④-15-72
④-15-72
「ふわぁぁ・・・いい朝だ、って。あれ?病院じゃないな」
「起きました?朝じゃなくて昼ですけど」
「?菊池君とサーヤ君。俺入院してなかった?」
「何言ってんですか。骨も異常ないし後遺症もないからって帰ってきましたよ」
「そ、そうか。診断は記憶に有るんだが・・・入院するはずだったような」
「結構な血を失いましたから記憶に混乱が有るんでしょ。調子はどうですか?」
「そうか・・・うん。怠いな。痛みも少し残ってる感じだ」
「そうですか、いい機会だから数日は休みましょう。ここんとこ休んで無かったし」
「・・・そうだな。そうしよう。サーヤ君、数日休みだ。美味しいもんでも食べに行ってくれ」
「・・・はい」
「しかし病院が近くて良かったですね」
「こういうのはよくある事らしくてギルドの近くに建ってるんだって」
「へー」
「あ、大熊ですが、カズヒコさんが解体ナイフで顔を刺して倒したことになってますので」
「そうか。バレてはいないんだね」
「はい。大丈夫です」
「あと私達Dランクになりました。ちょこちょこ魔石納品してましたけど、あの大熊は上位種だったらしくて、なのでそのGPで一気に」
「そうか、上位種だったのか。強いと思ったよ」
「にしても先輩!凄かったですね!」
「ホントです!あんな魔法初めて見ました!」
「いやー、そうかな?」
「いつもの雷じゃなかったですよね?」
「あ?あぁ。一瞬だと足らないかなって思って持続をイメージしたんだが。うまくいって良かったよ」
「あんな大きい熊を倒すなんて!」
「ちょっとだけ、本気出しちゃったかも?」
「そんな事より、菊池君」
「はい?」
「・・・実は」
「・・・ええ」
「・・・僕」
「・・・うそでしょ」
「スキルを習得したみたいだ」
「・・・は!?」
「スキルって10個しか習得出来ないんじゃないんですか?」
「そのはずよね!どーゆーことですか?」
「大熊の一撃を受け流したのは見たかい?」
「「はい」」
「その時に《受け流し》ってのを習得したらしい」
「らしいって・・・」
「うん。《見切り》と統合して《カウンター》ってのになったって言ってた」
「えぇ!?・・・・・・ホントだステータス画面に《カウンターLv2》って載ってますよ」
「ホントですね」
「なるほど。統合したからLv2なんだろうな」
「統合スキルなんて有るんですねー」
「固有スキルだな。それが理由でもあるんだろう」
「カウンターって近接ですよね?」
「そうだね。これで俺も武器となるスキルを手に入れたぞ」
「えっ?」
「《見切り》と《受け流し》で相手の攻撃をいなして攻撃する。今後は僕も積極的に攻撃に参加できると思う」
「盾じゃなくなったってことですか?」
「盾役しつつ攻撃も出来る。武器スキルは無いけど逆に言えばどんな武器に対しても対応できると思う」
「でも大熊みたいに武器が通用しない相手とか、どうします」
「今更だけど、毒を使えばよかったなと」
「あっ、そうかー」
「でしたね」
「毒は定期的に手に入れていこう」
「そうですね」
「そう言えばワライマイタケの毒ってどんな効果が有るんです?」
「ワライっていうくらいだから笑いだすらしい。気分が高揚して散漫になり夢遊病みたいなトリップするんだって」
「あっぶな」
「あぁ。だから麻薬にも使われるらしい。勿論薬にも」
「薬?」
「気分が良くなるから精神的な薬らしい。向精神薬って感じかな?」
「へー」
「精神薬ってあまりないらしいから価値があるんだって」
「なるほど」
食事はハリエット家が用意してくれたものを食べた。
造血作用のあるものを中心としたものだ。
食事を摂る為に外に出歩くのは怠かったのでその心遣いを素直に受けた。
薬になりそうな大熊の内臓を病院に卸すよう頼んでおいた。
内臓だから早めに言っておいた方が良いだろう。
食事の後少し休んでその辺を出歩いた。
5月になって残寒も消え去り春の草花が視界を彩る。
命の危険に遭って命の芽吹きに気付く。
皮肉なものだ。
しかしそういった周りの環境に気付かなかったのは迂闊だったかもしれない。
スカウトやレンジャー、ローグ系ではなかったか。
目の前のことにしか見ていなかったかもしれない。
だからこんな目に合ったのでは?
