④-14-71
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俺もその場に膝から崩れ落ちた。
「先輩!大丈夫ですか!?」
「カズヒコ様!」
「はぁはぁはぁ・・・なんとか」
2人が近寄ってくる。
まだ死亡確認していないのに油断が過ぎる。
注意したいが怠い。
「く、熊は?」
「・・・多分死んでます」
「多分じゃ駄目だ。気絶してるだけかも知れん。確実に殺すんだ」
「ど、どうやって?」
「目を突き刺して脳を破壊するんだ」
「は、はい!」
サーヤが解体ナイフを《風刃》で裂けた所に突き刺した。
「ぽ、ポーションを。サーヤ!ポーションを!」
「は、はい!」
上着を脱ぎ傷を確かめる。
血塗れの患部を洗い流す。
右腕が破壊され骨が見えていた。
「この装備をここまでとは・・・」
「い、痛いですか」
「あぁ、凄く。感覚はあるが・・・」
「カズヒコ様・・・ポーションを」
「ありがとう」
ポーションを傷口に掛けると内側から傷が塞がっていく。
「凄いな」
「凄いですね」
「カズヒコ様」
「・・・痛みはまだある。傷が塞がれるだけで、もしかしたら骨にダメージが残ってるかも知れん。街の医者に見せよう」
「な、はい」
「分かりました」
出血が止まったからか2人は少し落ち着いたようだ。
2人共目が赤い。
立ち上がって大熊に近づく。
菊池君にやられた左目は当然として右目からも血が出ている。
調べてみると破裂したようだ。
雷で瞬間的に沸騰したのだろう。
「死んだな」
「「はぁー」」
「2人で首を落としてくれ。出血多量で動けん」
「「分かりました」」
2人で首を刈り取る。
「サーヤ」
「は、はい」
「出血多量と魔力欠乏で街まで歩けそうにない。背負ってくれ」
「分かりました!」
「菊池君はサーヤの荷物と首を頼む」
「はい!」
「2人は俺を病院に預けたらブリトラさんに知らせてこの熊を回収するんだ。折角殺した大熊を無駄にしないように。もしかしたら討伐依頼が出てるかも知れん」
「「分かりました」」
「菊池君」
「は、はい!」
「今から君がリーダーだ」
「え?」
「俺は疲れた。途中で寝るかも知れん。あとは頼んだ」
「えっ、えっ?」
「大丈夫だ。ここからはいつもの帰り道だ。いつも通りにやればいい」
「わか、分かりました!」
「よし。じゃぁ帰ろう」
「「はい!」」
喋るのも気怠い。
俺はサーヤ君に背負われ街へと急ぐ。
門衛は女に担がれているのが可笑しかったのか笑っていた。
俺達は冒険者ギルド本館へ入る。
「ど、どうしました!?マキロンさん!?」
「医者を!病院を教えてください!」
「は、は、はい」
サーヤ君に担がれてる俺を見てメネットさんは頷く。
「けっ!だらしがねぇ!やっぱヘタレ野郎だ!」
ムヒが悪態を吐く。
「うるせぇ!黙れ!」
「うっ」
菊池君が怖い。
サーヤ君も睨んでいる。
何か言いたそうだが言ったら俺に響くと気遣ってるんだろう。優しい子だ。
「こ、こちらへ」
ギルドの近くに病院は併設されていた。
案内してくれたメネットさんが医師の元まで連れて行く。
「先生!急患です!」
「分かりました!」
今まで見ていた患者を他に任せ先生と呼ばれた女性がこちらに来る。
「どうされましたか?」
「あ、あの。大熊に襲われて!」
「お!大熊にっ!?」
「はい・・・それで」
「怪我を?」
「はい・・・右腕を」
「とりあえずそのベッドに降ろして下さい」
「はい」
サーヤ君がベッドに優しく降ろす。
患部を布で固定していたので外していく。
「塞がってますね」
「ポーションを使いましたが骨に異常が残ってるかもって・・・」
「分かりました」
「マキロンさん!大熊が出たんですか!?」
「えぇ。でも倒したんで大丈夫です」
「「え?」」
「大熊は倒したんで大丈夫です!先生それより先輩を!」
「あ、あぁ・・・そうでしたね」
「マキロンさん、あの、大熊を倒したって?」
「さっきからそう言ってるじゃないですか!」
「で、でも・・・」
「ほら!これ!大熊の首!」
取りだした大熊の首を見て周りは固まっていた。
「目が覚めましたか」
女性は医術関係のスキルをいくつか持ってるらしい。
怪我は骨に異常はなく後遺症も心配ないだろうとの事だった。
俺は入院部屋のベッドに横になっていた。
少し寝ていたらしい。
「しばらく安静にして下さいね」
「分かりました」
「ポーションで傷は塞がっても失われた血液は戻りませんの」
「なるほど」
「でも驚いたわ」
「そんな大怪我でした?」
「いえ。大熊を倒したって」
「ああ。運が良かったですよ」
「運だけでは大熊に勝てませんよ。大きさが違います」
「走って来て躓いて転んで目の前に顔が来たところをブスっと。たまたまです」
「まぁ・・・」
「連れの2人は?」
「大熊の回収に行かれましたよ」
「そうですか」
「巨体ですからね。2、30人で行ったそうですよ」
「そんなに!?」
「えぇ。内臓も薬の材料になるので街に卸してくださいね」
「あなたの頼みなら喜んで」
「まぁ。おほほほ」
「先輩!」
「カズヒコさん!」
回収から帰って来たのだろう2人は病院職員に意識が戻ったと聞いたのか部屋に飛び込んで来た。
「やぁ。心配かけたね。怪我は無事で後遺症も無いらしい」
「そう。良かった・・・」
「大熊はどうなった?」
「先輩を任せてブリトラさんの所に行って20人くらい引き連れて行きました。ギルドも冒険者を募って付いて来て」
「なんだと!おこぼれ目当てか!」
「いえ。本当に倒したのか確認に」
「確認ならあの首で十分じゃないのかい?」
「素材を譲って欲しいって持ちかけられました」
「あの野郎!」
「勿論断りましたよ!あ、メネットさんじゃないですよ。念の為」
「討伐依頼が出されてたみたいでその報酬が出ます。素材もブリトラさんが捌いて売ってくれるそうですわ」
「合わせてざっと100万エナです。結構長い間討伐されなかったみたいで値が吊り上がってたらしいです」
「そうか。マーヤ君の装備が買えるな、ってこの街1番の装備は買ってたな」
「100万エナって聞いても驚かれないのですね?流石ですわ」
「ひゃ、ひゃくまんエナだって!?」
「「しらー・・・」」
「じゃぁ先輩、そろそろ宿に帰りましょう」
「いや、僕はもう少しせんせ・・・入院してるよ。万が一の事があってはね」
「「は?」」
「おほっおほっ。安静が必要ですわい」
「先輩咳が・・・ほら水飲んで」
「あ、あぁ。ありがとう」ゴクゴク
「ぐぅぅ・・・ぐぅぅ・・・」
「まぁ。眠り薬ですか?」
「えぇ。良く効くんです」
「今度売って下さらない?」
「考えておきます。サーヤ、運んで」
「はい」
「では、お世話になりました」
「いーえー。お大事にー」