⑤-09-85
⑤-09-85
冒険者ギルド本館に入ると、恐らく統治官の部下だろう官吏と衛兵が数人いた。
「彼らと話をする間君達は2階の応接室で待っててくれ」
「分かりました」
応接室に入ってソファーに座る。
入り口近くにはシレナさんとは別の受付嬢が立っている。
見張り役だろう。
しばらくするとタルバとシレナさんが入って来て受付嬢は出て行った。
「待たせたな」
「お待たせしま・・・起きてー」
「「「んが」」」
テーブルに依頼票を置かれた。
「依頼はアンデッドの討伐。期間は3ヶ月。報酬はゴースト1体に付き6万エナ。ゾンビは通常通り。期間満了もしくはこちらからの満了報告で30万エナ。確かめてくれ」
「確かに」
「ではリーダーとしてサインを」
「それで強硬派対策は出来ましたか?」
「強硬派対策?」
シレナさんにはまだ話していなかったようだ。
「あ、あぁ。統治官からの護衛だ。先ずは本館隣接の職員宿舎に寝泊まりしてもらう」
「職員宿舎?」
「あぁ。冒険者ギルドは24時間体制だ。魔物は昼も夜も関係無いからな、今もそうだし。ただ全施設が稼働している訳じゃない。当直の職員が泊まる施設が宿舎だ。そして宿舎は職員で警護されている。君達が泊まる期間は警護を増やす。そして門までの送迎も警護させる」
「なるほど」
「どうだろうか」
「結構です。では僕達もバッグと財産は置いて討伐に行きましょう」
「む」
「安心でしょう?」
「まぁ・・・な」
俺は依頼票にサインした。
「しかし、ギルド長。街の中はそれで良いとして、街の外ではどうしようもないんじゃないですか?」
「む」
「仮に街中で統治官の差し向けた衛兵に手向かったら罰せられるのでしょう?」
「あぁ、勿論だ。それ故に君達には不都合を掛けるが買い物などは同行もしくは依頼して欲しい。衛兵が護衛と問答してる間にここまで逃げて欲しい」
「街中はそれで良いとして、街外は僕らのやり方でやりますよ?」
「む。外へは衛兵は行かないと思うが。そんな余裕は無いはず」
「衛兵はね」
「む。冒険者を?」
「可能性は有りますよ」
「まぁ、可能性は有るが。そこまでやるかね」
「統治官はこの街出身ですか?」
「いや、違う」
「・・・まぁ可能性として、ですから」
「分かった」
「みなさん、この度はすいませんでした」
「全くですよ。あれほど念押ししたのに」
「うぅ・・・申し訳ありません」
「まぁ、今回はシレナさんがこの街を愛するが故、ということにしておきましょう」
「え、エチルさん!これからは誰にも喋りませんから!」
「それはもう無駄でしょう」
「え?」
「統治官らが喋るでしょうし」
「「え?」」
「自分達が正義だと世論を動かす、とか」
「そ、そんな・・・」
「まぁ、そうなったら契約満了で脱出させてもらえますよね?」
「あ、あぁ、勿論だ。」
「だそうですので。まぁ喋らないのが良いんですけどね」
「ありがとうございます」
「いや、それ以前に人を騙してはいけませんよ、シレナさん」
「だ、騙す?わ、私は何も騙してはいませんよ?」
「どういうことだ?」
「受付嬢という仕事柄必要なのでしょうが・・・」
「・・・はい?」
「パット・・・それはいけませんよ」
「「「「!!」」」」
僕達は用意された職員宿舎でようやく一息付けた。
「あっきれた!」
「どうした?結構良い条件だったと思うが」
「違いますよ!パットですよ!パット!」
「全くだ!人を騙すなんて!」
「違ーう!そっちじゃなーい!」
「このがっかり感を、喪失感をどうすればいいんだ」
「何を言ってるの何を!サーヤも何か言ってやんなさい!」
