⑰-82-662
⑰-82-662
そのまま会議は一旦お開きになり、
幹部は船に乗って対岸の元居た本陣に移った。
ソルトレイク側の本陣に移った後は俺達も総大将管轄下の警備が厳しい場所にテントを移された。
緘口令の一環だろう。
テントでの待機を命じられて時間が過ぎ、
夕方にまた呼ばれた。
「ではクレティアンはこのまま滞陣して戦後処理と塩会議に向けて牽制を頼むわ」
「分かった。バウガルディ侵攻の体は整えておく」
「私は王都に帰って塩会議と、ダンジョン教関連の情報を集めるわ」
「そうしてくれ、任せたぞ」
「はぁ、やれやれね。決戦も終わって一息つけると思ったのに」
「ダンジョン教とあっては時間をかけてはいかんからな」
「ダンジョンから物資を得ている身としては、奴等が蜂起でもしようものなら経済的な打撃だけじゃなく国民に大きな不安を与えてしまう。今回の勝利も霞んでしまう程に」
「うむ」
「陛下に全ダンジョン及びダンジョン村の調査を奏上するわ」
「うむ」
「それと商会援助の件だけど、ウォーカー」
「はい?」
「あなたに〈いけません!許可の無い人間を入れる事は出来ません!〉・・・何かしら」
「・・・ウルチャイが来たようですね」
『・・・』
「はぁ、またか。ちょっと、入れて頂戴」
「はっ」
ウルチャイとその取り巻きが入って来た。
「どういう事ですか!ファナキア殿!」
「何が」
「重要な会議に私を呼ばずに!」
「・・・何を言ってるの。あなたは謹慎するように言ったはずでしょ」
「私は副官ですよ、会議に出る権利がある」
「無いわ」
「何故だ!」
「謹慎、というのは活動を一時制限する事よ。知らないのかしら」
「ぐぬっ。勿論知っておりますとも!しかし何故謹慎などと」
「何故謹慎させられているのか分からないとでも?」
「そっ、それは・・・しかしあの状況で攻めるのは兵法の上でも」
「抜け駆けというのは命令違反、そういう事よ。あなたの兵法に載っていないの?命令を無視しちゃ駄目って」
「もっ、勿論その事は」
「本来なら魔力枷を嵌めて牢屋にぶち込むところだけど、あなたの父上に配慮してそうしないでおいたのに。その配慮も無視するなんてね」
「しかし私はソルトレイクの為に全力で」
「負けたのね」
「ぐっ」
「全力で戦った。そして負けた。その責任を負う。当然よね、副官なんだもの」
「・・・」
「更に命令違反の責任もね。出て行って頂戴」
「し、しかし」
「あなた本当に口答えばかりね。口答えの勉強ばかりしてきたのかしら」
「そっ、それは言い過ぎです!私には」
「私達が決戦している時にいち早く本陣に帰ったあなたは今までに言い訳を考える時間的余裕が沢山有ったのでしょうけど」
「っち、違っ」
「私達には戦後処理が山のように有るのよ、あなたの事も含めてね」
「ぐっ」
「ドタマに刺さる前に出て行きなさい」
「・・・そっ、そいつは!」
「ん」
「そいつは何故この場に居るのですか!」
「・・・ウォーカーの事?」
「そうです!何故冒険者が戦後処理の会議に居るのですか!略奪物の分配にそいつ等も関わらせる積りですか!」
『・・・』
(なるほど。何故こいつがここに来たのかなんとなく分かった気がする)
「当然でしょう」
「何故です!冒険者ごときに!分配は幹部が決めるべきものだ!」
「だからあなたを加えろと?ふふっ、謹慎というのはそういうのも含めて謹慎なのよ。あなたの辞書に書き加えておきなさい」
「ぶっ、侮辱だ・・・」
「旗艦から結晶魔石も回収せず脱出したそうね」
「ぐっ」
「幸い船長の自爆によって魔石は敵の手に渡らずに済んだけど木っ端微塵。女王陛下から貸し与えられた魔石を回収もせず逃走とは・・・そのあなたの口から侮辱?おほほほ」
「・・・」プップッ
(煽るね~。ファナキアも溜まってたんだろうな。船長とも仲良かったみたいだし)
「そっ、それとこれとは別です!」
「当事者のあなたが言う台詞ではないわよ」
「単なる直属の冒険者というだけでそいつ等が出席するのは最早特別待遇を越えて越権行為です!」
「監察」
「はっ」
「彼等がここに居る理由は?」
「はっ。敵総大将である通称パイドヴァイパーを討ち取りました」
「パっ、パイドヴァイパーを討ち取った!?」
「略奪は略奪品を一時的に軍が集めその後に皆に分配するのが通例。負傷などにより略奪に加わっていなかったとしても戦に功があって負傷したのなら考慮されるもの。彼等の戦功は十分考慮すべきなほど多大です」
「ばっ、馬鹿な・・・」
