①-08
①-08
「ただいまー」
「おかえりなさーい。どうでした?」
「明日から働くことになったよ」
「私の方もです」
「鐘2つまでに来いってさ」
「あっ、私もです。鐘って街に入ってから時々鳴ってたやつですよね」
「多分な。その辺ももうちょっと知るためにもう一度外に行かないか?」
「夕食にはまだ時間あるみたいですからね」
「あぁ仕込み中だってさ」
「替えの服とか下着とか買いに行きましょうよ」
「あー、そうか考えてなかったな、すまん。そうすると16日も泊まれんな」
「私の方は日当600エナでした。3ヶ月目途で」
「俺は1ヶ月見習いで600エナ、以降は800エナだね」
「・・・厳しいですね」
「あぁ、厳しい・・・」
「とりあえず3ヶ月の間に基盤を整えよう。全財産はこの服と7500エナしかないしな」
「そうですね、とりあえず今日を生き抜かねば!」
街中での買い物や情報収集を終えて宿に帰ってきた。
「いやぁー、思った以上に厳しいね」
「給料はどこも似たり寄ったりですね」
「ガルトさんから紹介してもらった分、安心感あってお得だったと思うようにしよう」
「そうですね」
「パルムさんはどうだった?」
「良い人でしたよ。あっ、接客だけじゃなくて肉の解体もやるんです」
「マジか!?出来るの?」
「勿論出来ません!教えてもらいつつ接客もすることになりました」
「結果的に3か月後には料理店に就けるんじゃないの?」
「そーですねー。将来的にはお店持ちます?店名はミッキーハウスで」
「やめろっつってんの」
「武器も防具も高かったですね」
「命に関わるとはいえ、手が出んな」
「先が見えませんね」
「お先真っ暗だよ」
「とりあえず現状整理してみましょうか」
「とりあえずばっか言ってんな俺たち」
「まずこの街の名前はコロー。人口約2000人。特に目立つ産業はありません、メインは農業ですかね」
「この世界の時間は前世と大体同じだな。1日24時間。ただ1ヶ月は30日で、12ヶ月で1年は変わらず。今は6月らしい」
「季節は四季があるようです。今は晩春、梅雨はないですね」
「鐘は夜明けで1つ目、以降2時間毎に鳴って夕暮れの7つ鳴れば1日が終わるって感じです」
「蛍の光は流れんのか」
「鐘だけだと難しいでしょう」
「まぁ現状明日からの仕事をがんばっていってこの世界に慣れよう」
「とりあえず私の契約が終わるまで日々情報収集ですかね」
「そんな感じだね」
「折角だから魔法を生かした職に就きたいんですが」
「そうだ魔法だ、すっかり忘れてた」
「魔法が無い世界から来ましたから身近に考えられませんよね」
「菊池君、ちょっと窓から撃ってみない?」
「風魔法をですか?」
「そう。俺の雷は誰かに見られそうじゃない?君の風だったら見えないだろう」
「なるほど、それもそうですね。じゃーちょっと撃ってみますか」
「頼むよ」
「おっ、魔法を使おうと思うと魔法名が頭に浮かびます・・・《エアロエッジ》。ふむふむ、何やら呪文を唱えるようです」
「むっ、そうなのか・・・おー俺のも浮かんでくる・・・《サンダーボルト》か。呪文も浮かぶな。これを唱えれば発動すると」
「避けとせ避けなせ童が通る、こっちへコッツンあっちへゴッツン、あの子が泣いたは誰の所為、《エアロエッジ》!!」
「あっ、見逃した!どうだった?」
「何か、シュパッと目の前に出てヒューンって飛んでいきましたね。もう1回撃ちます?」
「頼む。あっ、あとエアロエッジってのはな・・・日本語で使えない?」
「了解。避けとせ~~~~~~~~~~~~~、撃ちます《風刃》!」
「・・・見えんな。風だし当然か。呪文の直後に別の言葉を挟んでもいいんだね。しかし確かに音は聞こえたな、フィーンって」
「いや、ヒューンですよ」
「いやいやいや、フィーンだって」
「いや、私の魔法ですよ?私が一番知ってるんですよ。ヒューンです」
「客観的に聞くとふぃ「ドンドンドン。ご飯出来たよー!」」
「「はーい!今行きまーす!」」
夕飯はパンと少なめの肉と野菜のスープだった。
「・・・不味いな」
「・・・不味いですね」
「ご飯どーお?」
「「おいしい!」」
「エルザちゃんの顔見てたら更に美味しく感じるよ!」
「えへへ、ごゆっくり~」
「「ありがとー」」
「周りの客は普通に食べてるな。不味くもなく、これが普通なんだろう」
「これは・・・この世界の普通なんでしょうか。この街の?」
「値段相応ってところか」
「不味いっていうより味が無いんだな」
「そーですね。はっきりとした味が無いですね」
「病院の食事と一緒だな」
「前世の病院ですか?」
「あぁ。病院の食事が不味いっての聞いたことあるだろ?」
「ありますね」
「あれは不味いんじゃなくて味が無い。塩が入ってないんだよ。減塩ってやつ」
「あー、健康の為に」
「そう。塩とか調味料とか控えてるんだよ」
「塩って重要ですよね」
「うん」
「味覚の内、しょっぱいって塩っぽいって事でしょ」
「あぁ」
「特定の名前が味覚の名前になるのは塩だけですからね」
「なるほど」
「塩が高いから料理に使えないんだろう」
「ここらは内陸部ってことでしょうか」
「これはお金の匂いがするぞ、菊池隊員」
「しかし、それは誰しも考えそうなんですけど」
「たっ、確かに。まぁ留意しておこう、いつか役に立つかも」
「そうですね」
食事を終えて風呂代わりに身体を拭こうと桶を借りたのだが、
「カビっててヌルってるな」
「うぅ21世紀の日本から来た人間には耐えられないです!」
「フッ、任せろ。俺のスキルを忘れたのか」
「殺菌!」
「その通り!《殺菌》!」
「・・・カビってるままですけど」
「よく見ろ若干黒っぽくなってるだろ。恐らく死んだんだ」
「ホントでぃすか~?」
「これにクリーンアップしてみたまえ」
「《クリーンアップ》!」
「「おお!」」
「綺麗になりましたね!」
「うむ。桶自体の経年劣化で色味は悪いが菌と水垢はないだろう、やったな菊池君!」
「はいっ!これでこの世界でも生きていけそうです!」
「じゃー、水を入れて先に身体を洗っててくれ。俺は1階にいる。終わったら呼んでくれ」
「わかりました」
「ふー、風呂とまではいかんがサッパリしたな」
「えぇ。はい、歯磨き用の布とフロスです」
「ありがと。あっ、歯磨き終わったら声掛けて?」
「?りょーかいです」
「終わりましたよ」
「よし。じゃー、お口のなかキレイにしよっか」
「えっ?」
「虫歯予防に殺菌するんだよ」
「なるほど・・・口の中見せるんですか?」
「口閉じたまんまじゃ唇を殺菌するだけじゃん」
「そ、そうか」
「ほら、オジさんに見せなさい」
「うぅ、口の中見せるのは抵抗が・・・」
「ほら~、君の恥ずかしいところオジさんに見せてごらん~」
「いや~!」
ガスッ(ぐほぁ)
「な、何をするんだ。虫歯になってもいいのか。恐らくこの世界は歯医者はいないぞ。虫歯になったら抜歯だぞ!」
「い、嫌ですぅ」
「そうだろう、ほら見せ、ぐほぁ」
「目隠しして手を翳しててください」
「わ、わかりました」