⑱-37-704
⑱-37-704
翌日。
「返事をする前に大臣にお聞きしたい事が有ります」
「何かな」
「外交の方針です。俺自身、やられたらやり返す、の気持ちなので、向こうが挑発して来たら戦争継続的な言葉を吐くと思います」
「それで構わん」
『えっ!?』
「全権委任大使を任せるという事は、全権を委任するという事だ。好きなようにやるが良い」
「いやしかし」
「其方等と会う前までの方針は伝えておこう。専守防衛の国是に則り、戦争の終結、国土の復興を最優先。以上だ」
「・・・だったら」
「言ったであろう、運命なのだ」
『・・・』
「其方等は公国民ではない。しかし公国の為に命を懸けて戦った。砦を奪い返しパルカを落とし国境砦を防衛しクーデターを成功させた。最早公国民と言っても良い、ワシはそう思うておる。其方等は最前線で戦友と共に戦い、最前線で国民の悲劇をその目で見てきた。其方等の言葉は戦友の言葉であり、死んでいった者達の言葉なのだ」
『・・・』
「お主の言葉は公国の言葉だ」
『・・・』
「其方はベオウルフと共にある」
「・・・畏まりました。謹んで拝命いたします」
「うむ」
「褒賞、宜しくお願いしますね♡」
『締まらねーな!』
「早速だが今日の午後、ソルトレイク側と折衝が有る」
「はい」
「出席してもらいたいが、構わんかな」
「大丈夫です。あっ」
「どうした」
「ソルトレイク側に顔を知られてると思うんですが」
「ふむ。河北の戦いで活躍したのか?」
「あー、まー、活躍というか、ファナキア様に斬られたというか・・・」
「「はい?」」
「斬られた?」
「えー、まー、はい。斬られました」
「何で?」
「んー、えー、副官を殺そうとして」
「「はい?」」
「決闘を申し込まれたんで殺そうとしたら止められて、強引に行こうとしたら」
「・・・ジーナ?」
「事実です」
「「・・・」」
「よし。忘れろ。ワシ等も忘れた、何も聞いておらん、な?」
「はい。私も忘れました」
「オッケーです。俺も忘れました」
「よし。良いか、交渉は切り替えが大事じゃ。相手の言葉に引きずられると誘導され易くなる。お前は筋が良い、自分のペースで物事を運ぶのに長けておる。相手のペースに合わせつつ自分のペースに持って行くのじゃ」
「相手のペースに合わせたら不利じゃありません?」
「カヤ、相手が”自分のペースになってる”と思い込ませるのが大事なのじゃ。そう思い込ませつつこちらの望む方に誘導する。これが外交じゃ」
「むっず!」
「その通りじゃ。しかしロッシはそれが出来る。冒険者にしておくのが惜しいほどにな」
「さっすが!」
「えっへん!」
「相手が策を弄する時こそが策に嵌めるチャンスじゃ、覚えておくが良い」
「はい」
「ソルトレイク側がファナキア様だと・・・まぁ大丈夫でしょう。寧ろファナキア様の方が元老院派の奴よりも話が通じるし何とかなると思います」
「うむ。何とかなる、その気持ちが大事じゃ」
「そ、そうなんですか?」
「ジーナ、ワシ等は最後の札だ。ワシ等の交渉如何によって戦争終結か継続か決まる。そんなプレッシャーの中、平常心でやれる奴は一種、狂っておるのよ」
『・・・』
「普通ではない。そんな奴は簡単に戦争継続を決めたりする。そういう奴が悲劇を生むのじゃ。悩んで悩み抜いた末の開き直り、それが肝を据える、覚悟を生む、ブレない気持ちが生まれるのじゃ」
『へー』
「よし。会談用に衣装も整えよう。これ、何着か持って来ておったな?」
「はい。ただ、大臣用でして。閣下は背が高く嵩が足らないかと」
「多少は大丈夫じゃろう」
「会談は河北でと言ってましたよね」
「うむ」
「野外でするんですか?」
「その通りじゃ。一応テントは張るが」
「なら嵩が足らないように見せるんじゃなく野外用の衣装に見えるようにすれば。丁度寒くなってくる頃ですし」
「それで行こう。其方用の衣装と装具。替えの衣装も一応用意しておくとして・・・洗濯はしないで香水をふっておくか」
「洗濯はしましょう!」
「いや。元々替え用だから使ってはおらんかったし、久々に出して天日干ししただけじゃから臭いは気にする事は無いぞ?」
「仕舞ってあった服の臭いが苦手なんですよね」
「そうか・・・しかし今から洗濯となると・・・」
「大臣。これはドゥベルチの街主様にも話したのですが」
「ふむ?」
「無事に戻って来て良かったわ」
「戦後処理に時間が掛かり直接の御報告が遅れた事、申し訳ありません」
「そんな事、気にしないで」
「ブラマンディ様もお変わりないようで」
「あなた達のお陰でね。多くの犠牲が有ったのは残念な事だけど・・・」
「報いは受けさせます」
「やり過ぎても駄目よ。あなたに返って来るわ」
「覚えておきます」
「あなたはこのアクアパレスの虹なのよ、兵士達の虹。虹が消える時、運命の雲行きもおかしくなるわ。自覚はしなさいね」
「はい」
「うんうん。所で塩会議の外交官になったって聞いたけど」
「はい。正式に決まりました」
「例年は元老院派がなるのだけれど、まぁ仕方ないわね」
「失策が重なりましたから」
「致命的なのが立て続けにね。これだけでは終わらないでしょう」
「除籍も有り得るとか」
「・・・大事になってるわね」
「これから国内も大波に飲まれるでしょう」
「元老院だけじゃなくダンジョン教も?大変な世の中になって来たわね。世の中の移り変わりは早いわねぇ。ギルドウォーがついこの間だったのに」
「10年も前ですよ」
「あの頃も大変だったけど楽しかったわねぇ」
「良き思い出です」
「偉くなるって事は、良い思い出が出来なくなるって事なのかもねぇ」
「・・・」
「そうそう。連続自殺騒動」
「!」
「自殺じゃないわね」
「やはり」
「自殺じゃないように見せかけてるようね」
「・・・意図的にバレるように殺した?」
「そのようね」
「何の目的で」
「分からないわね。しかも10人以上でしょう?バレるように殺したのならダンジョン教じゃないでしょうし」
「元老院も態々自分達が疑われるようなことはしないでしょう」
「そう思うわね」
「その件も含めて紫と捜査は継続します」
「あの子も、気には掛けておいてね。可愛そうな子だから」
「はい」
「ぐえぇぇぇぇぇ・・・」
俺はまた抱き攻められていた。
抱きしめられているのではない。
攻められていた。
「ちょっと!ロッシさんが苦しんでます!」
「はっ!もっ、申し訳ありません閣下!」
爺に抱きつかれるよりマシだが今迄で1番強い。
彼女達も引いてるくらいに強い。
情報官って話だが諜報活動もしてるし実際に荒事なんかもしているんだろう。
単純に強いんじゃなく締め付けるような苦しさだ。
「かっ、閣下。大丈夫ですか」
「は、はは。大丈夫、ほらこの通「ボキボキ、ボキッ」・・・ちょっと、ポーション出して!」




