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沫土菜園テスト農場(マツドサイエンテストのうじょう)  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第4部分 ユカさん

第4部分 ユカさん


 結局、ユカさんと何を食べに行ったか、というと…


うん、皆様に当てていただきましょうか。答えは話の途中でわかるかと思いますので予想しておいてくださいね。


 1、夜景がきれいな高層階のレストラン、もちろん予約の3万円コース

 2、小洒落(こじゃれ)た隠れ家的洋食屋さん、予算1万円コース

 3、焼き肉食べ放題コース、2980円コース

 4、回転寿司、食べただけのお支払い

 5、某ファミレスチェーン店

 6、焼き鳥中心の居酒屋

 7、お好み焼きと鉄板焼きの専門店


 ユカさんとは仕事場が同じなので、話す内容は仕事のことが多くなるが、まあこれは仕方ない。もう少しお互いを知るように、そして知りたいようになれば話すことは変わってくるはずだ。だってまだ、ほとんど顔と名前しか知らないんだから。

 ユカさんのちょっと前に入った陽子さんは、3日で辞めてしまった… 正確には来なくなってしまったのだ。せっかく性格も雰囲気も気に入っていたのにな。理由はわからないけど、博士や私の変人ぶりに嫌気いやけが差したのかもしれない。朝だけバイトで働きにくる農家のおじさんやおばさんと反りが合わなかったのかもしれないけど、なんせ突然の出勤拒否だったからなぁ。その点ユカさんはすでに3週間ほど続いているし、私とも博士とも打ち解けて話してくれるから大丈夫だろうな、なんて思っている。


 私にとって知りたいことは山ほどあった。

家族は、恋人は、好きなモノ、キライなもの、出身、趣味、テレビ、推しメン…

それでも無理に聞く気はあんまりない。もしも… 私のことを気に入ってくれているなら、自分からどんどん打ち明けてくれるのが女の子だから。

 打ち明けてくれないようなら、それはそれまで、諦めるか、信頼関係をいま一度反省するか… そんなところかな。とりあえず一緒に食事をしてくれるくらいだから門前払いではないし、少なくとも不快には思われてはいない。無理に良さげに創ったところで見透かされるのがオチ、普段どおりに行こうかと気張り過ぎることを意識的に避けていた。



「こんばんは、ユカさん… 来てくれてありがとう。なんてね、なんかちょっと緊張しますね、」

「ええっ、そうは見えないけどな」

「はは、実はガチガチなんです。なんかこう… 職場とは違う。別に気取るワケじゃないんだけど」

「あら… アタシも実は。白状すると服選ぶのにだいぶ迷いました」

「そのピンクのワンピース、とても似合ってます。私そういうフリフリ系に弱いんです」

「ちょっと冒険かなって思ったけど、これじゃちょっと攻め過ぎかなって」

「はは、どんどん攻めてきてください。もうまもなくノックアウトかな」

「まあ… ラクさんのスーツもステキです」


 博士が「ラクどん」と呼ぶせいで、私は「ラクさん」と呼ばれているのだ。

「ははは、普段は野良着作業着ですからね。あ、でも自慢じゃないけど2か月前まではスーツ着て営業してたんですよ」

「ああ、製薬会社だったってうかがいました」

「あははは、今考えると結構インチキでしたよ。今は精神的に健康だし、食欲も出てきた。あ、そうそう今日の食欲はどっち向きですか? あ、それとビーガンじゃないですよね、お昼見てると」

「あら、御覧になってました? 見ての通りダイジョウブですよ、肉も魚もお野菜も」

「じゃ、今日はどこ行こうかな… そうめんはお昼に食べるから、ちょっとディナーらしく」

「ああ、そうめん… ふふふ ディナ―と言えば… なにかしら」

「そうだなぁ… 普段野菜ばっかり見てるし、さっきサカナ大丈夫だって言ってたから、サカナ偏に旨いのとこに行ってみますか」

「魚偏に旨いって言うとお寿司ですか? いいわ、お供します、喜んで。だったらスイーツで締められるとこがいいな」


 これは回転寿司で、ということだろう。近頃は回転ずしのレーンがあっても「回らない」ところが増えている。そのかわりほとんどタッチパネル式の注文式だったりして、私は好きだ。一見いっけん客のためのサービスにも見えるが、アレは店にとっても大きなメリットがある。一定時間を過ぎて取ってくれるヒトが居ない場合、店は衛生的観点と客からの見映え的観点からその皿を除き「廃棄」することになっている。つまりシャリやネタがもったいないだけでなく、廃棄のコストもかかることになるからだ。

 ユカさんの表現の仕方にも感心した。こんなふうに「高級店でなくてOK」という意思表示がとっさにできるのがユカさんの賢いところであり、謙虚なところでもある。たしかに高級店で、むしろこっちが店主タイショウの機嫌を取るようにしてマナーとお会計に気を遣いながらおそるおそる食うのはどうも好きではない。


「本音というとね、ユカさんの好みを知りたいんです。今の回るお寿司屋さんて、ファミレスみたいになんでもあるでしょ? 肉も野菜も揚げ物ラーメンそばうどん… 最後はスイーツで締められる。」

「そうね。揚げ物が揚げたてで食べられるのが嬉しいんです。イカやエビ、そして玉ねぎにトウモロコシ… ラーメン屋さんだと一人前ラーメンだけでおなかいっぱいになっちゃうけど、回るとこだとせいぜい半人前だからそういうのもありがたいわ。いろいろ欲張って食べられるから」

「じゃぁきょうは、お寿司屋さんで決めます。なら港近くの『金閣』でも良いですか」

「はい、喜んで。私あそこのエンガワワサビが大好きで。でも今からだと2時間くらい待つかしら」

「ふふふ、心配御無用です。なんとなくそんな気がしてね、20分後に予約してあるんです、ほら」

私はスマホ画面を彼女に見せた。


「ワンダフル、パチパチ… さすがです。でも…」

「さぁ、クルマにどうぞ、お姫様」

私はドアを開け、彼女を乗せてワンピのスカートが挟まっていないことを確認してから閉めた。


「では参りましょう。クルマは酔いませんか?」

「ダイジョウブです。けど…あの、アタシがハンバーグ食べたいって言ったらどうしたんですか?」

「そりゃ予約を取り消すだけです。あれだけの人気店だ、困ることはないでしょう、洋食屋さんはちょっと知り合いのお店があって、そこはそこまで混むことはないので」

「じゃ、もしアタシがお寿司が苦手だったら?」

「お弁当を入れてる布の絵柄えがらには、たしか漢字がいっぱい並んでましたよね」

「あら、御存知でしたの… 魚偏の漢字がね」

「それに… このあいだのお昼、休日の朝には炊飯器ごと御飯としょうがと醤油を積んで漁港まで行くって… 生シラス買いに行くんでしょ? そんなヒトが寿司をキライなワケがない」

「これは… 恐れ入りました。」


「それにね、おとといウミウシの話が出たでしょ? ウミウシは軟体動物、つまり貝殻おうち背負しょってないけど貝の仲間だ。あれからどうにも食べたくなっちゃってね。これは自分の都合ですが…」

「あ、あたしも一緒です… イカ素麵そうめん茹蛸ゆでだこが大好きだから、ソウメンなんて聞いてちょうど食べたくなってたんです」

「よし、ちょうど着きました。じゃあしっかり食ってきましょう、タコの鉢巻き… いや腹巻きが千切れるほどに」

「あ、あ、そうか… そういえば腹巻きね、やだ、あはっはっはっは」

ユカさんがちょっと豪快に笑ってくれて気持ち良い。


「いらっしゃいませ!」

威勢の良い声が二人を囲む。

「御予約ですか?」

「はい」

「ではこちらへどうぞ」



 無論イカもタコも軟体動物の仲間である。つまり目玉と手足を得て泳ぐ貝だと思えば良い。

 ヒトなどの多くの動物の身体の体制は「頭→胸→腹→足」であるが、イカやタコのたぐいはまず内臓を内蔵した胴体があり、その下に眼や口のある頭部を持ち、その下に手2本と足6または8本が付いている…  学問的に正確に表現するなら全て「腕」なのだが…  つまり胴→頭→足という構造であるため、分類上は頭足類と呼ばれている。屋台のタコ焼き屋にはでかでかと「タコ」が手ぬぐいを巻いている姿が描いてあるが、あれは「鉢巻はちまき」ではなく正確には「腹巻き」である。ちなみにはちとは頭蓋骨のことを指すコトバで、民話の中にも「鉢担はちかつぎ姫」なんていうのもあったはずだ。


 なんの説明もなしに「腹巻」の意味がわかるなんて、ユカさんはなかなかあなどれない。博士は事務兼アシスタントのつもりで雇ったはずだが、もしかして学者でも通用するかも知れないぞ。


 ユカさんはなかなか食欲旺盛で、気持ち良いくらいに食べてくれる。どうやらサカナよりも軟体動物系が好きで、サカナならば白身系を好むようだ。あとはチーズとかやや焦がしたカルビなどのお肉、生ハムやローストビーフなどで、結構自分と似たような傾向だった。


 客のピークも過ぎたころ、我々もひととおり食べ終わり、ゆっくりスイーツ何種類かずつを楽しみながら雑談… いや仕事の話をしていた。座席はチラホラ空いてきたから急ぐこともあるまい。


「そうそう… うかがいたいことがあったんです。おととい博士が言ってたコトバの意味なんですけど、アタシにも分るように教えていただけませんか?」

「博士のコトバ? んん、どれだろうな」

「えっと、あのC4ベースでC3の葉緑体とキメラ化、CAMの遺伝子で夜気孔、ウミウシのトウ葉緑体機構を利用とか言ってたアレですよ」

「おお、アレですか。正確じゃないかもしれませんが、トライしてみましょうか」

「はい、お願いします。アタシばっかりわからないのがちょっと口惜しくて…」

「すばらしいですよ、その心意気が… じゃ試みてみましょう。ああ、アイスが溶けそうですよ」

「ああ、ホントだ。じゃ失礼ながら食べながら」


「モチロン。ところでユカさんは… 高校は理系選択ですよね、しかも生物選択でしょ。それくらいはわかります」

「ええ、だから光合成のカルビンベンソン回路とか呼吸のクエン酸回路くらいならなんとか」

「C3、C4、CAM植物は?」

「あやふやですが、一応習いました。」

「はい、それで充分です。どっちも酵素反応主体だから、温度条件が大切ですね」

「たしか、最適温度、最適pH、あとは… 基質なんとか…」

「基質特異性ですね。酵素は原則として1つの基質、つまり反応物の反応にしか関わらない」

「そうそう、そんなやつです」

「そして植物にはどうにもならない外的条件が温度なんです。まあpHは植物が整えるけど…」

「ああ、温度はどうしようもないですね。体温ないから」

「人間はアイスが冷たくても深部体温までは下がりませんからね」

「ああ、ニンゲンで良かった。アイスは外せないわ、アタシ」


「ははは… 適地適作って聞いたことあるでしょ? 実は同じC3植物でも、それぞれの葉緑体やミトコンドリアの最適温度は違うんです、植物の種類によって」

「あ、それはわかる気がします。同じ人間だって寒いのが好きなヒトも暑いのを好む人もいる」

「うん、そんな感じかな。ところで、光合成速度、つまり収穫量を最大にするには、葉緑体の最適温度とミトコンドリアの最適温度が違う方が良いですよね」

「ははぁ… 光合成でグルコースを一杯作っても、その分ミトコンドリアが呼吸で浪費したら手元にグルコースは残らないですね… たしかに」

「だから葉緑体が25℃で最適だとすると、ミトコンドリアは25℃ではあまり働いてくれない方が良い」

「その差が植物の収入になるワケですね。きょうのデンプンはなかなか美味しかったわ」


「ビンゴです。日本は暖かめの温帯が多い場所だし、これからの温暖化を考えるとC4植物が適していると思うんです。他の植物に比べて高温が得意で、光が多いときや二酸化炭素があまりないときの効率がC3良いよりも良い。だから葉緑体はC4植物ベースが最適だと思います。でもミトコンドリアはC3植物由来の方が良いワケです。高温で呼吸し過ぎないから」

「C4は明るい時、二酸化炭素が少ないとき、そして高温が得意なんですね、でもミトコンはC3出身のものがいている。だから収量を多くするにはミトコンだけ入れ替えたいんだ」


「C3はC4に比べると低温が得意だけど、葉緑体の効率が悪い。その主な原因は二酸化炭素をPGAという物質に取り込む機構が貧弱なためです。その点C4植物は乾燥にも強いし、二酸化炭素を濃縮しながらオキサロ酢酸という物質に変換していくので効率が良いんです」

「C4は二酸化炭素の取り込みが得意ってことですね」

「…ですね。CAMはC4よりももっと乾燥に強いけど、ほら、光合成の原料になってる二酸化炭素はどこから取り込みましたっけか?」


「それは… 気孔でしょ」

「さすが… CAMの気孔が開くのは夜なんです、なんせ出身地が砂漠とか乾燥地帯だから」

「昼に気孔を開けると… 乾いて死んじゃうってこと?」

「はい。でも夜に二酸化炭素をリンゴ酸やオキサロ酢酸として貯金できる能力は捨てがたい魅力だ」


「あああ、そういうことなんですね。だからCAM植物の【暗くても気孔を開けるシステム】をごっそりいただいてこようというわけですか」

「そうなんですが、ただ問題はある。それは植物だって免疫反応があって、自己以外は受け入れたがらないからです。動物に比べたらゆるいもんですけどね」

「アタシ… ヤぁね… なんかリンゴジュース飲みたくなっちゃった」

「あ、ついでに私の分も注文してください」

「はい、注文しました。ところで植物にも免疫があるんですか」


「そりゃ… 自分以外のもの、たとえば病原体やライバルまで自分の身体の中で増殖とかしたら身の破滅でしょ」

「なるほど… それじゃ導入はできませんね」

「だから、ウミウシのトウ葉緑体能力が必要なんです。トウは盗む、盗賊のトウですよ」

「えっと… よくわかりません、ごめんなさい」

「そりゃ… まだ説明してませんから。ある種のウミウシは渦鞭毛藻を食らうけど、葉緑体だけは生かして自身の細胞の中に取り込んで光合成をさせるんです。それが盗葉緑体」

「ええ、そこまでは分かります」

「ウミウシの細胞が葉緑体を優遇するのか、または葉緑体が自身の光合成能力を売り込むのかわからないのですがね…」

「あああ、わかった! 違う種類の細胞の中身だから同じ細胞内にあるのは本来おかしいことなんですね。そこにはウミウシが葉緑体に対してだけ消化を止めて、免疫も停止させる機能があるに違いないということですか」

「そう、そのとおりです。わぁ、感動しました。ユカさんあなたほんとうにスゴイです」

「いえ… 上手に説明してくれたから」


「お褒めにあずかり恐悦至極きょうえつしごくです… しかし、まだ全部ではありません。もうひとつ、葉緑体自体がウミウシの細胞に働きかけている可能性もあるでしょう」

「葉緑体が? なぜですか」

「そりゃ食われたくないからでしょう。葉緑体の原型は立派な生物、藍藻シアノバクテリアだって」

「あああ… たしか細胞共生進化説… だったかな。ミトコンもそうなんですよね。」

「それですよ、まさに。そのシステムをC4植物または葉緑体に導入できれば… 夢がぐっと近くなる気がしませんか。そして同じように最も適したミトコンと組み合わせるんです。そしてそれを目的の作物に導入することができれば…」


「なるほど… ラクさん、やっとわかってきたわ、ありがとう。最後にキメラってコトバを教えてください。何回か聞いたことあるんだけど、怪獣みたいな感じだっただけで一度も調べたことがないんです」

「おおお、忘れてました」


 私は到着した完熟パイナップルを1つ口に放り込みながら考えた。


「どう説明しようかなぁ… もともとキメラっていうのはギリシア神話に出て来る怪獣です。どれがどれだか怪しいですが、たしかライオンの頭、ヤギの胴、蛇の尾を持っていて、おまけに口から火を吐く設定だったと思います」

「いろんな動物のぎっていうか、パッチワークみたいな感じですか?」

「そうそう、ちょうどそんなイメージです」

「そりゃ怖いかも… だけどどういう機能っていうのかな、メリットがあるのかしら。しかも免疫の観点だとどう考えてもヘンですね」

「一瞬でそう考えるユカさんの感性が素晴らしいんですよ」

「アタシ何か良いこと言いました?」


「もちろんです。ちょっと長くなりますが… 【キメラ】は【異なる遺伝子型の細胞が共存している状態の1つの個体】を指すコトバでして、たとえば【植物の接ぎ木】もキメラなんです。このカッパ巻きのキュウリ、カボチャの根と茎にキュウリの茎をいで栽培してるんですよ」

