⑱-38-705
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「閣下!これは凄い発明です!」
「そうだろう、そうだろう」
「洗濯が僅か10分!?しかも5人分が!?信じられない!」
「なっはっは!」
「これは既にドゥベルチで製造中なんですね!?」
「あぁ。街主とウリク商会とで話は進んでいるはずだよ」
「素晴らしい!大臣!是非!公都でも導入しましょう!」
「そ、それほどか?」
「何を言ってるんですか!今見たでしょう!」
「う、うむ」
「この場で契約を交わしましょう!」
「そ、それは、戦争直後で予算が、」
「うるせぇ!じじい!」
「ひいっ!」
『ぎょっ』
「閣下。この場で話を詰めましょう!」
「えっ、いっ、良いの?」
「構いません!寧ろ今交わさないと!ドゥベルチで販売するという事はベルバキアにも販売するという事ですよね」
「まぁ、1番近いのがベルバキアの街だから当然そうなるよね」
「今交わしてある程度の数を確保しないと、時間が経てば入手するのが困難になるでしょう。今話しましょう」
「お、おう」
「今皮紙と筆記道具を持って参ります。少々お待ち下さい」
「お、おう」
ガチャ
女性情報官が出て行った。
「・・・どーゆー関係?」
「・・・孫娘でな」
『・・・なるほど』
その後、契約を交わしある程度の数の確保を約束した。
その後もドゥベルチや塩会議の事を話し合い、そして夕方近く、城に向かう事になった。
コンコンコン
「赤将軍、アレクサンドリア外交団の方々が参られました」
「うむ、お入り」
「失礼します」
衛兵がドアを開け、後ろに続く者達に入室を促した。
「これはバティルシク大臣。ようこ、そ!?」
「ファナキア殿。早速で悪いが紹介したい者がおってな」
「ウォーカー!?」
「あ、ども」
「あ、ども。じゃなーい!」
「まぁまぁ。将軍、先ずは座られよ」
「あなたが言う?・・・まぁ良いわ。どうぞそちらもお掛けになって」
「うむ。よっこい」
「ども。よっこら」
「お前も座るんかーい!」
「それで?先ずは何であなたが大臣と一緒に居る訳?」
「その事に関してワシから話そう。ウォーカーはベオグランデ国土回復戦争に従軍し、戦時中の依頼達成や軍功も有り縁が出来たのだ。それで今回ワシ等がアクアパレスに来た折に偶然再会しての」
「偶然再会?」
「あ、俺等はカツールク商会関係で飛び回ってるんですよ。誰かさんの要請で」
「くっ」
「再会時に話し合い、ワシ等アレクサンドリアの臨時外交官を依頼する事になった」
「・・・はぁ!?国の外交官を冒険者に!?正気なの!?」
「うむ。元々冒険者だったお主に言われるのは可笑しな気もするが、その通りじゃ」
「・・・まぁ、そうね。でもよりによってコイツを?」
「おっほん!国を代表する外交官相手にコイツ呼ばわりとは頂けませんな」
「イラっ。ベオグランデだけじゃなくベルバキア、ルンバキア両国合わせてのアレクサンドリアでしょう?両国の了解は有るの?」
「無くて構わん。ワシが全権委任された以上ワシの決定が両国の決定でもある」
「・・・まぁ、あなたがそう言うのなら」
「先ずはファナキア殿。正式に外交官就任喜び申し上げる」
「・・・痛み入るわ」
「おめでとさんです」
「イラっ」
「今回ウォーカーには色々話を聞いた」
「・・・話したの?」
「色々と」
「・・・それで?」
「其方が外交官に就いた訳も何となく察している」
「・・・でしょうね」
「我々も、元老院とは反りが合わないと感じているのでファナキア殿と協調する線でまとまっている。先ずはその事を念頭に置いておいて欲しい」
「冒険者の国、ソルトレイク。そして冒険者が大公になれる国、ベオグランデ。分かり合えるって事ね」
「その通りだ。しかし元老院とは協調できないであろう、ウォーカーの話を聞く限りではな」
「ふむ。元老院は今後、冒険者の登用を減らしてゆくでしょう。それが?」
「この度新しく17世を迎える事になったのは先日話した通りだが、それが元冒険者だと知ったソルトレイク側の態度は幾分眉を顰めるものだった」
「その時の折衝役は元老院派の人間だったわね」
「その様だな。我が国の伝統と文化を理解しようとしない者に我が国も信を置く事は無い。ルンバキア公国の対ベドルバクラ戦争・ドゥムルガ戦役での勝利に関しても、然も「我が国の援軍有ったればこそ」という態度も合わせて、な」
「・・・」
「ルンバキアから知らされていた情報に因ると援軍は500だったというが?」
「・・・その通りよ」
「たった500で威張られてもな。正直、元老院派の折衝役は軍事に関して素人感が拭えない。そして今回の河北での戦いも、副官による暴走でかなりの被害が出たらしいではないか」
ファナキアはカズヒコを見た。
「てへっ」
「イラッ」
「副官は元老院派だという」
