⑱-33-700
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「おはよう、イリー」
「おはよう。宿はどうだった?」
「あぁ、良い感じだったよ。ただ・・・」
「ただ?」
「巨乳美女のマッサージサービスが有れば完璧だったな」
「オラッ!」ドスッ
「ぐふっ」
「ばぁや、娼館の非番の娘達に声を掛けといて、試しに導入してみよう」
「あいよ。マッサージの後に娼館への流れが出来れば良いね」
「導入すなっ!」
「娼館もやってるのかい?」
「文字も読めない手に職も無い女達の最後の職業さ。綺麗事だらけの正論で彼女達は救えない、あんたもその口かね」
「他人の俺が他所様の人生に口出し出来るほど人間が出来ちゃいない。どうでも良いさ」
「ドライだねぇ」
「無理矢理は反対だが本人納得で対価が払われているんなら問題無かろう。何より男には必要な職業だ、特に戦争ではな」
「望んでやってるのなんて居やしないだろうよ。選択肢がそれしか無かった、だったら野垂れ死にするのが嫌ならやるしかない。他人があれこれ言うのなら先ず金を払ってから言いなってんだ。それに客の中にも居るのさ、上から目線の奴がね」
「買春しといて女に説教する奴か、まぁ、話し相手が居ない寂しい奴なんだろうな」
「はっはっは!まぁそんな所だろうね」
「昨晩渡したタリルコルさんの手紙はどうだった?」
「あぁ。先代に対する感謝とこれからの関係への期待、そんな感じだね」
「先代が無くなった事には感慨深そうだったよ」
「んん、あたしにとってもね。しかしバレンダルだっけ?商売も順調そうで先代もあっちで喜んでいるだろうさね。昔馴染みの活躍はあたし達にとっても励みになる。ありがとよ」
「先代の意思がタリルコルさんに伝わり、俺達への縁になった。先代のやり方は間違ってはいなかったという事さ。そして今は俺達がそれを紡いでいく番だ」
「キルカ商会との取引がそれだって事かい?じゃぁビグレット商会とも繋がってるんだね」
「っていうかキルケさんがタリルコルさんの弟子だぜ」
「・・・なるほどねぇ。紡いでゆく、か」
「娼館の話ついでに聞きたいんだが」
「ん?」
「戦争参加者の客は増えてるか?」
「あぁ。戦争直後には当然ね」
「どんな話が出たりする?」
「どんな話が聞きたいんだい」
「元老院」
「・・・なるほど。慈善でやってる訳じゃないって分かってるって事か」
「金が入って女を抱きに来た男が酒に酔えば、つい本音を漏らすだろうくらいはな」
「ふん。元老院への感情は今までにない位悪いね」
「それはやはり、あの件か」
「あぁ。戦友や兄弟を失った者、ただ単に持つ者への妬みから言う者、理由は様々だが良い評判は一つも無い状況だね」
「ふーむ」
「実際街の治安にも影響が出始めてるらしい」
「治安?」
「あの件で犯罪に走る者が出てるって話だ」
「・・・まさか勅使の話は」
「あぁ、聞いてるよ。それでも収まりがつかない連中が犯罪に走ってるんだろうね」
「なんてこった」
「だからか知らないけど。ファナキア様の部隊の連中が起こしてるんじゃなく右翼に居た奴等が起こしてるらしいって話さ」
「処罰が無ければ収まりはつかんだろうな」
「その点はファナキア様には追い風だろうね、街の治安回復の為にも」
「塩会議で各国外交官の来訪。街の治安維持の為にも何らかのアクションは有るかもしれんな」
「遠からず発表は有ると思うよ」
「所で」
「ん」
「頼んでおいた海藻の取り置きはしてくれたかな?」
「あぁ。集めて天日干ししておいたよ」
「助かる」
「何に使うんだい」
「さぁな。俺達は運べって言われているだけで何に使うのかまでは教えられていないんだよ」
「そうなのかい。まぁ収納袋を持ってる運び屋だ。信用されてるんだろうからこちらも任せるけど、迷惑はかけないようにね」
「勿論だ。あともう一つ」
「ん」
「ベオグランデ公国の大臣が来てるって話だったが」
「あぁ」
「何処に泊まってるか、調べてくれないか」
「・・・何の為に」
「言っていなかったかもしれないが、俺達はベオグランデの国土回復戦争にも従軍していたんだ」
「ほぉ。証拠は有るのかい?」
「証拠・・・」
「傭兵や義勇兵として参加したのならタグを渡されてるはずだよ」
「あぁ、タグね。ほら、これだよ」
「・・・ふむ。あたしが見ても本物かどうかなんて分からないけどね」
「分からんのかーい」
「ベオグランデの刻印は打ってある。偽造も出来るけど偽造すれば死刑って事は知ってるんだろ?」
