⑰-85-665
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翌日。
俺のある程度の傷の回復を待ってファナキアに呼ばれた。
途中歩いていると兵士や冒険者にジロジロ見られていた。
どうやら頭部の伊達包帯を見ているんだろう。
「来たわね、石頭さん」
「ども」
「傷の具合はどぉ?」
「いてて」
「嘘仰い。ハンナからもう傷跡も無くなってるって報告は受けてるわよ」
「ちっ」
「あなたは喧嘩を売られた側とはいえ総大将の命令を聞かなかったという罪を犯した、分かってるわね」
「はい」
「宜しい。戦時法に照らして具体的な処罰を下す事はしないわ」
「えっ?」
「決闘に関して言えば我々が口を出す訳にもいかないからね、当人同士の問題だし。例えそれが戦争中であっても、個人的な戦争に我々が口を出すこと自体が野暮なのよ」
「しかし?」
「しかし、決闘の影響が周りに多大なものになるのなら、総大将命令を出して止める事はある。軍隊の秩序の為にね」
「多大だったんですか?敵前逃亡の卑怯もんをブッ殺すのが?」
「あれでも副官だからね。それに他にも使い道が・・・まぁその事は後よ。戦時法の罰は無いけれど全く無しという訳にもいかない」
「秩序の為に」
「そう、秩序の為にね。そこで総大将が私的な罰を下す事で見せしめとするの」
「り、リンチ・・・」
「違うわよ今更。あなたの目的も一応達成はしたんでしょ」
「目的?」
「ハンナ。兵士や冒険者達の様子はどうだった?」
「・・・あ、はい。なんかいつもと違うような・・・」
「虹の騎士2人を相手に大怪我を負いながらも生還した。その勲章が欲しかったのよ、今後舐められない為にね」
「「「「あぁ・・・」」」」
「いてて・・・」
「あなた、達には総大将から罰を下す事を公言して今回の件はケリをつける。良いわね」
「その罰とは?」
「おほん」
一旦話を区切った。
「今回、ソルトレイク北の大河の戦いでは勝利をした。しかし新たな戦争が始まろうとしている」
「新たなる?」
「元老院よ」
「「「「「・・・」」」」」
「ここに来るまでにも栄典係を含め2人を処刑し、更に右翼指揮官だったウルチャイも責任を負わせなければならない。ハッキリ言えば今回の戦争で元老院が得たものは大きなものも有れど失うものの方が大きかった」
「得たものとは?」
「金銭的なものよ」
「・・・ふん」
「しかし元老院閥出身の若手のホープが歴史に残るような大失態を演じて名声的に、あなた達冒険者風に言うのなら、舐められてしまった」
「元老院が何らかの反攻をすると」
「えぇ」
「関係無いですね」
「牢屋にぶち込もうかしら」
「続きをどうぞ」
「あなたも薄々感付いていると思うけど、ソルトレイクは現在女王派と元老院派の2派閥に分かれている」
「虹の騎士は女王派ですね」
「えぇ。しかし元老院派は内務を牛耳っておりその影響力は女王派よりも強大よ」
「栄典係もその一例ですね」
「えぇ」
「確か、黄の騎士は元老院派の・・・」
「その通りよ。陛下は元老院の人事案を飲まざるを得なかったのね」
「過去に無かったんですか?元老院派の虹の騎士は」
「えぇ。冒険者出身の奴隷王の影響でね」
「ほほぉ」
「しかしその伝統も破られた。この先にも同じ様に伝統を破っていくでしょう」
「伝統を破るのは悪い事だけでは無いと思いますが」
「嘘仰い。あんなのが副官かよって顔してたじゃない」
「・・・」
「元老院は撒き返す為にも強引な手段に出るでしょう」
「今までも強引だったような」
「更に強引に」
「「「「「うぇ~い」」」」」
「そこであなた達よ」
「俺達?」
「えぇ」
「・・・虹の騎士の下で働けと」
「端的に言うとね」
「それは」
「まぁまぁまぁ、お聞きなさいな。勿論あなた達の、特にあなたの性格を考えれば断るだろう事は予測しているわ」
「「「「「・・・」」」」」
「散々スパイなのか疑いを掛けておきながらスパイをしろと」
「他国のスパイを雇う訳にはいかないでしょ」
「クレティアン様からお聞きでは?」
「ルンバキアとの関係?えぇ、聞いているわ。しかし政府機関に所属しているとは聞いていないけど?」
「・・・」
「私達の為に働けというのじゃなく私達の依頼を聞いて貰いたいの、優先的にね」
「・・・」
「勿論お金は払うわ。当然中抜きも無しよ」
「それが罰だと」
「えぇ」
「永続的な罰ですね」
「虹の騎士との縁が永く続く。悪い事では無いと思うけど」
「・・・暗殺とかですか」
「いやいやいや、まさか。元老院がチリメン商会で下手を打ったけれども、同じ様に私達にもバックアップ関係の商会が有るのよ」
「女王派の商会という事ですか」
「えぇ。その商会が今苦境でね。彼等の助けをして貰いたいの」