「えぇ」
「これまでにも元老院派による黒い話は聞いていた事だったが、戦争にまで影響を与える程とは思っていなかった。元老院派の伸張はソルトレイクのみならず南部の益にならない、そう判断せざるを得ない」
「・・・」
「元老院は塩湖に胡坐をかき、虹の傘に守られている事で増長してしまった、我々はそう判断する」
「・・・」
「元老院の増長は我々の益にならない」
「っ、干渉するというの?」
「ソルトレイクが下手を打って塩湖を奪われでもしたら南部の負けが決まる、そういう事だ」
「アレクサンドリアの考えよね?2大国はどうなの」
「勿論我々の考えだ。両国は分からん」
「壮年国王の成熟期らしいソルスキアはどうなの?」
「今回の南北戦争でも積極的に支援が有った」
「影響力を強めているのよね、同調しそうだわ」
「食料増産態勢に移行した。南部開発もしている。塩会議後を見越して派兵は当面無くなると見ているのだろう。恐らく安定化を望んでいるのだろう。そしてそれはソルトレイクに対しても同様だと思うが」
「元老院による混乱は望んでいないと」
「ルボアールは分からん。相変わらずの国内主義だ」
「国内諸侯が国外に無関心だからね」
「ファナキア様」
「なぁに」
「ルボアールの援軍、シンファンの国境に留まらせましたよね」
「ぐっ・・・(そうだったわ。あれだけの被害、援軍が居ればあれ程までにならなかったと、そういう印象を与えるわね。干渉の口実になる恐れも)」
「しかしだ」
「?」
「女王派が力を盛り返せば、我々の危惧も小さくなるだろう」
「・・・」
「ファナキア殿が今回の外交官になった事は、南部の為に最善だったと、ワシは思っている」
「・・・分かったわ、協調して行きましょう」
「勿論南部同盟の国同士なのだから協調するのは当然の事だ」
(白々しいわね)
「外交官、としてではなく赤将軍と協調してゆきたい、そう思っている」
「・・・個人的に」
「今回の外交官は一時的なものだろう。塩会議後は元老院派の者がなるかもしれん。そうなったら外交に擦れ違いが発生する恐れがある。我が国の文化と伝統を理解しない者とならな」
「・・・」
「獣人とエルフ、ヒトではない者同士で仲良くやって来たが、そのエルフがヒト族のように堕してしまってヒトのお主とこういう話をする事になるのは皮肉な事だがな」
(・・・面倒だわー。外交官としてなら国同士の話で終わるけど、私ととなると、クレティアンとルンバキアの協約のようにあらぬ誤解を生みかねない。しかし確かに元老院派の奴が外交官になれば齟齬が生じるのは必定。対立が深まるわ。それは国の弱体化に繋がる・・・)
「ファナキア様」
「なぁに」
「国同士の外交は勿論外交官の派遣で済ますでしょうが、それまでの事前の交渉は外交官は必ずしも必要無いのでは」
「・・・なるほど。(つまりあちらの窓口は私としか開かないと言っているのね。それはそれで元老院に睨まれるけど、そもそも元老院の信用の失墜が招いた事。元老院の国際的信用が低下していると自覚させる為にも必要かもね)ソルスキアにも打診してもらうと助かるわ」
「やるなら徹底的にやった方が良かろう、ワシから話しておく」
「そう、お願いするわ。ホットラインはどうする?」
「情報員同士の交流でも良いが、ラインは複数持っていた方が良いだろうな」
「ではどうでしょう」
「うん?何か案が有るのか」
「はい。私は先の戦争で赤将軍から赤将軍の後援商会と縁を持つよう強制さ、おっと要請されまして」
「ほぉ」
と、バティルシク大臣はファナキアを見つめた。
(ちっ)
「その商会を通せば宜しかろうと」
「ふむ。貿易もといった所か。しかしドゥベルチからここアクアパレスまで移動は現実的ではあるまい。間にベルバキア、ルンバキアもある。その国の商人が介在するのではないか」
「ドゥベルチのウリク商会は公都ムルキアの商会です」
「そうだったな」
「ウリク商会はルンバキアと貿易をしております」
「なるほど。その伝手を使ってルンバキアからアクアパレスまで繋ぐと。ドゥベルチの商品も輸出出来るし都合が良いな。情報員は商隊に紛れて同行すれば偽装には丁度良い。どうかな?」
「・・・(カツールク商会の取引が増えるのは願ったりね。上手く乗せられてるけどこれ以上の元老院の影響拡大を阻止するには乗った方が良いわね)了承するわ」
「結構だ。お互いの後援商会を通じて貿易を増やしてゆこう。我々はドゥベルチを手に入れた。念願の平地の街だ。そこを重点的に復興発展させてゆく。そちらの、あー、カツ、カツ・・・」
「カツールク」
「カツールク商会とで仲良くやってゆこう。商会が富めばお互い潤う」
「分かったわ。これから冬の準備に入る。急いだ方が良いわね」
「その通りだ。山地は雪に覆われ食料燃料が手に入りづらくなる。玄関口のドゥベルチを通して入手したい」