「知らなかったけど、そもそも偽造じゃないから何ら疚しい気持ちは無いんだが」
「まぁいいや、それで?」
「ベルバキア領だったドゥベルチがベオグランデ領になった事は?」
「聞いてるよ」
「そこのギルドから宅配を頼まれた。中身は知らない。収納袋を持ってるってのは知られている」
「ふむ。恐らくあんた等の事だ。国土回復戦争で信頼を得たんだろう、それで運び屋に選ばれたか。何で軍じゃなく冒険者に?相手は大臣だよ?」
「まぁ、収納袋を持ってるって事だからじゃないか?」
「・・・手紙類じゃないのかね」
「生物かもな」
「食べ物を?態々高い金払って送るかね?」
「さぁな。中身は知らん。俺達は依頼された物を届けるだけだ。中を開けるなと言われれば開けないだけだ」
「ふーむ。良いだろう、調べとくよ」
「助かる」
「くどいようだが、迷惑かけるんじゃないよ」
「俺達は依頼を遂行するのみだ」
「そんなだから頭割られるんだよ。公式な外交団だ。泊ってる所は少し調べれば分かるだろう、昼頃には話せると思うよ」
「分かった。じゃぁ俺達は昼まで街を見て回るとしよう」
俺達は雑踏の中に居た。
「んー。まぁ言われて見れば?衛兵が多いような気もするな」
「えぇ。南部外交団の護衛の為に増員されてるようね」
「でも外交団は貴族区に居るんでしょ」
「貴族区はやっぱり貴族区だから、こんなゴミゴミしてなくて警備しやすいんじゃないか?」
「そんなイメージ有りますね」
「まぁ実際これほど人数は居ないだろうからな。しかし随従の兵士達は外区に泊っていると言っていただろ。外国の兵士に喧嘩売る奴等も居るだろうからな、外交問題に発展するし増員は当然だろう」
「不満の溜まった戦争帰りが酔った勢いで外国兵士にちょっかいか。目に見えるな」
「折角戦争が終わったんだしのんびりしようよ。湖の方に行こう?」
「そうだな。水着美女を見に行くか」
「もう直ぐ11月よ。居る訳ないでしょ」
湖に出た。
「ソルトレイクって淡水海水両方の性質が有るって言ってたわよね」
「言ってたな。ハイブリッドウォーターだっけか」
「両方の魚が住んでるってね」
「磯の香りとかするのかしら」
「すーはーすーはー。うーん、どうだろな。マヌイ、どうだ?」
「磯の香りを知らないもん」
「そうか。まぁ、普通の湖と違う匂いを感じたらそれじゃないか?」
「そっか。すーはーすーはー。分かんない」
「マヌイに分かんなきゃ、俺達にも分からんな」
「しないって事かしら」
「磯の香りって、海藻やプランクトンの死骸が分解される時に出る物質だってな」
「そうなの?」
「海苔の匂いが磯の香りってのもそうだかららしい」
「へー」
「「「のり?」」」
「食べる海藻だ」
「「「へー」」」
「マヌイ」
「ん?」
「海、見てみたいか」
「うん。海亀も見たしね」
「はっはっは。見るだけじゃなく乗ったしな、国法犯して」
「そうだね」
「海か・・・そういや南に行くって言ってたしな」
「南国フルーツぅー♪」
「「「南国フルーツぅー♪」」」
「ふっ。ジョゼ」
「ニャア」
「南の魚も食ってみるか」
「ナウ」
「レイヴ」
「クァ」
「勿論食いたいよな」
「グァア」
「だよな。まぁ、南の海に行く前にここでも海の幸は食える訳で、海に思いを馳せながら昼食でも食うか!」
『さんせーい!』
「ナウ!」
「グア!」
「・・・海か」
「ちわー」
「いらっしゃいませ。何名様ですか」
「5人と2匹です」
「おや、お久しぶりです」
「やべっ、覚えてました?」
「勿論ですよ。あの時のお客様ですよね」
「そうです。親孝行の為に父と母を連れてここで昼食を頂いた」
「他の5人パーティと喧嘩為さっていたお客様ですよね?」
「うっ」
「またおいで下さいと申しましたでしょう、歓迎いたしますよ」
「やったー」
「「「「恥ずー」」」」
「もしかして戦争に参加しておられました?」
「えっ?えぇ、参加しました」
「タグはお持ちで?」
「えぇ、持っています」
「現在戦勝記念という事で、タグをお見せ頂ければ一杯無料のサービスを実施中でして」
『おぉ』
「私共でも戦争に参加された兵士にご苦労様と感謝の気持ちをと」
『有難う御座います』
「いえいえ。お見せ頂けますか」
「どうぞどうぞ」
「はい、確かに。ではお選びください」
「んー。実は酒はあまり飲まないんですよ」
「ほぉ。でしたら5人分纏めて一皿料理という事でどうでしょう」
『やったー!』
「お喜び頂けて何よりで御座います」




