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HappyHunting♡  作者: 六郎
第18章 魚の丘、羊の谷
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「街主からの手紙は読んだ。また更なる投資をしてくれたようだな」

「戦争が終わってもこれから冬が始まる。寧ろこれからが大変だと思います」

「そうだ。戦争で食料生産も減っている。特に我が国は山地で寒さが厳しい。餓死者だけでなく凍死者も出るだろう。寧ろこれからが我々にとっての戦争だ、冬将軍とのな」

「食料はある程度ダンジョンからも得られるって聞きましたけど?」

「正に、ある程度、なのだ。何故冒険者が一般的に忌避されているか知っておるか?」

「直ぐに暴力を振るうから?」

「ダンジョンに潜るからだ。浪漫や冒険を求めて、という事らしいが」

「あぁ、まぁ、分かりますよ」

「何で駄目なの?夢や一獲千金を求めるのが悪い事?」

「カヤ、ダンジョンってモンスターが居るんだろ?」

「そうだよ」

「夢や浪漫の為に殺しに行く奴が真面だとは、一般人は思わないんだよ」

「えっ。でも狩りとかでも動物を殺すよね。何が違うの」

「食う為に殺すのと、金の為に殺すのとじゃぁ違うんだって言う人が多いんだよ」

「う~ん、ちょっと納得出来ないなぁ。ダンジョンのモンスターを殺すのは結局は人々の為だよね」

「そうじゃ。しかし例えば戦争で多くの人間を殺した者を実際に目の当たりにした時、戦争の英雄と称えるのか、それだけの力を持った者として恐れるのか。戦争に勝った直後の熱気冷めやらぬ最中なら称えもしようが冷めた時、普通の人間は恐れるのだよ」

「ふーん」

「俺達も迷宮人っていう連中に遭ったよな」

「あぁ会ったね」

「あんな連中ならそれも納得だろ」

「そうだねぇ。戦うのが楽しいって人は、側に居たら恐いね」

「特にダンジョンに潜る人間は特殊なのじゃ。モンスターなら躊躇なく殺して良い、そう思っているのが大半じゃ。モンスターを殺し続けた末に人間も殺してしまうのではないか、そう恐れられるのじゃよ。ダンジョンでは自分を殺しに来る奴が敵、ダンジョンで生き延びた者達は人間社会でも自分に敵対的な言動を取る者も敵と見做し行動に出る。ダンジョンのモンスターを殺すのは確かに人々の役に立つ。しかしその力が自分達に向かうのではないか、そう恐れているのだ。実際にそういう事件も起こっているでな」

「モンスターを殺した人間はステータスが上がり易い。そんな連中を恐れるのは、まぁ当然だな」

「ふーん。ロッシ兄ぃはダンジョンが嫌いなの?」

「嫌いだね」

「何で」

「何でって」

「ワシも気になるな。お前なら喜んで行きそうに思うが」

「何でわざわざ死ぬ確率の高そうな所に行くんですか。森とかで十分稼いでる。行く必要性が無いな」

「しかしこの街主からの手紙では、魔導具の情報を知りたいとある。ダンジョンに興味があるからではないのか?」

「興味はあります。しかし自分で行く気は無い。俺が考えてるのは、他人がヒーヒー言いながら命からがら取って来た魔導具を昼寝直後の寝惚け眼で欠伸をしながら買って、それを商会に卸すんです。平和サイコーって言いながら」

『最低ぇー』

「だって夢や冒険をしたいから好きで行ってるんだろ?俺には関係無いし」

「でもそういう人達が居るから魔導具が世に出る訳でしょ」

「俺みたいなのも居るから魔導具が世の中に広まるんだ。魔導具が要るんなら自分で取って来い!ってんなら商人は寄り付かんわな」

「まぁ、一理ある。しかし冒険者が必要なのもそうだ。居なければそもそも魔導具も出てこないしな。つまりはバランスだ。双方が納得出来るような仕組みを作る。政治の出番という訳だ」

「そういえば今回の戦争中、ダンジョン教徒が問題になってましたね」

「「何だってぇー!?」」

「ダンジョン教徒が居たのか!?」

「えぇ。バウガルディ軍の旗艦に忍び込んでたみたいで。あっ、その報告を聞いてソルトレイクでもダンジョン教徒を捜索するとか言ってましたね」

「だから警備も増えておったんじゃ。恐らく今後は周辺の村にも捜索範囲を拡大するだろう」

「えぇ。そんな事言ってました」

「今回の議題にも上るじゃろう、全く。戦争だけでも頭が痛いというのに」

「そんなに大事なんですか?」

「さっき話した暴力を振るう連中、ダンジョン教徒が正にそれだ」

「確かにダンジョンを神聖視してるんなら怖いですね」

「神聖視してるから話も通じない。話の通じない暴力集団、放置出来る訳がない。放置すれば時間と共に影響力を増す。今はどの国も戦争直後で不安定な状況だ。金が無ければ今日食う物さえありつけん。そんな心の隙間に奴等は入って来る。信者が増えダンジョンを占拠でもされたら国体が揺るぎかねん」

