⑰-84-664
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「「ふぅぅぅ・・・」」
ファナキアとクレティアンは息を吐いた。
2人共地面に倒れたカズヒコを見下ろす。
地面には血が・・・
「ハンナ、手当てを許す。来なさい」
「は、はい!」
カズヒコの下に駆け寄る4人。
ミキに抱えられるカズヒコ。
「・・・ナイ、フ」
「え?」
「ナイ・・・回収・・・」ガクッ
「ウォーカー!」
「致命傷に至ってはいない。相当な石頭ね」
「頭部への深手で瞬間的な出血により気を失った。傷を塞げば大事無かろう」
「ヤヤ!傷を塞いで!」
「うん!」
「テントに戻って養生させなさい」
「分かりました」
サーヤがカズヒコを負んぶする。
「あ、あの・・・」
「なにか」
「ナイフを、返して頂いても宜しいでしょうか・・・」
「ナイフ?えぇ、構わないわよ」
「その・・・」
「うん?」
「お二方の脇に・・・」
「「えっ!?」」
2人が見るとナイフが脇腹付近に刺さっている。
しかし血が出ていない、体には触れずに服だけを貫通しているようだ。
「「・・・」」
「宜しいですか?」
「えぇ・・・」
「あぁ・・・」
「どうも」
5人は幕舎を去って行った。
入れ替わりに衛兵が入って来た。
「お怪我は」
「大丈夫よ。クレティアンと話すから誰も通さないで頂戴」
「畏まりました」
テント内。
4人の女は横たわって眠ったままの男を看病していた。
「傷は塞がったよ」
「うん」
「やはり止めるべきだったのではないかな」
「止めても無駄だったわよ」
「あたしもそう思うよ」
「いつもは聞いてくれたけど、あの時はやるって感じだったしね」
「はい」
「色々溜まっていたのだろうな」
「えぇ」
「ただ、歯痒いというのが正直なところですね」
「うん。家族の問題なんだからあたし達も戦うべきだったんじゃない?」
「負けると分かってて?」
「カズヒコさんで勝てないのなら・・・」
「私達を生かす為に戦ったというのなら、それは私達を信用していないという事になるんじゃないかな」
「・・・自分1人で解決するなって事?」
「うん。家族であるならば、家族みんなで問題に当たるべきだと思う」
「・・・難しい問題ね。この人は家族を守る為に生きてるようなものだから」
「それでカズヒコが死んだら、残った私達の思いはどうなるんだ?それは勝手だろう」
「あの場面では確かに私達は足手まといだったでしょうけど、でも・・・」
「考えは分かるけど、やっぱりあの場面では邪魔しない方が良かったのよ。でもそこに至るまでに私達が出来る事はあったかもしれないわね」
「戦闘では戦いたくないって言ってたし、これからは指揮だけに専念してもらうってのは?」
「そうね。危険性が高ければ手を出して貰うって感じが良いかもね」
「私達の戦闘力向上にもなりますし」
「責任の分散は信頼の証でもある」
ペロペロ
「大丈夫よ、ジョゼ。今は眠ってるだけ」
「ナァ~」
「何時刺されたのか、気付いた?」
「・・・いや。お前は」
「いいえ。私のナイフには血が付いていたわ。恐らく目に刺さっていたナイフだったはず」
「・・・奴から離れていたはずだ。遠隔操作?どんなスキルだ?お前の様なものか?」
「分からないわね。しかしあの自信の源はそのスキルだったという事でしょう」
「殺ろうと思えば殺れた、という訳か」
「えぇ。毒でも塗って刺していれば、今頃はね」
「何故そうしなかった」
「彼が言ってたでしょう、私達狙いじゃないって」
「・・・」
「それに後ろに4人の家族も居たしね。仮に私達に何か有った場合、彼女達に被害が及ぶ事も考えての事だったんでしょう」
「負ける前提だった、そういう事か」
「いえ、多分引き分けね」
「・・・3発目か」
「2発は予想していたんでしょうけど、3発目を真面に食らってたしね」
「・・・何時以来だ、3発目を出したのは」
「母上の時以来よ。あの時から戦闘じゃなく政治や外交に重きを置くようになった」
「戦う前に勝つ、か」
「戦う前に勝敗を決す、それが理想ね。専守防衛ならやり易いわ」
「元老院とはそうもいかんな」
「味方が敵だしね」
「3発目は手加減したのか?」
「いいえ、本気だったわ。頭は割れてるはずだったんだけど、ね」
「殺す気だな」
「あなたもでしょう。あの横薙ぎ、彼ごと私もぶった斬る勢いだったわよ」
「奴がワシとお前の間に来たのはお互いを意識して本気で攻撃させないようにという事だろう」
「えぇ、そう思うわ。だからその上を行く為にも本気で行ったのよね、お互いに」
「冒険者時代に戻ったという訳か、テスタロッサ」
「昔の徒名で呼ぶなと言ったでしょ」
「奴は無理じゃないか?」
「7色目に?」
「あぁ」
「虹の騎士の秘密諜報員だと黄の騎士にも存在が知られるけど、私達だけの諜報員として扱えば良いって言ってたじゃない」
「赤、青、紫のか」
「紫は・・・無理かもね」
「まぁ癖のある奴だしな、ワシは構わんが。そもそも奴が受けるのなら、だが」
「難しいわね。今回の件で更に難しくなった・・・はぁ、あの糞餓鬼が」
「ウルチャイはどうする」
「伝令部隊から知らせがあった。鳩を送ったらしいわ」
「・・・元老院か」
「兵には口止めしたようだけど、王都の父親によ」
