⑰-81-661
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どうやら対岸のソルトレイク側本陣に移るようだ。
しかし準備は外の兵士に任せ会議は続く。
「ウォーカー」
「はい、クレティアン様」
「よく倒せたな。指揮能力も然る事ながら武力も相当な腕だったと聞いていたのだが」
「あぁ、なんか相手も他の兵士に気取らたくないって感じだったんで、派手に攻撃して来なかったんですよ」
「ほほぉ。確かにローブ羽織って・・・フードも被っていたのか?」
「えぇ」
「ふーむ。先の捕虜の言動をみるに戦場から脱出しようとしていたのか?」
「その可能性が高いわね、付き人も2人だけだし。大っぴらに逃げられないから2人だけにしたって所かしら」
「それにしてもだ、どうやって倒したのだ?」
「あっ、って言って明後日の方を見たらそいつ等も釣られて見たので、サクッと殺しました」
『・・・』
「な訳ないでしょうに、いいわ、そこは聞かないでおく」
「マジですよ。なんか旗艦の帆が落ちたみたいで、そいつ等も『あっ』って言ってたし」
『・・・』
「・・・確かに。何故落ちたのかしら」
「捕虜はその辺喋ってないんですか?」
「えぇ。殆ど何も喋らず「殺せ」って言ってるらしいわ」
「駐屯地の奴等と同じですね。忠誠心が高いのか」
「この後塩会議も有るからね。その時の捕虜交換を考えての事かもしれないし」
「なるほど」
「ウォーカー」
「ん?」
ケセラが話しかけて来た。
(ダンジョン教の事、話した方が良い)
(・・・マジか)
(マジだ。ダンジョン教は南北関係無い、非常に厄介な問題だ)
(バウガルディ軍に居たんだからバウガルディの問題じゃないのか)
(目的がはっきりしていない以上、どこの国に居るのかははっきりしない)
(確かに。魔石を狙ってたからソルトレイクの軍にも居る可能性も有るのか)
(その通りだ)
(この世界では実感が無いから聞くんだが、それ程の脅威なのか?)
(危険思想の武装集団、そう言ったな)
(あぁ、言った)
(人間の生贄や、食人行動もあ)
(よし、話すわ)
「えー、っと」
「相談は終わったの?」
「はい。っと、あー!!」
『?』
「どうしたの?」
「ちょっと会議が長くなりそうだからオシッコに行きたいってこの娘が言うので、」
「ちょっ!?」
「その辺で立ちションして来いって言ったら」
「女でしょ」
「立ちションで思い出したんです」
「何を」
「本陣を偵察している時に」
「また?今度は何」
「チラッとヒソヒソ話を耳にしたんですが」
「ふむ」
「俺達の故郷ではそんな奴等居なかったので然程重要じゃないと思ってたんですが、冒険者になってそいつ等の事を耳にするようになってお話ししといた方が良いんじゃないかと、今思った次第で」
「早く仰いなさいな」
「そのヒソヒソ話してた奴等、多分ダンジョン教の教徒だと思います」
『何だってー!?』
「それは確かなの!?」
「あー、はい。多分。でも確証は有りませんが、俺の勘は・・・そうそう、俺の勘は結構当たるんですよ?衝船に体当たりした時だって」
「そんな事より話の内容は!?何の話をしていたの!?」
「確か・・・マザーの為にとか・・・」
「マザー系か。他には」
「奪う・・・とか」
「奪う、何を?」
「そこまでは、あっ」
「何」
「旗艦の奴に任せる、と」
「旗艦。恐らくバウガルディの旗艦よね・・・もしかして帆が落ちたのってダンジョン教徒の所為?」
「その可能性が有るな。旗艦で何かを奪おうとしたが兵士に邪魔され戦闘になった、その拍子に帆が落ちた、か」
「捕虜は何も話さないのよね?」
「はっ。『何も言う事は無い』の一点張りで」
「その辺も聞かないと。全く、何故そんな重要な事を忘れてるのよ」
「俺達の故郷ではそん」
「分かった分かった、さっき聞いたわね」
「ファナキア」
「なに?」
「ダンジョン教が狙うのはマジックアイテムが相場だ。旗艦に有るのは武器防具、それに・・・」
「・・・結晶魔石、か」
「うむ」
「敵旗艦に結晶魔石は無かったのよね」
「はい。有りませんでした」
「ファナキア様」
「なに、ウォーカー」
「ダンジョン教徒はバウガルディ軍だけに居るんでしょうか」
『むっ』
「我が軍のマジックアイテムの管理を厳重にしなさい」
「はっ」
「厄介ね。全員を尋問する訳にはいかないし・・・」