もっとうまくやり合えたんじゃないか?
こんな調子じゃ約束を守れなくなってしまうかも知れない。
相手を憎むのは仕方ないとして、如何に俺達が有利になるか、如何に相手を不利に追い込むか。
相手を憎むのは仕方ない。
憎みは原動力だ。しかしコントロールが必要だ。
憎しみに囚われるのではなく、支配しなくては。
相手を憎みつつ冷静になるやり方。
菊池君やサーヤ君にセクシーな装備を着てもらうか。
妄想してみよう。
・・・・・・
落ち着くな。
生命賛歌。生まれてきた喜びを感じる。
相手も集中出来ないだろう。良い案かも知れない。
しかし俺達のバトルフィールドは森だ。
藪や枝や虫で柔肌が傷付くのは忍びない。
この案は却下・・・保留だ。
となると・・・インナースペース。自分の中を見るか。
いつも目を閉じて自分の中に入って行くように《魔力検知》と《魔力操作》を発動していたが、目を開けていても発動出来ないだろうか。
元々なんとなく魔力は感じられていたのだから。
それに《魔力感知》で外界の魔力を感じられるのだから出来るはずだ。
静養中はそれに集中してみるか。
うーん。
それもいいがそればかりしているのもなぁ。
結局前と一緒な気がする。
憎しみつつ冷静に。
芸術なんかどうだろう。
芸術家は自分の世界に没入しつつもキャンバスや筆や楽器は扱えているんだろう。
同様に戦いでも集中しつつ武器や周りの環境を利用できるようになれないか。
ちょっとこの角度でアプローチしてみるか。
そう言えば以前菊池君と吟遊詩人で世界漫遊とか言ってた気がする。
サーヤ君のホイッスルは作ったが予備の材料がまだ有ったはずだ。
あれでリコーダーみたいなの作ってみるか。
先ずは音が出る様にしよう。
部屋から材料を持ち出し商館の脇に椅子を持って座り彫りだし始める。
時間をかけ筒の中を彫りだした。
吹き口の直後に通風の切込みを開け、適当に指で押さえる穴を開けた。
こんなので音が鳴るのだろうか、試しに吹いてみる。
フィーーー
音というか空気を吹いてるだけだな。
「ふふふ」
「ん?」
「失礼。お邪魔してしまいましたね」
「ブリトラさん。いえ、構いませんよ。何かご用ですか?」
「いえ、特にはないんです。ただ何をしてらっしゃるのかなって」
「あぁ。養生も退屈でして笛でも作ってみようかと」
「まぁ、かわいい趣味ですこと。とても大熊を倒された方とは思いませんわ」
「あれはまぐれですよ」
「まぐれで倒せるような相手ではないと思いますけれど」
「ほとんど仲間がやってくれましたから」
「謙虚ですわね」
「事実ですから」
「ご友人に恵まれて羨ましいですわ」
「少し窶れられましたか」
「・・・そう、見えます?」
「商売の方が?」
「いえ。お三方のお陰で大分戻ってまいりました。そこに今回の大熊で更に勢いを増しつつあります」
「と、なると・・・プリシラさんですか」
「・・・」
「父上を許せませんか」
「・・・」
「ハリエットさんは家庭を蔑ろになさる方だったのですか?」
「いえ。仕事も家庭も大事にしていた・・・と思っていたのですけど」
「仕事は真面目で優しい夫で父親だった」
「・・・はい」
「今日の夕飯はなんでしょう?」
「え?」
「5人で食べませんか?」
「は、はぁ。構いませんが」