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沫土菜園テスト農場(マツドサイエンテストのうじょう)  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第12部分  ジュールの実験 その3

第12部分  ジュールの実験 その3



ああ、美味しかった。

チキンラーメンにしろこういうカップ麺にしろ、大学時代にはとにかくお世話になった。研究室で徹夜が続けばやはりどうしても頼りにしてしまう。無ければ無いでガマンするとか、他のモノを工夫して食べてたんだろうけど、あればこいつを利用するのが最も確実にかつ安価に食欲を満たすことができる。しかもほどほど美味しいのだからストックしておくのがいつしかクセになっていた。


「そろそろ博士、後半戦いきますか?」

『うむ、行くか、で、⑷は何だったかな… メモメモ… これじゃ、温度計の精度か。これもワシにはうまく語れそうもないが… 一緒に実験したワケじゃないからの。ジュールのほうがよっぽどお爺ちゃんだからの』

「じゃあ、それこそNETで検索してみますか」

『それいこう!』


「ジュール 温度計 精度… これで良いかな、検索っと ホイ」

『どうかね、そんなマニアックなことまではさすがにどうかな』

「と、と、と、と… あ、ありますよ博士」

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscta1974/29/5/29_5_199/_pdf


『どれ…ほう、これは御手柄じゃのう… なになに?』

「博士、なんかすごいこと書いてありますよ。”ジュールの測定は、後には温度で200分の1華氏かしまでの精度を誇っている”とか、そんな文章があります」

『200分の1? う、うそじゃろ、そんなバカな…』

「特殊な物を自作したんですかね」

『かもな… 普通の温度計ではさすがに…』


「あっ、こんな記事も見つかりました」

http://kigurom.web.fc2.com/HP2/report/012/012.html


『これ、カップ麺を作ろうとしとるのぉ(笑)』

「やはり科学者のやることなすことは似てるってことですかね。これには”温度計の目盛りを200分の1まで目測できるよう訓練した”って書いてありますよ」

『ということはなにか、1℃刻みの温度計ならば ”0.005度” まで無理矢理読んだってことかね… これはもう意地とか執念の世界だな… ワシの負けだ、完敗だ。敗戦記念日に乾杯!』

博士が氷の入った麦茶を飲み干した。


「ところで博士、ジュール先生の頃の温度って、最初の文献のように華氏かしでしょ」

『常識的にはそうだな。摂氏せっし℃、華氏かし℉、絶対温度Kケルビンのどれかと言えば断然℉じゃろな』

「セルシウス温度、つまり摂氏温度は水の融点を0℃、沸点を100℃に定めて100等分した温度、

 ケルビンKは刻みは摂氏温度と同じだけど絶対零度-273℃を0(ゼロ)Kにしてカウントする温度、

 そしてファーレンハイト温度、つまり華氏℉はちょいとややこしくて、水の融点(凝固点)を32 ℉、沸点を212 ℉と定めたからKや℃の5/9の温度間隔になっている… ざっとこんなもんですよね」


『まあ、そうだな… 華氏は本来は「かし」じゃなくて「ファし」と読むべきだろうけど、いつのまにか”なまった”かな(笑)… 支那語チャイニーズでは、例えば華大人か・たいじん華大人ふぁん・たーれんと読むからのぉ… ところでな、なんで温度の定義とか日常いささかも役に立たない雑学トリビアが言えるのかね』

「ははは、確かに… dLデシリットルよりも使いませんね。昔ビックリしたんですよ… たしか高温の記録だったんですが気温が100度を越えてて… さすがに沸騰しちゃうって! 華氏なら100℉とはいえ摂氏なら38℃くらいですからね… 以来特にアメリカの温度表示には注意してるんです。これもね、小さい頃からね、実は父親が理科教師でして、よく得意気にひけらかしてたので、知らず知らずに覚えちゃったんです」

『だとしたら、やや正確さに掛けておるぞ。そんなことじゃいかん』

「あ~はいはい、気圧は760mmHgミリメートルすいぎんつまり1気圧で… なければ今なら1013hPaヘクトパスカル、水は純水と表現しなければなりませんね」

『うむ、そこまで念を入れるのが科学的態度である、合格!』

どうも学者さんという種族は正確さを優先するあまり、そういう融通が利かない傾向がある。


さらに博士が慌てて言い足した。

『待てよ…ジュール先生は0.005℃の、さらに5/9だから… 電卓電卓… 0.00277℃まで見分けたって?』

「ねぇ博士、そんなの無理じゃないですか? いかに何でも」

『うむむむ… そうじゃな、正確を期すならどう頑張っても10等分の半分、つまり1/20が現実的な限界じゃろな』

「僕にはそう思えちゃったんですよね。たとえ本当だとしても、訓練を重ねたとしても、それを客観的に証明する手段すべが無い以上、悪く言えば”言った者勝ち”になってしまう。もっと悪く言えば捏造ねつぞうし放題ということにもなりかねないから、実は科学的じゃないように感じます… こまか過ぎるがゆえに、逆に疑わしい」

『当時の実験設備なら、断熱も思うようにはできなかったじゃろうしな、ワシも本人の一次データを見たワケではないが、あまりにも現代科学の測定データと近似しているならば、ラクどんの言う危惧きぐも分かる気がするの。実験誤差とロスとロストが付き物の世界ゆえに、な… 本当に正確だったのか、はたまた偶然か、もしかして捏造改変か…』

二人は一時いっとき黙り込んでしまった。


「それにしても博士、ジュール先生がすごい努力家で、他に誰もやらなかった研究を成し遂げた先駆者であることは間違いないです。沫土菜園テスト加速器研究所もプロジェクト晴嵐に向かって進んでいきましょうよ、それが、やがてきっと世界のため、環境のために役立つ日がきますから」

『うん… ラクどんまだまだ苦労を掛けるが、よろしく頼むよ』


「はい…」

なんとなく僕がもじもじしていると博士が

『どうした…? 言ってみるが良い』

と促してきた。


「あの、もう少し… いや結構たっぷりお時間裂いていただいてもよろしいですか」

『ついでじゃ、さあ、、語ってみるが良い』

「おや、あの、素人考えでまことにお恥ずかしいのですが…」

『さあさあ、勇気を出して』

「では… 今のジュールの続きですが、式ではこんな形でしたよね。

 仕事〔J〕 = m質量〔kg〕 × g重力加速度〔m/s^2〕 × h高さ〔m〕」


『ふむ… 続けたまえ』

「突然なんですが、例の E = mc^2  つまり 

 エナジーE〔J〕 = m質量〔kg〕 × c光速(m/s)^2

と似てる気がして仕方無いんですけど… これって気のせいですか?」

『なる… アインシュタイン、相対性理論、そう来たか… 同じエナジーの話しじゃからのぉ…』


博士が腕を組み、目を瞑って黙り込んだ。



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