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第一話 生れ落ちて数日

 異世界で生まれたことに気が付いたのは、ほんの少し前のことだった。

 もとの世界で死んでしまったことにモヤモヤしていたのはさっきまでのことだ。

 せっかくの新しい人生なのだから、最強の魔法使いになって、ついでに最強の剣士にもなって、伝説を残してやるぞと野心を燃やしているのが現在である。


 生れ落ちて数日。

 やっと目が見えるようになって周囲の状況を観察できるようになり、これが異世界転生であることに気が付いた。

 けして短絡的にそう考えたわけではない。

 目の前で魔法を見せられてしまっては、そういうことなんだと納得するしかなかったのだ。


 だから大がかりなセットを用意して、生れたばかりの赤ん坊にドッキリを仕掛けるとかの可能性を否定すれば、ここは間違いなく異世界である。

 石油製品すらない、産業革命以前の世界だろうと思われた。

 もとの世界にはなかった衣服、照明、髪の色からもそれがうかがえる。


 今は、とんがり帽子をかぶった婆さんに、我慢しきれず出してしまった排泄物を綺麗にしてもらっている最中だった。

 婆さんは、空中に浮かべた生温かいお湯の塊を操る魔法使いであった。

 この婆さんも、まさか目の前の赤ん坊が野心に燃えているとは夢にも思わないだろう。


 魔法使いでありながら、その身なりからして使用人ではないかという気がする。

 そうなると、ちょっと魔法を使えたくらいでは、たいして偉くもないという世界観であることがうかがえる。

 逆に言えば、おれに魔法の才能がある可能性も低くはない。


 とりあえず状況を整理してみると、ここはそれなりに金のある一家が住んでいるであろう巨大な屋敷の一室だ。

 世話をしてくれる人の数や、廊下の広さからして両親はかなりの富豪であろう。

 おれの世話をする使用人だけ見ても、いったい何人いるのかわからない。


 部屋の中には、もちろん電化製品などはなく、どんな原理で発光しているのかもわからないような照明器具が置かれている。

 周りの大人が着ている服なども、大量生産されたものには見えない。

 窓にはまっているガラスの透明度からも、工業レベルは低く、便利な魔法があるといっても生活レベルは中世のそれである。


 つまりは、憧れの中世ヨーロッパ的なファンタジー世界にやってきたということだ。

 もとの世界の知識は十分にあり、物理法則などにも違いはみられない。

 おれの持っている知識は、この世界でも十分に通用するはずだった。

 魔法の存在だけが唯一異質な部分である。


 転生したからといって、落ち込むような心境ではなかった。

 前の人生に、なにがあったというわけではない。

 むしろ何もないことの方が問題だった。

 理不尽なことに抵抗する気力もなくて、魂が抜けたように流されるだけの人生だった。


 自分の活躍を思い描いているのに何を始めたらいいのかもわからず、ただ過去に後悔していただけだ。

 ようするに、空想の中に逃げ込んでなにもしてこなかった。

 そんな普通の人生である。

 だから次の人生では、後悔する暇もないような生き方をしようと思った。


 これまで溜め込んだ鬱憤を晴らすような生き方をするのだ。

 前の人生は、そのための糧にしてしまえばいい。

 常々やり直したいと思っているような人生だったのおれにとって、この生まれ変わりは大きなチャンスである。

 すでに調子に乗って、将来は大物になること間違いなしだと浮かれているくらいは大目に見て欲しい。


 それにしても、本当に多くの大人が代わるがわるおれの所にやって来ては、理解のできない言葉で話しかけてくる。

 彼らの話す言葉はわからないが、その表情からして好意的な言葉を発しているだろうことだけはわかる。

 おれは魔法とかよりもまず言葉を覚えるべきであろうと結論した。



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