⑥-02-96
⑥-02-96
領都ロムスコの門は開いていた。
アンデッド騒動はここらには関係ないようだ。
街に入るための列が連なる。
壁は5mはあるだろうか。
結構な年季がありそうだ。
門脇の八角塔の頂上にはグリフォンに跨る騎士の像。
一方の騎士は剣を、もう一方の騎士は槍を持っている。
両方の騎士はグリフォンが描かれた旗を片手に持っている。
列に並んで人々を観察する。
「特段、不安そうな様子は無いな」
「ですね。盗賊の被害はここらでは無いようですね」
「冒険者や商人、農民や樵でしょうか。色んな人が居ますね」
「あぁ。日常的な面子だな。これは街は安全ってことでいいみたいだね」
「まずはゆっくり旅の疲れを落としますか~」
「「そうしましょー」」
検査を終え入街税を払い街の中へと入った。
「ヴィヴィエントよりかは小さいかな」
「そんな感じですね」
「ヴィヴィエントはここより大きいんですか」
「あぁ。また今度・・・ほとぼりが冷めたら連れて行ってあげるよ」
「はい!」
街並みはヴィヴィエントよりかは少し地味だ。
だが賑わっているようで人の通りも多い。
どちらかと言うと木造の建物の方が多いようだ。
「これからどうします?もう届けます?」
「いや。もう夕方だ。急ぎの手紙では無さそうだし今日はもう宿に泊まろう」
「そうしましょうか。ゆっくりお風呂に入りたいわー」
「はい!」
「そうだな。風呂のある宿を探そう」
少し高めの宿で1泊して翌朝宿の人に討伐隊本部の場所を聞いて向かった。
本部は領主の別館に設えているらしい。
領主の屋敷に向かうと門には衛兵がいる。
「こんにちは。ここは王国軍盗賊討伐隊の本部と伺って来たのですが」
「その通りだ。何か用かね?」
「失礼ですが討伐隊の関係者ですか?」
「あぁ。門番を任されている」
「フォセンの冒険者ギルドのギルド長から手紙を預かっていまして」
「タルバ殿から?見せてみろ」
「はい、こちらです」
「ふむ。確かにフォセンギルドの封蝋。分かった案内しよう、来たまえ」
「えっ、渡していただければ結構なのですが」
「ギルド長からの手紙だ直々に渡した方が良い。それに君達は冒険者なのだろう?これも依頼なら達成サインが必要なはずだ」
「・・・分かりました。案内をお願いします」
「あぁ」
門衛が1人離れて僕達を案内してくれることになった。
「少し変わったバッグだな」
「まぁ・・・」
門を入って正面の屋敷が領主本館で、別館は更に奥にあるみたいだ。
本館より小さいがそれでも領都の領主の館だ。堂々たるものだった。
別館の扉前に居る門衛に言伝る。
扉は開いていて中の様子が見える。
夏だし開けているのだろう。
「フォセン冒険者ギルドのギルド長からの手紙を届けに来た冒険者を案内した。あとは頼む」
「了解した。ご苦労」
「では」
僕達に目線を送り門衛は戻っていった。
「手紙を渡したまえ」
「はい」
「しばしここで待つように」
「はい」
2人居る門衛の1人が手紙を受け取り中へ入って行った。
僕等は扉から少し離れて辺りを見回している。
別の門衛がその様子を見ている。
「2階建てか。結構部屋数もありそうだ」
「そうですね。ちらっと中を見ましたけどなかなかのエントランスでしたよ」
「本館は迎賓用、こっちが居住用かな」
「居住用を本部に?」
「メイド達の部屋を宛がっているのかもね」
「軍だから人数多そうですもんね」
「迎賓用の高そうな調度品なんか壊されたら堪らんだろうしな」
「この辺りは高そうな家が並んでましたね」
「上等市民区ってところか」
「君達!こちらに来たまえ」
「はーい」
「討伐隊長が君達に会うそうだ。付いて来たまえ」
「「げっ」」
「どうした?」
「い、いえ」
「こちらだ」
「は、はい」
門衛に案内されてエントランスを通り2階に上がってしばらく歩いた部屋の前で止まる。
部屋は開いていた。
「失礼します。手紙を届けた冒険者を連れて参りました」
「ご苦労。持ち場に戻れ」
「はっ」
女の声が帰って来た。
「入ってくれ!」
「お邪魔しまーす」
部屋に入ると目の前の机を挟んで女性が座っており、その左側にこれまた女性が立っており、右側はおっさんが立ってこちらを見ていた。
ブルッ
「ん?」
「あれ?」
「?」
身体がぞわっとした感じになった。
2人も同様のようだ。
そこに中央の座っている女性が口を開く。
「私が王国軍盗賊討伐隊隊長のエリーテ・ファーダネだ」
「ど、どうも」
「フォセン冒険者ギルド、ギルド長タルバ殿からの手紙確かに受け取った。礼を言う」
「い、いえ」
「依頼票にサインが要るだろう。出したまえ」
「は、はい。お願いします」
バックパックから依頼票を出して渡そうとしたが、左の女性が受け取って隊長に渡す。
「・・・よし。では受け取りたまえ」
「はい」
隊長は女性に依頼票を渡し、女性が俺に渡す。
「ではこれで失礼します」
「まぁ、待ちたまえ」
「あの、何か?」
「盗賊団の噂は聞いてるかね?」
「少しですが」
「どんなものだい?」
「かなり討ち取ってあとは時間の問題だろうと。流石王国軍だともっぱらの」
「はっはっは。かなりの尾鰭が付いてるな」
「噂ですから」
「そうだな。時に君達。フォセンでは活躍したみたいだね」
「えっ!?」
「タルバ殿が感謝していたぞ」
「あのオヤジ!」
「貴様!タルバ殿になんて言い草だ!」
「よせ、レネ!」
「・・・はっ」
「フォセンには悪い事をしたと思っていたんだ。魔術士が討伐隊に編入されてね。あぁ、冒険者の志願者を討伐隊に組み入れてるんだ」
「そうですか」
「周辺の魔術士が討伐隊に集まってしまったものだから・・・特に割を食ったのがフォセンだったんだ。まさかアンデッドが出るとは。弱り目に祟り目って所かな?」
「泣きっ面に蜂ですね」
「踏んだり蹴ったり?」
「一難去ってまた一難?」
「苦死にののちにゾンビ?」
「ゾンビからのゴースト?」
「その辺でもういいぞ」
「「はい」」
「そこに君達のお陰でアンデッド騒動は片付いたと」
「いえ、僕等ではなくフォセンの皆さんの協力で成し遂げたのです。僕等は他の冒険者と共に冒険者の役割をこなしただけです。街の人それぞれが、それぞれの役割を果たしたからこその結果です。ではこれで」
「まぁ待て、って、レネ!連れ戻せ!」
「はっ!」
「全く、話は途中だぞ」
「閣下もお忙しいでしょうから気を利かせたつもりなのですが」
「気遣いは有難いが」
「そうでしょう。ではこれで」
「待て!レネ!」
「はっ!」
「なるほど、目立ちたくないというタルバ殿からの報告だが」
「あのオヤジ!」
「貴様!」
「レネ!」
隊長は茶を飲み一息入れる。