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HappyHunting♡  作者: 六郎
第18章 魚の丘、羊の谷
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「それで、俺達がこの街に来た目的は勿論ウリク商会の援助の為だ」

「有難う御座います。現状、男女平等政策の実施を本国で発表した所、本国の貴族からは良い評判が無いのでその庇護下にある商会からも当然出店の打診は無いのです」

「まぁ・・・そんなもんだろうね。予想は出来ていた事だが、女々しい奴等だ」

「男っていうのは誰か自分より下に居ないと我慢出来ない生き物なのよ」

「村の中でもそんな感じだったしねぇ」

「自分を生んだ母親も蔑むんでしょうね」

「今に始まった事ではない。寧ろ今から始めて行く事だから新しい事を始める事に対しての未知への不安や自分の立場を追われる事などへの恐怖、それらによる誹謗中傷は今後さらに増えて行く事だろう」

「その為にもこの街の発展を必ず成し遂げなければならない。俺達も全力で援助はするので君も圧力に負けずに頑張って欲しい」

「はい!」

「とりあえずソルトレイクで塩をかっぱらって来た」

「かっぱらって!?」

「あ、間違えた。輸入して来たよ。ちょっと訳アリの塩だから関税は掛けないで欲しい、勿論品質には何の問題は無い事は保証するよ」

「関税を掛けない事は帳簿上出来ません。商会の品への公的なお墨付きという意味合いもありますから。しかし関税は掛けるが後で何らかの形で還元は出来ると思います」

「なるほど。塩が出回った場合、その塩に税は掛かったか証拠を残さないと男女平等政策をやっかむ連中に材料を与える訳だね」

「その通りです」

「それで行こう」

「分かりました」

「これからもそんな感じでどんどん品物をこの街に持って来る予定だから」

「ど、どんどんですか」

「ソルスキアでは食料増産政策が決まってるそうだよ」

「聞いております。既にこの冬から準備に入っているらしいとの事。本格的には来年の春からでしょう」

「そうなると食料の輸入も減るかもしれない」

「?寧ろ増えるのでは?」

「ソルスキアは大盗賊団以降、出兵が続いて税率も上がり民衆も不安定な生活で難民が出ている地域もある。恐らく備蓄する方向になるだろう」

「なるほど。先ずは国内の復興と民心の安定化狙いで他所に出す事は無いだろうと」

「多分ね」

「国家の基本は民を飢えさせない事。十分に考えられます」

「なので女性達が折角この街に来ても、物が無ければ定住はしないだろう」

「仕事でこの街に来るだけではなく住民として受け入れるのですね」

「ベオグランデ公国の街となって出ていった者も多いと聞いたよ」

「はい。特に他所に移る財力が無い者ばかりが残り、つまり貧民の比率が多くなっています」

「今の内からウリク商会が中心となってこの街を復興し、他の商会とかも出店出来る程に成長すれば、ウリク商会もこの街1番の商会になっているだろうし、そうなれば俺達にも利益になるはずだ」

「なるほど。復興時代から付き合いのあった商会とであれば”配慮”も当然という事ですね」

「そういう事」

「しかしそれまでにはかなりの時間がかかるでしょう」

「商人は長期利益を考えるものだよ」

「閣下は冒険者ではなかったのですか」

「行商人だね。自己防衛する」

「はっはっは。護衛料も払わなくて良いですから利益率は高いですね」

「そうなんだよ。そういう訳で塩とそれ以降の事、宜しくね」

「分かりました。特に塩は他の商人を呼べる物資ですからね」

「あ、ウリク商会にはこの街の住民用に安く販売するように言ってあるんだよ」

「閣下・・・この街の住民感情の為ですね」

「かっぱら・・・安く仕入れられたからね。ウリク商会も初出店だから目玉商品にと思って」

「・・・有難う御座います」

「それで経済環境の方はどうなんだい?」

「はい。貴族や商会の喪失で大消費先を失った関係先の倒産や離散は一先ず落ち着きました。目下我々が消費先になって残った商工業を支えている状況です」

「公共事業だけだと今居る連中が精々だろうなぁ」

「その通りです。しかし先ずは復興が先決ですが」

「その先が見えていると・・・ベオグランデ公国はこの街に期待しているんだよね」

「はい。初の平地の街として行く行くは農業の展開を考えておりますが、リィ=イン教とベルバキアとの戦争で投資する予算も厳しい状況です」

「だろうねぇ」

「ですのでウリク商会の農地取得もすんなり認められた訳です」

「ウリク商会の農業の成功に懸かっている訳か」

「いずれにせよ、先ずは復興を急ぎませんと」

「・・・その通りだね。まっ、ウリク商会のオランドさんとはまた後で話してみるよ」

「宜しくお願いします」

「所で話は変わるんだけど」

「はい?」

「俺達はベオグランデ公国国土回復戦争に従事した」

「存じております」

「パルカ攻略にも参加した」

「存じております」

「国境砦防衛戦並びにその後の3都市攻略にも」

「勿論存じております」

「戦争に参加してぇ~、色々痛感した事が有るんだ」

「はい」

「軍隊は臭い」

「グサッ」

「勿論分かってはいるんだよ?水は貴重だからジャブジャブ使う事は出来ない為に風呂は頻繁に入れないし、洗濯も毎日出来ないって事は。しかしぃ、俺のパーティは4人の年頃の娘が居る、分かるだろう?」

