⑤-15-91
⑤-15-91
「エ、エチル君」
「何でしょう」
「誠に申し訳ない」
タルバギルド長が深々とお辞儀をした。
「済んだことです。それより統治官ですよ」
「そう、だな。すまない。そっちの対処を先に済まそう」
「えぇ。相手はまだ知らないのでこちらから動けますが、どうします?」
「うむ。話を中央、に持って行く」
「中央?」
「うむ。王都だ。我々冒険者ギルドには統治官を逮捕・拘束する権限はない。それを持ってるのは領主か中央政府だ」
「なるほど。領主に持って行かない理由は?」
「グルになってる可能性もある。その場合握り潰されるだけでなく我々の身も危うい」
「王都まで遠いのですか?」
「あぁ。しかし幸い、今は勅命を受けた王国軍が近辺に駐留している。先ずそこに話を通す」
「「「王国軍?」」」
「あぁ。今この国で暴れまわっている大盗賊団の討伐の為だ」
「あぁ。それで魔法使いが居ないんですよね」
「そうだ。各地の盗賊団員は討伐されてるが肝心の首魁がまだ捕まっていない。討伐軍の軍団長にこの件を話す。普通なら関係無いだろうとスルーされるだろうが」
「盗賊の首領を捕まえられていない焦りからこの件で埋め合わせられるかもと考える、って事ですね」
「その通りだ。盗賊の情報を集めている間に知ったという体でいくだろうと思う」
「なるほど」
「それに軍団長はなかなかの人物と聞く。しかも勅命を受けるほどの人物だ、グルって線もないだろう」
「結構です。そちらはお任せします」
「分かった、任せてくれ」
「あと今の2人の冒険者は大丈夫ですか?」
「あぁ。ギルド直属の冒険者だ。1人はワシの息子だ」
「では統治官に沙汰が有る迄はジャンは下に?」
「あぁ。この件は4人しか知らないようにしておく」
「・・・」
「ま、任せてくれ」
「分かりました。では僕達はいつも通り振舞えば良いですかね?」
「あぁ、それで良いと思う。統治官は、契約した冒険者が居なくなって不審に思うだろうがこちらが何もアクションを起こさなければバレてないと思うだろう」
「犯罪者は都合の良い方へ考えがちですからね」
「あぁ」
「ではこれまで通りで。シレナさん」
「はっ、はい!」
「流石に疲れましたので今日明日は休もうと思ってます」
「わっ、分かりました!十分に休んでください」
「護衛はまた手配しよう」
「いえ、結構です」
「「え?」」
「むしろ居ない方がのびのび殺れていいですよ」
「しかしそれでは・・・」
「なぁに、また返り討ちですよ」
「は、はい・・・」
「あと」
「な、なんでしょう」
「宿舎を僕達だけにしてもらえませんかね」
「え?」
「宿舎に誰もいないようにして欲しいんです」
「で、でも・・・」
「何かあった時、巻き添えで殺してしまうかもしれませんよ」
「・・・」
「分かった。そうしよう」
「お願いします」
「食事だけここに来てくれ、用意する」
「分かりました」
「では、ゴースト退治は継続してくれるんだな」
「勿論ですよ。僕達は冒険者です。この街の為に命を懸けてがんばります!」
「お、おう」
僕達は3人しかいない建物で寛いでいた。
「ふうぅ。やっと休めるな」
「でも3日は見張ってるだけで戦ってないから疲れもあんまり無いんですけどね」
「しかし惜しかったな」
「何がです?」
「実験のためとはいえ、人間を殺さなかったから経験値稼ぎ出来なかった」
「「・・・」」
「あれ?経験値入ってないよね?スキルLv上がった?」
「「いいえ」」
「ゾンビと人間、1人の人間だからなー、ゾンビと人間とどっちが経験値多いんだろう。やっぱり魔物になった分ゾンビの方だろうか」
「さぁ?」
「しかし美味しいな」
「「え?」」
「人間を殺したら経験値が入るだろ。ゾンビになる。ゾンビを倒して経験値が入る。2度美味しい」
「「・・・」」
「ところで連中の1人が持ってたメイス、何で持って帰ったんですか?」
「あ、あぁ。サーヤ君にどうかと思ってね」
「私に?」
「あぁ」
「でもサーヤはクロスボウ使ってますよ?」
「あぁ。更にメイスも使えたらどうかなと思ってね」
「何故です?」
「今日は勝てたけど次は負けるかもしれない」
「「・・・」」
「最悪、僕が最低2人道連れにする。残りは君達で殺るんだ」
「そんな事言わないで下さい!」
「サーヤ君。僕達はまともに戦ったら勝てないんだよ。今日はあらかじめ罠と夜の闇が味方して勝てただけだ」
「・・・でも」
「僕が最低でも2人道連れにする。最初に雷魔法で1人、次に《カウンター》で相打ちだ」
「カウンターで相打ちになるとは限らないでしょ?勝てるかもしれないし」
「あぁ、その場合は道連れが増える、だから最低2人だ。僕が死んだ後は君達2人で戦うんだが、2人共《弓術》しかない。接近戦が出来ないんだ」
「それでメイス」
「そうだ。それにサーヤ君は《頑健》さんLv7だ。体の強さを活かすのはメイスが良いと思ってね。武器スキルに《槌術》ってのがあるらしい」
「剣や槍は難しそうですね」
「あぁ、だからと言って槌が簡単って言う訳じゃないが、サーヤ君が1番活かせそうなのが《槌術》だったというだけだ」
