⑱-34-701
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「はいよ。これが大臣の泊まってる場所だ」
「助かる」
「貴族区への門は衛兵が守ってる。取次ぎをしないと入れないよ」
「大臣へか」
「あぁ」
「分かった」
イリーから情報を受け取り貴族区への門まで来た。
「何用だ」
「取次ぎを頼みたい」
「相手は」
「ベオグランデ公国大臣、バティルシク様」
「む。貴様等は冒険者か?」
「あぁ」
「大臣との関係は?」
「新しく公国の街となったドゥベルチの街主様から手紙を預かっている。これだ」
「ふむ。手紙が本物か分からん以上渡すしかないが、貴様等を通す訳にはいかん。先方に手紙を渡し許可を得られたなら通す事が出来る」
「それで構わない」
「では確認取れるまで詰所で待機してもらう」
「分かった」
「一応言っておくが、先方の態度によっては逮捕も有るからな」
「あぁ、分かった」
「うむ。では此方に来い」
「バティルシク大臣」
「うむ」
「大臣宛に手紙が届けられました」
「手紙?良かろう、入れ」
「は」
ガチャ
女性情報員が戸を開け部屋に入って来た。
「こちらです」
「ふむ。ドゥベルチの街主からか」
「はい。先日立ち寄った後の手紙、並びに塩会議直前での連絡とあって緊急性が高かろうと思われます」
「そうじゃな、どれ」
大臣は封を切った。
「・・・ふっふっふ」
「大臣?」
「ふふふ。読んでみろ」
「は、お預かりします・・・デッドマンズカンパニー」
大臣は窓辺に寄った。
外の景色を見下ろす。
「また会うだろう、大臣の予想が当たりましたね」
「アクアパレスは世界一栄えている街だ」
「はい」
「我が国の街もこのようにしたい、そう思わない者は居るまい、外交官として来たならば」
「はい」
「・・・彼等を呼んでくれ」
「畏まりました」
部員は出て行った。
「虹の都、か」
その窓からも見える城を見上げながら独り言ちた。
「お久しぶりです、大臣」
「うむ。元気そうだな、女子達も、達者そうで何よりだ」
「「「「有難う御座います」」」」
「また日に焼けたな」
「いやぁ、初めて水上戦に参加したらビックリですね。照り返しが厳しいのなんのって」
「ふふふ、まぁ座れ」
「はい、よっこら」
「よっこい。山でも焼けたが河でも焼けるのだな」
「水面がキラキラするでしょう?あれで焼けるみたいなんですよ」
「なるほど。河は激戦だったらしいな」
「えぇそりゃぁもう。初めての水上戦はパニックで何が何やらでしたよ」
「ふふふ。戦について聞いても良いか」
「えぇ。分かる範囲でなら」
「うむ。手応えはどうだった」
「手応え?」
「今後、戦争は有りそうか」
「いや、聞く所によると今年、というか、数年は大きい戦争は無理だろうっていう話でした」
「ふむ」
「海亀襲撃の件は?」
「うむ、耳にしておる」
「その際に大量の馬を動員して侵略して来たらしく」
「ふむ」
「バウガルディ・シンファンの騎馬は壊滅だろうって話でした」
「ほほぉ」
「その所為でソルトレイク河北の決戦では馬が居ないんで逃げるに逃げられず、追撃で結構な被害だったとか」
「なるほど、それでか」
「ん?」
「ソルトレイク側の話も結構強気な印象だった故な」
「あぁ、もう話し合いは始まってるんですね」
「うむ。お互いの状況を話し合い、北部相手では協力し合い、南部各国間ではある程度の妥協を話し合わねばならん。我がアレク3公国は特にソルスキアに譲歩せねばならんしな」
「なるほど」
「そしてソルトレイクの方も、まだ混乱中なのか暫定の外交官との折衝になっておる」
「暫定?」
「うむ。まだ正式に今回の会議の外交官が決まっていないらしくてな」
「ほほぉ。混乱してるんですね、街もざわついてますし」
「ふむ?」
「貴族区の方はそうでもないかもしれませんが、外区は犯罪率が上昇してます」
「ほぅ」
「河北の戦いの詳細はご存じですか?」
「鋭意収集中だ」
「勝つには勝ちましたが、被害も大きいものでした」
「うむ、その辺は知っている」
