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沫土菜園テスト農場(マツドサイエンテストのうじょう)  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第9部分 営業…フジワラの効果

第9部分 営業…フジワラの効果


やあ、お久しぶりです… こんにちは。

長らくご無沙汰しておりました。なんかちょっと照れちゃいますね。皆様もおかわりなくお元気でしたか。私の方もまあぼちぼちやってましてということだったのですが、最近ちょっと営業活動なんかも勢いでやることになって、しかも海外出張やら交渉やら饗応オモテナシやらで… 実は日本に戻るのも久しぶりなんですよ。改めてよろしくお願いします。


はは、ちょっとよそよそしいですか? しかし… いくら顔なじみどころか深馴ふかなじみの出戻りだからといって、最初からあまりにも馴れなれしくても… でしょ? まあ今のところは折り目正しく挨拶させていただきます、ははは。


さて、このたび御社おんしゃに伺いましたのは、現在企画中のプロジェクトをご案内するためなんです。正直ビッグな企画ですよ。ですから楽々製薬社様にもぜひ御賛同とですね、できるならば協賛や出資にも絡んでいただければと… お願いに参りました。


あ、肩書ですか?

はい、それはそうですよね、懐かしさが先に立ってお渡しするのが遅れました。

名刺をお持ちしましたので、御納めください、ちょっと変な名刺ですが。

はい、エッヘン、おっしゃるとおり、「沫土菜園マッドサイエンテスツ加速器研究所 プロジェクト晴嵐 担当部長」です。従業員9名、うちパートさん6名のおもちゃみたいな会社ですけどね、しかも「加速器研究所」ですし、ははは… そう、ベンチャー企業というよりアドベンチャーに限りなく近いところです。

でもこの夢みたいな企画が実現したらものすごいことになるのは確実ですよ、ええ…


はいそうなんです、おっしゃるとおりこれは晴嵐せいらんって読むんです。これ読める方は滅多に居ないんですよ、さすがですというところです…  元々は晴れた日に山にかかるかすみとか晴れた日に吹く山風の意味なんですが… 

あれ、紅林さんて…もしかしたら、隠れミリオタ界隈かいわい入ってますか?

ああ、やっぱり… 太平洋戦争で伊400潜に積んで行ってアメリカ西海岸を爆撃した、そう、世界で史上唯一アメリカ本土を爆撃したあの飛行機と同じ名前です。


その名前のことも含めて訪問させていただいた趣旨やら概要やらを説明させていただきますね…

えっと、これがパンフレットです。

この「プロジェクト晴嵐」はですね、ここをご覧くださいね…この辺の…太平洋の真ん中に晴れゾーンと台風ゾーンを作ってですね、いわば台風をコントロールして自然のエネルギーで大量に発電していこうっていう先進的というか、いっそ野心的と言っても良い企画なんです。晴れと台風はつまり嵐だからプロジェクト晴嵐せいらんというワケなんです。最初の建設だけは別ですが、できるだけ化石燃料を使わずに、逆に地球に蓄積されつつあるエネルギーを集めてあらゆる方法を使って発電しちゃおうという地球規模のプロジェクトなんです。ある意味冗談みたいな話でしょ? 


でも…理論的には実現できそうなんです。というか、こうでもしなければ文明生活に必要な電気量はまかなえないし、地球の温暖化を食い止めることなんて到底できないんです。他にこんな計画を聞いたことがありますか? そういう意味で言うとみんなでバカにしてた仮想通貨のビットコインみたいな得体の知れなさは確かにあります。そりゃ大失敗するケースだってゼロとは言いませんが、今じゃ1ビットコインが円換算1400万円とか、そういうベラボーな価格になってたりします。あんとき100ビットコインくらい買っておけば、まあ私も今仕事なんてしてませんけどね、ははは。とにかく、もうあとは実証実験を兼ねて商用発電もやっていくしかない。それだけ大掛かりなもので、下手すりゃ気候変動も招きかねない巨大プロジェクトだ、ということを知っておいてください。ま、そうならないようにコントロールする手段は確保してありますよ、もちろん。


