⑰-80-660
⑰-80-660
「決戦時、あなた達が当初命令通りに戦線を維持していたのは青将軍も認めているわ」
「うむ」
「そこから右翼の変調を認め、予め青将軍からの命令通り、私の護衛の為に戦線を離れたと」
「はい、その通りです」
「監察」
「はっ。問題ありません」
「宜しい。では褒賞は問題無く下されるわ」
「ありがとうございます」
「所でその後の行動についてなんだけど」
「はい」
「敵本陣に潜入して火をつけたのは」
「敵衝船に俺達が乗っていた筏をブチ当てたら木っ端微塵になって、漂流物にしがみ付いて必死に泳いでたら何とか岸に辿り着きまして。そしたら何と対岸だった訳で」
「そこから潜入したって言うの?」
「はい。戦いを見ていた見張りを何とか片付けて装備を奪い、敵の目を何とか掻い潜って火を放ちました」
「・・・何とかなるものなの?」
「何とか何とかなりました、えぇ」
『・・・』
「この件についてあなた達を褒賞したいのだけれど」
「けれど?」
「褒賞するにはこの件を報告書に残さないといけないわ」
「あっ、この件の褒賞は辞退いたします」
「早いわね。良いの?結構な値になると思うけど」
「どうせまた抜かれるでしょうし」
「私の直属だから前回の様にはならないわよ?」
「報告書に残ると後から言われそうです」
「・・・用心深いわね」
「犬は3日飼えば3年恩は忘れないと言いますが、同様に恨みも忘れないのです」
「では私への貸しという事でどう?」
「貸し?」
「そう、赤将軍への貸し。高そうでしょ」
「・・・」
「嫌そうな顔をしないの。ま、あなた達が良いというのなら報告書への記載は止めておく。取り敢えずそういう事でどう?」
「お願いします」
「監察」
「はっ。諜報員の任務の一環で火の手が上がった。報告書には諜報員の名を明かさずその様に記載するという事で」
「うむ。その様に」
「その後の行動は?」
「あいつ等が慌てて火を消そうとしてるのをニヤニヤしながら見てました」
『・・・』
「(こいつらしいわね)特に何もしてなかったのね」
「戦い疲れて泳ぎ疲れてとてもじゃありませんけど」
「「「「・・・」」」」
「そう。退却する者の中で位の高そうな兵士を見た事は?」
「・・・いえ、特に無いですね」
「そう」
「誰かをお探しで?」
「えぇ。ちょっとね。捕虜には勿論、戦死者の中にも居なかったのよね」
「河で流れて行ったのかもしれないですね」
「だと良いんだけど、もし逃げられてたら厄介な相手なのよ」
「へぇ」
「旗艦の捕虜は口が堅いし、位の高そうな相手なら行方を知ってるかも、と思ったのだけれど・・・」
「ウォーカー」
「ん?」
ミキが話しかけて来た。
(あの死体、有ったでしょ)
(あの死体?・・・あぁ、あいつか)
(偉そうな奴って言ってたでしょ)
(言ってたな)
(見せれば?)
(・・・何もしていないって言ったばかりで殺しをした証拠を出すのか?)
(厄介な相手って言ってるじゃん。この先また戦争を起こそうって奴なら取っ捕まえた方が私達の為だと思うんだけど)
(む・・・その方が俺達の為か。分かった)
(どうやって誤魔化す?)
(そこは、適当で良いだろう、任せろ)
(任せたわ)
「ファナキア様」
「相談は終わったかしら」
「はい。実は、あー、まー、火を見てたらですね、えー、っと、そのー」
「火を見てたら?」
「えぇ。いや、火を見る前かな。その方が良いのかな。そう!火を点ける前に本陣の様子を偵察してたんですよ、食料庫を探す為に」
「ふむ」
「その時に、えー、そいつ等が」
「そいつ等?」
「えぇ、そいつ等が。えっ!?何でそいつ等を知ってるんですか!?」
「あなたが言ったんじゃない」
『・・・』
「そうでしたっけ?まぁ、そいつ等が俺に話しかけて来たんですよ」
「ほぉ」
「『馬の所まで案内しろ』って。えーっと、馬が少ないっていうのは偵察して知ってたんで、『結構遠い』って言ったら。『構わない』と。で、そのー、絶賛決戦中に馬でどこに行くのかなと思って」
「ふむ」
「もしかして伝令かもって思ったんですよ」
「なるほどね」
「でしょう!なので、伝令されたら不味いって思って、『総大将の許可無く馬を使う事は許されない』って言ったんですよ」
「ファインプレーね」
「でしょう!そしたら『死ね!』って言って殺そうとして来まして」
「あらまぁ」
「でしょう!で、ふざけんなって思って、でも騒ぎになったら潜入している俺達が不味いんで」
「そうよね」
「でしょう?なので、もう必死になってそいつ等を殺してですね」
「殺したの?」
「でしょう!そりゃぁもう騒ぎにならないように必死になって」
「殺したのね」
「でしょう?どうやってバレないように殺ったか5分ほどにまとめて話しますと」
「結構よ。収納しているんでしょう?今直ぐ出しなさい」