「元老院派の副官が命令無視で先走って右翼が壊滅したんですよ」
「・・・」
「生き残った奴等が犯罪に・・・」
「・・・なるほど、それでか」
「はい」
「いつもなら外交官は決まっていなければならない、ホスト国だからな。しかしこの時期になっても決まっていないのは、それが原因なのだろう」
「なんでも、その副官は死刑3回分相当らしいですよ」
「ぶっ、3回!?」
「えぇ」
「とんでもないな。むしろよくそこまでやれたな」
「全くです」
「ふ~む。そこまでとなるとぉ、派閥争いが激化しておるだろうな」
「元老院派と女王派との」
「うむ。知っておるのか」
「女王派の虹の騎士と元老院派の副官がバチバチやってましたね」
「それでか。暫定の外交官がファナキアだったのは」
『げっ』
「いつもなら外交は元老院派の区分のはずだが、今回の戦争の総大将だったファナキアが暫定の・・・いや、暫定ではなくこのまま正式な外交官になるかもな」
「女王派の影響力を増す為にも」
「うむ」
「こっちで副官の処刑はありました?」
「・・・どうだ?」
「いえ、耳には入っておりません」
「3回処刑分の罰なら現地で処さないと示しがつくまい。やらなかったのか」
「元老院派から助命の勅使が来たんですよ」
「勅使!?」
「えぇ。ファナキア様が斬りましたけど」
「「斬ったぁ!?」」
「えぇ。副官の代わりに」
「流石、血雨将軍の名は伊達ではないな。恐らく副官の代わりに勅使を殺す事で将兵の爆発を抑えたのだろう」
「はい」
「副官は元老院派だが、恐らく元老院の血族だろう」
「流石ですね、その通りです」
「そうでもないと生かす価値が無いからな。恐らく塩会議にファナキアが出る為の布石だ」
「交渉材料ですか」
「副官を生かす代わりに、という事だ。なるほど。戦争直後という事で外出を控えさせられたのは情報収集されたくなかったからじゃな」
「かなり強引でございました」
「うむ。なるほど、今回の外交官はファナキアだ。決まりだ。他の外交官候補の情報は集めなくて良い」
「宜しいのですか」
「勅使も殺した、決意の表れだ。構わん、ファナキアだ」
「畏まりました」
「助かったぞ、ロッシ。余計な手間が減った」
「お役に立てたのなら幸い」
「外交官が誰かで交渉方法も方針も変わって来る。リソースを集中出来る。集めるのはソルトレイクの情報だけではないからな」
「閣下」
「うん?」
「海亀関連の情報をお持ちではないですか」
「というと?」
「海亀の塩が議題の会議。その海亀に関して情報が集まりにくく・・・」
「あー、あれかな、海亀襲撃事件だよね?」
「はい」
「バウガルディ・シンファン連合軍による作戦だったのは?」
「存じております。壊滅したとも」
「あぁ。ただ、単に襲撃したのではなく、連合軍はソルトレイクに幽霊会社を作ってたんだ」
「「幽霊会社?」」
「えぇ。チリメン商会って名前の。そのダミー商会を使って兵士をソルティドッグの代わりとして偽装し集めて襲撃させたんだ」
「ほほぉ、ダミー商会にのぉ」
「えぇ。それで襲撃を阻止した後にチリメン商会を捜索し関係者は逮捕、拘束したんですが」
「ふむ?」
「その関係者と繋がっていた元老院派の官僚10人程が自殺したそうです」
「「自殺!?」」
「えぇ。なんでもバウガルディ・シンファンから金を受け取ってチリメン商会認可に関わっていた連中だったらしいんですが自殺。しかしソルトレイクは自殺と考えておらず事件だと捉えています」
「だろうな。10人が自殺するなど、現実には考えられん」
「官僚であれば逃亡も難しいでしょうし自殺の線も考えられますが、10人は流石に」
「だよね。なので北部とも繋がっていたという事も有り緘口令を敷かれてるんじゃないかな」
「なるほど。ソルティドッグに話を聞いても今年は外されたらしく「何も知らない」と突っぱねられたんですが、そういう事情が有ったとは」
「ソルティドッグにも緘口令が出てるだずだ。破れば国家機密漏洩でこれだ」シュッ
首を括るジェスチャーをした。
「なるほど。口が固い訳ですね」
「その国家機密を話してくれた訳だな」
「元老院大っ嫌いでぇーっす!」




