①-09
①-09
「ぐぉぉぉ」
「大丈夫ですか?」
筋肉痛である。
帰ってくるなりベッドに倒れこんだ。
街壁作りの仕事で朝から夕方まで12時間近くか。
筋肉痛は昼には症状が出ていた気がする。
現場監督のラザールさんには笑われていたな、怒られなくてよかった。
「マッサージしましょうか?」
「う~ん、明日になるべく影響でないようにしないとな。そうだな、お願い出来るかな」
「わかりました」
「第二の心臓といわれるふくらはぎをしっかりと頼む」
「筋肉痛って、頑健スキルは効いてるんですかね~」
「筋肉痛は肉体の強化の副作用だからなぁ、意味が違うのかもね」
うつ伏せになってマッサージを受ける。
「菊池君の方はどうだった」
「今日は接客だけで明日から解体を教わる予定です」
「そうか。それも肉体的にも精神的にもキツそうだな」
「生き物の解体なんて生まれて初めてですからね」
声が若干上ずってるのは当然だろう。
スーパーで売ってる肉を捌くわけじゃないだろうから。
いや市場から予め解体した肉を仕入れているのだろうか。
それだと皮などは別に売れるし、多分そうだろうな。
「明日仕事行く前にガルトさんに会いに行くよ」
「何しに行くんです?」
「2人とも職に就けたって報告に行こうと思って」
「わざわざ?」
「あぁ。この世界で知り合いはいないから仲良くしておこうと思って」
「そうですね。この世界で最初に会った人ですもんね」
「まぁ、多少の打算もあるんだけどね」
「打算?」
「門番って恐らく前世で言うと警察官的な公務員だと思うんだよ」
「あっ、仲良くなってイザという時に助けてもらう的な?」
「あぁ。まぁそういうのが無いのが一番なんだけどね」
「異世界、何があるか分かりませんからね」
「がっはっはっは!何だその様は!」
「いや~街壁工事で筋肉痛になりまして」
今日も門番をしていたガルトさんに会うまで筋肉痛で変な歩き方になっていた。
「おぉ、もう働きだしたのか」
「はい、ガルトさんの名前だしたら早速昨日から来いと」
「そうかそうか。嬢ちゃんもか?」
「はい、私も昨日からガルトさんが言ってたパルムさんの所で働いてます」
「そうかそうか。良かったじゃねーか」
「はい。これで暫くなんとか食べていけます」
「うんうん。2人でがんばっていけよ」
「はい。それじゃー仕事行ってきますね。あっ、これ屋台で買ったつまみです。よかったら同僚の方と食べてください」
「おう!遠慮なく頂くぜ!達者でな」
「はい。それでは」
「見事な処世術ですね」
「ふっふっふ。固有スキル一覧には載ってなかったがな」
「この調子で交友関係を広げていきましょう」
「うん。肉親が誰もいないって結構プレッシャーだね」
「帰れる場所、最後に頼れる人がいないっていうのは不安ですよね」
「さぁ、今日も仕事頑張るか」
「そうしましょう」
街壁工事の現場でラザールに挨拶した。
「へぇ。今日も来たんだな」
「勿論ですよ。食べていかなきゃいけないんで」
「夕方辺りには筋肉痛で使い物にならなくなってたけどな」
「申し訳ありません。その分今日もがんばっていきます」
「正直お前みたいなヒョロイのは1日で辞めちまうって思ってたけどな」
「根性はありますよ」
「だといいがな。あと何日続くか」
「失望はさせませんよ」
「言うじゃねーの、楽しみにしてるぜ」
「ぐぉぉぉ」
「大丈夫ですか?」
筋肉痛である。
しかし昨日ほどではない。
「昨日ほど痛くはないんだよね。《頑健》さんが効いてるのかな」
「《頑健》君は疲労回復効果もあるんですかね?あっ、マッサージします?」
「頼むよ、ふくらはぎ中心で」
「りょーかいでーす」
「菊池君の方はどうだったんだい」
「ふふふ、生まれたままの姿からの解体でしたよ」
「嘘だろ!?」
「ふふふ・・・」
「市場から取り寄せてるんじゃないのか?」
「知り合いの冒険者から直で買い取ってるらしいです」
「なん・・・と・・・」
うつ伏せでマッサージを受けていたので振り返って見ると、菊池君の目が一点を見つめているが焦点が合っていない。どこか遠くを見ているようだ・・・
「今日・・・肉は食べられそうにないので先輩食べてください」
「わ、わかった。肉体労働だからな。ありがたく頂こう」
落ち着いたら美味しいもの買ってあげよう。メンタルケアもしていかなくてはこの先生きていけないぞ。
「先輩のふくらはぎのお肉・・・キレイですね・・・」
「・・・えっ!?」
俺達が働きだして数日経った仕事終わりの夕方。
「おい!加藤じゃないか!」
急に声をかけられた。前世の名前で。
まだ転生から数日しか経ってないのでこの名前の方が馴染みがある。
「おぉ。△△じゃないか。久しぶりだな。あの世以来だな」
「あの世て・・・お前の方こそ・・・元気そうじゃないか」
「ああ、なんとか生きてるよ。お前の方はどうなんだ」
「あぁ、それがな・・・」
聞くと同僚全員と合流出来てこの街にいるらしい。
今は俺達の宿よりも安い宿に全員いると。
「加藤。お前はどうしてたんだ?」
「あぁ、俺は今菊池君と同じ宿にいるよ」
「菊池さんと!?無事なんだな!?」
「あぁ無事だよ。で俺は街壁こ」
「菊池さんと同じ宿?同じ部屋って事じゃないよな!?」
「いや、同じ部屋だけど」
「なんだと!?」
顔ちけーよ。
「2人で話し合ってな。その方が金が安くなるって事で」
「いや、ありえないだろ!2人っきりって!!」
「いや、これは」
「いやいやいや、ないわー!」
「じゃ、俺はこれで帰るわ。お前らも元気でな。体に気を付けて」
「ちょっ待てよ!!」
「いててて!何?仕事終わりで疲れてるんだけど?」
「話聞けって」
「お前が聞いてないんじゃん」
「いやいやいや菊池さんと2人きりってないわー」
「今日の晩飯なんだろなー」
「ちょっ待てって!」
「いてててて。もう何だよ用があるなら早く言ってくれよ、明日も早くから仕事があるんだからさ」
「菊池さんに会わせてくれ」
「えっ?」
「無事を確かめたい」
「お前が確かめて何になるんだよ」
「いやいやいや!」
「もうちょっと塩が入ってれば美味しいんだけどなー」
「待てって!」
「今のお前に会わせられると思うか?危険すぎる」
「誰が危険なんだ」
「お前だよ、お前。鼻からフンフン音出てるぞ。行方不明になってたストーキング対象の居所が分かりそうなストーカーて感じ」
「誰がストーカーだ!」
「とりあえず、会うなら同僚全員とだな」
「・・・分かった。何処で会う?」
「う~ん、お前らの宿は10人くらい駄弁るスぺースあるの?」
「ないな、全く」
「じゃー何処か飯屋に行くか」
「待ち合わせは?」
「このままお前らの宿に行って飯屋に行こう。その後俺が菊池君を呼びに行こう」
「分かった、じゃぁ付いて来てくれ」
同僚が生きていた事を知れて嬉しくはあったが少し不安も・・・結構不安もあった。