⑱-11-678
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昨夜案内人が泊まった小屋に案内人と職人の親方と俺達5人とで集まっていた。
かなり狭い。
秋も深まり暮れてから気温も低くなった。
囲炉裏を囲んで座って相談だ。
ジョゼもマヌイの胡坐の上で丸くなっている。
「水は出た。水が出続けるか何日か置いて様子を見るが、親方たちは井戸の製作に取り掛かってくれ」
「あいよ」
「村の移動はどうします?」
「水が出続けるかの結果待ちだな。それから移動になるから開拓の進捗も大幅に遅れるだろう」
「分かりました。タリルコル様には知らせておきます」
「じゃぁ家は作らんのかい」
「開拓は必ずする。家具や道具類の製作を優先してくれ」
「テントに入れとくのかい」
「いつでも使えるようにな」
「村人を解雇するってぇ聞いたぞい」
「やる気の無い奴を徒弟に欲しいかね」
「全く。しかし職人じゃなく村人だろ。しかも大金がかかっとる。ただでさえ遅れとるのに村人を総とっ替えってぇのは、どうなのよ」
「大丈夫だ、もう直ぐ来るだろう」
「「来る?」」
トントン
戸が叩かれた。
「お入り」
ガラガラ
村長と威勢が良かった村人の2,3人が開けた戸の前に立っていた。
村長が敷居を跨いで入って来た。
「アルゴさん・・・」
「帰るのは明日で結構ですよ。今街に帰っても門は閉まってるでしょうから」
「おい」
村長が後ろを振り返り若い者に促した。
「ア、アルゴ、さん」
「何だね」
「あの、その・・・申し訳なかったと」
「何に対する謝罪だ」
「・・・」
「謝罪しても決定は覆らんぞ」
『ぐっ』
「アルゴさん・・・」
「もし水が出なかったら、お前等は意気揚々と俺を追い出した、違うか?」
『・・・』
「水は出た。数日で枯れるかもしれんが水は出たんだ、俺の言う通りな。約束は約束だ、幾ら卑しいお前等でも約束は守れって親に育てられただろ」
『ぐぅ』
「卑しいって、あんまりじゃない」
「そうか?お前等、タリルコルさんに税金肩代わりしてもらってただろ、払ったのか?」
『ドキ』
「前領主に迫害されて、タリルコルさんに助けてもらって難民キャンプを作ってもらい食料や身の回り品の援助を受けていた。加えてその間の税金も肩代わりしてもらう事で罪に問われるのを免れた。その税金を、タリルコルさんに返したのか?」
『・・・』
「そのまま有耶無耶にする気だったんだろう?」
「そっ、そんな事ねぇよ!」
「大体あんたにそこまで言われる筋合いはねぇ!」
「案内人」
「はい」
「俺達がタリルコルさんに援助した額は」
「2000万以上です」
『にっ!?』
「それはお前等の肩代わりされた税金やこの村の開拓に使われてる。筋は有ると思うが?」
『・・・』
「俺達が冒険者稼業で命を懸けて得た金を、この村に賭けている。北で戦争に参加して得た報酬を、この村に賭けているんだ」
『・・・』
「前領主に迫害されたお前等には同情するが、そりゃぁいつの事だ?1年も前の事だろ。精神やられたから田舎でスローライフ?てめぇの金でやれ」
『・・・』
「俺達はこの村を必ず開拓する。必ずだ。お前等の代わりなんざ幾らでも居る。他の街に行けば諸手を挙げて参加したいって奴が出る。村を開拓すれば税金面で優遇される、食料も自分達で作れるから食いっぱぐれの心配が低い、それにビグレット商会のケツ持ちだ、他の開拓よりも成功率は高い。良いか、お前等の代わりは幾らでも居るんだよ」
『うぅ』
「街で仕事有んのか?無いから開拓に参加したんだろうが。それがのほほんと仕事しやがって、気に入らない仕事は文句を言いながらだしな。街に戻って糞でも集めてろ。いや、糞集める仕事も誰かがもうやってるだろうな、毎日出るもんだし。もう奴隷になるしかねぇんじゃねぇか?」
『うぅぅ』
俺はミキに目線を送った。
ミキが気付いて口を開く。
「それ位にしなさいよ」
みんなの目がミキに集まった。
「確かに態度と仕事内容は頂けないものだったけど、前領主の迫害とヤヌイとマコル達の事で気持ちが落ち込んでいたのも分かってたんでしょう?」
「だからそれは1年も前だろうと言ってるんだ」
「今回の事で目が覚めたでしょう。彼等には休息が必要だった、それは戦争に参加した私達も同様。それはあなたもそうでしょう」
「休息の眠りからは覚めなければならない」
「夜が明け朝が訪れるようにね。ヤヌイとマコル達は永遠の眠りについているわ。彼等の眠りを守るのは私達の務め。私達が彼等の眠っている地を守らなければならない」