あ、そうだ、これは日本だけじゃなくて、当然アメリケだけでもなく、他に北半球の太平洋に浮かぶパラエ共和国、ミクロネシウ連邦、マーシャリ諸島共和国、キリバセ共和国、ナウリ共和国、パプアニューギニオ共和国あたりにも通ってる話ですので、そのつもりでお聞きになってください。この他南半球のキリバソとかの島国も事情は同じで、下手すりゃ国土が海没してしまうからって、大変興味を持っていただいてます。選定された島々は関係者は別として、その島の住民は基本無人にしてしまいますが、国全部が海没するよりははるかにマシだという趣旨で関係各国の御理解をいただいています。いや、しかしその島に住むのは大変ですよ… たぶん1年の 1/3 は台風直下ですからね、これは笑いごとではないww


さて、本論に入ります。そんな大掛かりなことをどうやって実現していくか。それが問題です。この4つのエリア内の島に1つずつ4つの活火山… これは天然モノですけど… 活火山ですね、…地図を見てお気づきのことはありますか?


ああ、さすが、すぐ見破りましたね。そうなんです、みんな太平洋の北半球低緯度付近に集まっているのがミソなんです。このプロジェクトの最初の仕事は台風の赤ちゃんを捕獲か、または人工的に発生させて…これ特許なんですけどね、とにかく小さな台風を2つか3つ作ることから始まるんです。しかしこの少年少女の台風は地球の自転やら気圧の勾配に従ってはじめは北のほうへ行きたがります。いったん北に行って偏西風に触れてしまえばどんどん北東に流されてしまうので、ある方法を使って…これも特許であまり詳しくは言えないんですが、まあその方法で台風たちを北緯23度以内に閉じ込めるんです。


つまり台風の中心の軌道を楕円形というか、底辺が広い二等辺三角形をイメージして動かしてやるんです。大雑把なようでいて実に微妙なコントロールをするんですよ。するとどうなるか… こっちのイメージとパソコン上のイメージ画像をご覧くださいね。


あ、はい、御指摘のとおりです。そんなことができるのかって、そりゃ当然思いますよね。最初は私も思いました。あの原爆数百個分とも言われるの巨大なエネルギーを擁した暴れ者の台風をコントロールなんてできるワケがないだろ。しかし、当然の疑問ですから、原理だけ軽くお話しておきましょう。


わたくし先ほど台風2~3個とお話しましたよね。つまり1個ではない。

第1ヒント、これでいかがですか?


そうですか、でもこれ、当代1流の気象学者たちさえも夢想すらしなかったことですから… 

それでは第2ヒントです。フジワラの、と言えば…


ああさすが教養溢れてますね、藤原ふじわらの道長みちながですか、日本人ならではですね。

「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば」

藤原氏絶頂期の宴席での和歌ですね。このプロジェクトは御社を含む多くの会社の協賛で成功すれば、まさにこの和歌うたの趣旨が実現できそうです。というか、成功させないと将来的に地球は温暖化で滅びてしまう。


え、なんですって! あ、そうです、「フジワラの効果」のことを言いたかったんです。

いや、これは見事としか言いようがない。

数十か国と数十社を回ってきて、この用語をうかがったのは初めてですよ。いや、ホントの話です。


これは話が早い。

それでも「フジワラの効果」に誤解があると難ですので、改めて簡略にお話させていただきましょう。

気象庁では「藤原の効果」を、「2つ以上の台風が接近して存在する場合に、台風がそれらの中間のある点のまわりで相対的に低気圧性の回転運動をすること」と定義しています。

具体的には、数百キロかの距離をおいて接近したり、逆に離れたり、追従したり、と迷走しているかのような複雑な動きを見せるんですね。まあ、合流してしまうことはないみたいですけど。


