⑰-86-666
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ウルチャイが青ざめだした。
「し、しかしファナキア殿!」
「黙れ。貴様に発言を許した覚えは無い」
「うっ」
「ファナキア殿!陛下の命令を聞けぬと申されるのですか」
「勅使。その通りよ」
「しかし女王陛下の命令を」
「言ったでしょう。ここの総責任者は私、女王全権代理人であるこの私だと」
「しかし!」
「先ず、陛下からこの命令の説明を受けていないばかりか会ってもいないあなたに」
「侮辱だ!私は確かに勅使の役を賜り印璽もこの通り押されているのだ!」
「誰からその役を受けたの?」
「そ、それは」
「本来勅使は陛下自ら授けるものでしょう」
「・・・」
「仰いなさい。話が進まないわよ」
「・・・」
「話さない、いや、話せないのかしら?」
「そ、そんな事は重要ではないでしょう!確かな王印が押された命令書なのですぞ!」
「この命令の意図を説明できないあなたに或る疑惑が生じているわね」
「疑惑?」
「まだ勝利しか連絡していないのにウルチャイの処遇に関する命令が来たのは何故なのかしら」
「うっ!」
「決戦後に急ぎ鳩を飛ばしたけれど当然長文は送れない。だから勝利の事だけを送った。どのように戦い、どれ位の戦果を挙げ、どの位の被害が出たか。詳細はまだ送っていないわ。だから思うのよ。何故、ウルチャイの処遇に関して、なのか。処遇。2つの事が考えられるわよね?功を挙げたのでその処遇、もう1つは罪を犯したのでその処遇。処遇に関して王都で決める、と。ふむ。勅使殿。あなたはどちらの処遇なのか、勿論知っているのよね?」
「そ、そそそ、それは・・・」
ウルチャイの顔が青い。
さっきと落差が激しいな。
ファナキアが真っ直ぐ勅使を見つめている。
「わ、私には知らされておりません・・・」
「知らされてない?王の使いである勅使のあなたに知らせない?特に重要な機密情報でもないでしょう?その処遇とやらは」
「うぅ・・・」
「我々の様子から功あっての処遇とは思っていないのでしょう?」
「・・・」
「監察」
「はっ」
「罪状を」
「畏まりました。先ず抜け駆け」
「抜け駆け!?」
勅使はウルチャイを振り返った。
「うぅっ」
「命令無視により敵に突撃し味方に多大な損害を与えました」
勅使が口を開けたままウルチャイを見ている。
「うぅ」
「次に旗色が悪くなると退艦処理をせずに旗艦から離れ、味方右翼への命令をしないで戦域を離脱。命令が無い状態が続き更なる被害を拡大しました」
勅使の口が更に大きくなった。
「うぅ」
「決戦後も謹慎の命を守らず出歩き冒険者と私闘を行い、将軍2人の手を煩わせる蛮行」
勅使が見続けている。
「そっ、それは!その冒険者が!」
「謹慎していれば存在しなかったものよ。秩序を説いていたあなたが、1番秩序を乱していたの」
「・・・」
「そして新たに大きな問題が加わったわ」
「「新たな問題!?」」
勅使とウルチャイが唱和した。
「伝令部隊から連絡があったわ」
「ドキッ」
「ウルチャイ。鳩を送ったらしいわね」
「そ、それは・・・」
「暴力を振るわれ無理矢理やらされたと訴えがあったわ」
「嘘だ!暴力は振るっていない!少し脅しただけで!」
「送ったのは認めるのね」
「あっ」
「監察」
「はっ。伝令を使うのは総大将の許可が必要です。無許可の場合、或る罪に該当する可能性が高い」
「あぁ・・・」
「スパイ。つまり国家反逆罪です」
「ち、違います!私は父に送っただけでバウガルディなどに送ったりはしていません!」
「その証明は」
「あぅ」
「本来手紙の内容を伝令係に確認させるなり、暗号にさせるなりするのに、あなたは見るなと命令して送らせたらしいわね」
「うぅ」
「確かに王都に送ったのは伝令係も認めている。しかし手紙の内容を証明出来ない以上、王都に居るスパイに送った可能性が非常に高いわね」
「違います!私はスパイではありません!スパイはそこに犬が居るではないですか!」
「ワンワン!」
「貴様ぁ!」
「ハウス!」
「くぅ~ん」
「全く・・・王都にはスパイが居たわね。確か、チリメン商会・・・だったかしら」
「うぅ」