「はい。こいつ等です」
3人の遺体を収納袋から出した。
皆で見下ろす。
「ふむ。ローブを脱がせなさい」
「畏まりました」
幹部達が3人のローブを脱がした。
「下の装備は結構高そうね」
「ですな」
「一応《鑑定》人を呼んで照会させましょう。ちょっと、お願い」
「畏まりました。おい、鑑定人を呼んで来い」
「はっ」
鑑定人が呼ばれる間、
「何もしていないと言ってたけど?」
「特に手柄になるような事はしていないという意味で」
「士官っぽいから手柄と言えるわよ?」
「ローブを剥ぎ取ったから今そう言えるんですよ。その時は潜入ドキドキパニックまじ卍状態だったので気付かなかったんですよ」
「まじ・・・何?」
「まじ卍。知らないんですか?若者の流行を知らないのは今の世の中の流れを知らない事に繋がりますよ」
「ぐっ・・・気を付けておくわ」
(ちょっと。そのワードも古いわよ)
(ほっとけ。どうせここに居る連中誰も知らん)
「はっはっは。俺は現場人間だから都の流行に疎くてな、勉強になった」
「でしょう!」
「兎に角、決戦中の伝令役であろうこいつ等から足取りを掴めるかもしれないから少し期待してしまうけど、これまで何も得られていないから過度な期待は止めましょう」
「鑑定人来ました」
「宜しい。この3人の《鑑定》をお願いね」
「畏まりました」
鑑定人と呼ばれた人物が死体に屈みこんで手を触れた。
「・・・・・・!?こっ、ごっほ!こいっ、ごっほ!こいつ!」
「水を」
「はっ。ほら水だ、落ち着いて話せ」
「ゴクゴクゴク。ごっほごっほ」
「何が見えたの?」
「こいつが!こいつが『パイドヴァイパー』です!」
『何ー!?』
「ステータスの名前が通称パイドヴァイパーの本名になっております!」
「嘘でしょ!?確かなの!?」
「ステータスは改ざん出来ません。死体のステータスは腐敗が進むにつれ消失してゆきますがこの死体は新鮮でその様子も見られない。確実にパイドヴァイパーです!」
「待て!同姓同名の影武者という線もある!」
「確かにね。何か確証はないかしら」
「捕虜に面通しするというのは」
「うむ。しかしそれは後だ。確かパイドヴァイパーには左肩に痣が有ると聞く」
『痣』
「ちょっと、左肩を出して見せて」
「はっ」
鑑定人が死体の左肩を露わにした。
『なんと!』
「「「「「・・・」」」」」
それから大騒ぎになった。
「捜索隊を呼び戻して本陣の防衛を強化させろ」
「情報漏洩に気を付けなさい。捕虜にもまだ知られないように、聞きたい事がまだあるわ」
「ファナキア、対岸の本陣に移ろう」
「同感ね。ここには後から追撃部隊がやって来る。人が多くなるわ」
「幹部は対岸に移る準備を急げ」
『畏まりました!』
「「「「「・・・」」」」」
(ステータスの改ざんは出来ないって言ってるけど)
(俺のは《偽装》だ。ステータスを書き換えてるんじゃなく上塗りしてるイメージだ)
(・・・バレるの?)
(俺の《偽装》より《鑑定》能力が高かったらバレるし、俺が死んだりした時は消える)
(あんたLv突破してるんでしょ)
(同じ《弓術》Lvでも腕の差が有っただろ、それと一緒だ。要は個人の習熟度であって絶対的な評価基準じゃないんだろ)
(そっか・・・)
(セルラ、パイドヴァイパーって、)
「ウォーカー」
「ひゃいっ!?」
「・・・お手柄ね」
「あのー、俺等には何の事だかさっぱり・・・」
「・・・知らなかったの?」
「どうやら結構な高位の人間だったようだってのは何となく・・・」
「総大将よ。今回の決戦相手のね」
「「「「「げっ!?」」」」」
「総大将が何でローブ羽織ってんですか!?」
「それは私も知りたいわね」
「俺もだ。本陣に居たんだよな?」
「「「「・・・」」」」
「えぇえぇ、本陣だったと思いますよ、確か。だって潜入ドキドキパニ「それは分かった」」
「総大将が旗艦を脱出して・・・逃げ出そうとしていた?」
「そう言えばファナキア様。旗艦の捕虜の1人が言っておりました」
「ん?」
「『今回は負けたが次は負けない』とか何とか。負け惜しみだろうと思いましたがこれはパイドヴァイパーの脱出を示唆していたのでは?」
「・・・有り得るわね。ティラミルティにも勝ったパイドヴァイパーなら希望を繋げるという意味でも、部下は自分を犠牲にしてでも逃がす意義があった・・・」
「ティラミルティに勝った?バウガルディとは同盟相手でしょ?」
「アレクサンドリア復活戦争を思い出しなさい」
「・・・なるほど」
「水戦でティラミルティに勝ってバ国にパイドヴァイパーありと世界に知らしめたわ」
「その捕虜にこの死体を見せよう。恐らく相応の態度をするだろう。そうすれば証拠死体の確実性は上がるし捕虜も絶望で口を割るかもしれん」
「そうね。幹部捕虜も移送しましょ」