「あの程度の男なら単純に考えれば命乞いだと思うが、スパイの可能性も捨てきれんな」
「そうなのよね。スパイなら命令無視も敵と図っていたなら納得なのだけれど・・・」
「しかしスパイなら戦に負ければ逃げるはずだろうし。残っても軍法会議が有るのだし」
「だからこその鳩で知らせたのかも」
「となると、奴の助命だろうな」
「間違いないでしょうね」
「どうする」
「もう直ぐ追撃部隊が帰還するわ。彼等がウルチャイの助命を知れば・・・」
「特に右翼に居た者達は、最悪暴動が起こるかもしれんな」
「あれだけの被害を出しておきながら命が助かるのは、違法よね」
「命令を無視して血気に逸った挙句、船を捨てて逃走したのだからな。知らせに因れば追撃部隊の戦果も上々らしい。決戦に勝って上気した連中は何をするか分からんぞ」
「・・・えぇ」
「んん・・・」
「気が付いたよ!」
「気分はどう?」
「・・・最悪だ」
「でしょうね」
「結構出血したからね」
「・・・だろうな」
「そのまま寝てなさいな」
「・・・あぁ、そうする」
「傷は塞がってるからね。後はゆっくり休んで治すんだよ」
「・・・ありがとな」
「んーん」
「・・・あの後はどうなった」
「ファナキアさんは特に何も。罰する事も無いみたい」
「そうか」
「決闘って事で処理するんじゃないかなぁ」
「喧嘩売られた側ですし、総大将も討ってるんだからきっとそうですよ」
「しかし見事にやられたものだな」
「・・・あぁ」
「良く分からなかったんだけど、何が有ったの?」
「・・・3発。3発出せる」
「ファナキアさんのあのスキル?」
「あぁ」
「そうだったんだ」
「なんか、何も無い所にナイフ投げてたのはあれを狙ってたんだね」
「あぁ・・・ううっ」
「「「「どうしたの!?」」」」
「・・・既視感・・・かな」
「また?前も有ったよね」
「・・・あぁ」
出血で頭が混乱しているのか。
あの時何が起こったのか、記憶が鮮明な内に思い出してみよう。
唯でさえ俺1人で不利なのに2人の虹の騎士を相手にするのは無茶だ。
なら考える時間を与えず直ぐに行った方が良い。
そう判断して2人の間を行った。
お互い同士討ちになる事を恐れて本気で攻められないのを期待したからだ。
その俺の目の前に魔力反応を感じた。
ダッシュしたから勢いがある。
しかしそのまま避けて走り抜けようものなら2人の攻撃が来る。
一旦1人の動きを封じることにして急制動して土を飛ばしナイフを投げ、
魔力体に当たってそれは消し飛んだ。
俺の《EMブレード》を流したミスリル製の投げナイフだ。
こっちは対処出来た。
そして弾かれた事に気を取られたファナキアの裏で《土魔法》発動。
地面に落ちていた斬り掛かって来た奴の目に刺さっていたナイフを飛ばしてファナキアの脇に刺した。
ここまでは狙い通りだ。
次にクレティアンが横薙いでくる。
こいつ、俺諸共ファナキアまでぶった斬る気だぞ。
ファナキアもそれを知っているのか最悪それを受け止める感じだ。
つまり俺を盾に受け止める気だな。
仕方なく手甲で弾くがバランスを崩してしまう。
それを見計らっていたようにファナキアの2発目。
俺も有ると思っていたから投げナイフ。
また魔力体を消し飛ばしたエネルギーで弾き跳びナイフはクレティアンへ。
クレティアンはそのナイフを剣で弾く。
が、注意はナイフ及び俺に行っているので最初に投げたナイフには行っていない。
《土魔法》発動、
最初のナイフはクレティアンの脇に刺さった。
ここまでは何とかなった。
バランスを崩しつつも奴等が出て行った方に向かって行けている。
しかしやはりというか、流石の虹の騎士というか、
3発目が出る。
出ないでくれよと思っていたがやはり3発目。
この瞬間の攻防で3発出せるか。
俺には《土壁》を出す事も出来ない。《土壁》では間に合わない、速過ぎる。
それに狙ってるのは頭だろ、殺す気じゃねぇか。そう言ってたけども。
俺に出来るのは《EMブレード》を頭に流して少しでも威力を落とす事だけだ。
ザクッ
「虹の騎士強ぇわ」
「「「「知ってる」」」」
「何より躊躇が無い。迷いが無いんだな、速い訳だ」
「《神経強化》でも無理だったの?」
「多少思考が速くなっても体は速くなってないからな。それにあの速さ、考えてる余裕なんか無かったな。2人も考えながらじゃないんだろう、反射的に動いてるんだと思う。考えながらだと遅くなるからな、何も考えず集中した方が速い。つまり体が記憶してるんだろう、どう動けば良いか」
「あんたは心理戦で戦うスタイルだもんね、相性が悪かったのよ」
「いや。1対1じゃ絶対に勝てんな。心理戦に持ち込もうにも乗って来ないだろう。無心に殺しに来るだろうな、今回みたいに」
「じゃぁ戦わなきゃ良いんだよ」
「・・・だな」
「まぁ戦争も終わりですし、虹の騎士みたいなバケモノとはもう戦う機会も無いですよ」
「そうだ。元の冒険者稼業に戻って魔物相手だろう」
「・・・そういう意味で言えば、魔物も無心で殺しに来てるんだよなー」
「心理戦も無理だねぇ」
「ふーむ。つまり俺の出番は戦う前にあるってことか」
「戦いを有利な状況に持って行くって事ね」
「あぁ」
あのレベルの連中と真面に戦っても敵わない事は分かっていた事だ。
しかし今回得た事と言えば、
道連れには出来るという事だな。