『・・・』
「今頃ヤヌイとマコルも呆れているだろうさ」
「目が覚めるのが遅かったとしても、遅過ぎるという事は無いわ。何故なら私達はまだ生きているのだから」
「だからこうやって財産なげうって必死こいて開拓してるんだろうが。出来ない奴は必要無い」
「アルゴさん!」
若い奴が叫んだ。
「すいませんでした!俺達にやらせて下さい!」
「要らんな。1年もタリルコルさんに返すもん返さん奴なんて信用出来ん。どうせ仕事も適当にやるに決まってる。欠陥住宅に泊まろうって旅人なんて居やしないだろ」
「手を抜いたりなんてしません!」
「今まで抜いてた奴が大口叩くなよ。抜いてたから遅れてるんだろうが」
「すいませんでした!これからは全力で仕事させてもらいます!だからどうかチャンスをください!」
「ふん」
「今でもかなり遅れているのよ。解雇して新たに雇うのは大幅なロスになるわ」
「なったとしても、結果的にその方が早くなる可能性も有る。要は出来上がった村の生産性だ。こいつ等の作った施設が低ければ作り直す事になる。その方が大幅なロスだ」
「親方たちの言う事を聞いて忠実に仕上げます!どうかもう1度チャンスをください!」
「うーん」
と言いつつ親方を見る。
親方は「お前に任せる」というジェスチャーをした。
「分かった、良いだろう」
「アルゴさん!」
「但し、次は無い」
「はい!全力でやらせてもらいます!」
「それが普通なんだ、改めて言う必要は無い」
「すいませんでした!」
「明日から働いてもらう、遅れを取り戻す為にキリキリ働けよ」
『はい!』
「だから今日はもう飯食って体拭いて屁ぇこいて寝ろ」
『はい!』
「「「「こかなくて良いよ」」」」
彼等は帰って行った。
「予定通りって訳かい」
「あいつ等に言うなよ」
「来ることが分かってたんですね」
「言った通りだ。街に帰っても仕事は無い。家族が居るならここでやるしか無いんだ」
「もっと言いようは有ったんじゃねぇの?憎まれ口をたたかずとも。姉ちゃんが人望を集める結果になったようだが」
「どうでも良い。俺は鞭、彼女が飴さ」
「確かに甘そうだが」
「井戸に吊るすぞ」
「くわばらくわばら。まっ、ケツを蹴り上げ、やる気は出させた。しかし遅れは取り戻せんぞ」
「仕方あるまい。さっきも言ったが長期的に使えるよう耐久性高く作ってくれよ。作り直すのが一番面倒だ」
「それは勿論分かっちゃぁいるが。住宅に各種施設に農地、どれも急ぎ必要な物ばかりだ。何か策は有るのかい」
「住宅は各戸作るんじゃなく集合住宅にする」
「長屋か」
「一国一城の主なんて夢は村が発展してから見れば良い。今見るのは冬が迫る過酷な現実だ」
「ご尤もじゃな」
「村人から不平が出ませんかね」
「今釘を刺しただろ」
「確かに」
「工期の遅れは自分達の所為だと納得させた。集合住宅にしても不満はあっても口には出さんだろう」
「自分達の所為だからな」
「寧ろ集合住宅にする事で全員が平等意識を持つ。他と落差があれば不満も溜めようが平等に貧しければ表立って行動には出さんだろう」
「その間にある程度の遅れを取り戻すんですね」
「あいつ等は「最後には誰かが助けてくれる」という甘えがある。タリルコルさんは優し過ぎたんだ」
「ご自身が孤児だという話でしたから・・・」
「助けるのは甘やかす事じゃぁない。自立させる事、自分で生きていく術を身に着けさせる事が必要だ、例え嫌われてもな」
「職人の師弟関係では普通の事じゃがな」
「タリルコル様に伝えておきます」
「開拓の話に戻るが、風呂じゃなくサウナを作る」
『サウナ?』
「サウナとは?」
「聞いた事が有ります。北方の風呂の一種で蒸し風呂だとか」
「その通りだ。集団生活だから風呂を作る場合、かなり大きなものになるだろう。しかしその場合消費される水や燃料はかなりの物になる」
「風呂に入らなければ良いだけじゃないか?」
「「「「有り得ない!」」」」
「女性陣の反応を見れば分かるだろうが、清潔感の無い所には女は近寄らん。今後村の発展を考えて旅人を誘致するのなら風呂は必須だ」
「体を拭くだけじゃ駄目か?」
「「「「だ~めっ!」」」」
「むぅ」
「蒸し風呂なら消費される水も燃料も少なくて済む。一度に大勢入り易い。特に冬場は湯を沸かせるのに大量の燃料が要るし湧くのも時間がかかるが蒸し風呂なら大幅に軽減される。蒸し風呂を作る」
「まぁ兄ちゃんの言う事を聞くように言われてる。任せるよ」
「親方も定期的に風呂に入った方が嫁さんに捨てられる可能性の1つを潰せるぞ」
「ほっとけ!」