「元老院が関わっていた、そうよね」
「違うんです!聞いて下さい!王都には送りましたが!誓って父です!」
「誰でも誓えるわ、言葉を喋れるのなら。命令を無視し、旗艦から逃げ、味方を大勢殺したあなたが何に対して誓うと言うの?悪魔かしら」
「ぶっ、侮辱だ!我等の神への冒涜だ!」
「あなたに引き合いに出される神様も気の毒ね、監察」
「はっ。命令無視、死罪。退艦処理をせずに敵前逃亡、死罪。総大将の許可を得ずに伝令を使った、スパイ並びに国家反逆罪」
「お・・・お待ち下さい」
「スパイに関しては監禁して拷問による取り調べも可能です」
「お待ち下さい!」
「勅使殿、聞こえていたかしら」
「・・・」
「勅使殿?」
汗がダラダラ出ている。
苦渋に満ちた、という表現がピッタリな顔だな。
段々見えて来た。
先ずファナキアが言っていたウルチャイの使い道というのがこれだな。
ファナキアは予め勅使が来るのは知っていた感じだった。
伝令係を脅して王都に鳩を飛ばした。
恐らく助命懇願の知らせだろう。
しかし鳩に長文は書けないから罪状までは送れなかったんだ。
ファナキアの方でも勝利しか都に知らせていないと言ってたから元老院の方でもそんなに重い罪状だとは知らないんだろう。
ウルチャイの父が元老院に居るらしいからその伝手で救援の勅使を送って寄越した。
勅使はここに来て初めて罪状を知った、知った内容があまりにも大き過ぎた。
あの大量の汗は罪の大きさを物語っている。
しかし勅使とは王の使い、その使いを全うする為にどうやって反論するか、
あの大量の汗は脳をフル回転させて反論を考えているんだろう。詰んでるがな。
「しかし・・・」
「ん?」
「しかし!王命は何にも勝るもの!罪状が何であろうと王命である以上!王都に連れて行きそれから吟味の為に裁判を掛けるのが筋というもの!」
「筋というのなら戦時法に因って当地での指揮官の判断が優先されるし、当地での執行が優先もされる。何故なら秩序が保てないからよ。今回の王命は法に適っていないだけでなく更なる混乱を生む事になるわ」
「それを判断するのはあなたではなく元老院であり!女王陛下です!」
「法で判断するのであり、曲解する為に連れて行くなど時間の無駄よ」
「な、何たる冒涜・・・」
「法を冒涜しているのはあなたでしょう?命令無視、敵前逃亡、国家反逆罪。3重死か。これの何処に吟味する余地があるというのかしら」
「それはぁ!だから余地が有るのかを吟味する為です!」
「余地が有るか吟味する?まるで何としても助ける為に吟味するみたいな言い方ね」
「そぉー、それはぁ・・・」
「1度王都に帰って陛下に謁見し、聞いていらっしゃい」
「子供の使いではないのだ!ノコノコと都に帰れるか!」
「子供の使い以下ね。命令の内容も説明出来ないし。あなたじゃなく鳩で良かったんじゃない?」
「何たる侮辱!王命を拝した私への侮辱は女王陛下、そしてソルトレイク王国への侮辱だ!」
「では都に帰らないというのね?」
「当り前だ!こんな侮辱を受けたまま手ぶらで帰れるか!」
「宜しい。では見せましょう」
「見せる?何をだ!」
「兵達を集めて」
『ははっ』
兵士達が広場に集められた。
治療の痕が見える。
恐らく傷病兵がこちら側の岸に集められたんだろう。
急遽集められた為、兵士達も戸惑いの様子だ。
兵士達の目の前に幹部連中が並ぶ。
そしてウルチャイ連中と勅使とその護衛2人も。
ファナキアが口を開いた。
「皆の者!良く集まってくれた!今回の決戦に勝利したのは諸君らの奮闘のお蔭であり!その傷のお陰であり!戦って死んでいった者達のお陰である!」
ざわざわ
「しかしここで苦渋の決断をせねばならない!」
ざわざわ
「ここに控えるのは王都からの使いである!」
ざわざわざわ
「使いの言葉によると!ウルチャイ副官を処罰せずに王都に送れとの事だ!」
ざわざわざわ
「ファっ、ファナキア殿!」
「私はここで!ウルチャイを断罪し!戦って死んでいった者達に報いようと思ったのだが!王都ではウルチャイの罪状に疑義があるという!」
ざわざわざわ
〈ふざけるな!〉
〈そいつの所為で仲間が死んでいったんだぞ!〉
〈疑う欠片もねぇだろ!〉
兵士達が激オコだ。




