⑱-01-668
⑱-01-668 魚の丘、羊の谷
「止めろ!止めてくれぇ!」
「なんであたしまで!?あたしは関係無いでしょぉー!」
「んん・・・」
「起きた?」
「あ、あぁ。もう朝か」
「もう少し寝る?」
「いや、大丈夫だ」
「何か、寝言じゃないけど、言ってたわよ」
「寝言?」
「呻き声でもないし、疲れてたんでしょうね」
「・・・夢を見た」
「夢か・・・あれ、私、近頃夢見たかしら」
「夢は子供の頃に見るものだ」
「そうなの?ケセラ」
「あぁ。だいたいスキルを覚えるくらいから見なくなるらしい。見ても年に数回だな」
「あたしもそう聞いた事有るよ」
「「へー」」
「そう言えば。私もこっちの世界に来て殆ど見て無いような気がする・・・」
「俺は、数回かな」
「見てるんだ。それで?」
「ん?」
「どんな夢だったの?」
「うーん」
「良い夢だったの?」
「・・・あぁ。良い夢だったよ」
「そう、良かったじゃない」
「あぁ」
「じゃぁ朝食食べて街に出ましょうか」
「・・・そうしよう」
朝食を摂り、支払いを済ませてホテルを出た。
ラドニウスを飛ばして数日後の夜にホテルに着いたのだ。
街壁が無い為に夜でも出入り出来る。
なるほど、スパイにはやり易いな。
街中を歩いてゆく。
勝ったというのが伝わっているのだろう。
人々の顔は明るい。
湖辺のオープンカフェで寛いでいた。
「今日は行かないの?」
「カツールク商会か?」
「うん」
「時間的に今日行ったら早過ぎね?って思われるだろ」
「そっか・・・あれ。でもベオグランデ公国の時はどうだったの?」
「あの時は非常時だったからなぁ・・・とはいえ、警戒はされただろうな」
「あの速さでギリギリだったしね。仕方ないわよ」
「そうだねぇ。じゃぁ今日も休む?」
「あぁ。ゆっくりしようぜ」
「マットレスも買わないといけませんし」
「そうね・・・あれ。ファナキアさんが商会に用意させるって言ってた商会って、カツールク商会の事じゃない?」
「あぁ・・・かもしれんな」
「会ったら聞いてみようよ」
「う~ん、まぁ、そうだなぁ」
「カツールク商会に良い印象無いから迷ってるのよ」
「分かるけどさぁ、そこまで酷かった訳じゃ無いんだし、よくね?」
「マヌイ!その喋り方は止めなさい!」
「カズ兄ぃも五月蠅いねぇ。別に、よくなくなくね」
「よくなく、ない、つまり二重否定、つまり、良いって事だな?よくねでよくね?」
「あんたが教えたんでしょ」
「こういう会話が出来るのも勝ったお陰だな」
「その通りね。なんだかんだ有ったけど、私達頑張ったわね。はい、あ~ん」
「ニャー」
「グァー」
「そう言えばこの話もサウナの時に聞いたんだけど」
『うん』
「俺達が本陣で色々やってた時にクレティアンが勝負を着ける攻撃をしたらしいんだが」
『ふんふん』
「すっげー威力で、敵右翼の半分が流されたんだと」
『半分が!?』
「まぁ話半分にしても4分の1だろ。それでもスゲーよな」
『すげー』
「聞いた事が有る。青の将軍は魔法を使うのではなく自然を使うのだと」
「水を得た魚って事か。俺達が頑張んなくても良かったか?」
「でもファナキアさんは危なかったって言ってたし」
「そうそう。ベストを尽くした結果なんだし、良かったんだよ」
「そこは反省しなくてもよくありません?」
「同感だな」
「まっ。魔石は手に入ったしな」
「その事なんだけど」
「ん?」
「これからは、あんたは戦闘にはあんまり参加せず指示に徹してもらおうって皆で話してたのよ」
「指示に?」
「前にカズ兄ぃが言ってたでしょ、戦いたくない、指揮に徹したいって」
「言ってたな。でもそれは戦争の話だろ」
「普段の冒険者の活動でもそうしようって話したのよ」
「ふーむ」
「魔犬やゴブリンなんかは私達で十分対処出来ますから」
「普段は指揮に徹して私達では対処出来ない時に参加して欲しいんだ」
「ふーむ。今回の様に魔石のようなお宝をゲットできるチャンスの時は」
「要相談ね」
「ふーむ。助かるには助かる。《魔力探知》しながら戦うって出来ないからな」
「えぇ。1つに集中すると他は疎かになるしね」
「魔法とかスキルはイメージって言われるますけど。イメージするのって集中力が必要なんですよね。でも集中すると1つの事で精一杯で」
「分かった。君等が話し合って決めたんならそれで良い。まぁ、危なそうなら参加するって事で良いだよな?」
『うん』
その日はゆっくり過ごして明くる朝、カツールク商会に赴いた。
店舗に行くと前に取次ぎを頼んだ店員がまた居た。
近付くと胡乱げな目で見られる。
「何か用かね」
「用があるから近付いたんだろうが」
「何だと!?」
「俺達の事覚えてんのか?」
「職を求めて来た痩せ冒険者だろう」
「痩せてるってさ、君等スタイル良いもんな」
「戦争続きで好きな物食べる暇もないもんねぇ」
「魚料理を堪能したいですね」
「賛成だ」
「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!」
「五月蠅い野郎だ、これ持ってご主人様の所まで尻尾振って行きな」
「てめぇ!こっ、これはファナキア様の!?」
「ほれ、行った行った。シッシッ」
「・・・待ってろ」
「あまり待たせんなよ?」
結構待たされている。
この前と同じ部屋に案内されてソファーに座っていた。
「何してるんだろう」
「魔導水晶で照会してるんだろう」
「ファナキアさんの魔力?」
「あぁ」
「ジョゼとレイヴは?」
「岸辺をお散歩中だ。レイヴは・・・魚狙いだな。ジョゼもそれ待ちの様だ」
「逞しいわね」
「ウォ兄ぃ、塩はここで卸すの?」
「いや、ここで塩は比較的手に入り易い。手に入りにくい場所、つまり値が張る場所で卸す」
「・・・ベオグランデ公国!ドゥベルチだね」
「その通りだ」
「西の端の国でソルトレイクから遠いから塩の値段も高い。戦争後の税率アップで物価も高くなってるって事ね」
「それに街主とは顔見知りですし。大量の塩を卸しても私達ならば怪しまれないでしょう」
「ドゥベルチの復興を早める為にも良いと思う」
「そろそろウリク商会も出店するはずだ。それに合わせて庶民価格で売れば一気に街民の心を掴めるだろう」
「最初が肝心って訳ね」
「あぁ・・・来るぞ」
ガチャリ
この前の婆さんが現れた。
次いで若い女、壮年の男の順。
2人は俺達の対面に座った婆さんの直後に立つ。
「久しぶりだね」
「覚えててくれたとは、意外ですね」
「タリルコルの知り合いだからね」
「そうだったな」
「紹介状は読ませてもらったよ」
「何て?」
「中身は知らないのかい」
「封蝋は開けられていた跡でも有ったんですかね」
「・・・いや。ファナキア様はあんた達に世話になったとあった」
「貸しね貸し。大きな貸しをね」
「あたし達を助けるようにと約束なさったと」
「嫌々ね」
「「「・・・」」」
「何せ篩をかけるまでもなく半ば強制的に約束させられてるんでね」
「「「・・・」」」
「根に持つタイプの様じゃな」
「一期一会を大切にしてるんでね。恩は返すが恨みも返す、冒険者の心得ですよ」
「「「・・・」」」
「正直、あんたの援助は気が進まないんだよねぇ」
「ではこの話は無かったという事で」
「「「えっ」」」
「お互い気の進まない話だった、という事でしょう?」
「ファナキア様に約束したんじゃないのかい?」
「貸しね、貸し。相手が嫌だと言ってるのを無理やりって訳にもいかないでしょう。ファナキア様も納得しますよ、じゃっ」
「ちょ、ちょっとお待ちな」
「何ですか」
婆さんはチラッと後ろを見た。
「ん~む。正直に言うと、援助は欲しいんだよ、ぶっちゃけるとね。ファナキア様の紹介だから正直に言うんだよ」
「しかし俺みたいな冒険者を信用しても良いのか。仁義も無い冒険者達と同じなんじゃないか、って?」
「う、うむ」
「それは今までの経験と商人の勘を信じるんですね」
「援助する気は有るのかい」
「俺達の利益にもなりそうなんでね」
「ん~む」
また後ろをチラ見した。
「そろそろ良いんじゃないですか?」
「何がだい」
「会長を紹介してくれても」
「「「げっ!?」」」
「「「「えっ?」」」」




