪れることを切に願っています。