第14部分 統一理論 その2
第14部分 統一理論 その2
博士との討論は"ジュールの法則"と”相対性理論との比定”という2つのテーマを経て第3幕を迎えている。
「それでですね博士、素粒子の世界で言う、”自然界の基本的な4つの力”のことなんですけどね…」
『ああ、あれね… 強い力、弱い力、電磁気力、そして重力の、あの4つかね』
「それそれ、それです」
『それのどこら辺が?』
「ええ、”自然界”が固有に持っているとされる4つ、すなわち〔強い力〕〔弱い力〕〔電磁気力〕そして〔重力〕ですが、まあ正直あまりよくわからないんです。まあボンクラの素人なんでいままで放置プレイしてしまったんですけど、それぞれの強さや影響範囲、そして働きかける対象が異なりますよね」
『ふむ、続けてみたまえ』
「うろ覚えで済みませんが、〔強い力〕が最も強くて陽子と中性子をまとめて原子核を構成する力、次に強いのが〔電磁気力〕、次いで日常では感じにくい〔弱い力〕ですよね… このへんからよく解らないんです。そして最も弱いはずの〔重力〕ってのが、最も遠くまで天体の運動など超巨大なスケールを支配し、壮大な相互作用を齎している… 1つ1つは弱いクセに、そしてたしか正体も観測方法もなかなか難物な重力の正体っていったい何なんですか?」
『ほほう… たしかに壮大じゃな。ならばラクどんは”大統一理論”というのを聞いたことはあるじゃろ?』
「言葉だけは… ですが、ええ、ありますね。たしか〔強い力〕〔弱い力〕〔電磁気力〕は昔は1つの原理だったけど、ビッグバン以降の冷却期を経過したことで各々が分離していったんじゃないか、という仮説ですよね、でもこれが完成したというニュースはまだ聞いたことがないんです」
『理論物理学の世界ではな、知っての通りこの4つの力を1つの原理として扱うのが理想なんじゃよ。それがな、名前だけはスゴい”超大統一理論”とかいう仮説じゃが、現実的にはまだまだ胎児のような発生具合とそうたいして変わらんじゃろ。少なくとも4つのうちな、3つだけでも統一したいなあという願望的仮説が”大統一理論”なのじゃが… そのへんは承知できておるかの』
「あのころはたしか… でもまだ証明は為されていませんよね」
『うむ。まだ今も未だに ”NOT YET” な。ただし2つの力についてはすでに”統一”されておるし、それなりの実験的証明も成されておるが… これは知っておるかの』
「ええ… たしか〔弱い力〕と〔電磁気力〕だったかな。えっと… 電弱統一理論とかそんな名前だったはずです」
『ほう、よく覚えておったの… 日本語表現としては〔電磁相互作用〕と〔弱い相互作用〕を統一したのが電弱統一理論、またはワインバーグ=サラム理論と呼ばれるものじゃ。なぜかグラショウという科学者の名はいつも省略されておってな、理不尽で気の毒すぎるんじゃが… まあノーベル物理学賞は3人で受賞できたがな… たしかは、1979年か、80年くらいのことだったぞよ』
「とりあえず博士、改めて復習というか確認しておきたいんで、4つの力というヤツを博士の解釈で御説明いただいてもよろしいですか? 辞書代わりに便利に使っちゃって申し訳ないですが、とにかくわかりやすいんですよ、僕には、ね」
『ほほう、煽てとモッコにゃ乗りたかねぇが… まあ良いじゃろ』
ニコニコ笑って、博士はやっぱり頗るゴキゲンである。
『まあこんなことが解ってもな、1銭にもならんのじゃがな… まず身近なところで電磁気力から行ってみるか』
ここはいちいちの問答を省いて、博士の論述を僕の解釈でまとめて記述しておこう。
・電磁気力(electromagnetic force)とは… +(プラス)と―(マイナス)の電気によって引き起こされる力。原子核と電子の間に働き、原子を形成したり、電気的な反発や引力を生み出す。つまり原子が成立する理由や 分子が構成される理由、および光の出る現象にはすべてこの力が関係する。生物の生理作用や工業技術のほとんどすべてはこの力の性質を利用している。媒介粒子は光子(光)で、到達距離が長い。
・弱い力(weak force)とは… WボソンとZボソンという”質量を持つ粒子”によって媒介され、粒子の種類を変える役割を持つ。例えば”中性子”がベータ崩壊、すなわち”電子”を放出して陽子になる現象に関わる力である。力の到達距離は極めて短い。待て待て、だいたいボソンで何なんですか… とボソンと呟いてみるが、博士は止まらない。
原子の種類は”陽子数”によってきまるので、1個の中性子がベータ崩壊を起こすと”陽子数”が1つ増え、原子の種類が変わるのと同時にベータ線(=電子線)が放出される。例えば放射性同位体である炭素原子14 (¹⁴C)は徐々にベータ崩壊を起こして窒素原子14 (¹⁴N)に変わりつつ電子を放出する性質を持っている。
ちょっとまとめておこう。
念のため添えておく。”質量数は陽子数+中性子数の合計”であり、”原子番号は陽子数”を示すものである。すなわち質量数から原子番号(陽子数)を引くと中性子数を算出することができる。
質量数 陽子数 中性子数
炭素原子14 (¹⁴C) 14 6 8
↓
窒素原子14 (¹⁴N) 14 7 7 + 電子1個放出(これがβ線)
この時の電子1個の質量は陽子1個の約1/1840であるため、通常はほぼ無視できる。
なお、極めてエナジーが大きな状態、例えば温度に換算して1000兆℃(10^15 ℃)程度以上では電磁気力と弱い力は区別できない単一の力になる(電弱統一理論、またはワインバーグ=サラム理論)などと言われてもさ、もうこんな凄まじいエナジーは”ゼットン”にしか出せないんじゃないだろうか。ちなみに”ゼットン”とは初代ウルトラマンを倒した架空の怪獣である。こいつはプロフィール上は【一兆度の火球】を出すとされているが… あれ、それでも1/1000にしかならないではないか… ムリだムリだムリだぁぁぁorz
・強い力(strong force)… 電磁気力に対して”弱い”ことからのネーミング。 原子核内で互いに+(プラス)の性質で反発しあうはずの陽子同士を結び付けている力。非常に近い距離では非常に強い力が働くという。たしかにそうでなくちゃすぐ崩壊して薔薇薔薇だわな…
ことさらに難しく言うならば、素粒子論におけるゲージ粒子である8種のグルーオンが媒介するクォーク同士を結合させる力で、強い相互作用とも呼ばれる。代表的な例は核子間に働く核力である。ちなみに”グルー”とは接着剤の意味を持つ。
重力(gravity)… 他の力に比べ非常に弱いが、 遠くまで伝わるという特徴を持つ。質量を持つ2つの物体の"質量の積に比例"し、"物体間の距離の二乗に反比例"して働き(万有引力)、重力相互作用とも呼ばれる。ただし力を媒介する”重力子”は未定である。
ニュートンは古典力学で重力を定義したが、アインシュタインは一般相対性理論により重力を時空の構造に組み込んで解釈し、重力が強い場所や変化にも応じることができた。
ただし、ここでいう”重力”とは”狭義の重力”とはやや異なるので要注意である。
地球上の物体に働く力としての”狭義の重力”とは
”狭義の重力” = ”地球による万有引力” - ”地球の自転による遠心力”
であり、上記広義の重力はそういうチマチマしたことは軽く無視する壮大なスケールのものであるが…
ついでにちょっと寄り道して書いてみよう。
今の世界線では常識ながら、地球は自転している。1日24時間で赤道上の距離4万km分だけ移動して元に戻るのでその接線上の速度は
40000km/24hour = 1666.7〔km/h〕 であり、これは秒速463〔m/s)に相当する。慣れとか日常というものは恐ろしいもので、音速が時速1224〔km/h〕、秒速340〔m/s〕ゆえ、音速なんぞは軽くぶっちぎっている速度なのだ。そりゃ遠心力だって相当発生するに違いないぞ。