たとえば2017年の台風5号は南鳥島、このへんですね、この近海で発生しましたが、この辺にあった台風6号の南を大きな楕円の感じで進み、小笠原諸島沖でいわゆる「迷走」状態になった後、北西に進みました。そして8月7日に和歌山県北部に上陸した後、日本海で温帯低気圧に変わりました。


また2022年の台風11号はやはり南鳥島近海で発生して沖縄の南まで西進しましたが、付近の熱帯低気圧、まあミニ台風みたいなもんですね、これの影響で進路を南西に変えました。このあと沖縄近海で停滞するワケなんですが、要は気圧配置をコントロールすれば進路もコントロールできるということなんです。いまのところ高気圧を製造することは難しいですが、低気圧という台風の卵なら製造が可能でして、理論的には… そこを利用しようと、こういうことなんです。ざっくり言うと、特に低緯度地方では「偏西風」という条件が一つ減るんです。逆に日本近海じゃぁ不可能ってことなんです。



はあ、低気圧の作り方ですか?

鋭いですねぇ… そうだなぁ… 先ほどご覧いただいた地図で想定地域エリアの特徴をお答えいただいたのですが… そう、島、そして活火山ですね。この大自然の無限の力をお借りするんです。


そもそも低気圧のでき方は… そう、温かい水蒸気を含んだ空気は軽いので上昇するところが始まりですね。上昇した空気が冷やされると、水蒸気が周囲のチリや氷の粒に付着して液化し体積が減る。しかし同時に凝縮熱が発生して、乾燥した温かい空気が上昇してさらに下からの水蒸気を含む空気を吸引するように働くことで陰圧が発生し、周囲の強い上昇気流を加速させ、これが行き過ぎると台風に発達していくんですね。


では低気圧を製造するには…

あ、そのとおりです。さすがに飲み込みが速くて、もうほとんど説明が終わってしまいました。活火山は人工的に大量の蒸気を発生させるために必要なんです。まあ海水を撒いてやれば大量の水蒸気が発生します。雨粒の元を作るにはヨウ化銀を撒く方法が有名ですが、細かい塩の結晶でも良いんです。


つまり地上で生じてしまった濃い塩水や結晶を上空に持って行って飛行機で撒布してもOKなんです。海水の水分はすぐ蒸発して塩分が空気中を漂う… するとそれが「核」になって雨粒のもとになる氷粒が成長しますから。これが上昇気流に逆らって落ちてくれば雨のイッチョアガリってことになります。熱帯ならこのサイクル自体が勝手に加速していくので… これは実証実験が成功してますから間違いないですよ。


あの、こんなところで難なんですが、いっそ弊社に転職なさいませんか? いや冗談半分ですが、本気半分でもあって… 良いアイデアが欲しいんですよ。いえ、いますぐとは言いません。はい、もちろんオフレコで… いえいえ、そんなご謙遜を…


さて、台風がコントロールできたとして、そこからどうやってエネルギーを取り出すか、それも問題です。残念ながらここに関してはまだ「技術の飛躍的発展ブレークスルー」ができてないんですよ。

仕方ないですね。仕方ないから、狙った島に大量の雨を降らせて水力発電を、強い風で風力発電を、環礁ラグーンやビーチで波力発電やらなんやらしまして、この電力を海底電線経由かマイクロ波に変換して基地や衛星なんかに伝送するんです。


もちろんメンテや交換も必要なので、4つの島の役割をローテーションで交代させていきます。これは台風も同じで、一か所だけに留めては日射や海水温、水蒸気といった資源を食いつぶしてしまいますので、そこは適当にコントロールしてわざとうろうろ移動させて行くわけなんです。


