⑤-06-82
⑤-06-82
今、北西の森に向けランタンと月夜の下を歩いていた。
2日と短いが夜型にして備えた。
一刻も早くフォセンの街を元に戻さなければ、僕達の活動にも支障が出る。
まだ見ぬゴーストは恐ろしいが倒せるのは分かっているのが救いだ。
バックパックは保安上、宿に置いておけないので持ってきている。
バックパックの大きいのはサーヤ君が、小さい方は俺が背負っている。
菊池君は何も背負っていない。
夜の森、出来るだけ軽い方が良いだろうから。
夕方、西門を出る時に門衛に言われた。
街から出て行くんじゃないのかと。
こんな夜に旅に出ていかないだろう、あと荷物も残してある旨を告げて開けてもらった。
今日は初日ということもあり、数時間で活動を終わらせ、後はテントで休むつもりだ。
夜型に備えたといっても短かったから。
やはりアンデッドの領域だからだろう、魔物はおろか動物の反応も無い。
あるのは、
「あった。あっちだ」
「ゴーストですかね、ゾンビですかね」
「これは今まで感じたことのない反応だ・・・恐らくゴースト」
「い、いよいよですか」
「あぁ。繰り返すぞ。先ずは菊池君が遠距離から魔法で攻撃。それで倒せなかったらサーヤ君が《吸精》。そして至近距離で俺だ」
「「了解」」
「詠唱は終えておくように」
「了解」
「向こうも気付いたな。こっちに来る。20m」
「「ゴクリ」」
「15m」
「ランタンの灯りじゃ足らないですね。見えないです」
「じゅ、10m」
「み、見えないです!」
「9m」
「見えないですって!」
「8m」
「どどど、どーしましょう?」
「なな、あれか?影みたいなのが揺らめいてるが・・・」
「あー、そういわれれば影っぽいのが・・・」
「「「!?」」」
「「「ギャー!」」」
「かっ、顔がっ、顔がっ」
影なのか顔なのか、シミュラクラ現象ってやつか?
しかしゴーストなんだろ、だったら顔だ。
そしてその顔は苦痛に喘いでいるように見えた。
「撃てっ、撃てっ」
「そ、そうだ、《風刃》!」
バシュッ
風魔法は胴体を真っ二つにしたが、影は尚動いている。
「「「ギャー!」」」
「サーヤ君!吸って!吸って!」
「は、はい!」
サーヤ君が2mギリギリで《吸精》を発動する。
「おぉ!動きがなんかゾンビの時と同じような感じがするぞ!」
「痙攣っぽいですね」
「そのまま続けてくれ!」
「は、はい!」
しばらく痙攣していた影はやがて消えてゆき、その場に魔石が落ちた。
「ふー。やったようだな」
「いやー、怖いわー」
「さ、サーヤ君もビビってたじゃないか」
「わ、私はお2人につられて・・・」
「はっはっは。恥ずかしがる必要はないぞ」
「ち、違いますよー」
「しかし見え辛いな」
「えぇ。足が無いっていうか、浮いてましたもんね」
「上空から来るとかされたら敵わんな」
「ほ、方向は分かるんでしょ?」
「あぁ。大丈夫だ」
「ミキさんの魔法は効かなかったのでしょうか?」
「いや。真っ二つに斬り裂いて元に戻るような素振りはなかった。恐らく剣や矢で攻撃しても煙の様に手応えは無いのだろう。だが魔法で裂いた為に何らかの繋がりが断たれたんじゃないかな」
「それで元に戻れなくなった?」
「恐らく」
「効いてはいたんだ」
「次は胴体じゃなく首、もしくは魔石の位置を狙ってみよう」
「なんとなく首は効かないような気がしますけど」
「あぁ、そうだな。だが試してみないと」
「そ、そうですね」
「魔石の位置って・・・」
「心臓の逆だろう」
「最初魔石見えませんでしたよね」
「確かにな、隠れてるのかも知れんし倒される時瞬間的に魔石に収束されるのかも知れんし。兎に角今は情報を集めるんだ」
「そうですね」
「はい」
それから僕達は2匹目を探して森の中をうろついていた。
「先輩」
「ん?」
「質問が」
「ん?」
「私達街に帰れますよね。方向的な意味で」
「・・・・・・」
「ちょっと!」
「大丈夫だ。月が出ているだろ。あと星も。時間的に傾く角度を知っていたら補正出来る。大丈夫だ」
「そ、それならいいんですけど」
「いたぞ」
「「!」」
「あっちの方角だ」
「「はい」」
「今日はこれで終わりにしよう。気合い入れていくぞ」
「「はい」」
「向こうも気付いたな。20m」
「上空にはいないですよね」
「あぁ。正面だ。15m」
「見えないよー」
「じゅ、10m」
「あ、見えます。影が」
「7m」
「こ、今度はしっかり狙うから引きつけるわよ」
「5m」
「《風刃》!」
ザシュッ
影の首が落ちる。
しかし体はそのままこちらに近づいて来る。
「おわー!」
「さ、サーヤ君!近づいて来る方を!」
「わ、分かりました!」
サーヤ君が近づいて来る体を、射程2mギリギリで吸う。
「おお!痙攣してる。効いてるぞ!」
やがて魔石を落とし消えていった。
「ふぅ。とりあえず街の近くまで戻ろう」
「そ、そうしましょう」
「わ、分かりました」
街の近くまでの道すがら。
「頭部は弱点ではないという事かな」
「ですかね。頭じゃなく体が迫って来てましたし」
「私もそう思います」
「じゃぁ、今度は《風刃》で魔石の位置を狙ってみよう」
「そうですね。でも魔石に当たって壊れたりしませんかね?」
「まぁ、その時はその時で」
「そうですね。今日はもう疲れましたよ」
「初めてでしたからね」
「そうだねー。まだ真っ暗だから寝られるだろう」
「ともあれこれで10万よ、サーヤ!」
「凄いです!」
「良い夢見ろよ」
「「はーい」」
2人にはテントで寝てもらって俺が夜番をした。
途中ゾンビが出たが確かに夜のゾンビは昼より活発だった。
しかしおよそ動物という速さではない為クロスボウの良い練習台となった。
そして夜が明け無事門に帰って来た。
「お、おまえらホントに森で夜を明かしたのか!」
「えぇ」
「大丈夫だったか?」
「眠いです」
「そ、そうか。大丈夫そうだな。街でしっかり休むと良い」
「はい。お勤めご苦労様です」
「あ、あぁ」