「勿論です。私や同じ女性兵士は皆同じ思いです。しかし男達は・・・」

「あいつ等なんで平気なのかね?」

「全く同じ思いです!何故平気なのでしょう!?」

「慣れるのかな?慣れるんだろうな、慣れてしまうんだろうな」

「戦争という命を張る緊張感でそれ所じゃないのかもね」

「でも陣地に居る時はダラっとしてるよねぇ」

「面倒なんでしょう。命を張った行動の後に洗濯なんてやってられないのでしょうね」

「とりあえず寝ておきたいというのは、あるな」

「私としてはいつ死んでも良いように身嗜みはキチンとしておきたいと思うのですが」

「そう思わない奴も居ると。ってゆーか多いんだろうな」

「貴族はそう思うんでしょうけど、一般兵士や徴集兵はあまりそう思わないのかもね」

「ふむむむ」

「戦時中における洗濯事情はお互い思いは共通するところが有るようだ。戦争が終わった今の状態はどうなんだい?」

「洗濯事情ですか?現在は3公会議後終戦宣言が出され対ベルバキアに対しては軍装を解いています。勿論警戒はしていますが。ですので戦時下警戒体制では無い事もあり多少以前の頻度に戻っております」

「以前の頻度というと」

「ここは河にも近いですので3日に1度ほどに」

「ふざけんな!」

「ギョッ!?」

「君はそれで満足なのかね?」

「満足・・・と言いますと?」

「それで臭い男共が臭くなくなるのかね?」

「いえ、大して変わりなく臭いというか、そもそも汚れを落とすのが目的でして」

「臭い事には変わりないと」

「はい」

「君はどうなのかな」

「あああ、あの、私、臭いますか」

「いや、特に」

「ほっ。私も一応貴族ですので毎日自分で洗っておりまして・・・」

「貴族なのに自分で?」

「ここここう見えても一応女ですので、部下の男に洗わせるのは、その・・・」

「なるほど。同じような思いをしている女性兵士は多そうだね」

「恐らく。アンケートをすれば多く出るだろうと思います」

「しかしこれから冬がやって来るね」

「そうなのです!今までは公務が終わった夜に洗濯をしていたんですが、冬は・・・それも頭を悩ませている所でして・・・」

「うんうん。そうだろうそうだろう」


と、目線を彼女達に向ける。


ニヤリ


いけると、いう事だろう。


「どうだろう」

「?」

「俺達は洗濯機という物を開発してみたんだけど」

「洗濯機。名前から洗濯時の道具の様ですが、」

「流石だね、その通りだよ。ま、見てもらった方が早いな、ルーナ君」

「はい」


サーヤ君が収納袋から洗濯機を取り出した。


「ほぉ。これが洗濯機とやらですか」

「うん」

「結構大きいですね」

「まぁね。何故大きいか、理由がある。先ずは適当に洗濯する物を用意して欲しいんだが」

「今までの話から察するに汚れは元より臭いも有った方が宜しいのですよね?」

「そうだね。より結果が分かり易いだろう」

「分かりました。むさい男の臭い洗濯物など軍隊には幾らでも有ります。直ぐに用意させましょう」

「頼むよ」


という訳で部下に命じて汚れて臭い洗濯物を5人分用意してもらった。


「これでどうでしょうか」

「おぅっふ、十分だ。十分だよ、十分だと言ってるだろう!近づくんじゃない!それを樽に入れて、そう、それを開けて中に入れるんだ。うん。じゃぁルーナ君。石鹸水を彼女に見せてあげてくれ」

「はい」

「石鹸水?石鹸を溶かした水の事ですか?」

「その通りだ」

「はぁ」


それがどうしたのだろうという感じの返事を聞いて石鹼水を樽に入れた。

後は10分ほど5人で回した。


「よし、終了だ」

「えっ!?もう?だってまだ、洗ってませんよ、樽を回しただけです」

「洗濯機とは自分の手を使わず洗う道具なのだよ」

「えぇっ!!」

「確かめてみよう、ルーナ君」

「はい」


サーヤ君が洗濯物を取り出して籠に入れてくれた。


「どうかな。汚れや臭い、わっ!?」


凝視している。

洗濯物を取り上げて凝視している。

男物の洗濯物を、さっきまでは嫌々触っていた洗濯物を取り上げて凝視している。

今は嫌々触っていないという事は臭いも取れているのだろう。さっきはここまで臭っていたのが臭っていない、大丈夫そうだ。

しかし彼女は大丈夫そうに見えない、目が充血している。瞬きしていないようだ。


「閣下・・・」

「ひゃい!」


それまで時が止まっていたかのように動かなかった彼女が、急に首だけこちらに向けて充血させた目で俺を見ながら呟いたので竦み上がった。

すすすっと洗濯物を持ったまま俺に近付いて来た。

何度か経験してきたように今も目の前に目がある。


「汚れが落ちてます」

「あ、ま、マジで?あら、ホント?に、臭いはどうかなぁ」

「臭いも。鼻を付けて臭えば臭いますが付けなければ分からない程になっています」

「あ、ま、マジで?あら、ホントに?まぁ、あと何回か洗えば臭いも取れ「ガシッ」!?」


両肩を掴まれた。

洗濯物を取り落としたが気にせず瞬きもせず俺を凝視している。

ドキドキだ。

キスする流れとかそんなんじゃない。

怖い。

甘かった。

男だったからキモかっただけで女なら良いだろうと思ってたのが逆に恐怖が倍増する結果となった。

寧ろ今までで1番怖いまである。

今までは商売的な、打算的な意味合いが大きかったが今回は生活に密接に結びついているせいか鬼気迫るとは正に、という程の迫力だ。


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