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HappyHunting♡  作者: 六郎
第18章 魚の丘、羊の谷
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「ヤヌイは死んだ、それを受け入れろ」

「・・・」

「そうは言っても、転生者である私達が言っても説得力は無いわね」

「死んだ者は蘇らない、それが自然だ。じゃぁ何故俺達が生き返ったのか、何故俺達だったのか。全く分からんし、考えようとも思わない」

「何で?」

「マヌイ、お前の気持ちは痛いほど分かる」

「・・・」

「俺達の手でも死者を蘇らせる事は出来る」

『えっ!?』

「アンデッドだ」

『・・・』

「俺達はゾンビを見た。ふらふら安定感無く歩いていた。感情も無くただ人間を食おうとしていた」

「・・・ゾンビには魂が一部残っているのではないかというのが通説だ。それ故に生前の行動や癖、家に帰るなどの記憶からくる行動や習慣を表す者も居るという話だ」

「その話からすれば、蘇るのが失敗して完全な魂を持っての復活が出来なかったのがゾンビって感じか」

「でも私達が遭ったゾンビは死者の谷っていう所に死体を捨ててそれが蘇ったものだったんでしょ?魔法とか、儀式とか、そんな大掛かりな事じゃなく自然的にゾンビになったって感じだけど・・・」

「それにゾンビに噛まれてゾンビにもなる訳ですし・・・」

「謎だな。それに噛まれてもゾンビにならない場合もあると聞くし、更に謎だ」

「しかしヤヌイの体は既に無い。ゾンビは無理だろう。後は・・・」

「「「ゴースト・・・」」」

「・・・」

「恐らくマヌイの中に有るであろうヤヌイの魂の一部を、使えば蘇らせられるだろうが所詮は一部だ。ゴーストが精々だろうな」

「・・・」

「お前は満足なのか?ゴーストとして蘇ったヤヌイで」

「・・・」

「俺がヤヌイなら勘弁してくれって思うだろうが。思う事も無いのかもな、アンデッドには」

「考える事も感じる事も無くただ存在しているだけ、か」

「・・・」

「或る意味地獄ですね」

「死者だけじゃなく生への冒涜でもある。私も反対だな。勿論マヌイの気持ちも分かるが、ゴースト化した先に幸せがあるとは思えない」

「・・・」

「何故俺達が生き返ったのか、何故俺達だったのか、考えても答えに辿り着くとは思えない。辿り着いたとしても、幸せになれるとは思えない」

「知りたいとは思わないの?」

「知りたいとは思うが、知る過程で何かあれば、後悔するに決まってる」

「死者を蘇らせる方法を知る過程。権力や宗教や、危険な未来が見えるわね」

「権力者は不老長寿などの研究はしていそうですものね」

「不老長寿ではなく、死んでも蘇る事が出来るのなら尚更だろう」

「俺とミキが転生者だというのを隠してるのもその為だ」

「「「その為?」」」

「転生者だとバレたら、恐らくというか絶対に捕まえて情報を引き出そうとするだろう」

「・・・拷問、ですか」

「当然お前らを人質にしてだ。俺達2人だけじゃなく家族全員が対象になる、絶対にな」

『・・・』

「リィ=インの奴等はゴーレムに生きたまま食わせてたらしいな」

『・・・』

「いいかマヌイ。ヤヌイを生き返らせたいと思うのは自然な事だ。それ程思っているって事は俺達も分かっている。しかし実際にその方法を求めようとはするな。ヤヌイの思い出は俺達が聞く。ヤヌイの好きな食べ物や子供時代の思い出、楽しかった記憶、喧嘩した記憶、俺達に話せ。俺達はお前の記憶を共有したいんだ、喜んで聞く。しかし記憶は蘇らせても良いが死者を蘇らせるな。誰も喜ぶ結果には到底ならない、分かったな」

「・・・うん」


「でも、私達が殺して来た魔物や人間達の影響を知らず知らずに受けているのだとしたら、問題よね。冒険者になる前は平和に生きようって言ってたのに、戦争に参加するようになったのは今まで殺して来たゴロツキの魂を取り込んだせい?」