「ダンジョン教はマジックアイテムを狙うんですか?」
「ダンジョンから生まれた物を神聖視する教義もあるのよ」
「ほほぉ」
「そしてエナね。エナもダンジョンからしか得られないから」
「・・・金を貯め込んでる?」
「貯めたお金で何をするのか、我々にとって良からぬ事に違いないわね」
「教徒から金を吸い上げ、マジックアイテムで武装した危険思想の連中が何をやるにしても相応の備えは必要だな」
(む・・・商会援助の件ね。ふむ)
「王都に伝令を出して3都内および領内の村々へダンジョン教徒捜索の令を出しましょう」
「うむ、それが良い。戦中戦後の不安な心に付け込むやもしれんしな」
「勝ったとはいえこちらの被害も多かったわ。右翼旗艦と船長を失い、その魔石も・・・魔石?」
「どうした」
「ウォーカー」
「はい」
「あなた、旗艦に潜入して無いわよね」
((((ドキッ))))
「旗艦が自爆した後に体当たりしたんですが」
「味方右翼旗艦じゃなくて敵の旗艦よ」
「敵の!?何で俺が!?」
「魔石よ。あなた、未確認飛行物体が墜落した後で魔石が欲しいって言ってたわよね」
「言いましたね」
「その魔石を狙って旗艦に侵入したのじゃない?」
「俺なんかが魔石を手に入れてどうしようというんですか」
「あの未確認飛行物体の飛ぶ原理を知っていたあなたなら、その再現を狙うのも不思議ではない。違う?」
「なるほど。船には火の結晶魔石も保管してあるんですね?」
「・・・いえ。火は厳禁。火の魔石は無いわ。しかし2000万が200万になって売る為に、というのも考えられるわ」
「金の為に敵本丸に乗り込むんですか?命を失っては元も子もないでしょう」
「(金じゃなくメンバーの体調の為に追撃を止めた・・・けど)収納袋を見せてくれるかしら」
「収納袋を!?」
「えぇ」
「冒険者のトップシークレット、トップオブトップ、ファーストオブ「そういうのもう良いから」ぐぬぬぬ・・・」
(大事な結晶魔石を入れるとしたらどっち?普通の鞄と収納袋。勿論収納袋よね!)
「ちっ・・・」
「舌打ち?」
「散らかってますが、どうぞ」
「収納袋の中が散らかってる訳ないでしょう、全く。どれどれ・・・(無いわ。私の勘違いだったか)」
「如何でしょう」
「無いわね」
「待ってください!」
「えっ」
「俺の下着も有るでしょう!」
「え、えぇ・・・」
「漏らしてるんだ」
『・・・はい?』
「戦いで漏らしてたんだ!隠したかったのに!」
「いや、別に私は言ってな「総大将を守る為とは言え、あんな筏で体当たりするなんてすっごい怖かったんだ!」」
「あなたには人の心ってものが有るんですか!?人の恥部を尋問までして明らかにするような!」
「いや、私は「俺達は戦いなんて嫌だったんですよ!だけどファナキア様の為に恐怖を押し殺して衝船に体当たりしたんです!思い浮かんだクレティアン様の強面顔を振り払って!」」
「強面は余計だ!」
「それが、漏らしてたって、メンバーにも知られたくなかったのに!河に入ったから言わなきゃバレないと思ってたのに!あなたの所為だ!あなたが秘密を暴こうとするから!」
「分かった分かった。それ以上の展開は分かったから。謝るわよ」
「ちっ」
「また?」
「何回尋問するんだよ」
「前見た時には無かった食料やバウガルディ軍の武器防具でパンパンなんだけど?」
「ご免なさいです」
『・・・』
「だって!しょうがないでしょう!?2000万が200万になったり!正直この国に来てから全然稼げて無いんだから!出て行くばっかりで!ホテル代とか戦争準備代とか!あと、山ブドウとか、それと山ブドウとか、残りは、山ブドウとか」
⦅どんだけ山ブドウ買ったんだよ⦆
「散財すれど稼げて無いんだから!」
「分かった分かった、分かったから。それはあなた達の略奪物だからあなた達の好きにして良いわ」
「当然ですよ」
「何か言った?」
「ありがとうございます。サウナのお陰かファナキア様のお顔もすこぶる血色が良くなり、これも海亀様のお陰だとナンマンダ」
「止めなさいと言ってるでしょ」
「ブー」
「まぁ、何にしろ。パイドヴァイパーが死んだのは確定と見ていいわね」
「うむ。決戦に勝ち、追撃も順調。敵総大将を討ち取り上々の結果だ」
「しかしこちらの被害も大きかったわ。その辺、向こうに移ってから協議しましょうか」




