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HappyHunting♡  作者: 六郎
第18章 魚の丘、羊の谷
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夕方。

日が暮れる前に仕事を終えた村人と職人たちが村に帰って来る所を捕まえて集まってもらった。

この世界は電灯は無い。

魔導ランプなどは有るが家の中での仕事なら兎も角、

野外での広範囲の作業には大量の光源が必要でその為の維持費も馬鹿にならない。

仕事は陽が昇ってから始まり陽が落ちる前に終了するのが基本だ。


昨日カツを入れられた村人だけでなく職人も渋々という感じで集まった。

仕事が終わったから早く飯にありつきたい、表情にありありと出ている。


「洗濯機を作った」

『せんたくき?』


初めて聞く言葉にオウム返しをして来た。


「お前等は何日おきに服を洗ってる」

「大体2週間に一回くらいかな」

「んだんだ」

「そんくらいだべ」

「殺すぞっ!」

『えぇ!?』ビクゥ

「そんなだから女が寄って来ないんだよ!嫁が欲しけりゃ身嗜みをきちんとしろ!」

『えぇ~』

「べっ、別に嫁が欲しくて開拓してる訳じゃ・・・」

「欲しくないんだな?」

「嘘ですすいません!」

「でっ、でも!街の女達も俺達と同じ様に生活してたんだから大丈夫だろ!」

「女はな、我慢して生活してるんだよ。勿論お前等が臭いのも我慢して、極力口にしないようにしてるんだ、お前等が鈍感なだけだ」

『えぇ!?』

「女の胸は何で出来てるか知ってるか?半分は脂肪でもう半分は優しさで出来てるんだ」「「「「しらー」」」」

「胸は2個あるから片方が脂肪でもう片方が優しさって事じゃなくてそれぞれ、ってそんな事はどうでも良いんだよ!いいか。お前等は女の優しさで今まで傷付かないでいただけだ。見ろ、お前等と俺の連れとの距離を。結構離れてるだろ。昨日を思い返してみろ、会った時から距離が離れてただろ。お前等が臭いからだ、女一人も居ない中で開拓して街に居た時より更に身嗜みを気にしなくなった結果、お前等の臭いはゴブリン並みになってる。今のお前等は獣だと言っても過言ではない!」

『なんだってー!?』

「そこのお前!」

「はっはい!」

「お前は結婚して子供も居るって言ってたな!」

「はい!」

「仮にだ。開拓がある程度成功し、家族を呼び寄せる事が出来て、いざ、子供がこの村にやって来てお前の胸に飛び込もうとした時、「パパくさーい!」って言って嫌がられたらお前立ち直れるか!」

「立ち直れません!」

「お前の嫁は子供を抱いて街に帰ってしまうだろう!お前はこの村で働いて街に仕送りするだけの生活になってしまうんだぞ!」

「うわー!嫌だー!」

「他の連中も!あの優しさに顔を埋めたいなら清潔にしろ!」

「しかしアルゴさん、今は開拓をしている最中。洗濯という重労働に時間を割いている暇は、しかももう直ぐ冬が来る。冷たい水で長時間洗濯するのは・・・」

「村長」

「は、はい」

「嫁さんは」

「もう死にました」

「そうか、残念だ」

「いやいやもうかなり経っとりますから」

「再婚は考えていないんですか?」

「こんな年寄りに?とてもとても」

「開拓が成功し、ある程度旅の人間がこの村を訪れるようになれば、村長と同じような寡婦が家族と一緒に訪れる事も有るかもしれません。その時に年寄同士、話しが合い、「私はこの村に残るわ。あなた達は旅を続けて」、家族にそう言って残った女性は想い人と一緒に暮らし始めましたとさ、めでたしめでたし。なんて物語を聞いた事が有るような無いような・・・」