「バックアップのバックアップですか」
「おほほほ」
「しかし冒険者の僕達が商会に出来る援助なんて限られていますよ」
「あなたの収納袋に入っている物を卸すとかね」
「うっ」
「本陣でがっつり取ったんでしょ?あんな食料や武器防具、前見た時には無かったものね」
「ドキッ」
「今は戦時中。決戦に勝ったとはいえ塩会議も控えている。まだそれらは高止まりするはずよ」
「軍隊の食料なんて不味いですよ~?保存食ばっかりで。ちょっと食べたけど、なぁ?」
「「「「うんうん」」」」
「王都には様々な層の人達が居るのよ。例え不味いものでも、旨い旨いと食べる人が居るわ」
「「「「「・・・」」」」」
「戦争に因って上がった物価。高くて買えない食料より、不味くとも安ければ助かる人達が居るの」
「・・・微々たる量ですよ」
「何もしないよりは良いでしょう」
「・・・分かりました」
「そう!良かったわ。ついでにその商会の頼みも聞いてあげて」
「頼み?」
「えぇ、実は」
「ファナキア様。勅使の方が到着されました」
外から声が掛かった。
「・・・そう、来たの」
「勅使?」
「この話は一旦お預けね」
「あっ、ちょ」
「場所を変えるわ、クレティアンも居るし」
「勅使って王の使いですよね」
「そうよ」
ファナキアの個人的な幕舎から出て案内された大きな幕舎に向かう。
中に入るとクレティアンが居た。
そしてウルチャイも。
そのウルチャイの側に場違いな服のエルフが居た。
あれが勅使か。お付きのエルフ騎士も2人居た。
ファナキアはそのまま歩いて進み上座に向かう。
俺達は途中で離れ末席に。
途中、ウルチャイと目が合った。
フン
幾らか傲慢さが復活したようだ。
「ファナキア殿。私は勅使ですぞ、出迎える礼を取るべきではありませんかな」
「なら、来る前に連絡を寄越しなさい。いきなり来ても対応は出来ないわよ。陣中の忙しさを見てないの?」
「むむ」
「それに、開口一番の台詞がクレームってどうなの?決戦に勝利した相手に対する礼がなってないわよ」
「むむむ」
「それで、勅使という事は陛下の命を持って来たのよね」
「そ、その通りです」
「決戦に勝利した我々に対する労いを、態々勅使を送って果たそうとするその御心に感じずにはいられないわ」
「あ、い、いや」
「遠く離れたアクアパレスに御座す陛下に、我々の奮戦が届いたと、この戦で死んでいった”多くの”兵達にもはなむけの言葉をかける事が出来るわ」
「う・・・」
「それで。クレティアン、礼を改めて女王陛下からの御言葉を聞きましょう」
「うむ」
「あ・・・お、おほん!「この度の決戦におけるウルチャイ副官の処遇については、一度身柄を王都に移して然るべき機関が行うものとする」。以上です」
『・・・』
なるほど。
ウルチャイのあの落ち着き具合はこの事を知ってたな。
現にあの表情は自信に満ちている。
間に合った、と言った所だろう。
「あらクレティアン、聞き間違えたかしら。決戦の勝利ではなく戦争犯罪者に関する事に聞こえたのだけれど」
「俺にもそう聞こえたな。勅使、どういう事だ?陛下の命を成し遂げた祝辞ではなく犯罪者の処遇?陛下が?どうなっている。何故陛下が態々犯罪者に対して口を挟むのだ?」
「そ、それは・・・」
「本当に陛下の御言葉なの?その命令書に陛下のサインはあるのかしら」
「もっ、勿論御座いますとも!お確かめください!」
「・・・ふむ。確かに陛下のサインね」
「でしょう!」
「では何故陛下は犯罪者の王都への移送を命令したのかしら」
「わ、私には生憎・・・」
「陛下があなたには話さなかったのかしら?」
「い、いえ」
「違う?ただこの命令書を持って行けと、ただそれだけをあなたに仰ったの?」
「私は陛下に御会いしておりませんので・・・」
『・・・』
「はぁ?勅使なのに陛下に会ってない?」
「ぐっ・・・」
「命令とその意図を説明させる必要が伝令には必要よね。あなたは今回の命令の意図を説明出来るの?」
「説明など必要有りますまい!女王陛下の御命令なのですぞ!ただ粛々と実行するだけで良いのです!」
「将は現場にて例え王命でも受けざるものがある、と言うわ。この命令は聞けないわね」
「同感だ」
「なっ、何ですと!?反逆するというのですか!?」
「この命令は国益に反している、そう言っているのよ」
「その判断はファナキア殿がするものではござらん!」
「いいえ、私が下すのよ」
「何故です!」
「私が総大将だからよ」
「・・・い、いや」
「陛下が総大将となりここに居て、戦争を指揮し、勝利したのならば、その命令は有効よ。しかしここの総大将は私、総責任者は私、ソルトレイク王全権代理人の虹の騎士、赤のファナキアのこの私なのよ」