「あ、あの、カズヒコさんは胸の大きな女性が好みなのですか?」
「お前もそっちじゃなーい!」
「えぇ?」
「なんか会話が噛み合わないと思ってたんですよ!」
「いや、僕もおかしいなぁって」
「シレナさんが勝手に勘違いしてくれてよかったですけど!」
「いやしかし統治官が出張るとはね」
「行動に制限が掛かるのは面倒ですね」
「とりあえず3ヶ月丸々居る必要はないだろう」
「ゴーストを先に全滅させる?」
「そういうことだね。無限に湧くわけじゃないんだろう?」
「何か原因があると・・・」
「村長もゾンビは初めて見たって言ってたしな」
「なるほど」
「サーヤ君も初めてか?」
「はい。ゾンビもゴーストも初めて見ました」
「上位アンデッドは確認されてないらしいし、自然発生の条件って知ってるかい?」
「いえ、知りません」
「そうか。まぁ分かってたら発生する前に対処するよな普通」
「そうですね。ゴーストの数を減らしてからその辺調べてみます?」
「それはそれこそ統治官がやることだろう。アンデッドの発生源の調査なら別途調査依頼ってしてもらわないと。やる気ないけど」
「そうですね。統治官には良い印象無いですもんね。そいつの為に働きたくないですし」
「街の為とか言ってるらしいけどこの街出身じゃないらしいし。出世の為とかね」
「あー。分かる気がします」
「カズヒコさん、財産を置いて行って大丈夫でしょうか」
「あぁ、勿論全部は置いて行かないよ」
「「え?」」
「当り前だろう。何を言ってるんだ」
「どうするんです?」
「一部だけおいて後は《隠蔽》でバックパックに隠しておけばいい」
「財産置いてるから逃げないだろうと思ってるのに?」
「こういうのは相手から言われる前にこっちから言うんだ。そうすれば相手も『これが全財産か?』って聞きづらいだろ?」
「流石です!」
「いや、サーヤ。そこ褒めるとこ違う」
「いいかサーヤ君。交渉は相手の後ろめたさを突いて不利にさせ、こっちに有利な条件を飲ませるんだ」
「勉強になります!」
「あくどいのを先に教えないでー!」
「今日は2匹で10万エナだったけど、これからは2匹で14万エナだぞ!」
「10匹倒せば魔石含めて70万エナ!良い稼ぎですね」
「行動は規制されるが3ヶ月であれば我慢できるだろう」
「完全歩合制ですからね。稼げるうちに稼がないと」
「菊池君、今の財務状況は?」
「今貨幣資産が160万エナです、有形固定資産で私達の装備が有りますが最後の手段でしょう。以上です、しゃちょー」
「貴金属にも振り分けた方がいいのだろうか?」
「確かに貨幣だけだとバランス悪いですね」
「機会が有れば菊池君やサーヤ君に宝石類を買っておくのも良いかも知れんな」
「えっ!?」
「そうしましょう!」
「そ、そんな、私なんかに・・・」
「サーヤ!ここは乗っておくところよ!」
「でも・・・」
「まぁ、それもここでどれだけ稼げるかに掛かってるから。もう寝て今夜に備えよう」
「「はい!」」
「あ、一応今夜も街の外に出るけどゾンビだけにするから」
「ゴーストは狩らないんですか?」
「毎日じゃ精神的にね・・・まだゾンビの方がマシだ。夜の森に慣れるっていうのもある」
「「分かりました!」」
長くなった1日の仕事を終え、僕らは眠りについた。
夜までぐっすり眠りたいのだがそれまでの日常からいきなり夜型には難しい。
途中起きて二度寝することも何度かあり些か眠ることが苦しい。
寝ている分にはいいんだが、寝ようとするのが苦痛になる。
それに《魔力感知》による反応で起きてしまうこともある。
これからは寝られる時に寝られる習慣を身に付けたい。