「皆の者ぉー!ここは旅の拠点にするって話じゃったじゃろー!綺麗にするんじゃぁ!」

『おぉー!』

「「「「(男って馬鹿なの?)」」」」


「アルゴアルゴ」

「ん?」

「お腹が空いてるの、前に進んで?」

「おう!そこでこの洗濯機だ!」

「洗濯機、ということは洗濯をする道具という事ですな」

「そういう事ですな。実演しよう、君達、準備を頼む」

「「「「は~い」」」」

「実演するから洗濯機の周りに集まれ!ただし、お前等は臭いんで彼女達から距離を取ること。そう、そう、そこ!もっと離れろ!お触りしたら殺すぞ!」

「うひぃ!」

「案内人の方も親方たちも、よーっく見ててくれ」

「はい」

「あいよ」


自転車機構は組み込めないので横にした樽の蓋側に取っ手を付けた。

取っ手を回せば転がるように回るのは同じだ。


「お前等から5人、そこの5人、肌着を脱いで樽に入れろ。違う!そこで脱ぐんじゃない!レディの前だぞ!男衆で壁を作って脱ぐんだ。そう、それを樽に・・・だから!服を着ろ!肌着だけ脱いで服を着るんだよ分っかんねぇかな!そう、それを樽に・・・君達も、臭いのは分かるが顔に出すな、あいつ等が凹んでるだろ。で、樽に入れて石鹸水を入れ、蓋をし、交代で回す」


彼女達が交代で10分ほど回す。

その間暇なのでトークで繋ぐ。


「今までは手で揉み洗い、足で踏んで洗ったりしてただろう。けどこれは一切手や足を使って洗わなくて良い。これから寒い冬の中、長時間冷たい水に手足を晒さなくて済むんだ」

「本当ですか!?」


案内人の人が聞き返して来た。

結構な熱量だ。


「え、えぇ。今、回してる通り、回すのは早過ぎても駄目だ。石鹸水が洗濯物に染み込むように馴染むように、洗濯物が樽の中で回っては落ち回っては落ちていく事で洗濯物に石鹸水を染み込ませ馴染ませるんだ。こらっ!そこっ!樽を見るんだ!胸を見るんじゃない!殺すぞ!」




そうこうしてる内に10分ほどが過ぎた。


「そろそろ良いだろう。さっきの5人、樽から洗濯物を取り出して見てみろ」

「「「「「驚きの白さ!?」」」」」

「そうだろう!」

『10分で!?』

「そうだろう!」


実際肌着は白色じゃないが汚れが落ちた表現としてはどこも同じだな。


「ちょっと見せて!」


案内人が洗濯物をふんだくって確認し始めた。


「・・・アルゴさん」

「ちょ、ちょーっと待って貰えますか。後で、後で聞きますから」

「・・・分かりました」


男物の肌着を握りしめながら深刻そうな顔の案内人。ちょっと怖い。


「お前等の汚れがどれほどのものか、洗濯水を見せてやるから確認しろ。君達、頼む」


彼女達が栓を抜いて洗濯水をコップに入れ皆に渡した。


『驚きの黒さ!?』

「それがお前等が出した汚れだ!洗濯は2週で一くらいで良いか~ってのほほんとしてた結果がそれだ!そんなに汚いお前等に嫁なんか来るわけ無いだろ!自分の臭さにも慣れて自覚出来ない奴等に女が寄ってくる訳ないだろ!気付けこのケダモノ共が!」

『うわぁあん!』

((((そこまで言う!?))))

「今見た通り!これまでは洗濯に何時間も掛かっていたろうがこれからは違う!この樽の大きさなら10分ほどで終わるんだ!これなら交代で回せば毎日洗濯出来るだろ!」

『えぇ~毎日ぃ~?』

「このゴブリン共が!」

『うひぃ!』

「洗濯は朝するでも今みたいに仕事終わりにするでもどちらでも良い!お前等の生活スタイルに合わせろ!それに現在蒸し風呂を建設中だ!」

『蒸し風呂?』

「風呂にも毎日入れ!」

『えぇっ!?そんな横暴な!』

「殺すぞ!」

『うひぃ!』

「実際に!風呂にも入らず服も汚ければ虫が湧く!その虫を食いにネズミが湧く!ネズミが湧けば村の食料が食われる!折角の収穫物をネズミに食われたくはないだろ!ネズミ算式に増えると言う通り爆発的に増えるネズミは、1人の不潔な人間が居る所為で村が壊滅してしまう危険が有るんだ!清潔に暮らせ!分かったな!」