つまりまとめるとこういうことになりまして… これをローテさせていくんですね。

ただし運用を考えると、①から④まではほぼ同じ設備を準備すると考えて差支えありません。


 エリアA① 晴れ/曇り  太陽光発電および台風の卵を作り勢力を増大させる

 エリアA② 曇り/豪雨  台風近辺で波浪発電、風力発電、雨をダムに貯めて水力発電

 エリアB③ 晴れ/曇り  ほぼ①に同じ

 エリアB④ 曇り/豪雨  ほぼ②に同じ

 エリアC⑤ ①~④のコントロール、メンテ基地、電力受容中継基地、電気分解による水素発生装置


エリアAとBは対にして2個の台風を運用しますが、気象条件によっては3個または4個の運用を考えています。

エリア①で台風の卵を作ったらこれをエリア②に送るんです… といっても、ちゃんと制御するんですけどね。こうしてエリア②に波浪と強風と豪雨を与えて波浪、風力、水力で発電させまして、この電力をマイクロ波とか電線とかで中継所になる島、ここですね、ここ⑤に送るんです。台風が発生、発達したら、その分海水温も下がっちゃいますので、さっき言ったように台風は移動させる必要がありますし、島の役割を時々交代をさせる必要があるんですよ。それをコントロールできる性能を持つコンピュータシステムはすでに弊社で開発済みですし… これは某社の並列スーパーコンピュータを使ってAI予測するんです。



えっ… まさかそこを突かれるとは正直思いませんでした、見事ですね。

おっしゃるとおり、台風は暴走するかもしれません。そういうときには4℃の海洋深層水を汲み上げて海水温を下げ、そして台風の勢力を落とすという非常ブレーキも用意しています。そしてこれを適度に汲み上げ、島周辺に供給することによって、島周辺の海域は間違いなく豊かな漁場になります。それは海洋深層水には熱帯の海水に欠乏している大量のミネラルが含まれているからでして、これによって植物プランクトンが飛躍的に増え、動物プランクトンも増える結果サカナも面白いように増えるんですね。これも実は実証実験が済んでいます。ただ、海洋の自然を攪乱かくらんしてしまうのは明らかなのですが、温暖化の進行を止めるにはやむをえない最後の手段なのです。


だからあの国連の2015年のアレ、えっとそうSDG’sです、あの流行りのSDG’sにモロ被りするプロジェクトなんですよ。御社にとっても協賛なりなんなり御協力いただければ、それ以上のアピールやリターンが見込めるかと思います。

いまのところ世界の名だたる自動車メーカーさんや電気メーカーさんとかにお知らせして回っている段階でして、わたくしどももかなりの手ごたえを感じています。


ははあ、なるほど… ならばどうして御社様に伺ったか、ですか。

そうですね、本当のことを言うと、弊社の社長が私財を全部投げ出すっていうんで資金の目途はついてるんですよ、なんかベラボーな金持ちでして…

ですから他社さんの出資はそこまで当てにする必要はないんです。ただこういうことは、みんなの地球にとって明らかに良いことであるだけに足並みを揃えて推進したいんです。日本もアメリカもフランスもドイツもない。アイデアと技術をごっそりネコババするようなヤツどもは別として、資本主義国みんなで公正に進めていきたい。だから世界でも揺るぎ無い実績と信用のある企業さんにまずお声掛けさせていただいております。


御社はたしかに製薬会社としても大手とは…失礼…言いづらいですが、御社は、わたくしが世話になり育てていただいた会社様ですからね。恩義あるところにお知らせしなければ気が済まなかった、ということです。



協賛金ですか? 無理にお願いはしませんが、幾らなりとも拠出していただければ協賛企業としてプロジェクトの広報に名を上げさせていただきます。おそらく製薬会社では御社のみになるでしょう。こう言っては難ですが、宣伝効果は計り知れないものになるでしょうね。


ああ、お約束していただいた時間も近づきましたのでそろそろおいとまいたしますが、できれば常務か専務あたりに話を通していただければ、という用件でした。

また数日中に電話させていただきますね。

ああ、御遠慮なく、もしダメならダメで、それはもう… はいはい、お互い商売、仕事ですから…

はい、お気になさらず。

では… 本日はどうもありがとうございました。


あ、これ忘れてました。ほんの挨拶がわりですが皆様で召し上がってください。

以前の営業部の部屋の方々にもよろしくお伝えくださいね、じゃ、どうも… 失礼いたします。


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