「深層心理の感情は自分では感じ取れない。だからこそ深層心理なんだ。自身で感じれるんならそれこそ欲望的犯罪なんか起こらないだろう、容易に抑えられるはずだ」

「同じ過ちを繰り返したりしませんものね」

「要は分からない、という事か」

「しかし楽観出来るデータもある」

『あるの?』

「16世だ。彼はあそこまで強くなるのにかなりの魔物や恐らく人間の魂も取り込んだはずだ」

『そう言えば』

「魔物だけの魂しか取り込んでないのなら尚更彼の性格はもっと直情的というか野性的というか、そんな感じになっていてもおかしくはない筈だろ?」

「私達に配慮したり家族を大事にしていたりしてたわよね」

「暴力的な性格には感じられませんでしたね。勿論戦闘を除けばですが」

「総大将として相応しい振る舞いだった。先頭に立って我先に切り込んで行く事も無かったし」

「だとしたら余計に不思議よね。相手の魂を取り込んでるのならその魂の影響を受けそうだけど・・・」

「マヌイが火魔法を発現したのもそれなら説明出来ますが、16世の事を考えると・・・」

「答えは出ない。だから止めとけって言ったのさ」

「カズヒコらしくないじゃない?考えて解決方法を見つけて来たからこそここまで生き残れて来たんでしょ」

「自分の魂が、取り込んだ誰かの影響を受けているのかいないのか、知る方法なんて無いだろ」

「元の自分、影響を受けた自分。その比較は・・・難しいですね」

「客観的、というのは完全には無理だ。人間は感情の生き物、感情に作用される生き物だ。完全なる客観的立場というものは存在しないだろう。だからこそ共感というものが大事なんだと思う」

「俺達は全員血が繋がっていない。だからこそお互いを共感し合い家族になった。この血生臭い世界を生きて行く為に助け合わなけれなばならない。殺した相手の魂の影響を受けているのかいないのか気にする暇は無い。死者を蘇らせる方法も俺達には関係ない。今の家族を助け、殺されないようにカヴァーし合う。それが大事だ。残念だが死んだ人間に構っている暇は無い、生きている人間が最も大事だ。分かったな、マヌイ」

「・・・うん」

「俺の今の言葉も、マヌイからしたら冷たいと思うものなんだろうな」

『・・・』

「それが魂の影響を受けた結果なのか。殺人の、生き物を殺すという罪に対する”罰”なのかもな・・・」

『・・・』




暫く進んで森も浅くなってきた。

街道が近いのだろう。

帰りもまた3人に探索させつつ歩いている。

俺と菊池君は補助役だ。


「菊池君」

「ん?」

「マヌイ、しばらくの間、気を使ってやってくれ」

「えぇ、分かってるわ」

「・・・君の事も心配だ」

「・・・転生の件?」

「何に対してだ?」

「・・・魂」

「実在する事に、か」

「・・・日本人の文化からすると当然なんだろうけど、でもそれは曖昧だったからこそ成立していたと思うの」

「確かめようが無いから否定も出来ないからな」

「えぇ。オカルトやら霊感なんてのも、信じたい人が居て、信じる事で心に安寧がもたらされるのなら意味があるものだと思っていた」

「しかし実在する」

「確実に存在すると知ったら・・・怖くない?」

「・・・地獄か?」

「地獄も存在するのかしら」

「案外ここがそうかもよ」

「えっ?」

「人が悪魔になっちまうんだ」

「・・・」

「地獄の小鬼みたいなゴブリンも居るしな」

「・・・」

「前世の記憶を引き継いでる俺達は転生できたから天国なのか。はたまた記憶をきれいさっぱり失っていた方がこんな悩み苦しむ事も無かったんじゃないか」

「・・・」

「結果を考えるのなら俺達は記憶を引き継いで転生した。ならその記憶を使ってこの世界を生き延び家族を守る」

「・・・えぇ」

「菊池君の前世現代日本の人道的な考えは今のこの世界じゃ甘過ぎる」

「・・・自覚しているわ」

「前世ですら性犯罪が多発してたんだ。この世界じゃ隙を見せたらゴーストになっちまうぞ。「恨めしや」ってな感じで化けて出てくれるなよ」

「分かってるわよ」

「頼んだぞ。おっ、そろそろ街道に出そうだな。マヌイー!」

「何ぃー!」


カズヒコは走ってマヌイに追い付いた。


「今日は俺の好物の日だけどぉ、マヌイの好きな物で良いよ」

「ホント!?」

「あぁ」

「じゃぁ、何にしようかなぁ」

「悩みなさい悩みなさい。若者は変な事に悩むよりも食べ物とかに悩んでいた方が健全だよ」

「じゃぁカズ兄ぃの山ブドウも頂戴!」

「なっ、ばっ、ふざけんな!」

「えーっ!好きな物良いって言ったじゃん!」

「献立!好きな献立で良いって言ったの!好きな物上げるって言ったんじゃねぇんだよ!」

「カズ兄ぃのケチ!」

「ケチじゃありませんー。ケチだったら献立譲りませんー」

「ケチじゃ無かったら山ブドウくれますぅー」

「「2人共。まだ気を緩めないで!」」

「「さーせん」」




「なんであんたは・・・そんなに順応できるのよ・・・」


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