「そうなんですか? えっと… わざわざやると言うことは、なにかメリットがあるんですか」

「キュウリがうどん粉病とかに強くなるんだそうです」


「じゃあ動物でも?」

「それが… そうはうまくいかないみたいでして… 脊椎動物は植物に比べると非常にシビアで、成長した個体はモチロン、幼体でさえ成功はしないんです、どうやっても。うまく行くのは【胎児や胚】のうちだけで、その頃なら移植でニワトリの腕(羽)の部位のウズラの模様がついた腕(羽)を付けたキメラはできてますよ… 何年前だったかなぁ」

「はは~ん… つまり産まれてからでは遅い… と?」

「…ですね。逆に言えば免疫系の司令官の【ヘルパーT細胞】が自他の認識ができるようになるのは【生後】ということです」

「じゃぁ、動物でキメラをつくるには産まれる前に手術が必要だと?」

「そうですね。異種細胞の注入でも良い」


「なるほど… それで博士は【C3やC4や各種のミトコンドリア】を【1つの細胞とか個体に導入するとき】に【盗葉緑体の仕組み】を使おうとしてるんですね」

「そう… それでパーフェクトです」

「ありがとうラクさん、たぶん理解できたと思うな… だいぶややこしいけど」

「こちらこそ。しっかり聞いていただいて、こんなに美味しいお寿司は今までなかったですよ、ホントに。ですが、そろそろ良い子はおうちの時間ですね」

「あの… アタシは悪い子なんですけど…」


 あ、これは口説けるんじゃないの…

そんなココロの本音を押し殺し、気付かないフリを装った。そんなガッツクようでは人格を疑われかねないし、私の人生哲学に反してしまう。


「では悪い子さん、ひとつお願いがあります」

「う、なんですか? 借金はお断りよ。貸すモノがない」

「ははは、とても大切な心掛けです。でもそうじゃなくて… あの、また近いうちにご一緒させてください、というお願いです」

「まあ、それは… こちらこそお願いします… わぁ、こんなに時間が経っていてびっくりしました」

「まったくです、楽しすぎて時計の存在を忘れてました」


「私からもお願いがあるんです。せっかくスマホ出したから」

「ああ、そこまで! それはわたしからのもうひとつのお願いなんです。ラインの交換をお願いします」

「ふふふ… ええ、喜んで… これアタシのIDね。… ねぇ、今度は洋食にしましょ、良いでしょ?」

「喜んで… 夜景を見ながらが良いですね。今日はもうシンデレラタイムかな… 明日があるから」

「わかったわ、じゃ送ってください」

「残念ですが、そうしますか」


 彼女がトイレに行っている間に会計ボタンを押し、カードを出しておく。

「あら、レシートは?」

「私が誘ったので、今日は御馳走させてくださいね」

「じゃぁ… お言葉に甘えて… ありがとうございます。御馳走様でした… とても楽しかったわ」


 店を出た時、そっと彼女の手をとり、クルマまでのほんの少しの距離をエスコートして歩いた。彼女はそっとその手を握り返してくれた。


 嬉しかった。


 ユカさんの家の前での別れ際に

「ユカさん、ありがとう。これにりず、またお願いします」

「絶対ですよ。約束ね」


 返事の代わりにユカさんの頭をそっと撫でると、ユカさんが一歩前進して… 自然に… それは嘘だ、二人が互いに意図して、ぎこちなくハグする形になった。


 ほんの軽く抱き締めたあと

「良い匂い… くらくらしちゃいました。絶対ですよ、おやすみなさい」

「絶対、約束ですよ… きょうはありがとうございました。おやすみなさい」


 きょうは予想以上にうまくできたと思うけど…

息子殿が緊張してたこと、間違いなく悟られてしまったな。


 ま、いいか。


だって、男の子だもん…


第3部分で書き損なったこと、しっかり御指摘をいただいたので、反省と自戒を込めて次回分を書きました。

ありがとうございます。

でもこのシリーズはどうしても説明が多くなって結構書くのが難しいですね。

次の構想がないのでいったん終わりますが…

アイデアが浮かんでしまったら…どうしましょ? 


感想、ブクマ、評価等での応援をお願いいたします。

                   茶茶

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