⑱-29-696
⑱-29-696
「実はこの洗濯機、ウリク商会から販売される物の試供品でしてね」
「試供品?」
「えぇ。ですので普段使っててそれは何だと旅人らに問われたら、ウリク商会からの寄付で販売もされていると答えて下さい。宣伝になりますので」
「畏まりました」
「洗濯用石鹸は定期便で送るようにウリク商会に伝えときますので」
「有難う御座います」
「さてと。そんな所か」
「いつも気に掛けて下さって」
「縁ですよ、縁。お気になさらず。もうそろそろ塩会議が有るらしいですし。この戦争も終わりでしょう」
「そう願いますわ」
「俺達も忙しい身ですし。それはマリオンさんも同じでしょうからそろそろお暇しましょうかね」
「まぁ。いつ会えるとも分からないのですからゆっくり為さって」
「冬に入る前にやるべき事が山積みでしてね」
「そう、ですね」
「よっこら。出発する前に子供達の顔を拝んで行くかな」
「拝むだなんて。お年に似合わず古風な言い方をされるのですね」
『ぶふっ』
「え、えぇ、まぁ。田舎育ちなもんで爺婆に囲まれて育ったもので」
「「「「ニヤニヤ」」」」
「みんなー!飴はどうだったかなー?」
『あまーい!』
「形はどうだった?」
『きしょーい!』
「むむむ。食べても同じ感想か」
「当たり前でしょ。みんなはどんな形だと楽しいかな?」
「あたし兎さーん!」
「おいらは猫!」
「ニャア!」
「猫を食うなってさ」
『あはは!』
「僕お肉ぅ!」
「どんだけ肉食べたいんだよー」
『キャハハハ』
「君は・・・すまんな。形は楽しめんな」
「んーん。私は鳥が良い」
「鳥?」
「うん。鳥が好きなの」
「ニャァ」
「あっ。勿論猫も大好きだよ」
「ナウ」
「どうして鳥が?」
「どこへでも自由に行けるでしょ」
『・・・』
「約束の地へ、行ってみたいな」
「マリオンさん、あの子は」
「はい。元々目は見えていたそうなのです」
「それが何故」
「実は。両親と他にも知り合い何人かで旅をしていたらしいのですが、その途中で盗賊に遭ったと・・・」
『盗賊』
「乱暴をされてその時の記憶を失っているらしく」
『・・・』
「両目はその時に・・・抉られたのだろうと」
「えぐ・・・盗賊にですか?」
「恐らく。ですので眼は、無いのです」
「・・・なんて奴等だ」
「彼女の家族はどうなったんです?」
「ジーナさん。彼女以外全員亡くなったと・・・」
『・・・』
「彼女1人でいる所を旅の方に拾われて巡り巡って私達の所に」
「・・・そんな過去が」
「あの子だけじゃありません。みなそれぞれに事情があってここに居ます。親に捨てられたことを理解している子が大半です」
『・・・』
「お兄ちゃん」
「ん?」
チッ
チッ
チッ
少女が俺の方へ歩いて来た。
「歩いて大丈夫かい?」
「うん。お兄ちゃんに教えてもらった”反響定位”だっけ?舌を鳴らすやつ」
「まっ、まさかさっきの音は反響定位の為の音?」
「うん」
「嘘だろ!?教えて数カ月しか経ってないぞ!?」
「そんなに大したもんじゃないよ」
「いやいやいや!大したもんだよ!この短期間でここまでは普通無理だって!」
「信じられないわね」
「毎日練習してたんですのよ」
「いや、だとしてもこの短期間に?・・・天才って居るんだな」
「お姉ちゃん、夜オシッコに付いて来てくれる時も先頭歩いてくれるんだよ!」
「夜中真っ暗でも目が見えてなきゃ同じって訳か」
「教えてくれてありがとね」
「いや。教えても出来るかどうかは別の話だ。君の努力が神様に通じたのさ」
「・・・神様はなんで争いを止めてくれないんだろ」
『・・・』
「神様も暇じゃないのさ。人間が起こした問題は人間が解決しなきゃいけないんだよ」
「そっか。そうだね。なんでも神様に頼んだら神様、怒っちゃうかもしれないしね」
「そうだね。なんでも神頼みは駄目だ。先ずは自分が努力しないとな、君みたいに」
「えへへ」
「みんなもマリオンさん達の言う事聞いて仲良くやっていくんだぞー」
『はーい!』
「そうだ。裁縫道具や職人道具を渡しとくんで、子供達に触らせて下さい」
「はい。才能が目覚めるかもしれませんわね。この子みたいに」
「えへへ」
「ねむーい」
「じゃぁ眠い子達はお昼寝しましょうかね」
『はーい!』
「お姉ちゃん、物語聞かせてー!」
「良いわよ」
『わーい!』
「物語?」
「うん。私が見た夢を聞かせてあげてるの」
「作家かぁ。多彩だな」
「そんなんじゃないよ。ただの夢だもん」