「更に言うのならこの会議は略奪物分配の会議では無いわよ、何を期待していたのか知らないけれど」
「いやっ、私は・・・」
「命令を無視して突撃、旗艦を失い退艦処理もせず逃亡、部下の多くを死なせたあなたが何を得るというのかしら、罰以外に」
「・・・」プップッ
(煽る煽る。ふむふむ。弾劾する為に俺達の抜け駆けは任務の一環だったって事は間違いなさそうだな)
(あ、あいつがパイドヴァイパーを討ち取った?そんな馬鹿な。有り得ない!奴等はみすぼらしい筏だったはず。あんな筏で旗艦をやれる訳がない。この者達は騙されているのだ。夜逃げのトリックの事もある。何らかの偽装工作をやっているに違いないのに何故誰も気付かないのだ!・・・はっ。まさか最初から奴に功成り名を上げさせる為に?まさかファナキアとクレティアンは奴に橙の椅子を・・・)
「貴様なんぞに・・・」
『ん?』
「貴様なんぞに渡してなるものか!」
「ん?」
「貴様の様な冒険者に歴史と伝統、栄光の・・・貴様なんぞに!」
「酔ってんのか?勝ち戦だったからって早過ぎだろ。追撃部隊も帰ってないのに自分達だけで飲んでたのか?謹慎中のくせに」
「貴様ぁ」プップッ
「勝ち馬ならぬ勝ち船にって話だったが、お前の船に乗らなくて大正解だったな」
「・・・」ワナワナ
「俺達は重要な会議をしているんだ。部外者は出て行ってくれないか」シッシッ
「・・・盗人猛々しいとはこの事だな」
「みんなのハートを盗んだって事ならその通りだがね、なんせ総大将だったらしいし。それよりもその言葉はそのまま返す、いや、盗人じゃなく敗残者猛々しい、か?」
「貴様!必ず貴様の罪を暴き罰を下してやる!」
「罰が下されるのはお前の方だろうが」
「貴様だけではない!貴様の女達にも相応の報いを与えてやる!」
「・・・なに?」
「はははは!罰を恐れ本気になったか!?罪を認め皆に詫びて許しを乞えこの下郎が!」
「・・・それは、俺達への挑戦と受け取って良いのか?」
「挑戦!?何を言っている!罪を犯した者へ罰を与えるのは人の上に立つものとして当然の責務であろうが!」
「だから、お前が俺達に決闘を申し込んでるという事で良いんだな?」
「ウルチャイ!いい加減にしなさい。ウォーカー、待ちなさい」
「待て?いつまでも犬扱いか?」
「この野良犬が!手柄を掠め取る卑しい犬が!私が罰を下してやる!」
「良いだろう。お前の挑戦状は確かに受け取った」
「ウォーカー!」
「うるせぇんだよ。決闘に横から口挟むな」
「はははは!何が決闘だ!貴様はただ私の罰を受け入れれば良いのだ!そこに直れ!」
「良いだろう。お前に先手をくれてやろう。抜けよ」
「ウルチャイ!ウォーカー!」
「はははは!私が皆の目を覚まさせてあげますよ!」
「俺がお前を眠らせてやるよ、父っちゃん坊や」
「貴様ぁ!」
ニヤニヤと、
ニヤニヤとカズヒコが歩み出た。
ウルチャイは少し正気に戻る。
何故許しを乞わないのか。
元老院有力者の息子である彼の今までの人生からは全く考えられない態度だ。
何故笑っていられるのか。
今までの者達は顔を青ざめそうしてきたはずだ、こいつもそうするはずだ。
何故上手く行かない、何故自分の思う通りに事が運ばない。
今までは、王都に居た時には大概思う通りにいっていた。
思う通りに行かないのは大概元老院絡みだ。
元老院の上層部絡みの件では自分が折れるか我慢しなければならない。
それは当然だと納得もしていた。何故なら秩序とは階級であり身分の差であるからだ。
しかし戦争に参加し自分の思う通りに運ぶ事は稀で殆どが納得の出来ない事ばかり。
エリートの自分への扱いも軽じられているのを感じる。
周囲の扱いを見返す為にも決戦で手柄を立てようと勇んだが失敗に終わった。
しかし勝敗は兵家の常というではないか。
自分の行動は失敗したが結果的に決戦に勝ったのなら、自分の行動も結果的には間違っていなかったのだ。
寧ろ自分の行動が有ったからこそ勝ちを呼び込めたのではないか。
謹慎させられた期間中、ウルチャイは命令違反の自己弁護の言葉を必死になって探りその様に自分を思い込ませていたが、今、目の前でニヤニヤと笑いながら近付いて来る男を見て少し正気に戻った。
決闘?
何を言っているのだこいつは、
これは上位者に楯突いた者への処罰執行なのだ。
軍隊でも上の者に逆らったら罰を下す、そうしなければ秩序が保てないからだ。
本来なら膝をつき首を垂れて許しを乞うべきを、
何故笑いながら近付いて来るのだ。
まさか・・・