同じニンゲンが赤道上で体重計測した場合、南極や北極といった極点で計測した場合に比べて外向きの(上向きの)遠心力を受けている分だけ”体重計の示す体重”は軽く見える。重力加速度gは一般に9.8〔ⅿ/s^2〕とされているが、もう少し正確にその値を示すと極地では9.819〔ⅿ/s^2〕、赤道では9.781〔ⅿ/s^2〕程度である。従って質量100kgのもので計算すると9.781(赤道)÷9.819(極地)= 0.996=99.61%となり、極地で100kgのものが赤道では99.61kg、つまり差が390gほど軽く表示されるし、体重50㎏ならざっと200g程度の差となるワケだ。あくまでも変わるのは遠心力であり表示であって、質量ものものが変わっているワケではない。
残念でしたね、世の小太り女性の方々…
だから体重を気にしつつもおやつを止められない邦人女性諸氏も、体重測るならなるべく家の敷地の南の方で…とかそんなこと考えるより、より本質的なところで変革を… おっとこれは要らぬ説教でした。
『それでだな… いよいよ大統一理論の概要へ行ってようかと思うのだが… ラクどん、ココロの準備はよろしいかな… まず大統一理論とはな、この4つの力のうち、 電磁気力、弱い力、強い力という3つの力をゲージ理論の同じ記述で統一し表現しようという仮説的理論のことを言うのじゃ… 4つのうちの3つでさえ、まだ1度も実験的に検証されたことはないのじゃよ』
「ええ… ええええ。あの、その、そこらへんまではなんとか予備知識としては無いワケじゃないんです。でも、あの… そこで出てくるゲージ理論とかなんとかその辺から途端に… その…」
『早い話、分からん、と?』
「ははあ… 面目ないですが御明察の通りです」
『ダイジョブじゃ… ラクどんにはな、はじめから面目などあるまい』
これはそのとおりで、もう笑うしかない。
『ならば… 基本中の基本として、クォークの種類とか役割くらいならなんとかイケるかな?』
「あああ、そこらへんからです、アップクォーク、ボトムクォーク、ダウンクォークとか… あとストレンジクォークなんてもの… たしか6種類くらいありましたよね… あのへんから珍紛漢紛でハテナ鳥が脳内飛び巡ってます」
『それは… 正直話にならんのう… 次はその辺をきちんと理解してからの話しじゃな。今日はもうこれで終わろうかの』
「ええ… そうですよね… ただ一応直感的に思った結論だけですが、ここで言っておきたいって思うことがあるんです。あと15秒だけ」
『うぬぬ、まあいい、さあ言ってみたまえ』
「あの重力って質量のあるところに必ず発生するんですよね、光あるところ必ず陰があるように。だったら”重力もまた質量の1形態”なんじゃないかって思ったんです。つまりはエナジーの1形態なんじゃないかって。それだけですが…」
『何っ?』
博士が鋭く僕を見た。
1分ほど固まったあと、ふと表情をやわらげた博士が独り言のように小さく言った。
『鉄原子には質量があるが、同時に磁力も同時に持っているのう。普段は気にも止めんが当然重力も持っておる。それが全部エナジーの形態の違いということか… ミッシングマスとかダークマターにも関わるし、おうそうか、宇宙空間の観測できる平均質量と空間で比を算出し、理論と実際を改めて比較してみたら… もしやダークマターは実は誤りかもしれんしのう…』
ニヤっと笑った博士がこちらを見て
『この件はちょっと保留じゃな… いやだいぶ長くかかるかもしれんが、ちょっと面白い。いま結論を出すのは拙速と見たのう。よろしい、じっくり考えてみよう。ただ、今日は御仕舞じゃ。梅子がの、今日は餃子を馳走してくれるそうじゃからの…』
「それはそれは… 晩酌がうまいですね」
『いやしかしな、一長一短でもあってな、こういうときは決まってなかなかに寝つかせてくれんからの』
「おおお、これはごちそうさまでした… もうおなかいっぱいです。あ、腰も… その、お大事に」
『あとは摩擦による過熱… それとクモ膜下出血と心不全にも気を付けんとな。”恋の心筋高速で超即死亡”とか、恰好のニュースにはなっても洒落にはならんからの”』
謹厳そのものの顔で博士が言った。