「自分の可能性を狭めちゃいけないよ。もっと自信持って。反響定位も使えるようになったんだからね」
「・・・うん、ありがと。お兄ちゃん達、今日泊っていくの?」
「いや、直ぐに旅に出なきゃいけないんだ」
「そっか・・・」
「ニャァ」
「俺達は冒険者。魔物を狩ってる。魔物に困ってる人達がいっぱい居るんだよ」
「・・・そうだね。私達だけじゃないもんね。お兄ちゃん達が羨ましい」
「ん?」
「私は無力だもの。1人じゃ何にも出来ない」
「俺も1人じゃ何も出来ないよ」
「えっ?」
「俺には家族が居る。彼女達が居るから今までやって来れたんだ」
「家族・・・」
「俺達も血は繋がっていないが強い絆があり、これからも一緒に旅をして行く。君は今無力感を感じているかもしれないが君には優しさがある。その優しさがジョゼを惹き付け、俺達を惹き付けたんだ、君は無力じゃない。君は家族を作れるチャンスが今ここに有るだろ」
「うん」
「みんなと助け合ってこの世界を生き抜いていこう。俺達も手伝うからさ」
「うん、ありがと」
「また会いに来るから。その時もまた素敵な笑顔を見せてくれ」
「うふふ。うん、分かった」
「再会を約束してこれをあげよう」
「?」
「オルゴールって言うんだ」
「おるごーる?」
「この取っ手を回してごらん」
♪~♬~
『ワァー!』
「音が!」
「君に教えた曲が鳴るようになってる。笛の練習にでも使ってくれ」
「ありがとー!」
「お姉ちゃん鳴らせて鳴らせて!」
「はいはい」
「それではマリオンさん。子供達をよろしく頼みます」
「はい。みなさんもお気を付けて」
「何かあればウリク商会に連絡して助けを求めて下さい」
「分かりました」
「マリオンさん。あなた達は1人じゃない、孤独じゃない。助けを求めるのは恥でも何でもない。遠慮せず連絡をして下さい」
「マルコさん・・・」
「ではお達者で」
「私とあなた方の神の御加護があらん事を」
カズヒコ達は歩き去って行った。
その後ろ姿をマリオン達はしばし眺めたまま。
大人たちの別れの事などお構いなく子供たちは部屋で昼寝に入ろうとしている。
子供たちは少女の話を子守唄に今にも寝そうな様子だ。
「むかしむかし、ある所に王様がいました。王様は王妃様と王女様と、」
ルンバキア公国公都オラキアに向かう途中、機上の中。
「菊池君」
「何?」
「頼みがある」
「何」
「キルケさんに洗濯機の紹介をする時、任せたいんだが」
「その位なら・・・いや、カズヒコに任せるわ」
「何でだよ!」
「どーせあれでしょ、抱きつかれたくないとかでしょ」
「・・・バレたか」
「分かるわよ、一緒に死線を潜って来た家族なんだから」
「まぁ気持ちは分かるけどねぇ」
「ちょっと強いですよね」
「そーなんだよ。商人なのに何でそんなに強いのって感じで来るんだよ」
「それだけ強い思いだったって事だな」
「嬉しくないんだよ。男に強烈にハグされても」
「街主様みたいに女性なら良いの?」
「街主は軍人だろ、一番強かったよ」
「確かに。一番骨の音が鳴ってたもんね」
「《身体強化》してなくて助かったな」
「じゃぁ離れて説明したら?」
「それはそれで不自然じゃない?失礼でもあるし」
「かと言って躱しでもしたら気を悪くされるかもしれないですわ」
「大人しく受け止める事が通商同盟の今後の為にも最善だろう」
「お前等他人事だと思って・・・」
カツカツカツ
俺達はオラキアに着いてキルカ商会に向かった。
案内されて廊下を歩いている。
「ダリアも、商員が板について来たじゃないの」
「そう?だったら良いんだけど」
「調子はどうだい」
「やっと慣れて来たわね。最初の頃は忙しくて何が何やら分からなかったけど」
「新装開店だからな、しかも公都でだ。まぁ当然だろう。そんな経験そうそう出来ないだろうから反って良かったと思うよ?」
「ふふっ、まぁね。あなた達には感謝してる」
「ん?」
「私に声を掛けてくれて」
「気にすんな、俺達にも君が必要だっただけの事だ。猫の手も借りたい時だったからな」
「ニャアー」
「ふふふ」
「商売の調子は?」
「順調よ。反乱が終わったのは知ってる?」
「あぁ、聞いてるよ」
「その影響も有って商売も活発になって来てるわ」
「そうか。これから更に忙しくなりそうだな」
「えぇ。ソルトレイク王国の大商会とも繋がりが出来たって話だし、てんてこ舞いよ」
「暇そうにしてる商人なんて先行き不安だろう?」
「ふふっ、その通りね」