『はぁ~い』シブシブ

「よぉーし!じゃぁ5人ずつ洗濯終えた者から夕食食って良し!」

『えっ!?』

「夜の間に干してれば朝には乾くだろ!じゃぁ解散!」

『なんてこったい』




村人達は服を脱ぎ始めて洗濯をし始め出した。

回すだけなので操作も簡単だ、直ぐに要領を掴むだろう、案内人と親方と俺達は彼等から少し離れた所に移動して話し合いだ。


「アルゴさん」

「どうでしたか、洗濯機は」

「あなたが開発されたのですか」

「俺達全員でね、女性の意見を取り入れながら試行錯誤してこさえました」

「革命が起きます」

(あれ・・・)


不安になって彼女達を見た。


((((・・・))))


彼女達も不安そうな顔だ。


「・・・どういう事でしょう」

「今回は肌着だけでしたが普通の服も洗えるのですか」

「まぁ、大概の物は」

「洗濯に掛かる時間の大幅な短縮、これだけでも特筆すべきなのに直接手を触れずに洗濯した。さっきも言ってましたが冬に冷たい水に手を晒して洗う事、これは大変な事です。冬の洗濯は神からの試練と言う者も居る程です。だから洗濯頻度も下がる。だから冬は体臭がきつくなる。だから香油や香水を身に付けるがそれが返って更にきつい臭いに・・・まぁこれは良いんです。売る気は有りませんか。勿論開発者のあなた方には売上げの何割かを受けとり、我々は委託生産販売をするという事で、」

「ちょっと待った。その生産にはワシ等も関わらせて欲しい」

「親方、今はその話は後です。先ずは、」

「いーや!最初が肝心だ。それにもう見ちまったんだ。真似されるよりも正式に契約を結んだ方が良いだろう?」

「親方、あなた職人の誇りというものが無いんですか」

「大概の事なら誇りもしようがあんな物見せられちゃすっかり洗い流されちまってねぇ。兄ちゃん、あんたどうやってあんな物思いついたんだい?」

「水車を見ててね」

「水車はまだ作ってないが」

「水車を想像してて、回ってるのを想像してたら、出来ちゃった」

「出来ちゃったって、おめぇ・・・まぁ良い、実際出来てるんだからな。兎に角、ワシ等に製造は任せてもらいたい!これは譲れねぇ」

「だから先ずはアルゴさん達と契約しないとと言っているでしょう」

「ワシ等が作って売り始めたら・・・」

「ビグレット商会だけでなく、商人ギルド、更には・・・」

「・・・領主様が介入か・・・ちっ、覚えは良いもんな」

「先ずは筋を通しなさい。話はそれからです」

「・・・分かったよ。兄ちゃん、あれ、見せて貰って良いか?」

「まぁ、えぇ、構わないが」

「良しっ」


親方は村人達が回している洗濯機に走って行った。


「親方も興奮して先走ってしまったようです。しかしそれ程画期的な物だと言えるでしょう」

「売れますか」

「爆発的には売れないでしょう」

「ほぅ」

「下層民には高い金を洗濯に払う価値観は無いでしょう、戦争直後ですから食うのが精一杯です。しかし商人や貴族には売れます。しかしその層は街の人口比に占める割合は著しく低い、ですので数は売れません」

「なるほど」

「しかし確実に売れます」

「ふむふむ」

「先ず今言った通り洗濯は時間のかかる仕事、肌着だけじゃなく1人分の服全部となれば手を抜かなければ1時間はかかるでしょう。あの樽の様子ですと5人分の服も入りそうでしたが、」

「えぇ。隙間が有る事の意味は多少あります。回って落ちる事で擦り洗いの代わりになるって事で」

「しかし仰っていたのは服に石鹸水が馴染む事が重要だと」

「その通りです。なので漬けおきしてから洗った方がより落ち易いですね」

「ですので多少詰め込んでも」

「えぇ。問題無いと思います」

「素晴らしい。簡単に考えても1人分1時間かかっていたのが、5人分で10分。30人分が1時間で終わる計算です。しかも回すのは1人か2人を割り振れば良い。こんな発明他に有りません。だからこそ革命的なのです」

「は、はぁ」

「おや、あまり乗り気じゃありませんね」

「実は少し心配な事が有りまして」

「心配な事?」


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