「そう言えばあの時も棒を振るってたわね」
「・・・そうでしたね」
「僕が死んだ後、君が接近戦で《槌術》を、菊池君が遠距離から《弓術》で戦うんだ」
「・・・」
「サーヤ君、僕はこのパーティのリーダーだ」
「勿論です!」
「パーティに対して責任が有る」
「はい」
「それは僕が死んだ後でも君達を生き延びさせることだ」
「・・・はい」
「使ってくれるね?勿論メイスじゃなく剣でもいいけど」
「メイスを・・・メイスを使います」
「そうか・・・連中のメイスじゃ嫌だったかな」
「いえ・・・これで男共をぶん殴ってやります!」
「はっはっは。その意気だ」
「大丈夫よ、それを使わないようにすればいいんだからね!」
「そ、そうですね!」
「しかし解体ナイフ使ってんなら《剣術》スキル習得出来ないのかね?」
「それ言ったら、鍛冶屋は《槌術》でしょ?」
「まぁ、次からサーヤ君はメイスを使っていくぞ。丁度良いことに相手はゾンビだ、動きが遅いし練習に持って来いだ。ドタマにぶち込め」
「いやぁ、元は人間ですよ。流石に・・・」
「いずれ生きてる人間にぶち込むかもしれないんだ、今から慣れておいた方が良い。ゾンビなんて機会、滅多に無いぞ」
「まぁ、そうだけど」
「はい!がんばります!」
「よし」
「さぁ。もう寝ましょう」
「そうだな。先ずはゆっくり休んで明後日からに備えよう」
「はい」
闘わなかったとはいえ3日間もテントで寝起きしたんだ、やはり疲れてたんだろう。
皆2日間はずっとベッドで寝ていた。
特に俺は宿舎に僕達以外いないので《魔力感知》も反応せず熟睡出来た。
30mの範囲だがある程度意識して範囲を縮めることが出来た。
そしてまた今日からゴースト討伐再開だ。
「今日は村に行こうと思う」
「あいつらのせいで遅れてますもんね」
「あぁ、無理はしたくないが街道沿いはゴーストはもう少ない。大丈夫だろう」
「問題は村ね」
「そうですね」
「アンデッドの拠点にはなってないわよね」
「村民の被害は少なかったそうだから多くはないだろう。移動してるかも知れんし」
夕方、街を出た。
シレナさんにはあらかじめ数日は野営すると伝えておいた。
先日まで討伐していた街道沿いのエリアを踏破していく。
途中、ゴーストが居れば殺すつもりだったが見かけなかった。
ゾンビは何匹かいたが無視して村へ急ぐ。
サーヤ君のメイスの練習にしてもよかったが、移動速度を優先した。
日中なら半日掛からない距離だが大分迂回してしかも夜だ、半日以上掛かってようやく到着した。
日はすっかり登っていて暑い。
「何匹かゾンビがいるな・・・そしてゴーストも2匹」
「お日様が出てるのにゴーストいるんですか?」
「家の中・・・でしょうか」
「あぁ、多分そうだろう。先ずはゾンビから掃討する」
「「了解」」
僕達はバッグを置いて身軽になり、村の中を掃討していく。
日中のアンデッドは動きが鈍い。
「サーヤ君、ゾンビは任せた。《吸精》で動きを止めつつメイスでやってくれ。だが無理そうなら止めるんだぞ」
「はい!」
今までクロスボウで殺してた経験も有ったからだろう、疲れていつつも村内のゾンビをメイスで一掃した。
「あとはゴーストかぁ」
「幸い居る家は分かる。先ず戸や窓を開けて日の光を入れるんだ。日光のゾーンには近寄れないだろう。そこから殺す」
「「了解」」
彼らは陽の光が届かない部屋の暗がりに佇んでいた。
家の中にいたゴーストは日の光を浴びている僕達の下には来なかった。
日中に見るゴーストもそれはそれで不気味だ。
しかし動けないからあっけなく殺し、村内のアンデッドの一掃は終わった。
「よし!みんなご苦労さん。拠点を探してそこで夜まで寝よう」
「「はーい」」
半日以上移動し村の中を掃討して疲れていたのだろう。
3人食事も摂らず寝た。
俺が起きたのは日の沈んだ後だった。
「ん・・・僕が最後か?」
「えぇ。食事今作ってるんで待っててください」
「ありがとう。良く寝れたよ」
「街の中より良く寝れるなんて皮肉なものですわね」
「全くだ。ふあぁ」
2人が作ってくれた朝食?夕食を食べる。
「ちょっと思ったんだが」
「なんです?」
「ゾンビって人間を食べてるのかね?」
「ちょっとー。食事中なんですけどー」
「すまんすまん。噛んでるだけか?」
「食べてましたね」
「だよね。食っても腐って死ぬんだろ?意味分からんな」
「はいはい!ちゃちゃっと食べて!ゴースト狩りますよ!」
「「はーい」」
食事後村を出る。
いよいよ森の奥のエリアの掃討だ。
初日ということも有り無理せず探索する。
今日は5匹を狩って終わりにした。
拠点の村に帰る。
「野宿じゃなくベッドに寝られるのは良いねー」
「ホントですね!」
「はい!疲れも無くなりますね!」
「明後日狩ったら一旦街に帰るんだが、もっと長期に滞在しても良いかもしれないね」
「そうですね。街に居るより安心出来ますし。サーヤはどう?」
「はい。私もそれが良いと思います」
「じゃぁ、そうするか」
「「さんせーい」」
翌日の休日はしっかり休み、更に翌日の狩りも無事に終わりそのまま街に帰った。