「そこまでなんですか」

「ダンジョンの事は詳しくはなさそうだな」

「えぇ」

「ダンジョン内のモンスターを間引かないといずれ溢れ出す。スタンピードというものだ」

「スタンピードなら聞いた事が有ります」

「普通、ダンジョン内に居るモンスターが出てくるだけなら対処は出来るのだ。しかしスタンピードの場合は明らかにダンジョン内に居た数ではない程の数が出て来るのだ」

「ほぉ」

「スタンピードが起こった場合、その周辺の街や村は全滅する」

『そんなに!?』

「戦争ならお互い準備して決まった場所で会戦となるだろう。或いは攻城戦とかな。しかしスタンピードは突如として起こる事が多いのじゃ」

「しかし、間引いてないから起こるんでしょ?そういう報告があれば対処出来るんじゃないですか?」

「そこでダンジョン教だ。奴等が占拠していた場合連絡手段を潰すのだ。街に紛れたり衛兵に紛れたり、冒険者になったりな」

「でも占拠した場合、そいつ等も死ぬんでは?」

「貴い殉死という訳だ。奴等の神に対する信仰の証として己の身を捧げるのだ」

『げっ』

「終末思想かよ、そりゃ仲良くなれんわ」

「その通りだ。勿論奴等自身が死ぬ宗派ばかりではない。しかしその危険性を世に徹底させる為に敢えて我々がそう流布させている面もある」

「政治家の都合ですか」

「10年前のギルドウォーは覚えているか?」

「いや、まだ、幼かったので・・・」

「そうか。ギルドウォーも、奴等が嚙んでいた地域も有ってな」

『えっ』

「その場合、スタンピードも起き地域は壊滅した。文字通り、壊滅だ」

『・・・』

「ギルドウォーは今も原因究明をしているが何が端緒だったのか、まだ分かっては居らん」

「冒険者同士の戦いだったと聞いてますが」

「一般的にはな。そう流布させているのだ、ワシ等に都合が良いからな」

「・・・俺達に話して良い内容ですか」

「国家機密だ、話せばこれだろ?」シュッ


と、首を括るジェスチャーをした。


「秘密保持契約は有効だろう」

「えぇ」

「ワシ等にとっては国がガタガタになった責任を誰かに負わせなければならなかったのだ」

「それが冒険者だった・・・」

「冒険者が各ギルド支部同士対立し殺し合いに発展したのは事実なのだ。ギルド内部で冒険者の贔屓や贈賄があり火種になっていたのも事実。しかし何故それがあれ程までに広がったのか・・・未だに分からん」

「ギルドウォーって言う位だから戦争になったんですよね」

「通常の戦争ではない。戦争というとお前達も経験して来たから、街壁を挟んで睨み合いというのを想像するだろうが」

『はい』

「ギルドウォーは違う。冒険者同士、パーティやアライアンス単位での戦いになる。その辺の街道や街の中や森の中。あらゆる場所が戦闘地になった。故に一般人の犠牲者も大勢出たのだ」

「何故・・・戦いになるんです?冒険者同士が。そりゃぁ、まぁ、俺達も、無かったとは言えませんが、それでも戦争という程には・・・ちょっと想像が付きませんね」

「貴族が己の支配拡大の為に利用した」

「あっ」

「どうした」

「クレティアン様がそれらしい事を・・・」

「ふむ。奴は冒険者上がりだからな。その辺の事情に詳しかろう。冒険者は利用されたのも居るが貴族を利用して成り上がろうとした者も居る。貴族だけではない。商人や各宗教団体も加わった。あらゆる権力者が加わっていったのだ。正に戦争と呼ぶに相応しく」

『ほぉ』

「通常の戦争ではない。街の中が突然戦場になる。経験した事も無い事態に対応する事は出来なかった。冒険者が嫌われるのは、ある意味当然なのだ」

「しかし国の安定の為に貴族や商人、宗教団体の所為には出来なかった」

「権力者の関与を隠すようになって、今に至っては本当に冒険者だけが悪いと思っている者が増えてしまった。その所為で新たな軋轢も生まれてしまった。難しいのだよ」

(なるほど。ウルチャイがその世代だという訳か)

「そしてそのギルドウォーにダンジョン教も関わっていたのだ。冒険者を利用し影響範囲を拡大し、貴族にも信者が出る程にな。ただでさえ複雑な問題に更にダンジョン問題を増やしおって。奴等は絶滅させねばならん。国家同士の戦争よりも厄介な事になった。国同士の戦争なら今回の様に会議で話し合って決着を決める事が出来る。しかしダンジョン教問題は違う。奴等とは話し合えん。奴等は死ぬのを恐れん。殉教覚悟で来る。地獄だ。狂信者と戦った兵士はトラウマとなって生涯苦しむ。ワシも通常だとなるべくなら穏便に事態の収拾を図りたいがダンジョン教だけは無理だ。奴等は絶滅させねばならん」

(絶滅・・・という言葉が前世世界の俺からするとジェノサイドを想起させるが、大臣がここまで言うのも、その地獄を体験したからなのだろう)

「故にダンジョン教は国家の最重要問題なのだ」

「なるほど。ダンジョン教徒の話が出た時も、えらい騒ぎになってました」

「居たのはバウガルディ側なのだな?」

「えぇ」

「ふーむ。奴等もギルドウォーで被害が大きかった。ダンジョン教の弾圧は継続しているはずだが」

「えぇ。なので潜んで居たみたいですね」

「ふむ。やはり定期的に掃除をせねばならんな。ワシ等も帰ったら掃除しよう。新大公の即位式もある。一度大掃除をして新年を迎えた方が良かろう」

「畏まりました」

「今年の汚れ、今年の内に、ですね」

「良い標語だ、使わせてもらうぞ」


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